この記事では、護衛艦のパートについて次の内容を説明します。
- 「Phalanx」は高性能20ミリ機関砲の操作・整備を行うパート。
- 高性能20ミリ機関砲 Phalanxは、至近距離でのミサイルの迎撃を自動で行うシステム。
- 対空戦における縦深防御の最後の迎撃手段
- もともと武器のカテゴリ名である「CIWS」で呼ばれていたが、CIWSの一種であるSeaRAMが導入されたことで、区別するためPhalanxと呼ばれるようになった。
- 対艦ミサイル防御装置 SeaRAMは、Phalanxの機関砲を小型ミサイルに換装した新型CIWS。対艦ミサイルの迎撃能力が向上したとされる。
- 全自動ゆえの難しさを抱える。
- システムが複雑で故障しやすい。メンテナンスの手間がかかる一方で、人数が少ないので楽な仕事では無い。
- 設定を誤ると誤射に繋がるので、慎重さを求められる。
- Phalanx員は射管員の派生型。
- パートとしては独立しているが、射管員として人事管理されている者から配置される。
- 若手の頃は、FCSとPhalanxを行き来することもある。
- 中堅海曹になると、専門教育を受けてPhalanxのスペシャリストとして艦を渡り歩くことになる。
- ほとんどの護衛艦に装備されているので、異動先には困らない。
- 近年はPhalanxに加えてSeaRAMの専門教育を受ける者もいる。
- パートとしては独立しているが、射管員として人事管理されている者から配置される。
- 高性能20ミリ機関砲 Phalanxは、至近距離でのミサイルの迎撃を自動で行うシステム。
縦深防御、最後の砦
次はこちら、高性能20ミリ機関砲 Phalanxです。ミサイルが飛んできたとき、至近距離での迎撃を自動で行います。使っているマシンガンは戦闘機が装備している「バルカン」を転用したものです。
ガンダムの頭のやつか……
(※違います
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CIWSは迎撃の最終手段
わ~すごい。この白いところに弾が詰まってるんですか?
いえ、この白い部分にはレーダーが入っています。
普通、砲やミサイルは艦に付いているFCSで狙って発砲操作をしますが、Phalanxには独立したFCSがついているので、自動で捜索して、決められた範囲に目標が侵入すると、自動で発砲してくれるんです。
どうして、これだけそうなってるんですか?
Phalanxはミサイル迎撃を行う最後の手段だからですね。
対空戦は水平線の遥か彼方から攻撃され、それでいて時間的猶予が無いのが特徴です。そのため、最適な射程距離が異なる武器を何種類も駆使して、遠距離から迎撃を試みるのです。この考え方を縦深防御(Defense in Depth)と呼びます。
あ、コンピューターの世界でもDefense in Depthは使いますね。多層防御とか言いますけど。……そういうことか。何層も防衛線があって、どこかでシャットアウトできることを期待するんですね。
ええ。射程の長いものから、イージス艦のスタンダードミサイル、各艦の短SAM、主砲と何度も迎撃を試みます。米軍ではその外側に戦闘機による迎撃なんてのも加わります。
それでもなお撃墜できなかった対艦ミサイルを最終的に迎撃するシステム、それがPhalanxなのです。
そのような状況では、次から次に押し寄せる大量のミサイルのせいで、FCSやそのオペレーターの処理能力が飽和していることも十分あり得ます。それでも確実に迎撃するために、敢えて本来のFCSと切り離して自動化されているのです。
確かに。1つのシステムで全てをやっていたら、そのシステムがダウンした瞬間に何も出来なくなりますもんね。最後の砦だけは独立させているわけですね。
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CIWS?PHALANX?
ちなみに、海上自衛隊では高性能20ミリ機関砲のことを以前はCIWS(Close-In Weapon System)と呼んでいたよ。CIWSは至近距離で迎撃を行う武器のカテゴリ名だったんだけど、海上自衛隊が持っているCIWSはPhalanxしか無かったから敢えて名前で呼ぶ必要が無かったんだ。
家にWin機とMacがあったら呼び分けるけど、一つしか無かったら「パソコン」って呼ぶでしょ?
え?先パイ、パソコンに名前つけてないんですか……?
……そういえば、入隊前は名前で呼んでいたなぁ……。
おかしいな、いつの間にかパソコンをただの道具としか思えなくなってしまった……。
何の話してるんだ、コイツら……
気を取り直して。
そういうわけで、かつてはこの武器自体CIWSと呼ばれていたし、パートの名前も「CIWS」だったんだけど、今は「Phalanx」というパート名に変わったんだ。
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SeaRAM
そして、これが新しいCIWS、対艦ミサイル防御装置 SeaRAMだよ。
「いずも」型DDHと「もがみ」型FFMが装備してる。
下のマシンガンが変わりましたね。これは……ミサイルですか?
うん。それもかなり小型の対空ミサイル。
SeaRAMはPhalanxの機関砲部分をRAMというミサイルに換装したものなんだ。さすがに中のソフトウェアは大きく違うと思うけど、ハードウェアだけで言えば大部分のパーツがPhalanxと同一だと聞いたことがある。
これは改良……なんですか?
射程距離が伸びたとか、シースキマーミサイルへの迎撃能力が向上したと、よく言われるね。ただ、一概に上位互換かと言えば必ずしもそうではないとも聞くよ。米海軍もPhalanxとSeaRAMを両方装備する艦があるから、それぞれ長所が違うんじゃ無いかな?
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全自動、だから楽!ってワケではない。
しかし……全自動でやってくれるんですか。
別に楽な仕事ではないよ?
先パイ、私が楽な仕事を探して回っているかのような物言いはやめてもらって良いですか?
まぁ、否定はしませんが……。
Phalanxの大変なところ。まず、システムが複雑で故障しやすい。
米軍は「高い信頼性を誇る」なんて言ってるけど、普通のFCSの比ではなく壊れる。
具体的な故障率は知らないから感覚的なものでしかないけど、護衛艦の武器故障の報告を見るときは「またPhalanxかな?」って思って見ると、やっぱりPhalanxだったってことが多い。
そういうわけで、メンテナンスは結構手間が掛かるんだけど、その一方でPhalanx員は人数が少ないんだ。艦の型によるけど、一つの艦に5、6人もいたら多い方。「あぶくま」型DEにもなると1、2人でなんとか稼働させてるって艦も少なくないよ。
ワンオペですか……。
それでいて、全自動ゆえに設定を慎重にしないと、味方の航空機に誤射する可能性もある。普通の武器なら人間のオペレーターが目標指示や発射操作をするから絶対撃たないような状況でも、Phalanxは条件さえ満たせば発砲してしまうから……。
いつでも発砲可能状態にしておけばいいってものではなくて、その時その時でどこまでシステムに許可するのかを細かく面倒見てやらないといけないんだ。
確かに、気がついたら味方を撃ち落としていました、では洒落にならないですね……
あと、広報にも駆り出されがち。
最近の艦はVLSが導入されたおかげで、見栄えするランチャーが無くなっちゃったからね。お客さんの前でグリングリン動かせるのは強いよね。これを負担と感じるかは人による。
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射管員の派生型
Phalanx員は、射管員に非常に近い存在なんだ。詳しくはまた説明するけど、「特技職」という経歴管理の制度があって、射管員は主にパート「射管」で勤務させるための特技職「射管員」なの。で、Phalanx員に配置される人も、同じく特技職「射管員」なんだ。
……?
水雷長、今の話では誰も分からんぞ。
……つまり、Phalanx員は本来射管員に配置されるべき者の中から選ばれる、射管の派生型ということです。
なるほど、そういうことでしたか。
分かりにくくては申し訳ないね。
ある程度経験を積んでくるとPhalanxの専門家として扱われるんだけど、若いうちは行った先の艦の人員充足状況に応じて普通のFCSに配置されることもあるんだ。業務内容が結構違うから、あまりやらないけど……。
人によっては若手の頃はFCSと射管を往き来することもあるってことですね。
かなり昔、それこそPhalanxが海上自衛隊に導入されたばかりの頃は、射撃員からでもなれたらしいよ。
ただ、Phalanxのキモは鉄砲よりレーダーやFCSだから、それを扱う素養が無いとダメってことで、今は射管員からしかなれない。
3曹から2曹くらいになると、学校でPhalanxの専門教育を受けるよ。そこまでやった人はスペシャリストとしてPhalanx員長とか、その次席として艦を渡り歩くことになるよ。どこの艦も貴重な専門家を普通のFCSに配置するほど人は余ってないからね。
ついでに言うと、Phalanxはほぼ全ての護衛艦が装備しているから引く手あまた。異動先に困ることはないよ。
さっき言ってたSeaRAMはどうなるんです?
これも、専門教育があるよ。今はPhalanxの教育を受けた学生の一部が追加で受けてるようだね。
ただ、まだまだ装備艦が少ないからなり手も少なくて困ってるみたい。
……?
……要するに、SeaRAMの専門家になってしまうと、FFM以外の艦には乗せてもらえなくなるだろうって、教育を忌避してる人が多いんだ。FFMは一人あたりの業務負担が大きいから。
水雷長!余計なことを言わんでよろしい!
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