この記事では「あさぎり」型護衛艦を紹介するため、3回に分けて次の内容を説明します。
第1回
- 「あさぎり」型は、現存する最古のDDであり、その前級である「はつゆき」型護衛艦の改良型であること。
- 「はつゆき」型に引き続き「オールガスタービン」であるが、採用した主機や機械室の配置が改善され、整備・管理が容易になり、抗たん性が向上していること。
第2回
- 対空戦・対水上戦・対潜戦にバランス良く対応出来るよう、武器を装備していること。
- 本格的なCDSを装備しており、戦闘指揮が容易になっていること。
- CDSは、周囲の状況を自動で画面表示してくれること。
- CDSは、センサーや武器を繋いで、指揮官の指示した目標を間違いなく攻撃できるようにすること。
第3回
- 第2マストの存在が外観上大きな特徴となっているが、決して評判は良くないこと。
- 他の護衛艦に比べると造水能力が低く、真水不足に悩まされやすいこと。
- 近年はCOTSリフレッシュによって、戦闘システムの大幅な改善が図られたこと。
「はつゆき」型護衛艦の正統進化

護衛艦にもいろいろ世代があるから、一つ一つ紹介していくよ!
まずはコレ!


写真は海上自衛隊Webサイトから転載。



「あさぎり」型護衛艦、ですか。



そう、コレが現存する一番古いDDの「あさぎり」型護衛艦。
「はつゆき」型の発展型と言われていて、80年代末期から90年代初頭にかけて、8隻が建造されたんだ。



すごい、私より年上なんですね……。
で、その「はつゆき」型っていうのは何ですか?



「はつゆき」型は、70年代の終わりから80年代後半にかけて12隻建造されたDDで、「あさぎり」型の1世代前の艦だよ。一部は練習艦に転用されたりして長く使われていたんだけど、2021年に最後の艦が除籍(引退)して、今はもう1隻も使われていないんだ。


写真は海上自衛隊Webサイトから転載。(除籍時に公開終了)



それまでのDDは何かしらの機能に特化していて「汎用護衛艦」ではなかったんだけど、「はつゆき」がオールマイティな艦として登場して、「あさぎり」型がそれを発展させたことで、DDの汎用護衛艦としての方向性を決定的なものにしたんだ。



艦内の構造や装備品も、この次の「むらさめ」型で大きく変わったんだけど、「はつゆき」型と「あさぎり」型はそこまで大きく変わらなかったから「ゆききり」っていう俗称でひとまとめにされることが多いね。



なるほど。「はつゆき」型も「あさぎり」型も、最初期の汎用護衛艦ってことですね。



そういうこと!じゃあ「あさぎり」型の特徴を見ていこう!
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ひと味違う「オールガスタービン」
ガスタービンは小型・軽量・高出力



まずはオールガスタービンについて。



オールガス……えっと、何ですか?



オールガスタービン。これは、全ての主機がガスタービンエンジンで構成されていることを言うんだ。



ああ、エンジンの話ですか。ガスタービンって、物理の授業で聞いた覚えはあるんですが、なんでしたっけ?それにその「主機」って言うのはなんです?



ひとつずつ説明するね。
まず、主機っていうのは艦の機関(エンジン)の中で推進に使うもののことなんだ。主機でプロペラシャフトを回して、その先に付いてるプロペラを動かすことで、艦は前に進むのね。護衛艦にはプロペラシャフトが左右に1本ずつ、つまり2本付いていて、1本に2機の主機、合計4機の主機が装備されているんだ。
ちなみに、発電機とか水をくみ上げるポンプとか、主機ではない機関のことを補機って言うよ。メインの主機に対してサブの補機ってわけね。



ああ、私たちがエンジンと聞いて思い浮かべるのが、主機なんですね。



そういうこと。
で、ガスタービンっていうのはジェットエンジンみたいなエンジンで、回転する羽根で空気を取り込んで、燃料を燃やして、その燃焼ガスでタービンっていう風車を回すんだ。ジェットエンジンもガスタービンの一種で、燃焼ガスを後ろへ噴射することで推力を得るんだけど、船舶用のガスタービンは風車を回すことで力を取り出すんだ。



そうでした。ジェットエンジンの仕組みは物理の授業で習いましたね。



船舶用のエンジンって、普通はディーゼルエンジンを使うんだよね。燃費が良いから。
海上自衛隊の艦もこれまでは蒸気機関かディーゼルを使っていたんだけど、「はつゆき」型から4機ある主機を全てガスタービンにしたんだ。



ふーん。わざわざ燃費の悪いエンジンに変えたんですよね。
それってすごいことなんですか?



もちろん!ガスタービンエンジンの長所は、小型なのに高出力で回転数のアップダウンが簡単にできることなんだ。だから、単純に出せるスピードも速いし、スピードを変えたいと思ったときにすぐ変えられる。艦の運動性能が格段に上がったんだ!
他にも整備性の良さとか、自動化との相性の良さとか、色んなメリットがあるから、今どきの各国海軍の戦闘艦艇はだいたいガスタービンを採用しているよ。
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主機の機種統一



なるほど。燃費の良さより艦の運動性能を重視して、「はつゆき」型はエンジンをガスタービン化したんですね。



うん。でも「あさぎり」型のガスタービンはひと味違うんだ。
「はつゆき」型では低出力のガスタービンと高出力のガスタービンの2種類を装備して、スピードに応じてどちらかに切り替える方式を取っていたんだけど、「あさぎり」型では4機とも同じ種類のガスタービンを装備していて、普段は2機だけ、高速航行の時には4機とも回すっていう形になったんだ。
なお、軍艦の推進方式は次のように呼ばれます。
- COGOG(COmbined Gas-turbine Or Gas-turbine)
- 「はつゆき」型のように、高速用ガスタービンと巡航用ガスタービンを切り替えるもの
- COGAG(COmbined Gas-turbine And Gas-turbine)
- 「あさぎり」型のように、高速時に使用するガスタービンを増加するもの



切り替える方式から、どちらも使う方式に変わったんですね。



これはもともと、大型化して重くなった艦を2機だけで高速航行させられる機関がなかったから採用された方式なんだ。
でも、4機とも同じ種類になったおかげで、普段の低速航行時に使うエンジンを選べるようになったから、運転時数の管理や整備がとても楽になったんだ。



運転時数ってのは、どれぐらい使ったかってことですか?



そのとおり!ガスタービンは航空機で使われているだけあって「壊れる前に直す」っていう文化があって、起動回数や運転時間からエンジンにどれくらい負荷が掛かったかを計算し一定の基準を満たしたら、たとえ異状が無くても点検をしたり、部品の交換をしたりするんだ。
巡航用のガスタービンはコレって決められてしまうと、そればかり使い続けることになるんだけど、どれを使っても良いなら、整備の都合にあわせて好きな方を使えるんだね。



なるほど。選択肢があるって大事ですね。



でしょ~?それと「はつゆき」型の巡航用の主機はあんまり出力が高くなかったから、ちょっとスピードが必要になっただけでいちいち高速用の主機を起動しないといけなかったんだけど、「あさぎり」型のガスタービンはそれなりに高い出力のものを使っているから、よほどのことがなければ2機だけで十分なスピードを出せたんだ。
エンジンについて、似ているようで扱いやすさが全然違うのが「あさぎり」型の特徴なんだね。
「はつゆき」型は、巡航用としてRM1C「タイン」を2機、高速用としてTM3B「オリンパス」を2機装備していました。「あさぎり」型では、SM1A「スペイ」を4機装備しています。「スペイ」が1機あたり13,500psの出力を有するのに対して、「タイン」の出力は1機あたり約5,000ps(文献によりブレあり)しかありません。
一番重く響いたのが、複数艦が陣形を組んで戦術運動をしているとき。「はつゆき」型は「タイン」を使用していると、護衛艦隊が定める占位速力(陣形変換時に使用しなければならない速力)を出すことが出来なかったのです。従って、陣形を組む時には事前に「オリンパス」に切り替えないといけなかったのですが、航海指揮官がそれを失念して、戦術運動に応じられず叱責される……というのが定番の光景でした。(なお、同問題は「あぶくま」型護衛艦でも同様です。)
その点「あさぎり」型は、減機運転(2機のみでの運転)でもギリギリ占位速力を出すことが出来るので、エンジンについてそこまで神経質にならなくて良い。革命的な発明と言えるでしょう。
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パラレル配置からシフト配置への復帰



あと、細かいところで言うと、機械室のレイアウトが改善されたってのもあるかな?



機械室?何の機械ですか?



エンジンだと思って。船舶業界だとモノによって機関(Engine)って呼んだり、機械(Machinery)って呼んだりするんだ。
護衛艦の場合、船体の真ん中の低いところに主機や補機が集まっている「機械室」っていう大きな部屋があるよ。



で、護衛艦では機械室に被害を受けても全体に波及しないように、隔壁でいくつかの部屋に分かれているんだ。
「はつゆき」型護衛艦だと左右舷の主機を同じ機械室に配置する「パラレル配置」だったのを、「あさぎり」型では左右舷で機械室の配置を分離させる「シフト配置」にしたんだ。





うーん。分かるような、分からないような。
シフト配置だと何が良いんですか?



被害を受けた場合に、本来の能力を維持しやすいんだ。これを「抗たん性」が高いって言うよ。



それって「冗長性」のことですか?



近いんだけど、ちょっと違う。「抗たん性」は自衛隊の業界用語みたいなもんで、SurvivabilityとかResilienceなんて訳されることもあるね。
「冗長性」という言葉もシステム関係ではよく使われるよ。こっちはRedundancyで、予備系統があるから常用系統が呼称しても大丈夫っていうイメージ。
それに対して「抗たん性」は敵の攻撃による物理的破壊が前提にあって、それでも動けるように「予備系統を持っておく」「予備を物理的に離しておく」「遠隔操作が死んだとき用に機器本体にもコントローラを付ける」という対策を取るね。結果として似たような概念ではあるけど。



分かったような、分からないような。
まぁ、信頼性を向上させるための考え方なんですね。



そう。
話を戻すと、護衛艦はもともとシフト配置だったんだけど、「はつゆき」型は小さな船体でなんとかやりくりしようとしたから、妥協してパラレル配置にしたんだ。
でも、これだと、どこかの機械室(特に第2)が被害を受ければ、左右両方の主機や減速装置(主機と主軸の回転数差を吸収する歯車装置)がやられて、航行不能に陥ってしまう可能性が高いんだ。



海のど真ん中で身動き取れなくなるのはご勘弁願いたいですね……



そこで、「あさぎり」型ではシフト配置に戻したの。
これだとスペースがいるんだけど、左右の系統が独立した配置になってるし、第1・第2機械室の間に補機室が挟まっていることもあって、一気に左右両方がダメになるってことがなくなったんだ。



なるほど。
……しかしですよ。この配置でも、第2機械室で被害が出たら左軸が通ってるワケですから、やっぱりダメじゃないんですか?



そこに気付くとは、やはり秀才。
まあ、ダメなときはダメなんだよね。とは言え、軸は回ってさえいれば良いけど、主機や減速装置は関連装置を含む複雑な機構が全て動いていないといけないからね。第2機械室の被害が左軸系に影響を与える可能性は否定できないけど、パラレル配置よりは遥かにマシなんだ。
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まとめ



じゃあ、このあたりで1回まとめよう。
「あさぎり」型護衛艦は現在運用されている中で最も古い護衛艦で、その前の「はつゆき」型護衛艦の発展型として作られたんだ。



今回話した特徴は、「はつゆき」型に引き続いて採用された「オールガスタービン」でしたね。4機の主機が全てガスタービンになっています。



で、オールガスタービンという点では型と同じだけど、「はつゆき」型が高速/巡航の2機種を切り替える方式を採用していたのに対して、「あさぎり」型は4機とも全て同じ機種に統一して、高速時に4機とも運転する方式にしてあるんだ。管理も容易になったし、2機だけで十分な速力が出るようになったよ。
それから、機械室のレイアウトが「パラレル配置」から「シフト配置」に改められたことで、抗たん性が向上したよ。



次回は、いよいよ武器の話をしていくので、お楽しみに。
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コメント
コメント一覧 (2件)
過去いろいろな自衛隊解説Webサイト見てきましたが、ここがベストオブベストですね。
わかりやすく的確で誤りもないです。
ご感想下さいまして、ありがとうございます!
お褒めに与り、大変光栄に感じております。
これからも、読者のみなさまのお役に立てる記事作成を心掛けますので、ご愛読をよろしくお願い致します!