この記事は、読者の方から「A幹とB幹で昇任スピードが異なるのは不公平ではないか」「A幹とB幹の制度は統一し、実力のある者が昇任する制度にすべきではないか」というご意見をいただいたことをきっかけに執筆しました。
この記事では、A幹とB幹、それぞれの存在意義と役割分担について、次の内容を説明します。
- A幹とB幹で昇任スピードが違うのは、一番活躍してほしい役職が違うから。
- A幹:将官~2佐の指揮官や主要幕僚、海幕、内局等出向
- 部隊全体の意思決定者、作戦立案者、防衛政策立案者としての活躍を期待
- B幹:3佐~1尉の指揮官や下級~中級幕僚
- 実際に部隊を動かす、現場指揮官としての活躍を期待
- それぞれの役職に最適化された教育と経験を経て、40代~50代の一番仕事が出来る時期に当該ポジションを迎える。
- 広範な知識を基盤に、多角的な視点、論理的思考、他幕・他職域との連携などに特化したA幹
- 一定の経験と専門性を基盤に、現場レベルでの全体最適追求を学ぶB幹
- A幹:将官~2佐の指揮官や主要幕僚、海幕、内局等出向
- A幹・B幹の昇任の現状は不公平か?
- 1尉までの昇任スピードはほぼ同じ。3佐以降から差がつき始める。
- 中級の壁
- A幹は必ず中級課程に入校するが、B幹で入校するのは半数程度
- 中級課程を修業しないと3佐昇任はまず無理
- CSの壁
- 早期昇任には指揮幕僚課程/幹部専攻科の修業が必要
- 2佐昇任の必須条件ではない。
- 選抜試験に合格するA幹は3割、B幹は1~2割程度
- 早期昇任には指揮幕僚課程/幹部専攻科の修業が必要
- A幹のほとんどは定年までに2佐昇任する。B幹で定年までに2佐になるのは期の1~2割程度。
- 3佐以降の昇任ペースには明らかな差があるが、B幹から上級指揮官へ登用される道は確立している。
- A幹とB幹は相互補完の関係にある。
- 階級の違いは役割の違い
- 海上戦闘は科学・技術・意思決定が支配する世界
- 専門的知見と戦略眼、いずれも高い水準が必要
- A幹とB幹が相互に助け合ってこそ活路が拓ける。
某日 護衛艦「ひとなみ」士官室

ねぇ水雷士。前々から気になってたんですけど。



なんです?



B幹ってA幹より昇任遅いじゃないですか。不公平だと思ったことないんですか?
A幹・B幹・C幹
海上自衛隊における幹部の区分の俗称で、幹部として任用された時の出身課程により区分され、経歴管理(配置、教育、昇任スピードなど)が大きく異なる。
- A幹
- 一般幹部候補生課程(第1課程・第2課程)
- 防衛大学校を卒業した者
- 一般幹部候補生採用試験に合格した者
- 医科・歯科・薬剤科・看護科幹部候補生課程
- 防衛医科大学校を卒業した者
- それぞれの採用試験に合格した者
- 公募幹部課程
- キャリア採用幹部の採用試験に合格した者
- 一般幹部候補生課程(第1課程・第2課程)
- B幹
- 一般幹部候補生課程(部内課程)
- 海曹を対象に行われる選抜試験に合格した者
- 飛行幹部候補生課程
- 航空学生課程修了者
- 一般幹部候補生課程(部内課程)
- C幹
- 幹部予定者課程
- 3尉昇任試験に合格した曹長・准尉
- 幹部予定者課程
幹部候補生学校では、A幹は第1学生隊、B幹は第2学生隊、C幹は第3学生隊に配置される。



また、エラく聞きづらいことを容易く聞きますね?



いや、先パイが席外してることってなかなか無いから……。
せっかくの機会なんで聞いてみようと思ったんです。



んー、そうですね。今のところ私はなんとも思ってませんよ。そういうものとしか。
A幹とB幹は、活躍してほしいポジションが違う!



でも、ですよ?先パイの話聞いてる感じ、水雷士って結構優秀じゃないですか。水雷士無しじゃ、先パイは何にも出来ないみたいですし。



まあ……そうですね。
年次練度審査前の水測員の練度回復も私が音頭取って訓練やりましたねぇ。
本来群司令部が作成しないといけないのに水雷長に丸投げされた群訓練の捜索プランも、一から十まで私が作って、群司令報告だけさも水雷長が考えたように報告してもらいましたね。
ああそれから、先日の実事象では水雷長が上手く対応出来なかったので、私が追尾して位置局限して報告書類作るところまでやりましたね。ええ。



思ったより深刻だった



でもね、私はそれも含めて、そういうものだと思いますよ。



そもそも遠見さんには……というかA幹の方には、ここで「水雷長」として立派に働いてもらおうなんて、これっぽっちも思ってないんですよ、ワタクシ。



へぇ、そうなんですか?



ええ。だって、水雷長は水雷経験ほとんど無いじゃないですか。1年間の水雷士経験と任務課程。あとは、ちょっとソーナーシステムのお勉強をかじったんでしたかね?あの歳のA幹の中ではまだ知ってる方ですけど、まー、対潜戦を指揮するにはまるで不十分ですね。



対して私といえば、幹部になるまで14年?あれ、15年だったかな?ま、それくらい水測員一筋でやって来ました。
その間、実際に対象国の潜水艦を探知して追っかけたこともありましたし、あんまり大声では言えない部隊で潜水艦の情報を収集したこともありました。



要は、踏んできた場数が違うんですよ。だから、差が出るのは当たり前なんです。
単純にこの艦で対潜戦やるだけなら、遠見さんじゃなく、私を水雷長にすればいい。
でも、現実にはそうなってない。どうしてだと思います?



A幹にとって尉官は下積み……でしたっけ?



そうです。それこそが、昇任のスピードが違う理由でもあります。
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40代で完成する幹部



A幹・B幹は何が違うかと言えば、自衛官人生を通じて、一番活躍してほしいポジションが違うんです。



一番活躍するってのは、経験も能力も十分に積み上げて、それ以上は教育してもあんまりリターン無いなぁ、ってタイミングですよ。人により変わりますけど、ほとんどの人は40代後半くらいにはそういう時期が来ます。



そこから先って、やっぱり伸びなくなるものなんですか?



んー。伸びない、とまでは言わないですけど。やっぱり歳とってくると、柔軟性も無くなって、新しいことを身に付けられなくなりますよね。
かく言うワタクシも、ここ数年、急速に物覚えが悪くなっちゃって……!嫌ですね!もう!



まー、努力や素質によってはまだまだ伸びるんでしょうけど、年寄りに新しいこと教えるくらいなら、若い子に教えた方がコスパいいですよ。



今から恐ろしいです……。



だから、若いうちの配置は単に「部隊の役に立ってほしい」というだけでなく、「ここで経験を積んでほしい」という意図が加わって決まるんです。
海自って、若いうちは結構色々投資してもらえるから、30代後半過ぎてから、あの課程に行ってみたいだの、この教育受けてみたいだの、何だの言うヤツが結構いるんですけど、いつまでもそれが続くと思ったら大間違い!40代あたりから徐々にそういうのが無くなります。



なるほど。手間暇かけて育てて、最後に収穫するんですね。



ええ。
では、A幹・B幹に期待されているポジションとはなんなのか。
A幹:将官~2佐の配置
- 部隊指揮官
- 部隊全体の意思決定を担う。
- 大局的な視点から部下に方針(Commander’s Intent)を与え、作戦を立案させ、実行させる。
- 自衛艦隊司令官、地方総監、●●群司令、●●隊司令、艦長など。
- 作戦立案者
- 部隊指揮官の意思決定をサポートするため、下級の幕僚を指導して作戦を立案する。
- 指揮官が指揮不能な状況では、代わって指揮を執る。
- 各司令部の主要幕僚など。
- 防衛政策立案者
- 安全保障・防衛の専門家として、安全保障・防衛戦略の検討や防衛力整備に参画する。
- 統幕・海幕勤務者、内局勤務者、内閣府出向者など。
B幹:3佐~1尉の配置
- 現場指揮官
- 部隊指揮官から許可(または委任)を得て、特定の分野に関する部隊の行動を決定する。
- 艦艇の科長(砲雷長・船務長・機関長・補給長・飛行長など)、準科長(砲術長、水雷長、応急長など)、飛行隊長、機長など。
- 計画立案の実務担当者
- 専門的知識を活かし、部隊や司令部が立案する計画の細部を作成したり、他部隊の担当者と調整したりする。
- 各司令部の中級~下級幕僚、研究開発部隊の中核要員など。
3 経歴管理 の目標
幹部自衛官の経歴管理に関する細部基準について(通達)(海幕人第3884号。平成2年7月31日)
各任用区分ごとの経歴管理の目標を次のとおりとする。
(1)一般幹部候補生課程出身者
基盤的学問分野の素養の上に、各職域の人的戦力の中核として、広範な軍事的知識、技能経験とともに、政治、経済、科学技術等の幅広い知識を養い、かつ、高い軍事的判断力、管理能力、応用能力、新しい分野への適応能力を養い、上級指揮官、幕僚又は専門技術者として勤務させ、また、防衛力の整備、維持、運用等諸施策の企画立案等に従事させる。
(2)飛行幹部候補生課程出身者
飛行技能の基盤の上に、幹部としての能力向上を図り、主として飛行関連部隊の中堅の指揮官、幕僚として、また、特に優秀な者は上級指揮官又は幕僚として勤務させる。
(3)一般幹部候補生(部内)課程出身者
海曹としての術科技能の基盤の上に、幹部としての能力向上を図り、実務レベルの指揮官、幕僚及び管理者として、また、特に優秀な者は上級指揮官又は幕僚として勤務させる。



A幹の方が高い階級のポジションに行くんですよね?



はい。でも、違うのは階級だけじゃありません。A幹の方が、より大局的なものの見方を求められるんです。逆に言えば、B幹の方が、狭い範囲のことを求められるってことです。



大局的なものの見方って、何なんですかね?



それは……。うん、何なんですかね?
ま、それが分かるような人間だったら、ワタクシA幹になってるでしょうね!機関長はどう思います?



そうね……。一言で言うのは難しいわね。
現状を正しく分析して、長期的な改善をする能力、といったところかしら。



例えば、部隊の練度や装備品について、現状と根拠文書を比べて「現状はこの点で文書に書かれたとおりになっていないからダメだ!」と言うことはそこまで難しくないでしょう?



そうですね。文書と見比べさえすればいいんですよね?



でも、それが出来る人は、自分で一から根拠文書を作ることができるかしら?



なるほど、確かに難しそうですね。
それって「部隊や装備品にどのくらいの能力を求めるのか」「それを満たしていることをどうやって確かめるのか」を自分で考えないといけないってことですよね?



ええ。既にあるものが基準になるのならそこまで難しくないのだけれど、その基準が無い世界というものが世の中にはたくさんあるの。
そうした世界では、ある種の創造性を求められるのよ。



創造性、と言っても、思いつきではないわよ?あくまで、根拠となるデータがあって、ロジックがあって、初めて周囲は納得してくれるわ。
でも、そのデータをどこから引っ張ってくるか。海上自衛隊の中でやりとりされている情報だけでは到底足りなくて、一般報道やシンクタンクの情報だって参考にすべき時もあるわ。それに、同じデータをどう捉えるかによって、結果は全く違うものになるの。



同じことは戦闘の指揮官にも言えるの。
例えば水雷長や水雷士は「対潜戦準則によれば、こういう場面ではこういう捜索法をすべきです」と考えて進言するわ。
でも艦長や、さらに上の隊司令・群司令ともなると「任務を達成する上で、今は対潜捜索をすべきなのか?」「そもそも自部隊に与えられている任務は妥当なのか?」「今の任務を達成したら、次は何の任務が与えられるだろうか?そのために今しなければならないことは何だろうか?」といったことを考えるの。



なるほど。そのあたりになると、センスが重要になりますね。



会社の経営陣なんかも同じね。多角化経営に持っていくべきか、それともコア部門に全力を注ぐべきか、なんて、誰も教えてはくれないでしょう?



こうした能力は一朝一夕に出来上がるものではないわ。
だからこそ、そういう立場になる前に、時間をかけてその素地を作っておくのよ。



その結果として、A幹とB幹では経歴管理……つまり、どういう部隊のどういうポジションに配置するか、どういう教育を施すか、というプロセスが大きく変わるのよ。



たとえば、艦艇に乗る幹部の場合。
A幹だと、最初の3年間は原則としてスリーローテーションがあるわ。しかも、そのはじめには原則として任務課程という2か月弱の入校期間もあって、各科がどのような仕事をしているのかを学ぶことが出来るの。
スリーローテーション
海上自衛隊における、A幹の経歴管理に関する俗称。
遠洋練習航海から帰国した艦艇要員の初任幹部は、砲雷科・船務科・機関科における「士」配置(砲術士・水雷士・船務士・通信士・機関士など)をそれぞれ1年ずつ、科を変えながら担当していく。すなわち、1年目は護衛艦Aの通信士、2年目は護衛艦Bの機関士、3年目は護衛艦Cの砲術士、といった人事が行われる。
応急長は「士」ではないが、事実上の「士」配置とみなされており、3年目に機関科配置になる場合は機関士ではなく、応急長になることが多い。また、異動先となる艦艇は護衛艦とは限らず、補助艦艇であった場合、運用士や標的士といった配置になることもある。
このような経歴管理を行っているのは、艦艇において各科がどのように連携しているのかを学ばせるためである。



スリーローテーションが終わった後は、陸上部隊と海上部隊を交互に、というのが建前になっているわ。
ただ、実際はそのまま艦艇に残る人も少なくないわね。



ただ、艦艇に残った場合でも一つの配置がずっと続く人は少ないわね。例えば、小型艦の砲術長、航海長、大型艦の砲術長といった具合に、途中で科が変わるのが一般的よ。
うちの航海長がまさにそうね。前の艦では砲術長を担当していたはずよ。



色んな科のことを勉強してくださいってことですね。
でも、毎年配置が換わると、毎年学び直しで大変そう。



ええ。対するB幹はというと、幹部になった時点で、何を専門にするかが決まっているの。
うちの水雷士がまさにそう。1隻目の艦で水雷士をやって、2隻目になる「ひとなみ」でも水雷士をやっているわ。きっと、次の艦で水雷長を担当することになるんじゃないかしら。
この間、陸上部隊に行くこともあるけれど、A幹と違って専門分野である水雷関係配置であることは間違いないの。



そうなると……水雷以外のことは勉強しないんですか?



ええ、そうですとも。そんな機会、ワタクシには与えてもらえません!
ま、海曹時代に散々艦に乗ってるんだから、わざわざおべんきょしなくてもわかるでしょ?ってところじゃないですかね?



なんて言ったところで、CIC内ならいざ知らず、他の船務科や機関科がどうやって働いてるかなんて、ほとんど見る機会もなかったですけどね。艦橋勤務も初任海士以来やってなかったから、分からないことだらけですよ。
このあたり、きちんとお膳立てしてもらえるA幹の皆さんと違って、ワタクシは自助努力で身につけるしかないんですね。



それはそれで大変そう。



航空部隊の場合、A幹でも艦艇ほど頻繁に異動するものではないわ。でも、30代あたりから、司令部や陸上部隊の勤務になる人が出てくるわね。
飛幹の人はかなり長い間飛行機に乗り続けることになるけれど、A幹では30代後半を過ぎると、自分で飛ばす配置に残る人はどんどんいなくなっていくわ。



あー、噂には聞いてましたけど、やっぱりそんな感じなんですね……。



それもこれも、40代50代という一番仕事が出来るタイミングで、何をしてほしいのかが違うということ。
そして、それぞれの役割に最適化された経歴管理が行われている、ということね。



そうやって養成されたB幹は、海曹時代の経験と専門性を基盤にして、特定分野に関する管理経験を積むわ。それも、海曹では出来ない仕事、つまり現場レベルでの全体最適追求を学んでいくの。



対するA幹には、そうした専門性はあまり無いように見えるけれど、専門性が無いように見えることこそが専門性になるわ。
多感な時期を勉学に費やして得た広範な知識を基盤に、多角的な視点、論理的思考、他幕・他職域との連携などに特化するのよ。



それが求められる役割の違いに繋がるってことですね。



冒頭の話に戻りますと、確かに水雷長には今のうちにしっかり水雷の事を勉強して欲しいところではあります。でも今はもっと大事にして欲しいことがあるんですよ。



何です?



人事ですよ!
なんだかんだであの人、今回が最初で最後の分隊長配置になるかもしれませんから。中級で出て行って、そのまま小型艦の副長なんてケースもよくありますし。



部下全員の顔と名前が一致する状態で、自分の発した一言一言が、部下の人生にどういう影響を与えているのか。遠見さんには今のうちにそれを知ってもらいたいんです。そんなことも分からない人に指揮官にはなって欲しくないですからね。



そこまで含めて総合力なんですか。なかなか大変ですね。
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昇任スピードの違いは不公平?
1尉まではほぼ同スピード



でも、昇任のスピードが違うって、実際不公平感は出ないんですか?



んー、言っておきますと、昇任のスピードって1尉くらいまではそんなに変わらないんですよ。大きな差が付くのは3佐以降です。



あれ?そうなんですか?



ええ。まあ、一斉昇任のA幹に比べると、B幹は成績によって昇任スピードにバラつきが出ますから、全体的には遅くなるんですけど。でも、それほど少なくない割合のB幹が、A幹とほぼ同じスピードで1尉になってます。



うちの水雷長・航海長と武整長、いるでしょ?
あの人たち、幹部候補生学校は同期なんですよ。ああ見えて。で、1尉昇任は水雷長・航海長の方が半年早かった。そんなもんです。
そもそもB幹は候補生任命のタイミングが遅い分、3尉昇任も7月までズレ込みますからね。その点から言えば、3尉~1尉の期間はほぼ同じと言えます。



ふーん、そうなんですね。



同じとは言うけど、バラツキがある分、やっぱり遅いんじゃねーかと思いましたね?でも、それこそさっき言った目標ポジションの話です。本来B幹は1尉になったら大体ゴールなんですよ。そのゴールの手前でバラけさせてるって感じですね。
だから、B幹全員が一斉に1尉になったら、相当不適当なのが混ざり込みます。ちょっと!誰ですか!うちの船務士の悪口言ったの!?
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中級の壁



で、A幹の皆さんも3佐昇任からバラつきが出ます。とは言っても半年とか1年とか、そういうレベルです。
一方B幹で大きな差がつき始めるのがこのタイミングですね。



B幹の場合、3佐になる前に中級の壁があるんですよ。要は、中級課程に入校できるかっていう。
幹部中級課程
海上自衛隊における幹部自衛官の術科教育の1つ。
射撃、水雷、掃海、船務、航海、機関、経補、潜水艦、航空用兵、情報戦、航空装備、艦船装備など、特技職ごとに課程が分かれており、課程により開始時期や場所、期間などが異なる。
一部の時期は「共通期間」と呼ばれる。たとえば2術校の中級機関課程が1術校に移動するなどすることで、複数の課程が一堂に会し、合同で作戦要務や戦術図演の座学や実習に参加する。
A幹にとっては最終要員区分の決定時期でもある。中級課程修業に際し、特技職が変更(例:艦艇幹部→艦艇用兵幹部・射撃幹部)されることで、今後の方向性が定まり、上級の配置に就けるようになる。また中級課程の成績は、幹部候補生学校の成績により定まった幹部名簿序列(通称:ハンモックナンバー)に大きな影響を与えると言われている。
幹部候補生学校以来、あまり会うことの無かった同期と再会するチャンスであり、半年~1年程度プライベートにリソースを割けるチャンスであり、そして今後の自衛官人生を大きく左右する、とA幹にとって最大のイベントになる。



その中級課程に行けないと、3佐になれないんですか?



ええ。少なくとも私は中級無しで3佐になったB幹を見たことがないですね。大抵は中級に行ってる間に3佐になると言われています。



中級にはどのぐらいの人が行くんですか?



大雑把な数字ですけど、1つの課程には1人~3人くらいのB幹が行ってますね。最終的には期の半分くらいの人が入校するみたいですよ。



ただ、タイミングは勤務成績とか年齢とかに左右されるようで、A幹ほど時期が明確には決まってないです。
早い人だと、同期のA幹で遅めの人より早いのもいますよ。さっきの3佐昇任の話で言うと、学生の間はまだ昇任資格が無くて、修業してしばらく経ってから3佐になるケースもくらいです。



一方で、遅い人は遅いですね。A幹のメインボリュームより4、5期以上遅くなる人も、なんなら来る来ると言われ続けて一向に来ない人もいます。
ちなみに、B幹になったときの年齢が高いと、中級に行かせてもその後の活躍が見込めないと思われてしまう模様です。



やっぱり、A幹に比べると、結構厳しいんですね。



今、水雷士が言ったのはB幹はB幹でも、部内の人の話ね。飛幹はまたちょっと違うわよ。



飛幹の場合、中級に入校する時期はA幹のように結構固まっているわ。幹部になってからの入校するまでの年数はA幹と同じか、少し長いくらい。だから中級の共通期間に入ると、航空用兵課程に同期の飛幹の人は数人いるかいないかで、ほとんどは2、3期くらい早い期の人と机を並べることになるわ。



時期が固まってるってことは、人数も結構多いんですか?



ええ。中級航空用兵課程学生の半分以上は飛幹出身者よ。全員ではないけれど、ほとんどの人がどこかのタイミングで中級課程に入校することになるわ。



制度が違うと、そんなにも差が出るんですね。



そもそも航学のやつらに、海曹であり続ける選択肢なんて用意されてないですからね。部内とはかなり事情が違いますよ。
B幹的な要員養成こそされてますけど、ありゃあ空の世界のA幹みたいなものです。
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CSの壁



さて、お次は2佐。CSの壁ってやつです。



なんです、そのCSって?



正直、私はこれで何やってるのかよく分からないんですが、幹部のみなさんが中級を出ると試験のためにカリカリ勉強し始めるやつですね。



私がちょっと前に受けてきた教育よ。指揮幕僚課程といって、安全保障や戦略について論文の読み書きをするような教育機会が用意されているの。
指揮幕僚課程
海上自衛隊における幹部の素養教育の1つ。通称 CS(Command and Staff)。陸自・空自にも同名の課程が存在するが、位置付けが若干異なる。
上級の指揮官や幕僚になる者を育てるため、安全保障、戦略、ロジスティクス、国際法規などの教育を行うとともに、中級課程より高度な作戦要務の実習を実施する。また、一部期間では統幕学校において陸海空合同で統合運用に関する教育を受ける。海上自衛隊の一般的な教育と異なり「アカデミックフリーダム」を全面に押し出していることが特徴であり、自由・柔軟な発想で取り組むことが特に奨励されている。
修業しても学位を得ることは出来ないが、教育のレベル自体は大学院の修士クラスであり、その修業者は知的能力に優れたものとして、司令部の主要幕僚や防衛政策の立案等に重用される。
本課程を受けるには、年に1回実施される「海上自衛隊指揮幕僚課程及び幹部専攻科課程学生選抜試験」に合格することが必要である。試験は海上自衛隊全般に関する知識確認や、小論文の作成、口述での論理的説明など多岐に亘り、1次・2次で合計6日間に及ぶ。海上自衛隊の試験でも最難関の一つとして挙げられる。



CSで何をやっているかはいったん置いておいて。
とても難しい試験が行われて、それに合格すると、CSや幹部専攻科(CSと異なり、装備品や戦術に関する専門的研究を行う)に行くことが出来るの。



なるほど、その試験に合格するかしないかで、出世できるかどうかが左右されるってヤツですね!



有り体に言うとそういうことね。
陸自の場合、CGSという似たような課程があって、それに通らないと昇任自体がストップして出世の芽を摘まれる、なんてくらい扱いが重いわ。



一方、海自では行かなくても一応出世自体はできる……けれど、明らかに遅くなるわね。早期昇任には指揮幕僚課程や幹部専攻科が必要よ。
A幹の場合、初回の昇任機会で2佐昇任したいなら、CSや専攻科へ行けと言われているくらいには、重視されているわ。将官になるには必須、1佐になる上でもかなり重要、そういう位置づけね。



B幹の人はどうなんです?やっぱり、A幹は行かなくても2佐になれるけど、B幹だとなれない、ってことはあるんですか?



そうね。実際、CSや専攻科に行かなかったB幹で2佐になった人は、ほとんど見たことが無いわ。一応、何人かそういう人も知っているけれど、レアケースね。
この場合、いずれ将官や1佐として活躍してもらいたいと嘱望されて2佐になるというよりは、2佐の仕事までなら出来るだけの能力はあるから2佐になってもらおう、という感じかしら。組織への貢献が著しい人を定年直前に補助艦艇の艦長にして箔付けする、そういう意味合いもあるわね。



そのCSには実際、どれぐらいの人が行ってるものなんですかね?



年によって結構ばらつきがあるけれど、選抜試験に合格するA幹は3割くらいかしら。B幹だと1~2割程度ね。ここで言うB幹には飛幹も含まれているわ。飛幹の方が若干優勢なこともあって、部内で合格するのはもっと少ないわね。



A幹もB幹も結構少ないんですね。



ええ。海上自衛官がこれまでの試験ではあまり評価されてこなかった、論理的思考力やその表現力を問われる試験よ。それまでの試験では高い評価を受けてきたとしても、合格できるとは限らないわ。



ふーん。じゃあ、大卒の人じゃないと合格は難しいですか?



ええ。高卒ではダメ、ということは無いけれど、学術論文のお作法に疎い人が合格するのはかなり厳しいわね。大卒の場合、多くの人は卒業論文でそういうトレーニングを積んできているから、アドバンテージがあるのは確かね。もちろん、それが身についているかは、また別の話よ?
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B幹にも上級指揮官への登用の道はある。



話を戻しましょう。指揮幕僚課程や幹部専攻科を修業できたB幹は、A幹と同様に上級の職につくことが出来るわ。流石に将官にまで上り詰めたケースは見たことが無いけれど、1佐や2佐になったB幹は決して少なくはないわ。



A幹よりは、2佐以上になる人は少ないんですよね?



ええ。A幹は仮にCS試験に合格しなかったとしても、よほど勤務成績が悪かったり、服務事故を起こしたりしていない限り、定年までにはほとんどの者が2佐に昇任すると言われているわ。1佐になるのは期の半数程度、将官にまでなるのは数パーセント程度ね。



対するB幹は、CS試験に合格しないと2佐昇任がかなり厳しいわ。結果、2佐にまで昇任するのは期の1~2割程度になるわね。



この違いは、さっき言った「求められているもの」の差によるってことですか。



ええ。確かに3佐以降の昇任には明らかに差があるけれど、もともとA幹とB幹はそれまで作り上げてきた知的基盤に明確な差があるの。だからこそ、適材適所に配置していくと自然とそうなっていくものなのよ。



B幹の中にもそういった方面に強みのある人は間違いなくいるわ。そうした、多角的視点や論理的思考力に優れたB幹をキャッチアップする制度はしっかり出来ているのだから、私は現行の経歴管理のあり方はそれほどおかしくないと思っているわね。
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A幹とB幹は相互補完の関係
階級≠人間の価値



入隊する上できちんと理解しておいてほしいのは、階級の違いは役割の違いを表す、ということよ。決して人間の価値を表すものではないと言うことは理解してほしいわね。



んー、まあそうですよね。



ま、この点は色んな捉え方があるでしょう。実際、階級の高い方にはへりくだるのがお作法とされてますし。階級を笠に着てやりたい放題する人は少なくないですし。



指揮官は意思決定の役割を担っているわ。その意思決定に皆が異を唱え始めたら、組織は組織として成り立たなくなってしまう。だからこそ、指揮官は神様のように振る舞うし、中級管理職は指揮官の言葉が絶対だと末端にまで言うのよ。



でも、それはそういう役割を持っている、というだけよ。
上級幹部が必要とされているように、中級幹部も必要とされていることに変わりはないわ。曹士も同様ね。だから「B幹は昇任が遅くて可哀想」なんて考え方をしないで欲しいの。



あくまで、中級幹部として現場を引っ張るリーダーを育てるための制度がB幹。A幹の採用試験を受けるチャンスがあったけど、敢えて航空学生や部内になった人の多くは、「上級幹部になるより現場に立ち続けたい」という希望があってB幹の道を選んでいるわ。そういう人生の選択を軽んじる資格は、私たちには無いでしょう?



確かにそうですね。
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A幹とB幹、違うからこそ……



この考え方は、必ずしも全ての軍事組織に共通したものではないわ。国や軍種によって考え方は千差万別。日本に限って言えば、これほどA幹とB幹の線引きがハッキリしているのは海上自衛隊だけのようね。
では、どうしてそんな違いがあると思う?



うーん、海上自衛隊に特有の事情があるんでしょうかね?



ええ。それはやはり海を戦場にする、という点ね。



戦場が海になると何か変わるものなんですかね?



海上戦闘は科学・技術・意思決定が支配する世界よ。



全ての戦闘がヴィークル同士で行われるからこそ、ヴィークルを機能させるための技術がものを言うわ。しかも、電波や音響の伝搬のような自然環境は索敵や攻撃の成否を大きく左右してしまう。自然科学や技術に対する専門的知見がないと何も出来ないわ。



一方で、意思決定の支配するところも大きいわね。
隠蔽や陣地構築のような被害軽減策は存在せず、戦いの結果は極めて短期間のうちに決まってしまうわ。チェスの盤面のように、どこに何の目的で兵力を差し向けるかが重要になるということね。
そして、一度打撃を受けた艦艇・航空機部隊を補充して再編制するのには膨大な時間が必要で、だからこそ先人達は艦隊決戦思想に傾倒したの。



つまり……?



専門的な知見も、戦略眼も、どちらも高い水準に無いといけないということね。



そういう点で、どちらも中途半端な指揮官はあまり求められていないわ。その人だけで何でもやらないといけないような戦いのあり方なら、それがいいのでしょう。でも、海上戦闘は必ずチームで戦うのよ。
そういう器用貧乏な人達が集まるより、戦略や後方に沿った形で示された指揮官の方針の下に、優れた専門家の知恵を集結する、役割分担されたチームの方が強いの。





それがA幹とB幹の役割の違いってことですね。



ええ。A幹とB幹には、それぞれ強みがあって、それぞれ弱みがあるの。お互いに助け合って、強みで弱みを補完し合ってこそ、活路が拓けるのよ。



なるほど。ありがとうございました。
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RRR……



はい、EF訓練幕僚部艦艇支援室……
ん、島田か。うん。副直士官、応急長。何かあったか?
うん……。なるほど……。



で。ぶっちゃけ、先パイってどうなんです?上司として。



んー。ま、指揮官には向いてないですね、あの人。
ちょっと想定外の事が起きると、すぐ声が上擦るし、キャパるし。



あはは、確かにそうかも。



要領が悪いのも良くないですね。
適当に前のものをコピペしておけば良いような訓練実施要領を、いちいち調べて作ろうとするし。



痩せないと!とか言いながら机の引き出しにはお菓子がぎゅうぎゅう詰めに入ってるし。



どうせ誰も見ちゃいないのに、人事評価の所見欄にびっしり書き込もうとするし。



情に流されやすいのもあんまりよくありません。
退職希望の奴が自分で調べりゃ良いような手続きまで、いちいち面倒みてやろうとするし。



マーク替えしたいって海士のワガママに付き合って、わざわざ総監部まで頭下げに行くし……。



ふふ、苦労してるんですね。



ゴメン!遅くなった!



お、噂をすれば。



それより!当直警衛海曹から報告があったんだけど、射管の島田くんがバイクに乗ってて交通事故に遭って、共済病院にいるって!



たった今、本人からも士官室に報告ありました。艦長・副長・当直士官に報告して、交通事故発生報告作りますね。



すみません、お願いします!ボクは様子を見に行って来るんで!



えっ、あの。交通事故って言っても発進時に立ちゴケしただけですよ?



と言うわけで、未来!すまないけど今日は相手できない!ごめんね!
じゃあ行ってきます!!



後ろの車も急ブレーキ掛けて軽く触れただけだから、本人はピンピンしてますって……あー、行っちゃった。



……これが、広い視野、ですか。



……ね?困った人でしょう?



……ふふ、ですね!



ま、ご安心ください。
この鳴海響、水雷にしか能がない身ですが、人を見る目はあるつもりです。
困ったお方ですが、支え甲斐はありますからね!



ええ、先パイのこと、よろしくお願いしますね!
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