この記事では、新入隊員の夏制服との付き合い方をサポートするため、次の内容を説明します。
第1回
- 夏制服は白色を基調としているため、汚れが大敵
- 冬制服の時以上に、汚れを付けないこと、汚れを落とすことが重要
- 夏服上下
- 第三種夏服(略衣)は1着しか貸与されないため、入隊初年の場合、私物購入は不可避
- 官品には水洗い禁止のマークが付いているが、実際は水洗いしても問題ない。
- コツ
- 食事と雨に注意。汚れの原因のほぼ全ては食べこぼしと泥。
- 汚れの特性に応じて洗い方を工夫する。
- 汚れたら早めに洗濯する。
- 洗濯時は必ず目の細かいネットに入れる。
- 時々クリーニングにかけると、洗濯しても細かいシワがとれやすくなる
第2回
- 白短靴
- 服同様、汚さないように工夫するのが重要
- 黒短歌と異なり、汚れや傷が付くとリカバリーが非常に難しい。
- 革表面の顔料層を維持するのが鍵
- 汚れやすいのは「つま先」「屈曲部」「かかとの内側」
- 全体的に、油性クリーム(ワックス)を塗って、傷から保護しておくと良い。
- つま先とかかとの内側は、歩行時モノにぶつけないように注意
- 屈曲部は、強く屈曲することにより革同士がこすれて傷つく。
- 乳化性クリームで柔軟性を維持する。
- 踏ん張らない。走らない。
- 諦めて私物の短靴を履きつぶしていくのもアリ。
- 服同様、汚さないように工夫するのが重要
さて、全部同期に丸投げしてる未来には関係ないかもしれないけど、白短靴についても触れておこうかね。
白短靴
顔料層を守れ!
白短靴のメンテナンスについて考える上で、まず知るべきは、白短靴は決して黒短靴の白色バージョンではないってことだね。
見た目は色以外全く同じですけど、違うんですか?
全く違う。具体的には革の構造が違うんだ。この構造の違いは、傷や汚れに対するリカバリーの難易度を大きく左右してる。
黒短靴……あの「芯の入ってない安全靴」は、履き心地が最悪なだけで、構造自体は全く普通の革靴と変わりない。革をクロムでなめして、黒色の染料で染めてから縫い合わせてある。
靴の構造はよく知りませんが、それが一般的な革靴の作り方なんですね?
うん。
それに対して、白短靴。この革は、染料で染めずに、表面を白色の顔料で塗り固めてあるんだ。
……えーっと、それは何が違うんですかね?
黒の場合、染料で染めてある……つまり革自体が黒色になってるんだ。
でも、白は、革自体の色は変わらずに、上にペンキを塗ったような状態になってる。何故かと言えば、この世に白い染料というものが存在しないからなんだ。そのものが真っ白な革なんてものは作り出せないから、革の上に白い顔料を載っけて白い革を作ってるんだ。
黒の場合、そもそも革の色自体が黒いから、汚れが付いても今更染まることはない。綺麗に見せるコツは、クリームを使って表面を平滑にすること。傷が付いたり、表面に砂埃がついたら、磨きなおせば再び表面は平滑になって光沢が出る。
対する白は、表面の顔料層に傷が入ると、そこから汚れが侵入する。傷の奥にクリーナーが届かなくて汚れが落ちなくなったり、汚れの種類によっては染色が起きてしまったりする。
それに、傷が深くなると、顔料曹を貫通して下の革が見えてしまう。灰色の傷が入った白短靴を履いてる人が時々いるけど、あれは顔料層が剥げてしまって、革自体の灰色が見えてるんだ。
そうしたら、上から同じく顔料を塗れば解決するんではないですか?
その考え方は間違ってはいない。ただ、いくつか問題があって、なかなか上手くいく方法は無いんだ。
まず、上から白い顔料を被せるとして、元々の靴の色と完全に同じ色の顔料は手に入らないから、傷の上にだけ塗ってもツートンカラーになって目立ってしまう。
あ~
ボクの同期ではヤケクソで修正液を付けてるのもいたけどね……
明らかに様子がおかしいからやめた方がいい。
それは……うん、言われなくても大丈夫です。
そうならないように、販売されてる傷補修材の多くは、透けて見えるくらいに隠ぺい力を落としてある。それで境界を目立たなくしようとしてるんだけど、その結果、傷自体も完全には隠せなくなってしまっている。
うーん、難しいですね。
そして、もともと革に付いていた顔料層と違って、上から塗られた補修材は革に定着するわけではないから、すぐに剥がれてしまう。
補修材にしても、クリームにしても、あくまで顔料の粒子が革の上に載っかるだけで、染料で革を染め直すわけじゃないから、革表面から剥がれると何にも残らないんだ。
……ということは、補修は無理ってことですか?
極論すると、そういうことになる。
もちろん、やらないよりはやった方がいいんだけど、傷が入った後のリカバリーはその場しのぎの応急処置にしかならないと思った方がいい。
だから、黒短靴と同じ感覚で使うと痛い目に遭うよ。
キーになるのは、いかに顔料層を維持するか。
なるほど……
まず、靴の手入れをするときはクリーナーで砂や汚れを落とすこと。
同期にはメラミンスポンジで汚れを落としてたのもいたけど、顔料層をゴリゴリ削っていくことになるから、やめた方がいい。
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傷の頻発箇所
傷の頻発箇所……つまり汚れやすいところは3つ。「つま先」と「屈曲部」と「かかとの内側」。この3点が汚れないように気を付けることが、白短靴の寿命を延ばすコツだよ。
油性クリームと乳化性クリーム
さっきの話だと、クリームで上に膜を張っておくってことになるんですかね?
そういうこと。靴クリームの中でも、特に油性のものがいいんだ。
油性というと……あの丸缶のやつですか?
そう。靴クリームは「油性クリーム」と「乳化性クリーム」の2種類に大別できる。
油性 | 乳化性 | |
---|---|---|
原料 | 蝋(ワックス)、油脂、溶剤 | 同左(蝋少なめ)+水 |
性質 | 常温で硬化、革に浸透しにくい | 革に浸透しやすく保湿効果が高い |
用途 | 鏡面磨き、傷からの保護 | 柔軟性の維持 |
一般に、円形で薄い、金属缶に入ってるのが油性、ガラス瓶に入ってるのが乳化性だよ。
……蝋と油脂って、違うんですか?
うん。油脂は脂肪酸とグリセリンのエステルなのに対して、蝋は脂肪酸とアルコールのエステルで……ってそれはどうでもいいや。
どっちも油には違いないけど、性質が違うの。特に蝋は常温で固くなる性質があって、しかも化学的に安定してるんだ。
ふーん。油性クリームは、蝋が入ってるから固くなるってことですか。
まぁ、そういう理解でいいよ。
表を見て分かるとおり、実のところ油性と乳化性の原料はそんなに変わらないんだけど、油性クリームは全体に占める蝋の割合が高いんだ。
というわけで、乳化性クリームではダメってことではないんだけど、油性クリームを使った方が、革の表面に固い蝋の皮膜を形成しやすい。
今回の用途に向いてるってことですね。
そういうこと。
一般的な靴磨きの指南書には、油性クリームを全体に使わず、つま先にのみ使うことを奨めているものも多いんだけど、白短靴に限って言えば、全体に塗っておいていい。
それは、傷の問題ですか?
そう。
指南書がそういう事を言ってるのは、油性クリームを遣うと革の柔軟性が損なわれるって考える人がいるからなんだ。
でも、白短靴の寿命は傷が付くか付かないかで決まる。はっきり言って、革の柔軟性が問題になる頃には多かれ少なかれ傷がついて履けなくなってるはずだよ。
だから、油性クリームを全体に使うのは何の問題もない。
そしたら、乳化性クリームは要らないですか?
そこが、要らないと言い切れないのが難しいところだね……
まず、不十分と言いつつも、傷を隠す力があるのは否定できないし。
あれ?油性クリームじゃ隠せないんですか?
うん。乳化性クリームは色の選択肢がかなり多くて、白い顔料入りのものも出回ってるんだけど、油性クリームは黒・茶・無色ばかりで、白色は売ってないんだ。
昔、アメリカに行ったときにはKIWIの白缶が売られてたんだけど、日本でも売ってくれればいいのになぁ。
まぁ、白い革靴なんて、履いてる人ほとんどいないですもんね……
それに、柔軟性は気にしなくて良いとは言ったものの、やっぱりあるに越したことはない。特に屈曲部はね。
ということで、
① クリーナーで汚れを落とす
② 白色の乳化性クリームを全体に薄く塗る
③ 無色の油性クリームを全体に薄く塗る、つま先とかかとにはすこし厚塗りする
④ つやが出るまで磨き上げる
という流れで手入れするのがいいと思う。
時間がないときは②を省略する感じで。
乳化性クリームを塗った後は乾拭きしなくていいんですか?
一般にはした方がいいとは言われるね。
単に上に乳化性クリームを乗せるんじゃなくて、豚毛ブラシでしっかり磨いてやることで、クリームが革に浸透して……と言うけど、そこまでしないでもいいかな?
しっかり塗り込んでおいても、油性クリーム塗るときに溶剤で解けだしてしまうし。
無駄ではないけど、手間をかけるだけの価値はない?
そういうこと。実際に乾拭きせずに油性クリームを塗ってダメだったら、一作業追加するくらいのつもりでいいと思うよ。
分かりました。
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ぶつけない
……とまぁ、クリームを塗り込む話をしたんだけど、いくらクリームを塗っても次から次に傷が入ったらさすがに守りきれない。大事なのはそもそも傷を入れないことなんだ。
いくらボディアーマーを着てるからって、わざわざ銃弾がバンバン飛び交ってる中を歩くのはただのバカでしょ?まともな人なら弾の飛んでこないところを歩くの。それと同じ。
……なんとも分かりにくい喩えですね。
まず、圧倒的に傷が付きやすいつま先。まぁ、とにかくモノを蹴飛ばさないように気をつけることね。あと躓かないように。
みんなが集合すると、ちょっと動いた拍子に他人のつま先を踏んづけたり蹴飛ばしたりするから、そういうことがないようにも注意。とにかく足を動かすときは進行方向にモノがないかチェックすること。
黒靴と同じですね。
それから、かかとの内側。
これの原因は明白で、左右の足がぶつかってるの。「気を付け」の時にカツンと足を当たったり、歩くときに足の移動方向が内側に偏ってるせいで擦れたりしてる。
これはもう癖だから、気をつけて直すしかない。
確かに、気を付けの時って、カツンと音が出てる方が節度がついてるように見えるんですよね。
私もそうしてますけど、止めないといけないですね。
そして屈曲部。
これは歩いてるうちに勝手に擦れてしまうんだよなぁ。気がつくと灰色の横線が入ってしまうんだよね。
……言っておくが、それは使い方に問題があるからだ。
かく言う私も候補生の時は屈曲部の傷で2足ダメにしたもんだが、中級課程では毎日履いても傷は付かなかったぞ。
えー、それはすごい。なんでそんな差が出たんですか?
それはな。ひとえに候補生が走るからだ。
……あー。
遠見の言うとおり、あの灰色は顔料の剥げだ。爪先立ちするような強い曲げを加えれば、当然屈曲部の革同士が擦れ合って顔料層を削ることになる。
とにかく、走らないこと、そして踏ん張らないことだ。これを守っておけば、屈曲部もそんなには汚れん。
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私物にも頼ろう
いや、ちょっと待ってください。走るなって言っても、学校じゃ走らないことには何も始まらないんですよ。
いや、全くその通りだね……。
そしたら、傷が付くのは避けられないってことじゃないですか。
いや、本当に申し訳ないんだけど、その通りなんだよね……。
だからね、ボクは私物の白短靴を使うのもアリだと思うよ。
また私物ですか……。
官品の短靴なんて、何年かすれば定期交換で新しいのが来るから、そんなに後生大事に使うものでも無いんだけどさ。
幹部候補生学校に限って言えば、後々に被服点検があるからね。
基本的には定数が揃っているかを確認する儀式なんだけど、整備状況も一応チェックされるから、あんまり汚い靴を出すわけにもいかないんだ。
だから、この学生期間だけでも官品を温存しておいた方が楽じゃないかなと思うよ。
むむむ……。
……いいや!私物を買います!
で、傷が入ったらどんどん買い換えます!
決断が早い……!というか思い切りが良すぎる。
私はこの一年、銭にモノを言わせて、とことん楽するって決めたんです!今更ためらう必要はありませんでした。
お、おう…。
まぁ、お金は大切にね……?
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