この記事では、令和7年8月に宮古島で発生した「恫喝」事案について、次の内容を説明します。
- 事案の概要
- 陸自が駐屯地外で実施した新隊員の長距離歩行訓練中
- 部隊が立ち寄った観光施設の駐車場にて
- 市民団体が自衛隊への抗議活動を実施したのに対し、宮古警備隊長 兼 宮古島駐屯地司令の1佐が、当該団体を「恫喝」したと報道されたもの。
- 後日、市民団体側からの謝罪要求に対し、当該隊員は謝罪した。
- 情報の整理
- 双方に明確な違法行為はあったか?
- 明確な違法行為は無い。
- 法的措置へ発展する可能性は低い。
- 「許可」問題
- 使用する場所や形態により、得るべき許可・相手方は多岐にわたり、きわめて複雑
- 法の専門家でない自衛官が、法的問題を巡って現場で争うのは悪手
- 相手方に違法行為があっても、自衛隊側に中止を命令する権限は無い。
- 明確な違法行為は無い。
- これは認知戦か?
- 抗議活動が外国勢力の工作か否かを論じても得るものはない。
- 意図的なものでなくても、今後利用されうる。
- 当該隊員は処分されるか?
- 懲戒処分とするには根拠が薄弱
- 政治的判断から「品位を守る義務」とされる可能性
- 人事評価、昇任選考などには影響
- 懲戒処分とするには根拠が薄弱
- 双方に明確な違法行為はあったか?
- 意見
- 自制を。
- 国民と自衛隊の分断は絶対に避けなければならない。
- トラブル対応は自衛官以外の存在が担当すべき
- 自衛官の存在は意図せず、他者に脅威を与えることもある。
- 警察による警備が必要
- 市民の行動を合法的に制約する数少ない存在
- トラブルのエスカレーション防止にも有効
- 自衛官の名誉は市民が守ろう
- 今回の背景には、自衛官が感じている惨めさ、孤立感、不公平感
- 誰も名誉を守らないために起きた「自力救済」
- 無関心こそ最大の敵
- 自制を。

ぐぬぬ……、全く世の中どうなってるんですか!!!



……やれやれ、キミはいつもそう腹を立ててて疲れないのかね?
で、今度は何だ?



宮古島の件ですよ!知らないんですか?
事案の概要



まぁ、どうせそんなことだろうとは思ったが……。
一応、キミがどういう認識をしているのか、聞いておこうか。



ええ。これが起きたのは8月6日、宮古島……正確に言うと、宮古島市に所属する伊良部島と下地島で、陸上自衛隊が新隊員教育の一環として実施した「徒歩防災訓練」での出来事です。
車両が使えない状況を想定して、装備を背負った状態で夜通し約35km歩くことをやっていました。



本題から逸れるが、ご苦労なことだな……。夜間とは言え、この暑さの中で行軍訓練とは。



ええ、ボクらも幹部候補生学校で原村から帰ってくるときは、同じくらいの距離歩いてますけど。季節が違いますし、装備の重量が全然違いますね。比べものにならないくらいキツいと思いますよ。



で、彼らが休憩のために立ち寄ったのが、伊良部島と宮古島を繋ぐ橋の根本の所にある、伊良部島の観光施設「いらぶ大橋 海の駅」です。
そこで待ち構えていた活動家が――



市民団体、だ。



いや、何言ってるんですか。あんなの、ただの活動家じゃないですか。



それを決めるのはキミではない。あの者たちがどういう素性の、どういう輩であっても、社会一般では「市民団体」と称されているのだ。
そして、そこに事前の価値判断を持ち込むな。事の本質を見誤るぞ。



……「ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会」なる市民団体です。
その人達が自衛隊への抗議活動として拡声器での呼びかけをしたところ、訓練に参加していた陸自の宮古警備隊長 兼 宮古島駐屯地司令の1佐が大声で反論した。そのことが、市民を恫喝したと報じられています。



まぁ、抗議活動自体はよくあることだが、今回はそれに対して自衛官が言い返した。しかも、それが近辺で一番エラい駐屯地司令の1佐なんだよな。



このとき市民団体側が撮影していた動画が沖縄タイムスなどで報じられ、市民団体は法的措置を検討するとして、陸自に謝罪要求を行いました。
結果、8月19日にこの駐屯地司令は宮古島駐屯地内で市民団体側へ謝罪を行っています。



まあ、これを謝罪と受け止めるかは、人に依るような気もするが……。



当然ですよ!こんなの、謝罪する必要なんか無いじゃないですか!これでもかなり譲歩した方です!
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情報の整理



まあ、落ち着け。そう雑多に捉えて腹を立てるだけなら、そこら辺のネット右翼でも、なんとか連絡会でも、誰だって出来るだろ。
キミは曲がりなりにもこの艦で哨戒長をやっている身だろ。100名超の命運を預かっている身なら、そんなバカどもとは違うことを証明するんだ。さしあたっては、この複雑な話の何が問題なのかを明らかにするんだ。
双方に明確な違法行為はあったか?



そもそも……この話は、一体何なのだ?
陸自は市民団体に「許可を取っているのか」と言った。市民団体は陸自に対し法的措置を検討していると言った。
どちらも、法的な話を問題にしているが、結局何の法律の話をしているか、考えたか?



司令が言った「許可」っていうのは、駐車場で活動するための許可って話ですよね。司令は陸自がそこで活動するため、宮古島市から許可を取っていると言ってますけど。



まずはそこ。この「許可」とは誰が、何を許可するのかという話だ。
陸自が得た「許可」



私も興味があって、ちと調べてみたのだ。そもそも、この駐車場とやらは何なのか。ハッキリ言うが、よく分からんぞ。
この「いらぶ大橋 海の駅」という観光施設は、宮古島市が条例に基づき設置したもので、実際の管理を「伊良部島産業振興株式会社」という民間企業に委託している。
(設置)
第1条 宮古島市内の雇用、地域活性化及び観光振興を図るため、宮古島市伊良部大橋観光拠点施設(以下「観光拠点施設」という。)を設置する。
(名称及び位置)
第2条 観光拠点施設の名称及び位置は、次のとおりとする。
名称 位置 宮古島市伊良部大橋観光拠点施設 宮古島市伊良部字池間添1092番地1 (施設の管理)
第15条 市長は、伊良部大橋橋詰広場及び観光拠点施設の管理運営上必要があると認めるときは、指定管理者(地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「法」という。)第244条の2第3項に規定する指定管理者をいう。以下同じ。)に管理を行わせることができる。
宮古島市伊良部大橋観光拠点施設条例



が、一般報道によれば、駐車場を管理しているのは沖縄県土木事務所で、土木事務所は許可の申請など受けていないという。



作ったのは市で、管理しているのは企業で、でも県が管理していて……??



私は法学の専門的教育を受けていなければ、道路行政にも明るくないので、サッパリだ。
ただ、いくつかこの手の問題に詳しい人の話を聞くと、なんとなく分かってくる。観光施設とその駐車場では、管理者が違うということだ。



えぇ……?



道路法には「道路の附属物」という規定がある。
(用語の定義)
第二条 この法律において「道路」とは、一般交通の用に供する道で次条各号に掲げるものをいい、トンネル、橋、渡船施設、道路用エレベーター等道路と一体となつてその効用を全うする施設又は工作物及び道路の附属物で当該道路に附属して設けられているものを含むものとする。
2 この法律において「道路の附属物」とは、道路の構造の保全、安全かつ円滑な道路の交通の確保その他道路の管理上必要な施設又は工作物で、次に掲げるものをいう。
七 自動車駐車場又は自転車駐車場で道路上に、又は道路に接して第十八条第一項に規定する道路管理者が設けるもの(道路の区域の決定及び供用の開始等)
道路法
第十八条 (中略)道路を管理する者(指定区間内の国道にあつては国土交通大臣、指定区間外の国道にあつては都道府県。以下「道路管理者」という。)は、路線が指定され、又は路線の認定若しくは変更が公示された場合においては、遅滞なく、道路の区域を決定して、国土交通省令で定めるところにより、これを公示し、かつ、これを表示した図面を関係地方整備局若しくは北海道開発局又は関係都道府県若しくは市町村の事務所(以下「道路管理者の事務所」という。)において一般の縦覧に供しなければならない。道路の区域を変更した場合においても、同様とする。



この観光施設の前には沖縄県道252号が走っているからな。その付属物として、県がこの駐車場を整備し管理しているということなのだろう。
観光施設のオープンセレモニーは市が主催して、県の土木事務所から来賓が招かれていたというからな。そう考えれば、納得がいく。



じゃあ、陸自が市に許可を得ていたって話は……?



ここは謎だ。例の「謝罪」とやらでも、許可の法的解釈について駐屯地側は明言を避けたからな。ま、賢明な判断だとは思うが。



おそらく、大人数で道路を練り歩くこと自体の許可ではないかな?市ではなく、警察署長に申請するものだが。数十人で道路を歩くイベントをやるのだから、そのくらいは当然やっているだろう。
(道路の使用の許可)
道路交通法
第七十七条 次の各号のいずれかに該当する者は、それぞれ当該各号に掲げる行為について当該行為に係る場所を管轄する警察署長(以下この節において「所轄警察署長」という。)の許可(当該行為に係る場所が同一の公安委員会の管理に属する二以上の警察署長の管轄にわたるときは、そのいずれかの所轄警察署長の許可。以下この節において同じ。)を受けなければならない。
一~三 省略
四 前各号に掲げるもののほか、道路において祭礼行事をし、又はロケーシヨンをする等一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為で、公安委員会が、その土地の道路又は交通の状況により、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要と認めて定めたものをしようとする者



そう言えば、ボクの卒業した高校で、野外を長距離歩くイベントがあるんですけど、確かに警察の許可が出なくなるからこういうことするなって注意事項が配られてましたね。



あるいは、駐車場の管理者が県と知らず、施設自体の持ち主である市に挨拶回りした際、「休憩で施設に立ち寄ります」と言ったが特に抗議されなかったことをもって、許可を得たとしたのか。



あぁ……ありそうですね……。



市も「許可は出していない」と答えたする報道が見られる一方で、駐屯地司令が「市に確認したところ、そもそも申請不要である回答を得た」と話しているとの報道もある。
比嘉司令は、許可について「徒歩防災訓練実施にあたり使用許可は市観光商工課に確認した」と述べた。これに清水さんは「市に確認したが届け出は出ていない」と話すと、「問い合わせたところ施設における目的使用に当たらないので申請不要との回答を受けている」と述べた。
駐屯地司令による謝罪に関するニュース(宮古新報 8/19)



ちなみに、この件をもって、この駐車場を利用する際は事前協議をするように、土木事務所から自衛隊に申し入れがあったとする一般報道もあるが、県議会議員が確認したところ、あくまで事前の情報共有が欲しいだけで、県としての許可は不要との見解を示しているとのこと。
「道路の附属物」としての駐車場なら、警察署長による道路使用許可さえあれば使えるからな。少なくとも県としてどうこう口を挟むものではないということだろう。
陸上自衛隊宮古島駐屯地司令で宮古警備隊長の比嘉隼人1佐が訓練を監視する市民を恫喝(どうかつ)した問題を巡り、沖縄県宮古土木事務所は12日、「いらぶ大橋海の駅」の駐車場を訓練で使用する際は事前に協議するよう駐屯地側に申し入れた。
許可なく駐車場使用の陸自、市民に「許可取れ」 県土木事務所が事前協議を要望 沖縄・宮古島(沖縄タイムス 8/14)



この、陸自に対し許可を出した/出していない問題は、そもそも
・当事者の認識に齟齬
・取材への県や市の回答が不親切(そもそも申請不要なことに、許可を出していないと回答)
・裏付けを取らない、あるいは恣意的に誤解を狙った報道
など、状況を混乱させる要素が盛りだくさんだ。



しかし……色々まとめると、駐屯地司令が「我々は市から許可を得ている」と言ったけど、そもそも市に許可を求めるものではなくて、他の道路とあわせて警察さえOK出せばいいものだったというのが真相ですか。



どうやら、そのようだな。
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市民団体に求めた「許可」



では、その反対だ。駐屯地司令は市民団体側に「許可取ったのか?」と訊ねている。この許可とは何だろうな?



同じで、道路使用許可じゃないですか?



ところが、道交法では一般交通に影響を及ぼす場合に、許可を受けなければならないとしているのだ。
(道路の使用の許可)
道路交通法
第七十七条 次の各号のいずれかに該当する者は、それぞれ当該各号に掲げる行為について当該行為に係る場所を管轄する警察署長(以下この節において「所轄警察署長」という。)の許可(当該行為に係る場所が同一の公安委員会の管理に属する二以上の警察署長の管轄にわたるときは、そのいずれかの所轄警察署長の許可。以下この節において同じ。)を受けなければならない。
一~三 省略
四 前各号に掲げるもののほか、道路において祭礼行事をし、又はロケーシヨンをする等一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為で、公安委員会が、その土地の道路又は交通の状況により、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要と認めて定めたものをしようとする者



一般交通に……影響は無いですかね……?



例えば、有名歌手がゲリラライブを敢行して、人だかりが出来るような場合などは必要だろうな。
こういった抗議活動の場合、徒党を組んで道を塞いだりすれば必要になるだろう。しかし、今回の場合、構成員は2名だ。それだけをもって道路使用許可が必要というのは、さすがに無理がないだろうかね。



改めて聞くぞ。許可とは、誰の、何の許可だ?



いや……しかし。



自分たちは道路使用について、警察に許可申請を出している。ここを使う正当な権利がある。
対して彼らを見てみろ。あのような知性のかけらもない社会不適合者に、そのような概念があるとも思えない。
そういう慢心があったのではないか?



だが、現実はこうだ。今回の件については調べれば調べるほどよくわからん。法律や条令の字面だけ満たしていれば良いわけではなく、必ずそこには解釈や法的信念の問題がつきまとう。
だいたい、法の字面だけ捉えて違法合法を考えるなら、まず自衛隊は存在出来ないのではないか?



ぐ……。



このような問題について、私たち自衛官はあまりにも無知だ。仕方ない。細かい法的解釈のことまで勉強した人間なら、わざわざ自衛官になんぞならず、弁護士か裁判官になるだろ。



重要なのは、自衛官は法の素人であることを認識することだ。こんなド素人が書いたブログを読んだ程度で、一丁前に法律戦を戦えるなど、間違っても考えてはならない。
ましてや、事前の準備もなければ、疲労や怒りで注意力が散漫になっている現場で、法律の話を自ら持ち出して、不利なフィールドに上がり込んではいけない。



じゃあ、相手の言われるままにしていれば良いんですか?



その場では、いくつか手はある。
もっとも有力な手は、その場では対応しないことだ。何を言われても、知らん顔をしてやり過ごす。その様子を撮影し、相手方の言葉から徹底的に粗を探し、後日正式な形で抗議する。各幕など、オフィスに戻れば法務担当官がいるのだ。面倒な法律のことは奴らに全て任せて、現場にいる我々は余計なことを言わない。



なんことはない。普段から言われていることだろう?今回は、相手方にそれをまんまとやられたわけだ。



でも、何もしなかったら相手の行動がエスカレートするかもしれないじゃないですか。



何も複雑な話ではない。相手が隊員に暴力を振るったり、個人への脅迫・名誉毀損行為を始めたりしたら、話は極めて単純なものになる。被害者のポジションで相手を法廷に引きずり出せばいい。
何しろ、奴らは自衛隊は絶対に殴り返してこないサンドバッグだと舐めている。そうやって積み上げた己の愚かな言動で自らを滅ぼす姿が楽しみではないかね。



それ、やられる隊員はたまったものじゃないですよ。。。
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拡声器の使用



しかし、早朝から拡声器の使用は糾弾出来ないんですか?



そこは、自衛隊側に若干有利なポイントだな。実際、謝罪の場でも「許可」云々ではなく「拡声器の使用について止めるよう発言した」とシフトさせている。
拡声器を用いていたので周辺施設に迷惑がかかると考え、また新隊員の安全な訓練実施を確保するとの観点から拡声器を用いた活動をやめていただきたく緊急に発言した
駐屯地司令による謝罪



実際、この施設のすぐ裏には1泊4~5万するリゾートホテルがある。早朝から大音量を垂れ流されたら、せっかくのバカンスも台無しだな。
駐屯地司令は初期段階でホテルについて言及しているので、「拡声器使用がホテル客への迷惑行為になっている」と弁解する余地が出来たのだ。
清水早子共同代表
(拡声器で自衛隊員に呼びかける)
みなさん、おはようございます。
あの、素晴らしいご来光ですよね。でも、私たちは残念です。
そういう戦闘服姿、迷彩服姿の向こうに、こんなきれいな朝日を見るのは、とても残念です。
そういうね、戦闘服姿でない、私服でみなさんと一緒にですね…比嘉隼人隊長
(怒声を上げながら至近距離まで近づく)清水代表
…見たいと思います。比嘉隊長
駐屯地司令と市民団体のやり取り(沖縄タイムス 8/12)
許可を取ってるんですか、こっち。われわれは許可取ってるんですよ。
許可取ってからやってください、許可取ってから。やるんだったら!
ホテルあるだろ、ホテル!



首の皮一枚で繋がったって事ですかね……。



拡声器を使って騒ぐことについての法規制は、軽犯罪法に定めがある。
第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
十四 公務員の制止をきかずに、人声、楽器、ラジオなどの音を異常に大きく出して静穏を害し近隣に迷惑をかけた者
軽犯罪法



ただ、この規定で言う「公務員の制止」とは、警察官の命令を無視した場合と解釈され、他の公務員には適用されないのが一般的だと。



そもそも軽犯罪法自体が、大々的に捜査してとっ捕まえに行くようなものではないしな。
軽犯罪法への抵触は不法行為には違いないかもしれないが、実際にはホームレスがとやかく言われていないように、それほど重大なものと見なされてないのが実情だ。



したがって、騒音への対応は各自治体の条例次第ということになる。



そうだ、条例ですよ。
考えてみたら、「許可」って拡声器で騒音を出すことの許可じゃないですか?そういう条例があったはずです。



迷惑行為防止条例だな。名前は様々だが、似たような条例はだいたいどこの都道府県にもある。
(定義)
第三条 この条例において「暴騒音」とは、東京都公安委員会規則で定めるところにより、当該音を生じさせる装置から十メートル以上離れた地点(当該装置が道路その他の公共の場所以外の場所において使用されている場合にあっては、当該場所の外の地点に限る。)において測定したものとした場合における音量が八十五デシベルを超えることとなる音をいう。(拡声機により暴騒音を生じさせる行為の禁止)
第五条 何人も、拡声機により暴騒音を生じさせてはならない。(拡声機により暴騒音を生じさせる行為をした者に対する措置等)
第七条 警察官は、第五条の規定に違反する行為(以下「違反行為」という。)が行われているときは、当該違反行為をしている者に対し、当該違反行為を中止することを命ずることができる。2 警察署長は、違反行為をした者が更に継続し、又は反復して違反行為をしたときは、その者に対し、二十四時間を超えない範囲内で時間を定めて、違反行為が行われることを防止するために必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。
拡声機による暴騒音の規制に関する条例



なんだ、あるじゃないですか!



よく見たまえ。これは東京都条例だ。



あ、そうなんですか。じゃあ、沖縄県条例は?



無い。



……は?



沖縄県に、拡声器による騒音を取り締まる条例は無い。



えぇ……。



ネット界隈では、早朝の拡声器使用は沖縄県条例違反だと指摘する声もあったのでな。当然そうだろうと思って調べたのだが、どれほど探しても見当たらないのだ。



騒音規制法による騒音規制は行われているようだが、これはあくまで工場や建設現場、自動車交通によって生じる騒音を防止するための法律。拡声器の使用について制約するものではない。



ってことは……、早朝に拡声器を使っても不法行為ではないと。



ま、そういうことになるな。
何故沖縄県ではそうした条例が制定されていないか。概ね察しはつくが、この件をもって県民市民から条例制定を求める声が挙がれば御の字だ。



それをまかりならんと民衆が言うなら、沖縄は深夜早朝に高級ホテルの目の前で45Wの拡声器使っても合法な地域だし、自宅の目の前でやられてもオールOKであることを民衆自身が認めることになる。



いや、そんなわけないじゃないですか。



いいかね、それを決めるのはキミでは無い。誰だ?キミ自身がいつも言っているのではないか?



はい。市民自身です……。



そうだ。平穏を愛する私は間違ってもそのような地域に住みたいとは思わないし、観光にも行こうと思わなくなるが、中には日々音圧を感じることに悦びを見出す水雷士みたいな変わり者もいるのだ。そうした人々の価値観を否定してはいけない。
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市民への「命令」



他にはどのような問題があるかな?



この人達、法的措置を検討していると言ってるんですよね……。



そうだな。この法的措置とは何のことだ?



司令に怒鳴られてトラウマになったとか言ってるので、その慰謝料でも請求するつもりでしょうか?
市民団体「ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会」の清水早子共同代表は「トラウマになった。謝罪にはなっていない。残念だ」と応じた。
駐屯地司令による謝罪に関するニュース(共同通信 8/19)



ま、出来るものならやってみろ、としか言い様がないな。
賠償を求めるには、この件によって心的外傷を負ったことを立証する必要がある。診断書はお仲間の医者に書かせることも可能だろうが、因果関係を立証することは相当に困難だろう。
確かに駐屯地司令は大声を張り上げてはいるが、極端に接近したわけでも、暴力をチラつかせたわけでも、人格否定をしたわけでもないしな。



ですよね。やっぱり脅しですかね?



そう考えるのが妥当だろ。もっとも、それは相手が自分と同じ思考基盤に立っていることが前提だが。



それより問題は、公務員としての権限の話だ。



なんです?



駐屯地司令の口調だ。
比嘉隊長
違う!許可、われわれは取ってやってる。
あなた許可やってるんですか、って。
市民のものじゃない、許可やってるのかどうか、まずそこを確認してるんだよ。清水代表
ここの許可は…比嘉隊長
駐屯地司令と市民団体のやり取り(沖縄タイムス 8/12)
じゃあ許可取れ早く、取ってこい。



この駐屯地司令は、白熱してしまったのか、途中で命令口調になってしまっているのだ。



あー……。



細かいようだが、ここはかなり危うい。「許可」という表現と相まって、抗議活動に対する解散命令と解釈される恐れがあるのだ。



全てにおいて言えることだが、自衛官は外部の人間に対して迷惑行為を止めることを強要できるかね?



いえ……それは出来ません。その権限がないです。



その権限を何という?



警察権です。



そうだ。治安維持のため、国民に命令し、その自由を拘束し、必要がある場合実力を持ってこれを強制する作用、その権限。これを警察権と呼ぶ。
そして、警務官のような例外を除けば、平時の自衛官は警察権を有していない。一部の任務行動に際し、行政警察権を付与されるだけだ。
行政警察権
公共の秩序を維持・回復するため犯罪の予防や鎮圧を行う、警察力に関する権限。
職務質問、犯罪行為の制止、他人の土地・建物への立入、自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のための武器使用などは、行政警察権に基づく行為である。
通常の自衛官は行政警察権を有していない。防衛出動、治安出動、海上における警備行動など、任務を付与されるにあたり、警察権職務執行法や海上保安庁法の一部が準用されることで、当該任務に従事する自衛官は行政警察権を行使することが出来る。立入検査はその一例である。



キミは確か立入検査課程を修業していたな?
そこで習ったはずだ。他人の不法行為を抑止する、最も基本的なものは何だった?



Officer’s Presenceです。
Officer’s Presence
官吏の存在。犯罪行為を試みる者にとって、警察官がその場に存在することは、行動を断念させる要因になるという考え方。警察官が対象者を取り押さえたりせずとも、ただその場に存在すること自体が警察力を発生することから、最も基本的な警察力の形態と考えられる。
Officer’s Presenceがどの程度の影響を持つかは、警察官の体格や服装、態度によるところが大である。どこの国でも警官が若干高圧的に見えるのは、まさしく「舐められたら負け」な仕事であり、Officer’s Presenceの影響力を維持するためである。



そうだ。この場合、戦闘服を身につけた自衛官はOfficer’s Presenceを発揮していると言える。法的根拠があるかではなく「コイツに逆らったらやべーかも」という恐怖がOfficer’s Presenceを生むからだ。



それって、まるで自衛官は存在自体が他人の行動を制約するって言ってるようなものじゃないですか?



まるで、ではなく、そのとおりだ。自衛官は存在自体に暴力性を秘めている。屈強な肉体、斉一な行動、組織性を感じさせる服装。その一つ一つが、質と量において闘争への対応力を感じさせ、自衛官に喧嘩を売ろうとは考えなくさせるのだ。
それをある人は「頼もしい」と表現し、ある人は「恐ろしい」と表現するのだよ。



基本的には備わっていた方が何かと便利なOfficer’s Presenceだが……時として、それが足枷になることもある。それがこの場合だ。



「この人に言われたら、従わないといけない気がする」そんな者が「止めろ」と口にすれば、それを聞いた者はどう感じる?



止めることを強制されたと感じる……。



そうだ。その点において、自衛官はそこら辺の一般市民やチンピラとは違うのだ。早い話、自衛官が「止めろ」と口にするとき、人々はそこに警察力の行使を感じ取るのだよ。
故に、警察権を有していない自衛官が、他人の行為に対して「止めろ」と命令を発するのは不法行為と見做される恐れがある。



これ、結構マズいですかね……。



分からん。文脈を見れば、命令として発したのではなく、かの団体が言うとおり、「高圧的に要求」したと捉えるのが自然だが、字面をあげつらえば、そういう解釈もできる。



仮に法的措置とやらに発展した場合、この程度で不法行為と認定されることはないかもしれんが、言葉選び、タイミング、口調、どれか一つでも失点を増やしていたら、致命的な事態になったかもしれん。
この場合は、精神的なものではなく、市民の権利を制限したことへの賠償責任が発生することになる。



迂闊なことを言うべきではないということですね。



そう。仮に相手方に違法行為があったとしても、そこで中止を命令する権限がない以上、そのようなことを言うべきではなかった。
それは、あくまで警察の仕事だ。
違法行為は無かった……?



結局まとめると、双方に明確な違法行為は無かったが、陸自側はちょっと危うい表現があったというところでしょうか。



そうだな。この手の活動k……いや、市民団体には弁護士がバックに付いていることが常だが、「命令」について指摘されず、「恫喝」「高圧的」と謝罪要求されているあたり、この団体構成員自身「命令」で責めるのは困難と認識しているのだろう。
あくまで「自衛官が怒鳴ってきて怖かった」「これは旧軍の再来だ」と、印象操作に終始しているあたり、陸自側に明確な不法行為は無かったと考えても良いだろう。



対する市民団体側も、2名という少人数で、合法的に拡声器で爆音を出しただけだ。道路の使用を妨げてもいなければ、何かモノを破壊したわけでもない。不法行為を見出すことは出来ない。



何だかなぁ……。



私とて、別にやつらの肩を持っている訳ではないぞ?この連中は、散歩していたら偶然出くわしたなどと言っているが、前日からして抗議活動を実施しており、訓練終了後も新入隊員やその家族を執拗につけ回して侮蔑的な言葉を浴びせ続けた社会性のかけらも無い輩だ。



だが、違法行為は確認出来ない。その点において、やってないものをやったと私は言わないのだ。



この手の問題は、自衛隊の敷地内で起きたなら、どういう問題であれ建造物侵入で片が付く。だが、道路や他人の私有地で起きるとそうもいかない。厳密に、なにをもって違法とするかを見極めなければ足元をすくわれることになる。だから、基地外のトラブル対応は嫌なのだよ。



ま、アレコレ言ったところで、結局は言葉をもって互いに不快な思いをさせただけなのだ。少なくとも、形式的には。
人に不快な思いをさせるだけで賠償責任が発生すると言うなら、まず私に慰謝料を払ってほしい。私はとても機嫌が悪いぞ。



なんだか、とっても話が小さくなってきました……。
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認知戦?



それはそうと、これってやっぱり認知戦なんでしょうか?



そうなんでも認知戦だ情報戦だと、大雑把にくくるのは、止めてもらえるか。バカっぽく見えるぞ。
情報戦 Information Warfare
情報を活用することで、自らの意思決定の優越を確保し、敵の意思決定を打倒する戦い。「認知領域の戦い」「意思決定中心の戦い」など、様々な類義用語が乱立しているが、細かな違いはあれど意味するところは概ね同じである。
その方法・様相・実施主体は多様で、自らの正当性を主張して自勢力の士気を維持しつつ敵勢力にプレッシャーをかけるのも情報戦であれば、敵の作戦完遂に不可欠な部隊を看破して一番嫌な時期に火力を集中するのも情報戦。非常に広範で捉えどころが無く、各国で言葉の定義すら統一できていないのが現状であるが、物理的な目標そのものではなく、彼我の意思決定に注目して情報を活用する点で一貫している。
情報戦と言えば偽情報を流して敵を混乱させること……と思われがちだが、それは情報戦の極めて限られた一手段であり、本質ではない。



キミが言いたいのはアレだろう?
この「ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会」なる市民団体は、日本に敵対的な外国勢力の指示あるいは支援を受けて、南西諸島での自衛隊の活動を困難にするための工作を行っているのではないか、と。



ええ。まさにそうです。



その可能性は否定しない……が、そのことを論じることに意味はあるか?



え?



第一に、そのことを確かめる手段が我々には用意されていない。仮にそうだとすれば、しょっ引いて締め上げれば分かるかもしれんが、我々には警察権も無いし、あったとして逮捕する合理的な根拠もない。



そもそも、あの老人たち自身が全く無自覚に、外国勢力に操られている可能性すらある。心の底から善意に基づいて、ミサイルなど要らない、自衛隊は悪だと自発的に活動していて、そこを外国の情報機関がうまく利用していたら。多分取り調べしても、それほど有益な情報は出てこないだろう。



確かに……。



そして何よりも。仮に、この団体の活動に一切外国勢力が関与していないとしてだ。キミが日本に敵対的な外国勢力の人間であれば、このような好機を見逃すのかね?



あっ……。



この事案が作為的なものであろうがなかろうが、結局外国勢力から利用されることになるのだ。
今は見当たらないが、スプートニクには自衛隊の失敗、環球時報には沖縄を弾圧する日本軍という話が遠からず載ることになる。



それが沖縄への侵略を正当化する足がかりの一つになると……。



明日明後日の話ではない。だが、20年30年かけて「『歴史的に中国の一部であった琉球民族』を弾圧する日本」という国際的な根回しが行われ、失地回復や自国民保護のための武力行使にとやかく言わない国際社会が形成されれば、その恐れは現実のものになる。
だからこそ、こんなことでイチイチ揉めてはならんのだ。
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当該隊員は処分されるか?



この駐屯地司令……どうなっちゃうんですかね?
やっぱり処分されるんでしょうか。



懲戒処分の対象になるかと言われれば……微妙だな。
仮に、キミが本件の服務事故調査を担当するとして、どういう名目で処分する?



注意義務違反……あるいは「品位を守る義務」違反ですかね?



そのあたりだろう。少なくとも、明確な不法行為は無かった。
だが、対応は不適切で、おそらく自衛隊への信頼を損なう事をした。
やり方が不適切だったことをもって、処分は妥当だろうかね?



懲戒処分の手続きは相当難航しそうですね。ちょっと根拠が薄弱ですし。



これは政治的判断によるところ大だ。
こういう微妙な状況では、上がどれだけ処分を求めるかによって、当該隊員の命運が決まる。キミも警衛士官をやっていれば覚えはあるだろう?



……そうですね。ボクが扱った事案でも、司令や群司令がご立腹だったから、調査する前から処分されること自体は決まっていたというケースは、過去に何件か確かにあります。



品位を損ねたかどうかなんて、定量的に立証出来るものでもないしな。結局懲戒権者がそうだと言えば、そのとおりになる。
故に、この駐屯地司令の場合も、根拠は薄弱かもしれんが、上がどのぐらい庇うかにより変わる。



そして、言うまでもないが、行われるのは懲戒処分だけではない。
この後待ち受けるのは、人事評価に、昇任選考だ。



やっぱり……厳しいですかね?



懲戒処分は曲がりなりにも、「何が悪かったのか」をきちんと立証しなければならんが、人事評価や昇任選考では「何が良かったのか」を立証する作業だ。そこで何もしなければ、自動的に評価は中庸、相対的には劣るものになる。



本件を受けて、陸幕のお偉方や、大臣が「よくぞ言ってくれた!」と拍手喝采していると思うかね?



いえ……「余計なことしてくれやがって!」ですよね。多分。



そういうわけだ。処分されるかはさておき、今後の人事は期待出来ないだろうな。
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意見



さて、色々話を整理したところで、だ。
今回の件を踏まえ、キミはどう考える?自衛隊はどうすべきだ?
自制を。



陸自は……その場で抗議をするべきではありませんでした。



それは何故だ?



市民団体に対して敵対的な態度を取っている様子を映像で配信されると、外国勢力に付け入る隙を与えることになるからです。



そうだな。今は、国民と自衛隊の分断は何が何でも避けなければならん。この抗議活動が分断を狙って行われたものだとすれば、市民団体と言い合いになるのはまさしく彼らの思うつぼということになる。



では、このような抗議活動を前にして、陸自はどうするべきだった?



直接は相手にせず、駐屯地や陸幕の法務担当者の意見に基づいて、後日正式な抗議を行うべきでした。



自衛官は自分では意図しなくても、他人に脅威を与えることがあるから……、自衛官が前に出て行ってしまうと、それだけで弾圧されたと騒がれることもあります。



今回の場合、ホテルが近くにある中での拡声器使用を注意……としているが、そうだとしても、そもそも迷惑しているのはホテルだ。したがって、クレームを出すべきはホテルだったかもしれんな。



しかし……現場にいて拡声器で呼びかけられて、無視するというのもなかなか厳しいですね。



ま、疲労困憊の新入隊員を前に、どうしても前に出ずにはいられなかったのだろうな。そりゃあ、気持ちは分からんでもない。
だが、やるならやるで、戦い方を考えろということだ。
条例の取り締まり対象であろうがなかろうが、実際このような行為が迷惑なことには変わりない。当然ながら、そのことについて止めてくれと言うこと自体は、なんらおかしな事ではないな?



いや、そうですよ。だから駐屯地司令は抗議したんじゃないですか。



そこで、許可だなんだと、抗議という形を取るからアレコレ問題になる。「お願い」するのだ。



年端もいかない新入隊員の存在を活用するのだ。「市民のためにこんなに頑張っている若者たちなんですよ?やっと得た休息の機会、もう少し静かにしてもらえませんか?」とな。



そんなこと言って、止めてもらえるわけないじゃないですか。



当然だ。だいたい、こういう輩は暴力を振るわれでもしない限り、止めないのだ。そこで暴力を振るってはいけない以上、抗議だろうがお願いだろうが、コミュニケーションを取るだけムダではないかね?
ここで「お願い」するのは、自らを被害者ポジションへ持っていくために決まっているだろう。「これだけお願いしたのに、聞き入れてもらえませんでした」と。



うーん……。
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警察による警備を。



ひとつ、気付いたことがあるんです。
自衛官が警察力を行使してはいけないなら、警察官が警察力を行使するのはアリなんじゃないですか?



ほう?



つまり……、警察官がその場に行って警備するんです。
確かに、不法行為は行われていないかもしれない。でも、それを予防する必要はありますよね?その場に警察官がいて、目を光らせていれば、そもそもそういう事をするのも多少気が引けるんじゃないかって。



さっき出た、Officer’s Presenceの話だな。
まさしくそのとおりだ。



実際、こうした活動をきっかけに、暴力的な抗議活動に発展する可能性も否定はできないわけだしな。その場に警察官が展開することで、トラブルのエスカレーションを防止出来るなら、それは警察の立派な使命だろう。



ですよね?



だが、それをやるのは誰だ?
沖縄県警。そこに影響を与えるのは沖縄県知事だ。



うっ……。



ハッキリ言って、この手の問題について、沖縄県と県警はまるでアテにならん。そもそも、その現状が放置されているのがどうなんだ、という気もするが。



なんだかなぁ……。
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自衛官の名誉は誰が守る?



合法だっていうのも分かるんです。そういう表現をする権利を制限してはいけないっているのも分かるんです。
……でも、これはあんまりじゃないですか?



それは……そうだな。



こういう時、市民団体と関わっちゃいけないとか、自衛官が声を張り上げて反論しちゃいけないとか、そんなの入隊した時からずっと言われてますよ。誰だって、やったらマズいことくらい分かってますよ。



この駐屯地司令だって、こんなことしたら大変なことになるって、1佐なんだから当然分かってたわけじゃないですか。将官になるチャンスが無くなるかもしれないけど、それでも……。それでも言わずにいられなかった。それってそんなに悪いことですか?



な。悔しいよな。だが、こればかりは……我々自衛官には、どうしようもないことなんだよ。



休みはもらえない。隊舎も官舎もボロボロ。給与は安い。外国なら在職中にもらえる勲章だってもらえない。マスメディアからは目の敵。友人と会う約束すら出来ない……。
……ボクらは、そんなに悪いことしましたか?



自衛官自身が、どうにかしてはいけないんだ。どれほど惨めでも、社会から孤立していると感じても、不公平だと思っても。我々は他人を殺傷する力を与えられている。その我々が自分たちの要求に基づいて、社会の現状を変え始めたら誰も逆らえなくなる。



社会が権利を、名誉を守ってくれないからって、自力救済を図ったのが今回の事案だ。だが、自力救済は、やっちゃいかんからこそ「自力救済」と定義される。やった瞬間は良いかもしれんが、結局巡り巡って自分の首を絞めるだけだ。



そんなぁ。



こういうことが起きる度、私も思うんだ。こういう連中、一体どうやったら根絶やしに出来るんだろうって。もちろん合法的にだ。



考えれば考えるほど、自衛官自身には出来ないんだよな。何しろ、自衛官唯一の強みである殺傷能力は使うわけにはいかないんだから。
キミは、どうすれば出来ると思うかね?



逮捕も殺傷もなく、制裁を……。



結局は、市民の言論の力に頼らざるを得ないのだ。
連中が我々を批難することが許されるように、第三者が連中を批難することは許される。そうやって、社会から追い出すしかない。



もしも、地元の住民がカウンターデモを起こして、市民の総意でないことを明示していれば……。



もしも、政治家が連中を徹底的に批判して、国会で槍玉にあがるようなことがあれば……。



もしも、この訓練にテレビカメラが同行していて、この活動の悪辣さがワイドショーで報じられ、市民に火が付けば……。



このような活動に資金提供が行われなくなれば……。



変わるかもしれない……。



……さっきから聞いていればな。お前らはどれだけおめでたい頭をしているんだ。



副長……。



お前は、国民だとか市民だとかに、一体何を期待している?事ある毎に、わけの分からん演説をぶちやがって。



この際だから言っておくぞ。この国の国民は3種類しかいない。
自衛隊を敵だと思っているやつ。自衛隊が存在することを知らないやつ。そして、自衛隊の仕事を増やしたいと思ってるやつ。



それは……。



いい加減に夢を見るのは止めることだ。
……後が辛くなる。



そういう副長は。じゃあ、どうして自衛官を続けてるんです?



俺は、他にメシを食う術を知らん。そして、ここでまだやらないといけないことがある。ただそれだけだ。
お前らみたいにな、市民のためだの、権利の為だの、そんな話は10年も前に忘れたよ。



私もな、そうなったら良いなとは思っていた。
だがな。そうはならなかった。そうはならなかったんだよ。



……。



こういう話ばかりしていると、防衛のエコーチェンバーに囚われる。あたかも世の中、激動する安全保障環境に怯え、自衛隊に期待するようになってきていると。



実際、変わりつつはある。手当は増えたし、官舎隊舎のリフォームも行われるようになった。予算は増えている。



だが、蓋を開けてみればこの通りだ。あくまで、この国のリーダー層が「防衛費を増やす」ことをしているだけだ。自衛隊の使命がどうのとか、そこで生きている人間の名誉がどうのとか、そういうことに関心を持っている市民などいやしない。



沖縄県民とて、本土の国民とて、その大多数はこんな加害行為に積極的な加担などしていないのだ。そんなことは分かっている。
だが……こうした活動を見ても「うわぁ、アホがケダモノを引っ叩いてるわ。近寄らんとこ。」だ。



そこに血の通った人間がいて、一人一人が自分の人生を歩んでいることに、誰も思いが至らない。だからこそ、この問題について誰も彼もが口を閉ざしていられる。



この無関心こそが、最大の敵だと。。。



自衛官が「社会から惨めな思いをさせられている」って被害者意識を募らせた時、いったい何が起きるんだろうな。



もう、私も疲れたよ。



それでも……ボクは。
この記事では、令和7年8月に宮古島で発生した「恫喝」事案について、次の内容を説明します。
- 事案の概要
- 陸自が駐屯地外で実施した新隊員の長距離歩行訓練中
- 部隊が立ち寄った観光施設の駐車場にて
- 市民団体が自衛隊への抗議活動を実施したのに対し、宮古警備隊長 兼 宮古島駐屯地司令の1佐が、当該団体を「恫喝」したと報道されたもの。
- 後日、市民団体側からの謝罪要求に対し、当該隊員は謝罪した。
- 情報の整理
- 双方に明確な違法行為はあったか?
- 明確な違法行為は無い。
- 法的措置へ発展する可能性は低い。
- 「許可」問題
- 使用する場所や形態により、得るべき許可・相手方は多岐にわたり、きわめて複雑
- 法の専門家でない自衛官が、法的問題を巡って現場で争うのは悪手
- 相手方に違法行為があっても、自衛隊側に中止を命令する権限は無い。
- 明確な違法行為は無い。
- これは認知戦か?
- 抗議活動が外国勢力の工作か否かを論じても得るものはない。
- 意図的なものでなくても、今後利用されうる。
- 当該隊員は処分されるか?
- 懲戒処分とするには根拠が薄弱
- 政治的判断から「品位を守る義務」とされる可能性
- 人事評価、昇任選考などには影響
- 懲戒処分とするには根拠が薄弱
- 双方に明確な違法行為はあったか?
- 意見
- 自制を。
- 国民と自衛隊の分断は絶対に避けなければならない。
- トラブル対応は自衛官以外の存在が担当すべき
- 自衛官の存在は意図せず、他者に脅威を与えることもある。
- 警察による警備が必要
- 市民の行動を合法的に制約する数少ない存在
- トラブルのエスカレーション防止にも有効
- 自衛官の名誉は市民が守ろう
- 今回の背景には、自衛官が感じている惨めさ、孤立感、不公平感
- 誰も名誉を守らないために起きた「自力救済」
- 無関心こそ最大の敵
- 自制を。
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