この記事では、護衛艦のパートについて次の内容を説明します。
- 「射管」は射撃指揮装置の操作・整備を行うパート
- 射撃指揮装置(FCS)は、目標を捕捉し射撃計算して、砲やミサイルを遠隔操作する装置
- 艦種によって機器に大きな差があり、パート名や業務内容も多彩。
- 射管員は、対空戦・対水上戦において「狙いを定めて武器を発射する」最も責任重大なポジション
- 電波や機器の特性を理解して、状況に応じた機器設定を行う必要があり、高い知能レベルを要求される。
- 特に近年のFCSは、コンピューターのメンテナンスを行う必要性が増しており、コンピューターやネットワークに関する素養も必要。
- 瞬間的に極端なストレスがかかるため、メンタルの強さも重要。
- 訓練射撃に際しては、標的の曳航作業を主導する必要もあるため、運用作業の能力も必要。
- 普段の出港では、若手(概ね3曹まで)の頃は艦橋ワッチに立つが、中堅~上級海曹になるとCIC・管制室ワッチに移行する。
- 射撃指揮装置(FCS)は、目標を捕捉し射撃計算して、砲やミサイルを遠隔操作する装置
頭脳も、度胸も、体力も。
続いて紹介するのは「射管」です。
「射撃」の時に言っていた、実際に引き金を引く人のことですね。
ええ。「射管」とは「射撃管制」のこと。射管員は「射撃指揮装置」の操作や整備を行います。
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FCSの操作と整備
射撃指揮装置は英語でFCS(Fire Control System)と言います。
発射をコントロールするシステムってことですか。
ええ、FCSはレーダーとコンピューターで構成されています。
うちの艦の場合、艦橋の上にある皿のような装置、あれがFCSのレーダーです。伝統的に「方位盤」と呼ばれます。
攻撃したい目標を、このレーダーを使って捕捉します。
具体的には、指向性の高い電波を高頻度に照射することで、普通のレーダーでは出来ないくらい精密に目標を追尾するんです。
なるほど、このレーダーが向いている方向に大砲を向ければ当てられるんですね。
ええ。もっと正確に言うと、砲が向くのは目標の未来位置の方向ですね。捕捉している目標の方位・距離と自艦の運動情報を使って、目標がどういう運動をしているのかを解析すれば、どの方向に砲を向ければ弾が当たるか分かりますから。これを射撃計算と言います。
そして、射撃計算の結果を元に、砲やミサイルを遠隔操作します。
この一連の動作をやるのがFCSの役割であり、FCSを操作・整備するのが射管員なんです。
なるほど~
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艦によって違うFCS
ちなみに、FCSは艦種によって装備されているものが全然違うから、パートの名前や業務内容も艦によってバラバラなんだ。
- 「たかなみ」型までのDD
- 砲もミサイルも同じFCSで管制する。
- 「あきづき」型以降のDD
- 砲もミサイルも同じFCSで管制する。
- FCSが多機能化したため、射撃管制だけでなく、通常の対空レーダーとしても使われるように。
- DDG
- 「はたかぜ」型(練習艦に転換済)
- 「GFCS(砲)」と「MFCS(ミサイル)」が存在
- 「こんごう」型
- 「GFCS(砲)」と「FCS/ORTS」が存在
- FCSはミサイルを誘導するが、その挙動は通常のFCSと全く異なる。
- FCS/ORTS員の役割は他クラスのFCS員とは全く異なる。
- 「GFCS(砲)」と「FCS/ORTS」が存在
- 「あたご」型・「まや」型
- 「GCS(砲)」と「FCS」が存在
- 「こんごう」型と異なり、砲の射撃指揮装置にアンテナが無い(SPY-1レーダーで代用する)
- 「FCS」の役割が異なるのは「こんごう」型と同様
- 「GCS(砲)」と「FCS」が存在
- 「はたかぜ」型(練習艦に転換済)
な、なんだ……これは……
そもそもパート名がまちまちなのが良くない。
パート名は胸の名札に書いてあるんだけど、同じ艦でも「射管」って書いてある人もいれば「FCS」って書いてある人もいるんだ。
初任幹部の頃なんて、同じパートだとは分からなくて、情報伝達にどれだけ苦労したことか……
水雷長、余計なことは言わんでいい。
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最も責任重大なオペレーター
射管員は、レーダーを操作したり、発射ボタンを押したりするってことですよね。射撃員に比べると随分業務の負担が軽そうに見えますが……
とんでもない!
射管員は砲雷科の中でも屈指の激務なポジションです。
いや、水測員だって大変じゃない?
射管員の何が大変かと言えば、責任の重さです。
対空戦と対水上戦、つまり飛んできたミサイルを迎撃するときや、至近距離で敵艦と撃ち合いになったようなときに、「敵に狙いを定めて武器を発射する」ことから、海曹の中では最も責任重大なオペレーターとなります。
それは……その人が失敗したら、敵を倒せないからってことですか。
ええ。そのとおりです。もっと言うと、敵を倒せないばかりか自艦が沈む。そういう重さです。
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電波や機器特性への理解
FCSにとって命となるのは電波です。受信した電波から反射波を検出できて、初めて武器を敵に向けることが出来るからです。
しかし、敵は当然撃たれたくないわけですから、ミサイルのステルス性を上げるとか、海面スレスレを飛ぶとか、一緒に電波妨害を仕掛けるとか、そういう策を打ってきます。
なるほど、探知できなければ攻撃できないですね。
そういう状況でも探知できるような機能はあります。でも、状況によってどの機能を使うべきかは全く異なりますから、人間が判断しなければなりません。
ですから、射管員は電波や機器の特性を理解して、適切な機器設定を行います。なので高い知能レベルが必要になるのです。
くくく……。これ、自画自賛だからね。副長は射管員出身だから。
水雷長。余計なことは言わんでよろしい。
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コンピューターの素養
もう一つ付け加えておくと、最近のFCSはコンピューターやネットワークに強い人が必要なんだ。
お?
昔からコンピューターは使ってたんだけど、最近のFCSは民生技術の活用(COTS化)とソフトウェア化が進んでいて、どんどん性能向上してきている反面、繊細なメンテナンスが必要になってきているんだ。
それは良いことを聞きました。
副長、未来は大学で情報工学を専攻してるんですよ。
それはなによりです。優秀なシステムエンジニアは一人でも多い方がいいですからね。是非、射管員を希望してください。
そもそも入隊するなんて一言も言ってないんだけどなぁ……
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ストレス耐性
射管員のすごい所と言ったら、ボクはストレス耐性だと思う。
メンタルの強さですか。
うん。対空戦が顕著なんだけど、瞬間的に、複雑な操作をミスなくやらないと皆が死ぬんだ。
今どきの対艦ミサイルはだいたい超音速で海面スレスレを飛んでくるんだけど、探知してから着弾するまでに1分しかない、なんてことは珍しくないんだよ。そんなミサイルが何発も飛んでくるんだから、実際に1発のミサイルに使える時間なんて数秒か、せいぜい10秒くらいしかないワケ。この短時間で武器の割り当てや発射操作を間違えずにするのは、ボクにはとてもじゃないけど出来ないよ。
瞬間的にとんでもないストレスが掛かる中で、正確な作業が必要になるんですね。
運用作業能力
しかし、武器を取り回すだけが射管員の役割ではないぞ。
例えば水上標的を曳航する場合は曳航作業を主導するのは射管員だ。
そうなんですよね……。システムのオペレーターやメンテだけやってればいいってワケでもないのが辛いところです。
いいですか?こういう曳航作業をやる場合、重量物やロープの取り扱いに習熟していないと話になりません。これを海自では「運用作業」と呼んでいます。射管員はオペレーターとしての性格が強調されがちですが、運用作業ができない射管員は優秀とは言えないのです。
うーん。何でも出来ないといけないんですね……。
読者の方から「標的の曳航作業を主導するのは運用員だ」との意見を戴きました。艦の態勢(練度や充足状況)などによるところが大きいので、絶対というものではないのですが、筆者の知る限り、多くの艦では射管員が曳航作業を主導していると認識しています。
対水上訓練射撃においてよく用いられる水上標的は、マストやレーダーリフレクターの取付けに始まり、デリック(クレーンの一種)を用いての投入、曳航索長の調整などを経て、訓練射撃に使用可能な状態に移行します。標的が艦から離れているときの作業(曳航索長の調整や標的授受など)は運用員長が主導することがほとんどですが、標的が艦のすぐそばにあるとき(組み立て・投入・揚収・分解)の作業は標的を管理する射管員長が主導するのが一般的なのです。
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艦橋ワッチとCIC・管制室ワッチ
階級によってワッチが変わるのは射撃員とそんなに変わりないよ。
若い頃は艦橋で見張りや操舵員をやって、中級海曹から上級海曹になると管制室のワッチになるんだ。射撃員と違うのは、ここでCICのワッチも入ってくることだね。CICには射管員がFCSを動かすためのコンソールがあるんだけど、とっさの戦闘に備えて普段から配置されるんだ。
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