この記事では、護衛艦のパートについて次の内容を説明します。
- 「電子整備」はレーダー等、電子機器の整備を行うパート。
- ET(Electronic Technician)と呼ばれることが多い。
- 整備の対象は主に船務科が扱う機器。
- 艦内の電話設備・放送設備などは、電機員が受け持つ艦もあるが、ETが受け持つ艦が多い。
- かつては電子機器が故障すると、ET員が原因を調査し、基板上の不良パーツを交換していた。
- 電子技術のレベルでは他のパートの追随を許さない技術者集団。
- 近年では電子機器のユニット化・モジュール化(丸ごと交換)が進んだため、ET員が艦上で修理することは少なくなってきている。
- 航海中のワッチが無いパートとして有名。その代わり、不具合があれば夜を徹して作業する。
- ETが整備する機器は、航海中に完全に止めるわけにはいかないものが多いため、本格的な原因調査や修理、業者との調整などは入港後に行うことが多い。そのため、停泊中に休むのが難しいパートでもある。
- 近年では、電測員の人手不足を補う観点から、ET員を電子戦の配置につける艦も増えてきている。
- B幹・C幹になると仕事がまるっきり変わってしまうパート。
- 幹部になると電子整備幹部になるが、艦艇での電子整備幹部の配置は武整長・士(CDS長・士)しかないため、砲雷科幹部になってしまう。
- 中級課程を修業すると電子整備幹部の特技は失われ、射撃幹部になるため、さらに元の業務から遠ざかる。
水雷長、次はETですか?
え?ええ。そうですよ。
なら、ここは私が。
何ですかな?武整長。船務科の紹介をしようというのに。
……古巣のことです。私にやらせてください。
ふむ……まぁいいだろう。あとは任せたよ?
電子技術では艦内随一の技術者集団
横から失礼しました。
今から説明するのは「電子整備」。レーダー等、電子機器の整備を行うパートです。
砲雷科のCDS員は電子整備員の人がなるという話でしたが……
ええ、電子整備員の特技を持っている隊員が護衛艦で勤務する場合、CDS員になるか、電子整備員になるかです。
船務科の電子整備員はCDS員と区別する意図もあって、よくET(Electronic Technician)員と呼ばれます。
E.T.……
宇宙人みたいな呼び名ですよね?私も入隊したときは思いました。
広告
電子機器の故障時に即応!
ET員が担当するのは、主に船務科が操作する電子機器です。レーダー自体やその内容を表示するレーダー指示器などはETの受け持ち機器の代表例です。
一方で、武器の電子機器は原則として触りません。こちらは砲雷科の所掌の者がやりますから。
他に、電子機器っていうと何があるんです?
たとえば、IFFの機材ですね。厳密にはこれもレーダーの一種ですが。他にも戦術データリンクや艦ヘリリンクのための機材、それから艦内で情報共有するためのネットワークや通信員が扱う通信機も一部整備することがあります。
少し変わった例を挙げると、艦内の放送設備や電話設備ですね。艦によっては機関科の電機員が担当する場合もありますが、ETが面倒を見ている艦の方が多いはずです。
具体的にどういう業務をしているかと言えば……レーダーを例に挙げると、回転するタイプのレーダーは停泊中に風で回り出さないよう固定されていますが、この固定・開放の切替をするために、マストをよじ登ったりします。
他にも、冷却水が止まったりしないように見回りもしますし、悪くなっているようなら部品の交換もしたりします。
部品交換ですか?
ええ、もともとETの仕事はそういうものでした。電子機器が悪くなったら筐体を開け、テスターをあてて部品が正しく動いているかチェック、悪くなっているパーツがあれば交換……つまり基板から古いパーツを外して新しいパーツをはんだ付けする、かつてはそういうのがETの仕事でした。
……すごいですね。私も電子工作はしたことがありますが、基板上のパーツを測定したり、交換したりなんてしたことはないです。
ええ。間違いなく、ETは電子技術について他のパートの追随を許さない技術者集団です。
……とはいえ、私が入隊した頃にはそういう文化も風前の灯火でしたが。
電子機器が小型化・高性能化して、部品も表面実装されるようになってきましたから、手で部品を付け直し、なんてわけにはいかなくなりました。
それに、部品のユニット化・モジュール化も進んで、故障したときには部品を丸ごと交換、という業務フローへと変わりました。
……だから、今となってはET員が艦上で基板を修理するなんてことはほとんど無くなりました。今ではET不要論なんてのを公然と口にする幹部もいます。
ま、まぁ、そうかもしれないけれど!故障した時の原因究明なんかは未だにETがやってるからね!
広告
ワッチは無いが……
ETについてよく言われるのは、航海中のワッチが無いことです。
……面と向かってこそ言われませんが、他のパートはあまり快く思っていません。
いや、それは考えすぎでは……
とは言え、受け持ち機器に不具合があれば、夜を徹して修理にあたります。ETは受け持ちが広いので、何かしらの面倒を見ていることがほとんどです……!
それから、航海中に完全に止めるわけにはいかない機器が多いというのは忘れないでもらいたいものです……!
つまり、入港するまで、本格的な故障探求や修理作業は出来ない。すべては入港して、皆が上陸してから原因を調べて、しかもだいたい乗員には手に負えないことになるので、修理業者との調整もそこでやるのです。
運用や機関科と並んで、ETも停泊中に休みが取りづらいパートです。
おお……それは確かに大変ですね……。
そういう状況ですが、最近ではEW、つまり電子戦員としてワッチに組み込む艦も増えてきました。電測員が不足しているためです。
……仕方ないのは分かりますが、どうせワッチに入ってなかったからいいだろうと、そういう意図を感じます。
そ、そうですね……。
広告
幹部になると砲雷科へ……
さっき言ってましたけど、武整長はもともとETの人だったんですか?
……えぇ。そうでした。
電子整備員は幹部になると電子整備幹部という特技を付与されます。ただ、護衛艦で電子整備幹部の配置は武整長・士、DDGで言うところのCDS長・士しかありません。
なので、艦艇のET員は幹部になると必然的に砲雷科幹部になります。
こうなることは分かった上でB幹になりました。しかし、覚悟していても、やはり辛いものがあります。
……私が勝手に思い込んでるだけなのも分かってます。でも、私がET員として研鑽した10年に意味など無かったのだと、海自から言われているような気がしてなりません。
……それで、中級に行かないようにしてるんですか?
ええ。中級を出ると、電子整備幹部の特技は失われて、射撃幹部を認定されます。そうなると、いよいよ私はなんのためにETをやっていたのか分からなくなってしまう。
砲雷長は薦めますが、私には……出来ません。
……。
いえ、すみません。
お客さんの前でグチグチと……。
今回のところは、ETという連中がいて、目立たないけれど大切な仕事をしているんだと。そこを覚えてもらえたら何よりです。
では、失礼します……。
武整長……
なんだったんだ、あの人は……?
コメント