この艦でよくここまでやる……!「あぶくま」型護衛艦 その1

護衛艦「あぶくま」。写真は海上自衛隊Webサイト(https://www.mod.go.jp/msdf/equipment/)から転載。

この記事では、「あぶくま」型護衛艦について、2回に分けて次の内容を説明します。

第1回

  • 就役当時は地方隊隷下の護衛艦だったが、組織改編により護衛艦隊へ移籍したこと。
  • 武器が少なく、艦隊唯一のノンシステム艦であること。
    • 「あさぎり」型に準じた武器体系を有しているが、短SAM・ヘリコプター・CDSを持たないが故に、戦闘能力は大幅に劣る。
  • 船体の小ささ故に、DDに比べると悪天候に弱いこと。
  • 人数の少なさ故に、一人あたりの業務量が多いこと。

第2回

  • CODOG艦であり、燃費の良さは随一であること。
  • 警戒監視のような任務で大活躍していること。
  • 意外にも居住性は結構良いこと。
水雷長 遠見1尉

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募集対象者 京井 未来

「あぶくま」型護衛艦……。これって、安いけどあんまり強くない奴でしたっけ?

水雷長 遠見1尉

ええい!口を慎め!!!
武器がたくさん載ってりゃ偉いってもんでもないぞ!!

目次

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「地方隊の艦」

水雷長 遠見1尉

「あぶくま」型護衛艦は、90年代初頭に6隻建造されたDEだよ。
就役当時は地方隊隷下の護衛艦だったけど、2008年の組織大改編で護衛艦隊に移籍したんだ。

募集対象者 京井 未来

えっと……、その地方隊とか、護衛艦隊って何ですか?

水雷長 遠見1尉

地方隊は、日本全国を5か所に分けて、地域防衛や基地運営を行う部隊だよ。それに対して護衛艦隊は日本の護衛艦全てを束ねる、全国区の部隊なんだ。

募集対象者 京井 未来

なんで、そんな風に分けてるんですか?

水雷長 遠見1尉

海軍種の特色なんだけど、艦は全国に散らばっているけど、いざ作戦をするときには、全国の艦が一つの大きな部隊として動くんだ。もちろん、その中に小さなグループがたくさんあって、別行動をすることもあるんだけど。
艦って動けるから「うちの艦は太平洋側しか守りません」なんて縦割りをやってたら、あちこちから艦をかき集めてきた敵に負けてしまうでしょ?だから、作戦をやるときには艦隊全体で連携して戦うんだ。
……というのが、自衛艦隊とその下の護衛艦隊の話。

募集対象者 京井 未来

全国から戦力を結集するんですね。

水雷長 遠見1尉

そう。でもだからといって、各地方の警備を完全に無くすわけにはいかない。そこで、各地域の責任者に小規模な戦力を与えて、最低限の防衛をさせてたんだ。これが地方隊の話。

水雷長 遠見1尉

で、2008年の組織改編で地方隊にいた護衛艦が護衛艦隊に吸い上げられたんだけど、メジャーな艦が所属する「護衛隊群」に属さずに、各地域に設けられた護衛艦隊直轄の「護衛隊」に所属するんだ。地方配備型という雰囲気が残っていて、「うちは地方隊の艦だから」「あっちの艦は艦隊の艦だから」という、縄張り意識が依然としてあるのが実情だよ。

募集対象者 京井 未来

しかし、なんでそんな組織改編をしたんです?

水雷長 遠見1尉

部隊運用能力を向上させるため、とか色々理由は付いてるけど、要は人手が足らなくなったからだよね……。部隊を一つの地域に専従させていられるほどの余裕がなくなってきたから、本来地域警備のために用意された兵力を他の地域のために使って、必要になったときだけその地域のために使うっていう。

募集対象者 京井 未来

なんか、先パイの話聞いてると、だいたいお金が無い話と、艦が無い話と、人が無い話ばっかりですね。

水雷長 遠見1尉

言うな!!!


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乏しい武装。艦隊唯一のノンシステム艦。

水雷長 遠見1尉

さて、気を取り直して装備を見ていこう。

「あぶくま」型護衛艦の武器(赤枠)とセンサー・指揮装置(青枠)
写真は海上自衛隊Webサイトから転載し、解説は筆者が追記した。
募集対象者 京井 未来

……あれ?付いてる武器は意外と「あさぎり」型と変わらない?

水雷長 遠見1尉

そう!艦首から76ミリ砲、アスロックランチャー、水上発射管、ハープーン、PHALANXと、だいたい揃ってるんだ。
シースパローとヘリコプターが無いくらいで「はつゆき」型や「あさぎり」型と遜色ないってワケ!!

募集対象者 京井 未来

……いや、対空ミサイルとヘリコプターが無いって、かなり大きな話じゃないですか?

水雷長 遠見1尉

バレた?

募集対象者 京井 未来

いや、だってこの前すごく協調してたじゃないですか。

水雷長 遠見1尉

いや、よくぞ気付いた!
そうなんだよね。防空能力で言えば、短SAMが無いから飛んでくるミサイルを撃ち落とすのは至難の業だね。76ミリ砲で撃ち落とすのはあんまり現実的ではないから、あとはPHALANXに祈るしかないかなぁ……。

水雷長 遠見1尉

ヘリコプターの重要性について覚えていたのも良いね!
艦はレーダーだけだと、良くて周囲40~50キロくらいの範囲でしか船舶を探知できないんだけど、ヘリコプターが見える範囲は軽く数倍、しかも高速移動できるから上手く使えば200キロ、300キロ先の艦を見つけることも難しくないんだ。

募集対象者 京井 未来

……あの、先パイ。まだなんか隠してますよね?

水雷長 遠見1尉

今日は妙に鋭いじゃない。
それじゃあね……。ボクが思う、最大の問題はCDSが無いことなんだ……。

募集対象者 京井 未来

この前「あさぎり」型の話で出てきた奴ですね。

水雷長 遠見1尉

うん。CDSはレーダーで探知した目標を自動的に表示したり、それに対する攻撃の指示を自動でやってくれるって言ったよね?あれが無いの。

募集対象者 京井 未来

えっと。無いとどうなるんですかね。

水雷長 遠見1尉

まず、探知した目標の情報が指揮官に届かない。図にならないからね。
だから、レーダー員が口頭で報告するか、紙に書き起こして渡すかしないといけないの。
しかも、目標は動くから方位や距離が刻々と変わっていくけど、そのアップデートも口頭や紙でしないといけない。

募集対象者 京井 未来

……だいぶ無理がありますね。

水雷長 遠見1尉

まあ、目標が一つしか無いような状況ならそれでもなんとかなるんだろうけどさ。
いくつか目標が出てきたら、もうどうにもならないね。
30マイル先にマッハ1で飛んでくるミサイルを探知できたとして、それが指揮官に伝わって、どれがその目標か認識されて、攻撃の指示が出て、砲がミサイルの方向に向いて……って言っても、今の状況だと3分でミサイルは着弾してしまうからね。

募集対象者 京井 未来

3分ですか。。。

水雷長 遠見1尉

そう、だからね。戦争の時に第一線には出しちゃいけない艦だよ。間違いなく。
別に「あぶくま」型が使えないって話をしてるんじゃなくて、使いようを考えないと、犬死にさせて終わりになってしまうってことね。


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小型艦の宿命。悪天候との戦い。

水雷長 遠見1尉

あと、良くないところは、何といっても悪天候に弱いことだね……。

募集対象者 京井 未来

よく小さな船はダメって聞くんですけど、そういうものですか?

水雷長 遠見1尉

概ねあってるよ。海が荒れて波が高くなると、船体の短い艦は船首が上を向いたり下を向いたり船体が海面にたたきつけられたりで、酷い目に遭うんだ。。。

波に対する船体の動きのイメージ。
左の船は船体が長いので大きく揺さぶられない。(ただし、ホギング・サギングによる船体疲労が生じる)
右の船は上り坂を駆け上がっては、下り坂で船首が一気に下がって海面にたたきつけられる(スラミング)。
この時、次の上り坂が来ていると、上甲板に水塊が流れ込んで装備を破損させることがある。
水雷長 遠見1尉

この場合の揺れはプラスGとマイナスGが交互に来るんだよね。
これは、もう間違いなく船酔いの原因。

募集対象者 京井 未来

どうにもならないんですか?

水雷長 遠見1尉

こればかりはね……。物理的な特性によるものだから。
そういうわけで、乗り物酔いに弱い人にはあんまり歓迎されません……。


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省人艦の宿命。兼任の多さ。

水雷長 遠見1尉

あと、一人あたりの業務量が多いってのは、否定できないね。

募集対象者 京井 未来

人数が少ないからですか。

水雷長 遠見1尉

うん。DDGやDDHの半分くらいの人で動かしてるからね。
大きな艦、武器の多い艦になるほどメンテナンスしないといけないものが増えるから、決して間違いでは無いんだけど、大きな艦だろうが小さな艦だろうが変わらない業務もあるんだよね。

募集対象者 京井 未来

例えば、どういう業務ですか?

水雷長 遠見1尉

たとえば、定期的な業務報告とかがそうだね。年に1回とか、四半期に1回とかのペースで、「●日間出港しました」とか「この訓練を●●回やりました」とか、そういう報告をやるんだけど、これは小さい艦だろうとやることは変わらない。
あとは、航海中、海図への記入をする人とか、レーダー画面を見張る人とかね。人数の多寡に拘わらず必ずその仕事は存在するから、1人1配置って割り当てが出来ない場合は、1人で2つの仕事を同時にやったりするんだ。
だから、小さい艦になるほど「●●係 兼 △△係」って兼任が増えていくんだよ。

募集対象者 京井 未来

うーん。それは面倒ですね……

水雷長 遠見1尉

これは悪いことばかりでも無いんだけどね。「あぶくま」型で働いていた人は、自ずと色んな仕事をやらないといけないから鍛えられるって側面があって。人数の多い艦で働いていた人は、ひたすら1つの仕事しかやってなかったりして、全体を監督する仕事を任せられなかったりする。

募集対象者 京井 未来

まあ、確かにそうかもしれません。。。


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まとめ

水雷長 遠見1尉

今日は湿っぽくなっちゃったね。ここでまとめておこうか。
まず、「あぶくま」型護衛艦はもともと地方隊に配備するために建造されたDEだということ。護衛艦隊に編成替えされた後も「地方隊の艦」という意識を引きずっているところがあって、独特の雰囲気があるよ。

募集対象者 京井 未来

その次は武器の話でした。
短SAMとヘリコプターとCDSを装備していないから、能力はかなり限られると。

水雷長 遠見1尉

あとは悪天候に弱いことと、一人あたりの業務量が多いことだね。

募集対象者 京井 未来

先パイ、大丈夫ですか?なんか疲れてません?

水雷長 遠見1尉

なんだろう。そんなつもりはないのに、思いっきりディスっちゃってない?これ?
後半はきちんとこの艦の良いところを紹介していくからね?

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 今回、フィリピンへの輸出話が出ましたが、永遠の後日装備になっているCDSとRAMを積めればそれなりに有力になるんでは?と。

    防衛装備移転の絡みで共同開発せねばならないという制約もあるし、旧軍が軽巡を重巡に化かしたように、有力なフリゲートに生まれ変わりできれば良いなと。

    自衛隊が何かを後日装備にする場合、艦側にはそのためのスペースや部屋は用意されているのが基本で、ましゅう型のCIWSとかも後からすぐつけられるらしい。

    あぶくまに見学に行った時、後日装備の話をしたら
    ・RAMの装備スペースの甲板は穴をコンクリ埋めにしてあるので、付けようと思えばすぐ可能
    ・管制室は士官居室に転用してる
    ・CDSもサーバーや筐体を置く部屋はあるが物置になってる
    とのことでした

    • ご意見ありがとうございます。

      今回の1件は、フィリピン側の意図が今ひとつ分かりかねる……というのが正直なところです。
      フィリピン海軍の保有艦艇は老朽化が進んでおり、艦齢30年超の「あぶくま」型ですら彼らからしてみれば新しい部類に入る……というのは分かるんですが、それにしても取得費用と得られる効果が釣り合わないのではないか、と思います。

      「あぶくま」型は今でも国有財産としては1隻数十億円の資産価値があり、これを大きく下回る価格で売却することは困難と思われます。そして、そのまま売却出来るかと言えばそんなことはありません。通信機材などは彼らの物に積み替えないといけないですし、航海機器や機関系統も日本特有のものばかりなので、何かしらの改造が必要でしょう。特に「あぶくま」型一番の売りであるディーゼルエンジンS12U-MTKは海保巡視船での採用実績こそあれ、近年はほとんど用いられていないため、部品の枯渇などが著しいと言われています。主機の換装なり、再生産なり、なにかしらの対策をしないわけにはいかないでしょう。というわけで、もともとの船体費用に、整備費用に装備品刷新費用などを加えれば、あっという間に200億、300億と値段がつり上がってしまうのです。初期費用は多少高くつくかもしれませんが「もがみ」型の新規取得の方がトータルコストでは安上がりではないか……という気がします。

      また、最近のCDSや武器のほとんどはCOTS化、OA化が進んでおり、かつての「あさぎり」型や「むらさめ」「たかなみ」型が積んでいたようなGOTS品を今から生産するのは難しいと思われます。艦内にサーバールームを設置してアレコレやろうとすると、空き区画の多い「あぶくま」型でも結構厳しいかもしれません。何しろ、精密化の進んだ(昔ほど抗たん性の高くない)機器を動かすにあたっては、区画自体を無塵化したり、供給する電力をより安定化させる必要があったりします。もちろん、そのあたりのリスクを承知でとりあえずコンピューターをドンと置くことも可能ですが、あまり良い結果にはならないのは明白です。

      それでも「あぶくま」型をと言うのには「なんでもいいから、とにかく早く欲しい、最悪武器は使えなくてもいい」という事情があるのか、はたまた輸出実績を求める日本に貸しを作らんとする政治的思惑があるのか。前者だとすれば、後日装備の実現などしている暇はないのかもしれません。

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