この記事では、海上自衛隊幹部候補生学校の幹事付について、2回に分けて次の内容を説明します。
第1回
- 幹事付は、学生隊幹事をサポートするスタッフ。
- 学生隊幹事は、学生隊本部のとりまとめ役であり、学生の生活指導について一義的な責任を持つ。
- 通常、幹事付は2名が配置され、先任順に幹事付A、幹事付Bと呼ばれる。
- 幹事付は候補生の生活指導に最も存在感を示す存在
- 学生隊長や学生隊幹事の指導方針を受けて、候補生の一挙手一投足を常に監視し、容赦なく指導する。
- 「台風」を起こすのも幹事付の仕事
- かつては暴力的指導を日常的にしていたが、近年は指導方針の変更により暴力や懲罰的訓練を行わなくなった。
- ただし、候補生にとって最もストレスのかかる存在であることには変わりない。
- 近年の幹事付は理詰めで学生の逃げ道を塞ぎ、手間の掛かる書類作成などをせざるを得ない状況に追い込むことが多い。
- 多大なストレスを掛けることに賛否はあるが、最低限必要なストレス耐性の無い者をふるいにかける意義から、現在も運用されている。
第2回
- 幹事付は、艦艇系列A幹で、部隊勤務3年目の者のうち、1課程・2課程でそれぞれ最も序列の高い者が選出される。
- 遙かに年上となる幹部予定者にも容赦なく指導することを求められ、彼ら自身、将来の将官としての資質を鍛えることになる。
- 彼らは単に優秀なだけでなく人格者でもあることがほとんどで、さんざん煮え湯を飲まされた候補生たちからも最終的には慕われることが多い。
- 毎年1月になると、1名が転出し、2名が着任する。
- 新しく着任した2名は幹事付C、Dと呼ばれ、4月以降は次のA、Bになる。
- 1月に転出した1名は練習艦隊司令部の教育幕僚となり、引き続き遠洋練習航海での実習幹部の引き締め役を担う。
幹事付の正体
4期上の先輩(ただしクラスヘッド)
しかし、幹事付ってのは凄いヤツですね。一体どんな人が選ばれるんです?
それがね、4期上のA幹なんだ。
えっ
艦艇系列のA幹が、スリーローテーションの3番目の代わりに幹事付に選ばれているの。艦艇の1課程出身者・2課程出身者の中でそれぞれ一番序列の高い人が選ばれて、送られてきているんだ。
あ、そうなんですか。てっきり鬼軍曹なのだと……。
ね、そう思うよね。
海曹の教官にビシバシやられて、「あのやろう、任官したらただじゃおかねぇ」って皆で呻きながら頑張って、卒業するときに階級が逆転するんだ。お別れを言うとき泣きながら教官にSirって呼びかけて「私はもうSirではありません、Sir」って返されるんだ。
ボクも入隊前はそんな風に思ってたよ。
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ザックを演じたのは若き日のリチャード。ギア。
売りは町工場で働く女性とのロマンスであったが、ザックが訓練教官フォーリィと真正面からぶつかり合い、認められていく姿が好評を博し、フォーリィ役のルイス・ゴセット・ジュニアはアカデミー助演男優賞を受賞した。
ところがどっこい、相手は自分の4期上の先輩。卒業してもやっぱり向こうの方が上だし、なんだったら向こうの方が圧倒的に昇任が早いからどんどん置いていかれてる。
……まぁ、そんなもんですよね。
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試される幹事付
しかし、部隊勤務3年目の人ってどんな感じですか?まだまだ若くありません?
まさにそれ。彼らの凄いところは、まだまだ同期が先輩に頼り切りになっている中、既に独り立ちしているところにある。
朝は5時過ぎから夜は20時過ぎまで1日14~15時間勤務をこなし、諸規則を完璧に頭に叩き込み、学校中を練り歩いては不備事項を探しまくる。すれ違う候補生たちから敬礼される度に決して答礼を欠かすこと無く、声を出すタイミングでは必ずドスのきいた大声を張り上げる……
体力的にも精神的にも、とてつもない負担だね。
常人には出来ませんね……
それに、A幹の候補生相手ならいざ知らず、B幹の候補生やC幹の幹部予定者ともなると、年上の相手ばかりになる。初任幹部の頃に手取り足取り教えてくれていた海曹が来ていることも珍しくないけど、厳しい態度を取りづらい相手でも公平に職務を遂行しないといけないんだ。
本当にやりづらいですね。
さっき言ったように、幹事付はA幹のトップクラスの人間がやって来ている。彼らは服務事故をやらかしたり、よほど低い成績をとったりしない限り、将官になることがほぼ確定している。将来の海上幕僚長や自衛艦隊司令官になる人間に、その資質を鍛える機会を与えているとも言えるんだ。
偉い人も大変なんですねぇ……
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卒業後も続く敬意
幹事付は、一概には言えないけど、人格的にも優れた人間が多いよ。
序列が上の方の幹部には、周囲を蹴落として上に登り詰めようとする独善的な人も少なくないけど、やっぱり周囲から感謝されないような人が一番上にまでたどり着くのは難しい。
周囲の信頼と応援を勝ち取れるような人が、幹事付になるんだ。
出世競争なのに、そんな感じなんですか。ちょっと意外です。
ボクのクラスヘッド――同期で1番になった人だけど、その人も素晴らしい人だったよ。こういう人が自分の上司だったらいいのにって、心の底から思えるくらい。他の同期と話していても「その人を支えないといけないな」っていう話になることが多いんだ。
そんなトップオブトップ、幹事付は幹部候補生からも慕われていることが多い。
毎日毎日、くどくど指導されているのに。。。
やられているときは……まぁね?
でも、卒業が近づくと幹事付の心情も分かってくるようになるし、自分たちでは到底辿り着けないほどの高みにいることも分かってくる。共に過ごしたことを誇れるようになってくるんだ。
念のために言っておくと、幹事付の全員が人格的に優れている人、というわけではありません。残念ながら、そうでない者も時々現れます。私が聞いた話では、幹事付を終えた後に警察に逮捕されるようなことをやらかして、出世コースから完全に外れた者もいるようです。
ただ、幹部である私の友人はほとんどの方が、自分の期の幹事付に対して好印象を抱いているようです。
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幹事付を終えて
そんな幹事付だけど、毎年1月になると1人が転出する。
あら、それはなによりですね。
残念!その代わり入れ替わりで2人が新しく着任するんだ!
えぇ……
この2人は、幹事付C、Dと呼ばれる。要は3人目、4人目の幹事付ってこと。彼らは次の年度の幹事付として、1月から3月までの間に幹事付業務を段階的に引き継いでいくんだ。そして年度が変わるとき、残った1名の幹事付が転出、CとDは新しいAとBになるんだ。
転出した幹事付はどうなるんです?
まず、1月に転出した幹事付は、練習艦隊司令部に異動して「教育幕僚」という配置に就くよ。教育幕僚は実習幹部の教育に関して計画を作成したりするんだけど、それと同時に実習幹部の引き締め役になる。
遠洋練習航海は何しろ長いから、例年中盤から中だるみが始まるんだ。そういう時に、教育幕僚が実習幹部の前に姿を現すことで、気を引き締めるきっかけを作るんだ。
卒業しても、幹事付からは逃れられないんですね……。
そうは言っても、候補生学校の時みたいにガミガミ怒鳴ったりはしないからね。そうやって少しずつ、お互いの関係を正常な形に戻していくんだ。
もう一人の幹事付はどうなるんです?
艦に戻るよ。スリーローテーションを終わらせていないからね。ボクの知る限り、ほとんどの人は1、2年目で砲雷科・船務科を終わらせているから、転出後は機関科の応急長になるようだね。
これは教育幕僚になった人も同じ。帰国後、引き継ぎ期間を経て艦艇の応急長になっている人がほとんどだね。
幹事付と言えど、幹部候補生学校を出たらただの幹部。必要以上に細かく他人の粗を探す習慣をそのまま部隊に持っていくとトラブルの原因になるから、良い塩梅にするのに苦労している人が多いみたい。それもまた、幹事付に課せられた試練の一つなんだろうね。
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それにしても、先パイは随分幹事付に心酔されているんですね。
そりゃそうだよ。幹事付は毎期2人いるけど、自分の期の幹事付はやっぱり特別。人事発令で名前を見る度に行き先を気にするし、順調に出世しているのを見て、誇らしく思うんだ。
……まぁ、ウチの部屋の中でもボクのベッドだけは毎朝飛ばしてくれたこと、忘れちゃいないけどな!!
部屋で一番汚かったのでは……?
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