この記事では、護衛艦のパートについて次の内容を説明します。
- 「SSM」は艦対艦ミサイル発射装置の操作・整備を行うパート
- SSMは護衛艦が敵水上艦艇を撃破しうる実質唯一の手段
- 海上自衛隊では、ハープーン(米国製)と、SSM-1B・SSM-2(国産)の3種類が使用されている。
- 業務負担自体はあまり重くないが、人数が少ない。
- 他の武器と異なり可動部がほぼなく、めったに故障しない。
- ミサイルキャニスター自体にランチャーとしての機能があり、SSM員が操作・整備するのは実質的に、ミサイルに調定・発射信号を送る指揮装置のみ。
- SSM員は1、2人程度しかいないため、SSM員が必要になる状況になると当直に関係なく対応せざるを得なくなる。
- 最近の護衛艦はシミュレーション上でのSSM発射訓練を盛んにするようになったため、配置に就く頻度が高くなってきている。
- 影が薄く、実際の業務負担の軽さ以上に評価されない傾向がある。
- 他の武器と異なり可動部がほぼなく、めったに故障しない。
- PHALANX員と同様、射管員の発展型
- 射撃員からもなれるが、数は少ない。
- 近く導入されるトマホークの操作も所掌する可能性がある。
- トマホーク自体はVLSに格納されるが、調定・発射のために新たな指揮装置を搭載する必要があるため。
- トマホーク用指揮装置はハープーン用指揮装置に類似したもので、ミサイルの役割もSSMに近いため、SSM員が担当すると思われる。
- トマホーク自体はVLSに格納されるが、調定・発射のために新たな指揮装置を搭載する必要があるため。
1分隊の日陰者……。
射管の系列を紹介しましたから、こちらも説明しましょう。
「SSM」は艦対艦ミサイル発射装置の操作・整備を行うパートです。
この筒の中に対艦ミサイルが入ってるんですか。
大きいですね~。
唯一の攻撃手段
SSMは護衛艦が保有している武器の中で、敵水上艦艇を撃破しうる、実質唯一の手段と言って差し支えないでしょう。
主砲や魚雷ではダメなんですか?
ええ、どちらも射程が短すぎます。砲や魚雷は水平線の内側でしか使えない武器ですが、SSMは水平線の遥か彼方まで攻撃できます。本艦が保有しているSSM-1Bですと軽く100km以上は飛翔しますよ。
……そういえば、以前先パイにも同じようなこと言われましたね。
思い出した?
もともと目の前にいた状態で開戦というならともかく、戦争状態になった後は艦同士の有視界戦闘はまず起きない。航空機を使って先制探知して、水平線の遥か彼方から対艦ミサイルを何十発も叩き込むのが現代の海戦だよ。
対水上戦は唯一こちらが攻勢に出た場合にのみ発生する戦闘です。その点でもSSMは特異な武器と言えるでしょう。
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対艦ミサイルは3種類
海上自衛隊が運用しているSSMは3種類あるよ。ひとつはハープーンという米国製のミサイル、残りは国産で、ひとつはSSM-1B、もうひとつがSSM-2だよ。
その3種類は何が違うんですか?
ハープーンはアメリカが販売しているだけあって実績が豊富なのがいいところだね。
一方の国産ミサイルは、カタログスペック上射程距離で大きく勝っているよ。ただ、実射試験も数えるくらいしかしたこと無いし、カタログに載っからない部分、例えば実際の命中率なんかがハープーンより優れているかは正直分からないね。
米海軍が保有するハープーンですが、最大の弱点は射程距離の短さです。中国やロシアの艦艇が保有するミサイルはハープーンの2倍以上の射程があるものも珍しくなく、日米・中露の駆逐艦同士が正面からぶつかり合えば、アウトレンジされてしまいます。
何故米海軍がこの状況を看過しているかと言えば、彼らには空母とその艦載機があるからに他なりません。つまり、わざわざ補給の難しいSSMを使うくらいなら、敵の索敵圏外からストライクパッケージを何度もぶつけた方が効率的で、どうしても艦のミサイルが必要なときはトマホークを使えばいい。という考えなのです。
ただ、米軍はそれでよくても、空母を持たない自衛隊はそうも言っていられません。自衛隊が長射程対艦ミサイルの獲得に躍起になっているのは、一方的に撃破されないようにするためなのです。
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業務は楽……かもしれないけれど
未来がいつも気にしているからはっきり言うけど、ボクはSSM員は結構楽な配置だと思う。
ん~……。まぁ、そうかもしれんな。
おお、珍しく言いますね。
なんでかと言えば、SSMはまず壊れることが無いからだね。
SSMはキャニスター(ミサイルを格納している筒)自体にランチャーとしての機能があるんだけど、キャニスターの中をSSM員がいじることは無い。つまり、SSM員が操作・整備しているのは実際のところミサイルに調定信号や発射信号を送る指揮装置だけなんだ。
そして、キャニスターの外には可動部が無いから機械的に壊れることはまず無い。強い電波を発射したりもしないから、電源系がやられることも稀。
なにより、こちらからの攻撃を決心しない限り、いつでも発射可能な状態にまではしないから、システムに掛かる負荷も小さい。
これほど壊れない要素が集まった装備もなかなか珍しいんじゃないだろうか。
なるほど……
ただな、水雷長。それだけで楽って決めつけるのはちと軽率だぞ。奴らは何といっても人数が少ない。SSM員がやらないといけないことは、まず間違いなくそいつ自身でやらないといけなくなるんだ。
そんなに少ないんですか?
うん。艦に1、2人が普通だね。人の多いイージス艦でも、SSM員だけはDDやDEとそんなに変わらないと聞くよ。
あら、ということはワンオペじゃないですか。
そうだね。出港中に何か必要な仕事が出来たら、基本的にはその時間に直に着いている当直員が対応するんだけど、SSM員の場合は当直に関係なく対応せざるをえないのが現実だね。
SSM員がやらないといけないことって何かあります?
SSM発射訓練だね。発射訓練と言って実際に撃つんじゃなくて、シミュレーションなんだけど、発射までの手続きを確認したり、他の艦とタイミングを合わせたりするんだ。
それも、艦を動かしながら、指定された目標を見つけたら撃つ、という体裁を取っているから、SSM員にとっては抜き打ちの訓練に近い性質があるね。これが始まると、さっきワッチから下りたばかりだろうが、ようやく寝付いたころだろうが、容赦なくCICに呼び出されてSSMの操作をさせられてしまうんだ。
最近の護衛艦はよくSSM発射訓練をやるようになってきているから、SSM員が当直の時間外に対応せざるをえなくなる頻度も高くなってきているんだ。
う~ん、そうですか……。
そういうわけで、砲雷科、1分隊の中ではちょっと影が薄いかな。
他のパートよりちょっと楽かもしれないけど、イメージほどではないんだ。でも、そういうイメージを持たれているのもあって、あまり評価されない傾向にあるんだ。
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射管員の派生型
SSM員はPHALANX員と同じく、射管員の派生型だよ。
射管員に配置できる隊員の中から選ばれるんだ。人数が少ないから、SSMに関する専門教育を受けて、初めてSSM員になるという人も無いわけではないね。
一応、射撃員からもなれる。5、6隻に1人くらいは射撃出身のSSM員はいるよ。
そもそもSSM員自体が少ないから、会うことは極めて稀だけど。
どうなる?トマホーク
ボクがSSM員について注目してるのはトマホークの導入だね。
そういえばニュースになってましたね。敵基地攻撃用のミサイルでしたか。
このトマホーク、新しく載せるのはいいけど、一体誰が責任を持って管理するのか。ボクはSSM員がやることになるんじゃないかと思ってる。
どうしてです?
そもそもミサイルの趣旨がSSM的だからっていうのはあるんだけど、加えて言うと新しい指揮装置をつける必要があるからだね。
トマホークはVLSに格納されるから、ランチャーとしてはおそらくそこまで手を入れなくても済むはず。でも、大元のアメリカのイージス艦でも、トマホークはイージスシステムから直にコントロールするんじゃなくて、トマホーク用の指揮装置を介して操作しているんだ。
なるほど、誰かがその操作と整備をしないといけないんですね。
そうなると、暇してるSSM員にやらせろということになる。
悪い言い方をするとそうなる。
加えて言えば、トマホーク用の指揮装置はハープーン用の指揮装置とよく似た機材なんだ。発展形というか、後継機というか……。新機材に最も習熟しやすいのはSSM員だろうから、新しく「トマホーク」というパートが出来たりしない限り、SSMが担当することになるんじゃないかな?
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