この記事では、文書による命令等のプロセスについて、次の内容を説明します。
第1回
- 文書主義と組織運営
- 原則として文書による命令・報告に基づき、組織運営が行われる。
- 証拠性・同時性・客観性・保存性の利点のため。
- 組織を動かすには、組織的な検討を経て、適切な権限に基づく命令が必要
- 原則として文書による命令・報告に基づき、組織運営が行われる。
- 「上位者の仕事をする」ということ
- 指揮官が部下の提案を承認することで、命令が生まれる。
- 指揮官の命令を実際に作り発するのは部下
- 指揮官自身が能動的に命令を発すると
- 指揮官のキャパシティによる制約大
- 部下が育たず、指揮官が指揮不能になると組織が瓦解
- 指揮官が承認したことを明確にするために、文書が必要
- 指揮官が部下の提案を承認することで、命令が生まれる。

第2回
- 「文書」を巡る複雑な問題
- 海自での「文書」は状況により指すものが異なる。
- 「正式な文書」としての文書
- 「一般命令」や「通達類」など
- 経費の支出根拠になる。
- 艦長など官職印のある者(通常は1佐以上)だけが発簡できる。
- 発簡年月日と発簡番号が明記される。
- 「書面による情報伝達」としての文書
- いわゆる「報告資料」「実施要領」など
- 一定の体裁をもって、書面にまとめられている。
- 「正式な文書」のような効力は持たないが、情報伝達に用いられる。
- 「行政文書」としての文書
- 公文書管理法上の公文書
- 状況により、電子メール、写真、メモ書きなども含まれる。
- 保存や開示について法令を遵守する必要
- 「正式な文書」としての文書
- 文書について考える場合、どの「文書」を指すのかを明確に認識する必要
- 海自での「文書」は状況により指すものが異なる。
第3回
- 「行政文書管理の手引」を読み込もう。
- 「文書」の作り方
- 合議制
- 会議で意思決定する代わりに、関係者が順次案文に修正を加えることで調整
- Wordの設定
- 一般命令・通達類
- 起案用紙を用いるのが特徴
- 訓練実施要領
- 合議制

さて、前回の話では、共用ロッカーの整頓状況を改善するために、学生内の統制事項を決めて、文書にしろと幹事付に命じられたんだったね。



ええ、でもそうやって学生隊全体を動かすなら、学生隊長の命令が必要になるって話でした。でも、学生隊長命令なんて候補生が作るもんじゃないって言ってましたよね?このあたりがよく分からなかったんですけど。



うん。これはね。正直ボクもよく分からないくらい、文書関係の規則がややこしいんだ。補給長も……正直、文書関係はあんまアテにならないからなぁ。



うん、分かる範囲で教えるね。
「文書」を巡る複雑な問題



何が問題って、海上自衛隊の場合、「文書」って一口に言っても、その時々で指すモノが全く異なることなんだ。



えぇ……



いや、ホントに「えぇ……」だよ。誰かになんとかしてもらいたい。
で、細かな規則は置いておいて、大まかな分類について説明するね。
「正式な文書」としての文書



だいたいの人が「文書」って言ったら、コレを思い浮かべるはず。



「正式な文書」って。まるで正式じゃない文書があるみたいな言い回しですね。



いや、まさしくそのとおりだよ。この価値観でものを見る場合、この世界には正式な行政文書と正式じゃない行政文書があることになる。



じゃあ、正式か正式じゃないかの違いは何にあるかと言えば、部隊の意思表示として法的な拘束力を持つか、なんだ。



部隊の意思表示とは?



法人格の話みたいなものだね。
例えば、通販でモノを買うとする。「ヨドバシカメラ」なんて人物は存在しないのに、「ヨドバシカメラ」と契約を結んでモノを買うことができるよね。



この時「●●円で売ります」って文は、社内でそういう権限を持った人が設定しているはず。でも、ボクらはそれが誰かなんて知らないし、「ヨドバシカメラが提示する金額」として理解するでしょ?



返品を申請すると、OKかダメか、仰々しいメッセージが返ってくるけど、これだって会社の意思だと受け止める。実際、法的にもそう扱われる。



ここで、表示される画面に会社名が入ってないとか、明らかに普通じゃない見た目だったら?



そりゃあ、怪しみますね。



でしょ?対外的に会社としての意思表示をするときには、こういう体裁の紙や画面が出てくるはずだっていう、共通の認識がボクらにはある。



お役所も同じで、「この体裁で出すからには、この内容が絶対だからな!」っていう決まりがあるんだ。



そういう正式な文書はいろんな種類があるんだけど、部隊で真っ先に作ることになるのが、一般命令と通達類だよ。
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一般命令



一般命令というのは、訓練をするときなんかに出す命令だね。
(一般命令)
防衛省における文書の形式に関する訓令(防衛庁訓令第38号。38.8.14)
第9条 行動命令をもつて発する場合を除き、統合幕僚監部、各自衛隊、共同の部隊又は統合部隊に関する次の各号に掲げる事項に関して防衛大臣又は別表第3に掲げる者が発する命令は、一般命令とする。
(1)部隊及び機関の編成、配置、移動、派遣その他指揮関係の決定に関する事項
(2)部隊及び機関に対する任務付与並びに付与された任務の実施に関する事項(法令、訓令及び達により定められたものを除く。)
(3)訓練又は演習の実施に関する事項
(4)検閲の実施に関する事項
(5)前各号に準ずる事項



例えば、自艦だけで訓練するために出港しようとしたら「個艦訓練に関する護衛艦『ひとなみ』一般命令」という一般命令の文書を作る必要があるんだ。



へぇ、そうしたら、毎日そういう文書を出し続けないといけないんですかね。日々、何かしらの業務はやっているんでしょ?



いや、全ての業務に必要か、というと必ずしもそうではないね。日常的による業務については出さないのが普通。停泊中に艦内のシステムを使って訓練する場合なんかは出さないよ。
よその部隊で研修させる場合とか、艦を物理的に動かす場合とか、人やモノが動く場合に出すんだ。



施設利用訓練とか、運動能力測定とか、なんだかんだ月イチくらいの頻度で色んなイレギュラーな業務が入ってくる。そういう時は若手士官が一般命令の案を作成して、艦長の承認をもらうんだ。



似たものとして「日日命令」というのもあるよ。これも部隊に行ったら作ることになるかも。



一般命令と日日命令は何が違うんです?



一般命令は、訓練や教育の他、広報のイベントとか、かなり広範に使えるんだ。対する日日命令は表彰式とか昇任伝達とか、儀式に関するものだね。「日常業務に関する命令」とされているんだけど、さっき言ったとおり、日常業務レベルでペーパーを出すことは少ないから。



文書の形式はほぼ同一だから、一般命令か日日命令かは、そこまで気にしなくていいと思う。儀式をやるときだけ日日命令って覚えておけばOK。
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通達類



もう一つ、よく作ることになる「正式な文書」がコレ。通達類ってやつ。命令は「この内容を実行しろ」という強制力があるけど、通達類は単純な情報伝達としての性質が強いよ。



通達類は「類」というだけあって、いろんな種類の文書の総称なんだ。
具体的には、通達、承認、許可、上申、申請、報告、進達、通知、協議、照会、依頼、回答、諮問、答申といった種類があるんだけど、実際に頻繁に作ることになるのは「報告」「通知」「依頼」あたりかな。
あと、自分では作らないけど何かと読むことになるのは「通達」。
第11章 文書の起案
第7節 通達類の起案
1 種類と用法
行政文書管理の手引(海幕総第456号。令和5年4月3日)
種類 用法 通達 職務の権限を有する者が、当該権限に属する事項について処置を命ずる場合、又は訓令若しくは達等の解釈、運用方針等について定める場合に用いる。(後略) 承認 職務の権限を有する者が、当該権限に属する事項について一定の行為をすることを内容とする下級又は部外の者の申請に対して、同意を与える場合に用いる。(後略) 許可 職務の権限を有する者が、当該権限に属する事項で、法令等により一般的に禁止されている行為を特定の場合に解除する場合に用いる。(後略) 上申 職務の権限を有する上級者に対して、その下級者が当該上級者の権限に属する事項について希望又は意見を述べる場合に用いる。(後略) 申請 職務の権限を有する者に対して、その下級又は部外の者が、当該有権者の権限に属する事項について、承認若しくは許可を請い、又は特定の行為を求める場合に用いる。(後略) 報告 法令等又は契約に基づいて、一定の事実についてその状況若しくは結果を知らせる場合又は職務の権限を有する上級者に対してその下級者が当該上級者の権限に属する事項に関して、その状況若しくは結果を知らせる場合に用いる。 進達 職務の権限を有する上級者に対して提出すべき文書が、その下級者を経由すべきものとされている場合に、当該下級者がその文書を上級者に取り次ぐ場合に用いる。 通知 一定の事実、処置又は意思を知らせる場合に用いる。
なお、「依頼」、「承認」等の一部変更は、基本的に、改めて依頼、承認等を行うものでないため、通常「通知」を用いる。協議 法令等に基づいて一定の事実について打ち合わせる場合又は職務の権限を有する者が一定の行為をする場合にその事項が他の者の権限に関連するとき、その者と打ち合わせる場合に用いる。 照会 質疑又は意見等を問い合わせる場合に用いる。(後略) 依頼 一定の事項を頼む場合に用いる。 回答 上申、協議、照会若しくは依頼等に対して返答する場合又は申請に対して承認若しくは許可しない旨の返答をする場合に用いる。 諮問 審議会、協議会、委員会、審査会等の名称を付して置かれる防衛大臣の諮問機関に対して、防衛大臣が一定の事項について意見を求める場合に用いる。 答申 諮問を求められた事項について、調査審議した結果、その意見を返答する場合に用いる。



「報告」と「通知」は……上司に出すか、他の人に出すか、っていうところですか?



だいたいその認識でOKだよ。
「一般命令」のような命令は職務上の上級者から下級者に向けて発令するのに対して、通達類は種類によって、上下関係のない相手に出せることもあるんだ。


その他の「正式な文書」



一般命令や通達類以外にも、「正式な文書」はいろんな種類があるよ。
(文書の種類)
防衛省における文書の形式に関する訓令(防衛庁訓令第38号。38.8.14)
第2条 防衛省の所掌事務に関し、防衛省において発する文書の種類は、省令、告示、訓令、達、行動命令、一般命令、個別命令、日日命令、防衛大臣指示、統合幕僚長指令、幕僚長指示、統合幕僚長後方業務指示、各幕僚長措置指令、各幕僚長措置指示、通達類とする。



その中でも、自分で作ることはないけど、頻繁に読むことがあるのは省令、訓令、達あたりだね。



省令は「●●法施行規則」って名前のやつだね。法律をどう運用するか、細かな部分は政令として閣議で決定される。さらに細かい部分は防衛省令として防衛省の中で決めるんだ。
(省令)
防衛省における文書の形式に関する訓令(防衛庁訓令第38号。38.8.14)
第3条 防衛省の所掌事務に関し、法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、防衛大臣が発する省令は、防衛省令とする。
名称 | 区分 | 発令者 | 規定の例 |
---|---|---|---|
自衛隊法 | 法律 | 国会 (国会議員の会議) | ・表彰に必要な事項は政令で定める。 |
自衛隊法施行令 | 政令 | 閣議 (国務大臣の会議) | ・表彰の種類は賞詞、賞状、精勤章の3種類 ・賞詞は特別賞詞、第1級~5級賞詞に分類 |
自衛隊法施行規則 | 防衛省令 | 防衛大臣 | ・賞詞を授与すべき対象者 ・賞詞の書面に記載すべき事項 |



書かれている内容はかなり細かいし、細かい話はもっと下の規則でも記述されていることが多いから、ぶっちゃけ他の文書に比べるとそんなに読まないかも。
でも、訓令や達を探しても根拠が見つからない場合、省令を読むと書かれていることが結構あるよ。



ふーん、覚えておきますね。



対して訓令や達。これはかなり頻繁に読むことになるよ。



それは、省令とは違うんですか?



うん。省令は法律をどうやって運用するかの基準を示すに留まるのに対して、訓令や達は、どういう風に業務をしなければならないのか、かなり細かく定めているんだ。



ちなみに、訓令は防衛大臣が、達は海上幕僚長が発する規範的命令の一種とされているよ。



なるほど、訓令で防衛省全体のことを決めて、達で海上自衛隊のことを決めてるわけですね。
規範的命令ってのは、何です?



具体的な行動を求めるんじゃなくて、「こういう業務をするときは、これを守れ」という命令だね。規則みたいなもの。
一般命令は具体的な行動を求めるもので、日時・場所・対象者・行動の内容が明示される点で違うんだ。
(訓令)
第5条 防衛省の所掌事務に関し、防衛大臣が発する規範的命令は、訓令とする。
2 訓令の種類は、次の各号に掲げるとおりとする。
(1) 防衛省訓令 防衛省部内の諸機関及び職員に対して発するもの(陸上自衛隊訓令、海上自衛隊訓令及び航空自衛隊訓令により規定すべき事項を除く。)
(2) 陸上自衛隊訓令 陸上自衛隊及び陸上自衛隊の職員に対して発するもの
(3) 海上自衛隊訓令 海上自衛隊及び海上自衛隊の職員に対して発するもの
(4) 航空自衛隊訓令 航空自衛隊及び航空自衛隊の職員に対して発するもの(自衛隊達)
防衛省における文書の形式に関する訓令(防衛庁訓令第38号。38.8.14)
第6条 訓令その他の命令に基づき又は隊務の管理運営の必要上細部の例規的事項を定めるため、統合幕僚長、陸上幕僚長、海上幕僚長又は航空幕僚長(以下「幕僚長」という。)が発する命令は、それぞれ自衛隊統合達、陸上自衛隊達、海上自衛隊達又は航空自衛隊達(以下「自衛隊達」という。)とする。
名称 | 区分 | 作成者 | 規定の例 |
---|---|---|---|
秘密保全に関する訓令 | 訓令 | 防衛大臣 | ・管理者は幕僚長が指定 ・秘指定された文書の簿冊登録義務 |
秘密保全に関する達 | 海上自衛隊達 | 海上幕僚長 | ・自衛艦における管理者は艦長 ・登録簿の様式 |



訓令や達のほとんどは、海上自衛隊法規類集という根拠文書をまとめた資料集に収録されているよ。新しい業務に取り組む時には真っ先に読むべきだね。



海上自衛隊法規類集ですか、ググっても出てきませんけど……。



そりゃあ、部内のPCからじゃないとアクセスできないよ。
一応、裏ワザとして、クリアリングシステムっていう防衛省の情報公開サービスを使えば、部外からも一部の訓令や達は読めるよ。
ただ、それを見ながら仕事すると職場内への携帯電話持ち込み禁止とかに引っかかるから、使い方はよく考えてね。


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経費の支出根拠



繰り返しになるけど、何かしらいつもと違うことをやるときには一般命令や通達類を出さないといけない。



それは……艦として、「責任は取るからこの業務をやれ」って明確化するためですか?



そうそう、そういうこと。一般命令や通達類は部隊としての正式な意思表示になる。だから、経費の算出根拠になるってのが大きいね。



例えば、よその基地で実施される講習に参加すると、旅費も必要になるし、外来宿舎への宿泊とか、食堂での給食とかの申請が必要になる。一般命令が出ていればそれを根拠に手続きが出来るんだ。



なるほど、確かにそういう文書が無いと、泊まらせてくれとか、メシ喰わせてくれって言われても、そいつが勝手に言ってるだけなのかどうか、分からないですもんね。



覚えておいて欲しいのは、体育の強化訓練みたいな些末なものになると、命令無しでやらせる部隊が稀にあるんだけど、絶対に命令を出した方が良い。そこで怪我人が出た場合、公務災害の認定で揉めるんだよね。



あー、勝手にスポーツやってケガしただけだろ!って話になるんですか。



うん。体育も業務として認められているんだけど、きちんと責任者の監督下でやらせないといけないとか、いろんな制約があるんだ。そういう手続きを踏まずに体育して事故が起きると、業務をサボってプライベートな遊興をしてたって話にもなりかねない。



ははぁ、そんなに重いものなんですね。
「文書発簡権者」



一般命令や通達類のような「正式な文書」が何故「正式な文書」たり得るかと言えば、出せる人が決まっているからんだ。



なるほど、権限を持った偉い人だけが出せる文書ってワケですね。



うん。細かい話をすると、「官職印」という公印があって、それを持っている人が出せる。
第11章 文書の起案
第7節 通達類の起案
2 発簡者
行政文書管理の手引(海幕総第456号。令和5年4月3日)
通達類の発簡者は、「公印規則」第3条及び第4条に定める官職印を備える者とする。



この官職印を持ってる人って、列挙するとすごく沢山いるんだけど、海幕の課長以上とか、群司令部の首席幕僚とか、学校の教育部長・学生隊長とか、原則として1佐以上のポジションなんだ。



ここでちょっとややこしいのが、護衛艦の艦長は2佐だけど官職印を持ているんだ。



へぇ、ってことは、普通は1佐にならないと出せないような重い文書を2佐のうちから出せるってことですか。



うん。もっと言うと、掃海艇の艇長は1尉にして出せる。
この一般命令や通達類を出せる役職を俗に「文書発簡権者」と言うんだけど、艦艇長が一目置かれる理由のひとつになっているよ。



それだけ責任が重いってことですもんね。



うん。文書発簡権は、やっぱり権力の象徴……みたいなところはある。
だから「文書には文書で」っていう文化がある。



なんです?ソレ?



ここでいう「文書」はそれこそ「正式な文書」ってヤツ。
部隊間の連絡は「依頼」とか「通知」みたいな通達類の他に、もう一段フォーマル感の下がる「業務連絡文書」とか、電子メールでやり取りされる。でも、通達類で受け取ったものに対しては、通達類で回答しないといけないって文化があるんだ。



例えば、よその部隊から「●名の研修を受け入れて欲しい」という依頼文書が来たとする。ぶっちゃけ、OKを出すだけだから、電話や電子メールでも、相手にOKが伝わりさえすれば、問題無いと言えば問題無い。



なるほど、でも、それはダメってことですか。



そういうこと。これはさっき言った責任の問題もあるんだけど、それ以上に「文書発簡権者」のメンツの問題でもある。部隊としての正式な意思表示に対して、電子メールで返すのは無礼だっていうことだね。



はぁ……。



馬鹿馬鹿しいと思うかもしれないけど、そういう仁義を軽んずると、後々痛い目に遭うから油断できないんだ。
とは言え、毎度毎度通達類で返答するとなると、起案から発簡するまでにも時間が掛かりますし、文書のやり取りをする庶務員の労力も増え、双方あまり幸せになれません。近年では、文書内に「返答は電子メールで送ってくれ」と記載することで、ムダな文書業務を削減しようとする取り組みも行われています。
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発簡番号と発簡日



「正式な文書」のもう一つの特徴は、必ず発簡番号と発簡日を与えられ、帳簿に記録されることなんだ。



例えばコレ。ウチの艦で出した一般命令の文書なんだけど、1ページ目の右上に書いてあるのが発簡番号と発簡日なんだ。





これは、後から追跡調査出来るように付けてあるんですか?



うん。他の文書で「あの文書に基づいて、これをやります」と参照することがあるんだけど、文書の名前だけだと、同じ名前の文書が何度も出ることがあるから、どの文書を指しているか特定出来ないんだ。



その点、発簡番号は1月1日にリセットされて、文書が1件発せられる度に数字が+1されていく。だから、「ひとなみ般命第23号」はその年に1つしか出ない。発簡番号と発簡日を記載すれば、必ずひとつの文書を特定できるんだ。



この後説明する「正式な文書」ではない文書になると、番号が付与されないことがよくあるから、追跡が難しくなる。



トレーサビリティが確保されているから、それだけ文書としての効力が強いワケですね。



そういうこと。
この発簡番号は文書の種類によって分類されていて、部隊名(の略称)+(文書の種類)+第●●号という具合につけることになっているよ。
一般命令だと「般命」、日日命令だと「日命」、通達類だと何もつけないっていう具合。



つまり、「ひとなみ」が令和6年に入ってから23番目に出した一般命令だから、「ひとなみ般命第23号」ってことですか。



そういうこと。
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「書面による情報伝達」としての文書



一方で、この組織の中では一般命令や通達類でしか情報をやり取りしていないかと言うと、そういうわけじゃない。もっとカジュアルな文書もあるよ。



カジュアル……。



規則で明確に定められているわけでもないから、明確に名前が付いていないんだけど、でも暗黙の了解として「こういうペーパーだ」と皆の共通認識になっているものがある。それが、今から説明するカジュアルな文書。



まあ、使われる体裁は共通化されている方が、理解は早いですよね。
いわゆる実施要領



まずは、いわゆる「実施要領」ってヤツ。





うーん、一般命令とかなり似てますけど。何が違うんですか?



まあ、正直何が違うのかと言えば、番号を取ってないくらいしか違いは無い。一般命令を出す程のレベルじゃないけど、書面でやり方を伝えないと上手くいかないだろうなって時は、こういう文書を作るんだ。



あとは、一般命令は出すけど、「細部は別に示す」として、こういう実施要領を出すっていう慣習もあるね。一般命令であんまり細かく書きすぎると、状況が変わったときに臨機応変な対応が出来なくなるから、「重すぎない命令」で細かいことを指示するんだ。



上に四角が沢山並んでるのは、なんです?



これは合議・決裁欄。詳しくはまた別に説明するけど、文書を出す時には関係する人に問題無いかチェックしてもらって、最終的に指揮官の決裁を得るんだ。



一般命令なら艦長の官職印が押印されるけど、こういう文書にはそういうのが無いから、指揮官が了解しているか分からないでしょ?
だから、案を作るとき、こういう四角を書いて関係者にサインしてもらうんだ。で、最後に浄書(清書)して配布するときには、サインを複製することが出来ないから、「この人は了解してますよ」っていう意味を込めて「了」と印字する。



うーん、分かるような、分からないような。



今回、幹事付が作れって言ったのは、多分こういう文書だと思う。共用ロッカーをどう使うかは、学生隊長命令である学生服務要領に大まかに書かれているでしょ?そこに明記されていない部分をどう解釈するか、だから、最終的には学生隊長の了解を得ないといけない。



前回、「学生隊長命令を幹部候補生に作らせる訳ないか」と言ったのはまさにここ。いくら学生隊長の了解が必要だからって、正式な学生隊長命令を出そうと思ったら、色んな手続きを踏まないといけないし、内容に問題があっても改正するまで何年も残り続けることになる。



確かに、荷が重いですね。



そこで、こういう文書を使う。学生隊長と、第1~第3学生隊長と、学生隊幹事あたりを上の欄に入れて「こういう要領で統一します」って文書の了解をもらえば、学生隊としての軽微な指示が完成する。



こういう文書って、効力は無いんですか?



いや、無いわけじゃ無いよ。たとえ口頭でも、発せられたら命令は命令。守らないといけないのは同じなんだ。ただ、経費の算出根拠にできないとか、そういう点で重みが違うってこと。



本来、一般命令を出すレベルじゃない内容だと、「艦長命令」や「科長命令」みたいな「業務命令」というのがあるから、そういうのを使うって手もある。
ただ、どちらかというとこういう文書は訓令や達みたいに、規則を設けるために使われることが多くて、日々訪れるイベントに都度指示を与えるのには向いてないんだ。



それで、簡略化した文書が使われてるんですね。



そういうこと。
いわゆる報告資料



あと、よく目にするものには俗に「報告資料」と言われるものもあるよ。


なお、こんな内容で報告しようものなら、多分血祭りに上げられますのでご注意を……。



これは……パワーポイントですか。



うん。これまで見せてきた文書はWordで作るものだったけど、この紙はPowerPointで作られているよ。



プレゼンに使うには、その……随分センスが悪くないですか?



ね。そう思うよね。
ところが、コイツはプレゼンに使わないからこれで良いんだ。



これはお役所の悪い風習で、パワポを使って、1枚のスライドに可能な限り文字をびっちり埋めて、印刷して見せるっていうことをやるんだ。



……なんでそんな試練に挑んでるんです?



理由は色々なんだけど、要するに偉い人に短時間で要旨を理解してもらうっていう課題から自然発生したものなんだ……



まず、偉い人はとにかく時間がない。将官クラスになると、本当に分刻みで行動していて、1日に何件も会議をハシゴして、その待ち時間に何十件という報告を受ける。
だから、一つの話題にそんなに時間を使っていられない。



なるほど、それで報告の上限が紙1枚になるわけですか。



うん。しかも、短時間で理解してもらう上で、キーワードだけ書く、というのは必ずしもいい方法にはならないんだ。
人間、目で追ってる文字と、耳で聞き取る言葉が一致している時が、一番頭に入りやすい。キーワードだけ書いて細かいところは口頭で、とやると、紙に書かれてない言葉を発したところで偉い人は「今コイツが喋ってるのは、どこに書いてある話だ?」と目で探してしまって、話が頭に入らなくなってしまう。
だから、口頭で説明する言葉は基本的に全て書面にも書く。



アレだ……YouTubeの極太ゴシック体サムネイルの動画じゃないですか。



あるいは、世田谷自然食品のCMかな?
なんだかんだで、あれは理にかなっているよ。



もう一つ言うと、口頭で説明したときに、聞くべき相手が必ずその場にいるとは限らないんだ。
権限を持っている地方総監に説明するけど、実務担当はその下にいる部長とか室長で、ぶっちゃけその人達が分かってくれればOK、なんて話は珍しくないからね。
その場にいなかった人が後から紙面を見たときに、報告を受けた偉い人と同じ認識を持てる。これも重要なんだ。



まあ、だいたい分かったんですけど。
でも、それならWordでA4用紙1枚ってやれば良いじゃないですか。なんでわざわざPowerPointなんです?



ひとつには、「1枚に可能な限りの情報量を」って追求するとWordでは無理というのがある。Wordは一連の文章を書き連ねるのに向いていて、2段構成にしたり、画像を挿入したり、コメントとして短文を添えたり、というのには向いてないんだ。そういうのを入れ込もうとすると、大きな隙間が生じてしまって、スペースが無駄になってしまう。
一応レイアウトを工夫すれば出来ないワケではないんだけど、PowerPointの方が圧倒的にやりやすい。



それから、もっと大きな理由として、展開が容易というのもあるね。
報告に使った資料は、状況によってはもっと偉い人にそのまま転送されることがあるんだ。



ふーん。そんなことがあるんですか。



事故が起きた場合とか、任務行動中に特異事象が起きた場合なんかは顕著だね。こういう時はとにかくスピード勝負で、海上幕僚長とか、防衛大臣とか、場合によっては内閣総理大臣に報告が飛ぶこともあるんだ。



そういう時、PowerPointで作られた報告資料が転送されて、会議資料の中に差し込まれることになる。



なるほど、会議の時はPowerPointのスライドを1枚1枚見ていくから……。Wordで作った報告書だと、それを画面に映すための作業が増えるけど、PowerPointで作っていれば1ページコピペするだけで報告に使えるんですね。



そういうこと。こういう展開の容易さもあって、PowerPointは本来のプレゼンツールとしてほとんど使われることなく、報告資料作成ツールとして使われることになるんだ。
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「行政文書」としての文書



最後に、厳密に、法的な意味での「文書」がある。
公文書とか、行政文書と言われるモノだね。これは法律で管理する事が義務づけられているんだ。



お役所の文書の問題は度々ニュースになってますから、なんとなくは分かるんですけど……。
そもそも、公文書と行政文書って何が違うんですか?



自衛隊の仕事では、ほぼ同義だと思ってOKだよ。
正確に言うと、行政文書は公文書の一部。行政機関が取り扱う公文書が行政文書で、他には独立行政法人が取り扱う法人文書や、国立公文書館に移管された特定歴史公文書等がある。



なるほど、どこが取り扱う公文書かの違いでしたか。
極めて広範な行政文書



行政文書でまず気を付けないといけないのは、とにかく対象となるモノが広範になること。



先に挙げた「正式な文書」はもちろん行政文書だし、「カジュアルな文書」も行政文書。「通達類や一般命令こそが文書」だと思って「カジュアルな文書」を適当に扱うと大変なことになる。



でも、それだけじゃなくて、一見すると文書には見えなさそうなものも行政文書になるんだ。



どういうものですか?



例えば、電子メール、Excelのデータシート、写真や動画も行政文書になりうるね。
電話や会議の時に取ったメモ書きも、通常は行政文書にならないけど、状況によっては行政文書と見なされることがある。



えぇ?それって「文書」なんですか?



そう、直感的には「文書」というより「データ」とか呼んだ方が分かりやすいかも。原則として、仕事のために収集した情報や、作成したデータは全て行政文書に該当すると思った方がいいよ。



行政文書の定義を見ると、
職務上作成・取得した文書
組織的に用いるためにあること
その行政機関が保有していること
の3つが要件になってる。
(定義)
公文書等の管理に関する法律
第二条
1~3 省略
4 この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書(図画及び電磁的記録(中略)を含む。第十九条を除き、以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。(後略)



なるほど。この「図画及び電磁的記録を含む」という言葉があるから、写真や動画も対象になるし、パソコンに保存された電子データも文書に含まれるワケですね。



「職務上作成・取得」というのは、職員が私用で作ったものは対象にならないってことだね。あくまで仕事のために、作ったり誰かからもらったりした文書が対象ってこと。



私用のモノなんてあるんですか?



まあ、私信を送った場合……とかかな?普通、そういうのは他の2要件も満たさないけど。



次の「組織的に用いるためにあること」というのは結構難しい。
第1章 行政文書
1 行政文書の解釈(マニュアル)
文書訓令(注:防衛省行政文書管理規則)第2条第1号に定義する行政文書の解釈は、次の各号のとおり。(3) 「職員が組織的に用いるもの」
決裁、供覧等の手続きを要件とせず、防衛省において業務上の必要性等に基づき保有している文書であるかどうかという実質的な要件で規定している。
以下に示すア~ウなどを総合的に考慮して、実質的に判断すべきものである。
ア 文書の作成又は取得の状況
・ 職員個人の便宜のためのみに作成又は取得されたものでないかどうか
・ 直接的又は間接的に当該行政機関の長の指示等の関与があったかどうか
イ 当該文書の利用の状況
・ 業務上必要として他の職員又は部外に配布されたものかどうか
・ 他の職員がその職務上利用しているものであるかどうか
ウ 保存又は廃棄の状況
・ 専ら当該職員の判断で処理できる性質の文書でないかどうか
・ 組織として管理している職員共用の保存場所で保存されているものであるかどうか作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく、組織としての共用文書の実質を備えた状態、すなわち、当該行政機関において、業務上必要なものとして、利用又は保存されている状態のものを意味する。
行政文書管理の手引(海幕総第456号。令和5年4月3日)
したがって、職員が単独で作成し、又は取得した文書であって、専ら自己の職務の遂行の便宜のためにのみ利用し、組織としての利用を予定していないもの(自己研鑽のための研究資料、備忘録等)、職員が自己の職務の便宜のために利用する正式文書と重複する当該文書の写し、職員の個人的な検討段階に留まるもの(決裁文書の起案前の職員の検討段階の文書等。なお、担当職員が原案の検討過程で作成する文書であっても、組織において業務上必要なものとして保存されているものは除く。)等は、組織的に用いるものには該当しない。



文書の参考資料には「決裁、供覧等の手続きを要件とせず」という言葉があるんだけど、これは「責任者が認めたものだけが行政文書になる」というワケではないよ、という意味合いだね。
責任者が一切関知していなくても、業務上の必要性から作成/取得されたデータは行政文書になるってこと。



イマイチよく分からないんですけど、職員が自分ひとりのために作ったものなら行政文書にあたらない、ってことですか?



そういうこと。これを「個人的な執務の参考資料」(個人資料)と言うんだけど、行政文書とは扱いが全く違うんだ。
行政文書に関係する多くの管理事項を守らなくても良いんだけど、「個人的な執務の参考資料」にも色んな制約がある。
- 他人との共有禁止
- 他人と共有すると「組織的な利用」にあたり、行政文書になる。
- 業務引継ぎとして、後任者に渡すことも「組織的な利用」と見なされる。
- 何らかの理由で、他人への共有や提供が必要な場合は、行政文書としての管理しなければならない。
- 行政文書との混在禁止
- 行政文書は専用の書棚など、定められた場所に格納する義務がある。
- 個人的な執務の参考資料は自分の執務机などで保管し、行政文書と混在しないように分離しなければならない。
- 秘密情報等の保管禁止
- 省秘・特定秘密・特別防衛秘密や、その他の取り扱い制限のある情報(部内限り、注意、個人情報など)を、個人的な執務の参考資料として保管することは出来ない。
- 保有量の最小限化
- 保有する個人的な執務の参考資料は、執務の便宜上、最小量に留めなければならない。
- 必要なく保有することはできず、必要が無くなったものは廃棄しなければならない。
- 私物化の禁止
- 個人的な執務の参考資料は個人で利用できるが、その所有権はあくまで行政機関にある。
- 個人用のロッカーに格納したり、文書管理者の許可無く部外に持ち出したりすることは出来ない。



艦艇部隊で個人的な執務の参考資料を保有するのは結構厳しいね。
そもそも行政文書と分離して保管しておく場所が無いし。
業務に関係する文書のほとんどが「注意」文書で、保有できないし。



何やら色々面倒ですね……。



そして最後に「その行政機関が保有していること」
その文書としての性質上、行政機関が保有しなくなるものは行政文書にならないってこと。



そんなものあるんですか?



もちろん。例えば給与明細とか、企業に渡した資料とか。



あっ、なるほど。



防衛省側で持っている文書は行政文書として管理されるけど、その所有権がよそに移った時点で、防衛省の行政文書として管理しなくなるってことだね。



「お前に渡した給与明細、行政文書だから書棚に格納しろよ」って言われたら嫌ですね……。



まぁ、「艦船と安全」はそんな感じだよなぁ……。



?



まあ、そういうわけで、行政文書として見なされるモノはとても広範にわたる、というのはよく分かってくれたと思う。だから、管理には気をつけてね。
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行政文書の管理とは



管理って具体的には何をしてるんです?



この話の趣旨から逸れるから、あんまり細かくは説明しないけど、要するに「作成」「保管」「開示」「廃棄」を規則通りにやるってことだね。



そもそも、行政文書の管理をなんでやらなければならないかと言えば、行政のやったことの妥当性について、後から検証できるようにするってことなんだ。
(目的)
公文書等の管理に関する法律
第1条 この法律は、国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録である公文書等が、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得るものであることにかんがみ、国民主権の理念にのっとり、公文書等の管理に関する基本的事項を定めること等により、行政文書等の適正な管理、歴史公文書等の適切な保存及び利用等を図り、もって行政が適正かつ効率的に運営されるようにするとともに、国及び独立行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすることを目的とする。



だから、行政文書管理の話は必然的に「どうやって国民に開示するか」の話になる。



防衛省、開示の仕組みと一番相性が悪そうですね。



いや、まったくそのとおり。情報公開しても何も困らない役所なら、そこまで神経を尖らせなくても良いんだけど、何しろボクらが扱う情報が部外に出せないモノばかり……。



そういうわけで、文書を扱う上では本当に沢山のルールがある。それをココで一つ一つ列挙していたら、いくら時間があってもたりないから、新入隊員が知っておくべきことを教えるね。
- 行政文書には保存義務がある。
- 文書管理者が指定した期間、文書を保存する義務がある。
- 保存期間を満了するまで、勝手に廃棄出来ない。
- 保存期間満了後も、廃棄には内閣府の同意が必要
- 行政文書ファイルに綴る義務がある。
- 対象とする業務や保存期間ごとにファイルを作成し、ファイリングしなければならない。
- ファイルから勝手に文書を抜き取ってはいけない。
- 行政文書には開示制度がある。
- いくつかの条件に合致しない限り、国民からの開示請求を拒むことは出来ない。
- e-Gov文書管理サイトを用いれば、全行政文書ファイルの名称や保存期間を確認できる。
- 不開示情報を行政文書ファイルの名称にしてはならない。


- 行政文書関係の不正は重罪
- 行政文書の厳正な管理は、民主主義や法治主義の根幹。
- 不正行為が露見した場合、行政処分や刑事処分の対象となる。
(公文書偽造等)
第155条 行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造(中略)した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。(注:有印公文書偽造の罪)
2 公務所又は公務員が押印し又は署名した文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。(注:有印公文書変造の罪)
3 前二項に規定するもののほか、公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は公務所若しくは公務員が作成した文書若しくは図画を変造した者は、三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。(注:無印公文書偽造・変造の罪)(虚偽公文書作成等)
第156条 公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造したときは、印章又は署名の有無により区別して、前二条の例による。(公用文書等毀棄)
刑法
第258条 公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。



うーん。本当に大変そう……。
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さてさて、話を戻そうか。
今回、こういう話をしたのは、文書の話をするとき、結局どの「文書」のことを言っているのかを明確にするべきってことを認識して欲しかったからなんだ。



なんか「文書発簡権」なんて言葉使ってるくせに、それ以外のペーパーも法的には文書なんですもんね。



文書関係の参考資料を見ても、通達類や一般命令にしか適用されない話と、行政文書全般に適用される話が混在していたりする。
かく言うボクも、「文書と言えば通達類とか一般命令」っていう認識がやっぱりある。この認識の齟齬は当分埋まらないと思うから、文書の話をするときには本当に気をつけないといけないんだ。



ええ、そのようですね……。



さて、次回はいよいよ文書を実際にどうやって作ったら良いかの話をするね。
この記事では、文書による命令等のプロセスについて、次の内容を説明します。
第1回
- 文書主義と組織運営
- 原則として文書による命令・報告に基づき、組織運営が行われる。
- 証拠性・同時性・客観性・保存性の利点のため。
- 組織を動かすには、組織的な検討を経て、適切な権限に基づく命令が必要
- 原則として文書による命令・報告に基づき、組織運営が行われる。
- 「上位者の仕事をする」ということ
- 指揮官が部下の提案を承認することで、命令が生まれる。
- 指揮官の命令を実際に作り発するのは部下
- 指揮官自身が能動的に命令を発すると
- 指揮官のキャパシティによる制約大
- 部下が育たず、指揮官が指揮不能になると組織が瓦解
- 指揮官が承認したことを明確にするために、文書が必要
- 指揮官が部下の提案を承認することで、命令が生まれる。


第2回
- 「文書」を巡る複雑な問題
- 海自での「文書」は状況により指すものが異なる。
- 「正式な文書」としての文書
- 「一般命令」や「通達類」など
- 経費の支出根拠になる。
- 艦長など官職印のある者(通常は1佐以上)だけが発簡できる。
- 発簡年月日と発簡番号が明記される。
- 「書面による情報伝達」としての文書
- いわゆる「報告資料」「実施要領」など
- 一定の体裁をもって、書面にまとめられている。
- 「正式な文書」のような効力は持たないが、情報伝達に用いられる。
- 「行政文書」としての文書
- 公文書管理法上の公文書
- 状況により、電子メール、写真、メモ書きなども含まれる。
- 保存や開示について法令を遵守する必要
- 「正式な文書」としての文書
- 文書について考える場合、どの「文書」を指すのかを明確に認識する必要
- 海自での「文書」は状況により指すものが異なる。
第3回
- 「行政文書管理の手引」を読み込もう。
- 「文書」の作り方
- 合議制
- 会議で意思決定する代わりに、関係者が順次案文に修正を加えることで調整
- Wordの設定
- 一般命令・通達類
- 起案用紙を用いるのが特徴
- 訓練実施要領
- 合議制
コメント
コメント一覧 (2件)
ややこしい文書の話をここまで分かりやすく説明していることがすごいですね。
例まで示しているのが凝っているなと感じます。特に報告資料はもし過去資料が無ければ形式は参考になると思います。(血祭りは推定原因と再発防止策のところでしょうか)
興味ない人はなんじゃこりゃかもしれませんが、私は楽しく読ませていただきました。
ご感想ありがとうございます!お楽しみ戴けたようで何よりです。
文字ばかりでは伝わりにくかろうと、気合いを入れて作った甲斐がありました。