この記事では、令和7年度概算要求に登場した水上艦隊について、次の内容を説明します。
- 令和7年度概算要求に水上艦隊(仮称)の新編が記載された。
- 水上艦艇部隊を部隊を一元的に指揮監督する部隊
- 主に護衛艦隊と掃海隊群を一つにした組織
- 艦艇部隊は、第1~第3水上戦群、水陸両用戦機雷戦群、哨戒防備群に再編される。
- 地方隊隷下の掃海隊やミサイル艇隊も組み込まれる。
- 海上訓練指導隊群の機能は維持される可能性が高い。
- 水上艦艇部隊を部隊を一元的に指揮監督する部隊
- 組織再編のねらい
- 水陸両用戦・機雷戦に対応可能な組織づくり
- 掃海隊群任せになっている現状の是正がねらいか。
- 低烈度な警戒監視業務の専従化
- 新型護衛艦と、FFMベースライン1・哨戒艦・旧型護衛艦の業務切り分け
- 「実戦で戦う部隊」を訓練に集中できるように
- 練度管理の改革
- 護衛艦隊は護衛隊群単位での練度管理を実施
- 群内で、隊レベルでの練度管理に移行することで、常時各群が戦闘可能な状態を構築
- 人事も変わる?
- 通信妨害や被害発生下で、部隊を有機的に連携させるためには、現場での作戦立案・遂行能力が必要
- 群・隊の幕僚・隊勤務が増強される可能性
- 水陸両用戦・機雷戦に対応可能な組織づくり
お、水上艦隊構想がとうとう出てきたか!
こんな話があったんですね。
水上艦隊の概要
この話は、8月30日に発表された、防衛省の令和7年度概算要求に登場するよ。
IV 共通基盤
防衛力抜本的強化の進捗と予算-令和7年度概算要求の概要-
10 自衛隊の組織編成
○ 海上自衛隊の改編
・水上艦隊(仮称)の新編
護衛艦隊、掃海隊群等の水上艦艇部隊を一元的に指揮監督する体制を整備するため、「水上艦隊(仮称)」を新編。
主に、護衛艦隊と掃海隊群を合併して、水上艦艇を一元的に監督する部隊を作ろうってことだね。
あれ?掃海隊群って護衛艦隊の一部じゃなかったんですか?
どうしてそんな勘違いを……?
掃海隊群は、トップの掃海隊群司令が海将補ではあるけれど、護衛艦隊、航空集団、潜水艦隊などと並んで、自衛艦隊に直接ぶら下がる部隊だったんだ。
掃海艇・掃海艦・掃海母艦といった機雷戦に関係する艦艇は、その多くが掃海隊群の隷下にあるけど、一部の掃海艇は地方隊隷下だよ。
この話、おれ達が入隊した頃から、ちょいちょい出てきては消えてたんだよな。
そうだった。第1艦隊・第2艦隊に新編するとか、やっぱり掃海隊群は独立させるとか、いろんな説が出てたね。
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水上艦隊の編成
水上艦隊の下には第1~第3水上戦群、水陸両用戦機雷戦群、哨戒防備群がぶら下がる形になるよ。
防衛力整備計画だと、おおむね10年後、つまり令和14年頃の将来体制として、6個群を目指すとあったから、近い将来さらにもう1個水上戦群が追加される可能性はあるね。
とうとう「護衛」の文字が外れるんだな。色々感慨深いものがある。
そもそも護衛(Escort)は任務の名前だから、護衛以外の任務にも従事するグループにそういう名前を割り当てるのがそもそもおかしかったんだろうな。
そうだね。
名前からすると、一桁護衛隊が水上戦群に、掃海隊群が水陸両用戦機雷戦群に、二桁護衛隊やミサイル艇隊が哨戒防備群に移行するように見える。
そうか、地方隊隷下部隊だった掃海隊やミサイル艇隊も水上艦隊に組み込まれるんだな。
海上自衛隊の部隊名称の慣習から言えば、水上戦群の下には水上戦隊、水陸両用戦機雷戦群の下には水陸両用戦機雷戦隊、哨戒防備群の下には哨戒防備隊っていうのが来るのかな?
水陸両用戦機雷戦群の下は、輸送隊とか掃海隊とかになるんじゃねーの?護衛艦部隊と違って、色んな種類の艦艇が集まるから、ある程度機能ごとに分化しないといけないだろ。
確かに、そうかもしれないね。
で、この図には書いていないのが、海上訓練指導隊群。現状、護衛艦隊隷下部隊だけど。
FTCは無くならないだろ。FTCやFTGを無くしたら、艦艇をどうやって訓練するんだって問題がでてくるからな。図に書いてないってことは、基本的には変更しないってことじゃないか?
うん。多分そうだと思う。
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組織再編のねらい
そういえば、どうして水上艦隊って組織に改編するんですか?
やっぱり、「護衛」って文字を取っ払いたかったんですかね?
いや、さすがにそれだけで改編はしないよ……。
水陸両用戦・機雷戦に対応可能な組織づくり
一番の目玉は、やっぱり掃海隊群、つまり機雷戦部隊を取り込むことだと思う。
?
水陸両用戦、つまり島嶼防衛・島嶼奪還をやる上で、機雷戦は不可欠なんだ。
機雷はだだっ広い海に敷設しても、十分な効果が得られないから、敵部隊が通るであろう場所に敷設するんだ。チョークポイントとか。
水陸両用戦をやるとなれば、目的の陸地に近づかざるを得ないだろ?当然、相手はそういうところを狙ってくるから、上陸する前に機雷戦部隊が安全な航路を確保しないといけないんだ。
逆もまた然り。
島の奪い合いともなれば、敵の上陸を阻止するために、敢えて自国の島の周りに機雷原を構築する必要だって出てくる。いずれにせよ、水陸両用戦をやる上では、こういう部隊による機雷戦が重要になってくるんだ。
米海軍でも、水陸両用戦を担当する第76任務部隊(Task Force76)は第7掃海隊(MCMRON7)を指揮下に収めているよ。
これらのカウンターパートになる、ということもあって、海上自衛隊では、掃海隊群が水陸両用戦の研究を担当してきたんだ。
輸送艦を抱える第1輸送隊も、以前は護衛艦隊隷下だったんだけど、平成28年に掃海隊群隷下に変わったのが象徴的だね。
それを護衛艦部隊と合流させる必要があったってことですか?
うん。ボクはそう思う。
こうして護衛艦で働いていると、機雷戦について考える機会なんてほとんど無いじゃない?でも、機雷敷設戦はともかく、対機雷戦……つまり、機雷が敷設されているかもしれない海域を安全に航行する術は、護衛艦にだって必要なはずなんだよ。
対機雷戦や水陸両用戦が過度に専門化してしまって、掃海隊群に全部お任せという現状はどうにかしないといけないんだと思うよ。だから、組織を一つにすることによって、機雷戦に関する知識を護衛艦にも導入するのが狙いなんじゃないかな?
そもそも、脅威下にある海域に掃海艇だけ送り出すわけにもいかないしな。護衛艦部隊と機雷戦部隊がしっかり歩調を揃えないと、上陸のための航路啓開なんて出来ないぞ。
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低烈度な警戒監視業務の専従化
あとは、この哨戒防備群の存在だね。
ここにはFFMや、近々建造される哨戒艦が配備されるんかな?
あとは、「あさぎり」「あぶくま」型あたりか。
そうだね。現行の二桁護衛隊やミサイル艇隊が担っている仕事を、哨戒防備群が引き継ぐことになるんだと思う。
現行FFMはベースライン1とされていて、とにかく数を揃えることを最優先にするため、従来の護衛艦が装備していた武器をほとんど備えていない。06FFM以降、つまりベースライン2は武装を大幅に拡充するらしいけど。当初のコンセプトどおり、警戒監視に専従させるのがいいと思う。
これも、組織の名前や上下関係が変わるとは思うんですけど、意味はあるんですか?
大ありだね。わざわざ「哨戒防備群」って名前を付けるってことは、沿岸部の警戒監視を専門に扱う部隊ってことだよ。二桁護衛隊は、実際護衛艦部隊として活躍することは期待されていないけど、「護衛隊」を冠している以上、警戒監視はあくまでオマケで、一桁護衛隊と同じ訓練をやらないといけなかった。
でも、哨戒防備群の隷下部隊は警戒監視こそが本業になる。警戒監視が終わったら隊訓練、それが終わったら海外派遣訓練、そこから帰ってきたらまた任務行動、みたいなことをやめて警戒監視に専従できるようになるんだ。
完全に訓練しなくてよくなるわけじゃないとは思うけどな。
「防備」を冠している以上、ある程度の戦闘力はやっぱり求められるんじゃないか?
とは言え、その真意はやっぱり一桁護衛隊を警戒監視から解放することだろうな。外国艦艇が大隅海峡や対馬海峡を通る度に、イチイチ護衛艦を引っ張り出されてたら、とてもじゃないが戦闘訓練には集中できないし。
FFMや哨戒艦、旧型の護衛艦に警戒監視をさせて、新しい護衛艦は戦闘能力を磨く。この切り分けが必要なんだろうよ。
なるほど、実戦部隊をきちんと訓練させるためって事ですね。
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練度管理の改革
そういや、この組織編成だと練度管理ってどうするんだろう……?
水陸両用戦機雷戦群が練成期だったら、その間水陸両用戦はできませんってわけにもいかないよね。
当然、練度管理も変わるだろうな。
練度管理ですか?
ああ。現行の護衛艦隊の練度管理は護衛隊群単位でやってるんだ。隷下艦艇が定期検査を集中的にやる時期、訓練して任務行動に耐えられる練度を回復する時期、任務行動に従事する時期と、群同士でぐるぐる回していくことになる。
逆に言えば、「任務行動には耐えられない群」が存在するってことだ。
この練度管理を隊レベルまで格下げすればいいんだ。ある戦隊は高練度、隣の戦隊は低練度と、群内でバランスを取っておけば、常時全ての群が戦闘可能になる。
安全保障環境が厳しくなる中、しっかりと即応体制でオペレーションができる部隊を増やそうということで再編成した。第1~3水上戦群がメインの部隊となるが、そこに今まで4つあった護衛隊群を3つにして、1つの水上戦群に設ける船の数を増やす。そうすることで、1つの水上戦群の中で即応であったり、遠征であったり、訓練であったりに回していくことができ、いざ何かあれば3つの水上戦群すべてがオペレーションができる形にする。
「海上自衛隊、護衛艦隊を廃止して「水上艦隊」(仮称)を新編へ」(高橋浩祐)より、防衛省担当者の解説
ということは、群の訓練査閲も無くなる!?
そりゃ、無くなるかもしれないけど、楽になるわけじゃ無いと思うぞ?
個艦レベル・隊レベルでの訓練がより面倒になると思うんだが。
それに群レベルの練度維持自体はしないといけないから、群訓練も無くなりはしないだろ。
そ、そうだよね……。
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人事も変わる?
あと、気になっているのが司令部機能だな。
これを期に隊レベルのスタッフを増強するんじゃないか?
例の、DMOのためってやつ?
分散海上作戦(DMO: Distributed Maritime Operation)
2010年代中頃から提唱され始めた、米海軍が推進する海上作戦の構想。艦艇をはじめとする、センサーや攻撃武器のプラットフォームを戦域全体に広く分散させ、これらを抗たん性の高いネットワークで連接することにより、彼のA2/AD圏内における我の行動の自由を確保し、彼の行動の自由を制約する。
この構想が登場した背景には、技術革新(人工衛星・無人偵察機などによる情報収集能力の向上や、対艦ミサイルの性能向上など)により、大型戦闘艦艇同士が見通し距離内に留まるようなグループの存在秘匿や被害回避が困難になったことが挙げられる。すなわち、戦力を集中させて被害を出さないことを志向するのではなく、戦力を分散配備することによって一網打尽になることを回避し、部隊全体の戦闘能力を維持する必要がある、と考えられたことによる。
(被害が避けられないため高コスト艦を集中させない、という考え方はLCS導入時のストリートファイターコンセプトに通ずるものがあるが、それらがMOOTW(戦争以外の軍事作戦)を念頭に置いていたのに対し、DMOは大国間戦争を勝ち抜くためのコンセプトである。)
また、戦いの焦点が認知領域に移りつつある現代では、我の状況を複雑にすることで、彼の情報収集やその分析にかかる労力を増大させ、意思決定サイクルを遅延させることが有効と考えられている。艦艇が広く分散配置されると、各艦艇が何を目的に行動しているのか、我がどこまで索敵できていて、何を攻撃しようとしているのかが分かりづらくなり、彼の攻撃目標の優先順位選定などを難しくすることができる。そのようにして、意思決定の優越を目指すのも、DMOの特徴である。
一方で、DMOは各プラットフォームが敵の攻撃に晒されることを前提としているため、部隊の損耗や通信途絶により作戦の継続に支障が生じる恐れがある。したがって、そのような状況に陥っても部隊全体の作戦を継続するための仕組みを構築することが必要である。
そうそう。市ヶ谷や船越での司令部機能の強化も必要なんだろうけど、敵の攻撃や通信妨害に晒されて被害が発生したら、中央からコントロールするのはあんまり現実的じゃないだろ?
そう考えると、現場で作戦の遂行を管理する人間が必要になるはずなんだよ。
それが、隊レベルになるってこと?
ああ。群司令部も増強した方が良いだろうが、隊の方が優先かな。群司令部は所詮、旗艦が被害を受けたら機能を喪失してしまうからな。群司令部の統制から離れても、残った数隻の艦で戦い続けようと思ったら、隊に作戦の指揮を執らせるしかない。
ああ、それで隊の人が増えるっていうのか。
確かに、現行の隊付2名体制だと、とても作戦を回せる状態ではないもんね。あと1名はいないと。
でも、そんな人、いるの?
それもあって3個水上戦群なんじゃないか、という気がしてる。4個護衛隊群をバラして、3個水上戦群にするんだろ?水陸両用戦機雷戦群の幕僚はほとんど掃海隊群の幕僚が横滑りするだろうし、哨戒防備群は水上戦群ほどは幕僚の数もいらないんじゃないかと思う。
そうなると、群司令部の数が減る分、余った人数は水上戦群司令部の幕僚や、その下の隊の隊勤務を増強するのに使われるんじゃないかな。
うーん。言わんとしてることは分かるんだけど。
本当にそんなに人数余るのかな?
まあ、そうじゃなきゃ、艦艇から人を引っぺがすだけだろうな。
ゲーッ!?また!?
この記事では、令和7年度概算要求に登場した水上艦隊について、次の内容を説明します。
- 令和7年度概算要求に水上艦隊(仮称)の新編が記載された。
- 水上艦艇部隊を部隊を一元的に指揮監督する部隊
- 主に護衛艦隊と掃海隊群を一つにした組織
- 艦艇部隊は、第1~第3水上戦群、水陸両用戦機雷戦群、哨戒防備群に再編される。
- 地方隊隷下の掃海隊やミサイル艇隊も組み込まれる。
- 海上訓練指導隊群の機能は維持される可能性が高い。
- 水上艦艇部隊を部隊を一元的に指揮監督する部隊
- 組織再編のねらい
- 水陸両用戦・機雷戦に対応可能な組織づくり
- 掃海隊群任せになっている現状の是正がねらいか。
- 低烈度な警戒監視業務の専従化
- 新型護衛艦と、FFMベースライン1・哨戒艦・旧型護衛艦の業務切り分け
- 「実戦で戦う部隊」を訓練に集中できるように
- 練度管理の改革
- 護衛艦隊は護衛隊群単位での練度管理を実施
- 群内で、隊レベルでの練度管理に移行することで、常時各群が戦闘可能な状態を構築
- 人事も変わる?
- 通信妨害や被害発生下で、部隊を有機的に連携させるためには、現場での作戦立案・遂行能力が必要
- 群・隊の幕僚・隊勤務が増強される可能性
- 水陸両用戦・機雷戦に対応可能な組織づくり
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