護衛艦パート紹介シリーズ:ガスタービン員・ディーゼル員

主機エンクロージャー内部で整備を行うガスタービン員。海上自衛隊Twitterアカウントから引用。

この記事では、護衛艦のパートについて次の内容を説明します。

  • 「ガスタービン」「ディーゼル」は主機・補機の操作・整備を行うパート
    • 機関科が艦に提供する、推進力、電気、水、蒸気、空気などを、機械を動かすことで発生させるのが仕事。
    • 機関科の中核になるパートで「機械員」と呼ばれることもある。機械員長より電機員長や応急工作員長の方が先任になることもあるが、通常、機関科のまとめ役になるのは機械員長。
    • 海上自衛隊の艦艇は長らく主機がガスタービン、ディーゼルのいずれかのみという艦がほとんどだった。
      • ガスタービン艦であってもディーゼル発電機を装備している艦は多く、機械員はどちらのエンジンも整備する能力を持たざるを得なかった。
      • DEやFFMには両方のパートが存在するが、人数の少なさもあってほぼ1つのパートとして機能している。ほとんど業務分担しておらず、全員で両方の主機を扱う艦がほとんど。
      • この場合、全体の中の最先任者が「機械員長」と呼ばれ、もう一方のパートの最先任者は員長とすら呼ばれないことも多い。
    • 扱う機器の範囲は広く、機械室にある主機・発電機その他補機のほか、主軸や各所にある空調設備なども担当する。
      • 主機などの例外を除けば、ほとんどの機器は航泊を問わず動き続けている。その発停運転監視などが機械員の仕事。
    • 若い頃は機械室内でのワッチに入り、中堅から上級海曹になると操縦室での運転監視を行うようになる。
      • 操縦室には多くの計器と遠隔操縦装置(MCS)があり、機械室にある主機や一部の補機の発停や出力調整を操縦室から遠隔で行うことができる。
      • 一方で、機器自体の振動や音などを監視することも、不良個所の発見には非常に重要であり、自動化が進んだ現在でも、機械室内での運転監視を重視する機械員は多い
      • ただし、機械室内は非常に高温で、振動や騒音が酷く、長時間滞在して運転監視するのは肉体的負担が大きい。
    • 燃料の管理をするのも機械員の特徴。燃料係(通称オイルキング)は艦の傾斜を考慮して燃料使用計画を立てたり、燃料搭載計画を立てたりする。
      • 艦が入港すると、燃料搭載を行う。搭載作業は機関科総出で行うが、特に中心になるのが機械員。
      • 燃料搭載のため、上陸は遅くなりがち。特に海外での入港時はほとんど上陸できないことも珍しくない。
機関長 降旗3佐

ようこそ機関科へ!

水雷長 遠見1尉

えっ、機関長!?機関士が案内するんじゃなかったんですか?
……ひょっとして、また?

機関長 降旗3佐

うーん、今日も急にいなくなっちゃったのよねぇ……。ごめんなさいね。そういうわけで、お客様には私と応急長で対応します。

募集対象者 京井 未来

よろしくお願いします。

目次

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機関科が機関科たる所以

機械員は機関科の中核

機関長 降旗3佐

これから紹介するのは「ガスタービン」。
主機や補機の操作・整備を行うパートです。

募集対象者 京井 未来

主機というのは推進力を生むエンジンで……補機というのはそれ以外の発電機とか、ポンプとか……でしたっけ?

機関長 降旗3佐

あら、よくご存じですね!その通りです。「ガスタービン」なんて名前だから、プロペラを回すガスタービンエンジンだけ担当していると思われるかもしれませんが、実際には他の機械も扱っているんです。

機関長 降旗3佐

機関科の使命は、推進力、電気、水、蒸気、空気などを艦内の必要なところへ供給することです。
そのために機械を動かして動力などを発生させるのがガスタービン員の仕事。だから、発電機やボイラーを運転するのもガスタービン員が行うんです。

募集対象者 京井 未来

機関科の仕事の一番根幹の部分なんですね。

機関長 降旗3佐

ええ。そういう意義もあって、機関科では一番人数も多いですし、中核となるパートです。
ガスタービン員のことを「機械員」と俗称することもあるんですが、そのリーダー、機械員長は機関科のまとめ役として敬意を払われます。たとえ電機員長や応急工作員長の方が先任であってもです。


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ガスタービンも、ディーゼルも壁はない

募集対象者 京井 未来

そういえば、この艦にはディーゼル員はいないんですか?

機関長 降旗3佐

ええ、本艦は全ての主機がガスタービンエンジンなので、機械員も全員ガスタービン員を乗せています。

水雷長 遠見1尉

海上自衛隊では、永らくガスタービン艦とディーゼル艦が分離していたんだ。
護衛艦はDEを除けばオールガスタービンで、「とわだ」型補給艦や、輸送艦、訓練支援艦なんかはオールディーゼル。そういう艦では「ディーゼル」のパートがDDの「ガスタービン」と全く同じ仕事をしているよ。

機関長 降旗3佐

そうですね。でも、この艦を含めてDDではあってもディーゼルエンジンを発電機として積んでいる艦は多くあります。なので、機械員はガスタービンもディーゼルも、どちらも整備する能力は必要です。

募集対象者 京井 未来

DEだとガスタービンとディーゼル、両方のパートがあるんですか?

機関長 降旗3佐

ええ。DEである「あぶくま」型護衛艦やFFMである「もがみ」型護衛艦、それから練習艦「かしま」は巡航ディーゼル主機と主ガスタービン主機の2種を装備しています。こういう艦には両方のパートがあります。
……そう言えば、水雷長は「あぶくま」型の経験があったかしら?

水雷長 遠見1尉

ええ。ずいぶん前ですが。
確かに、編成上は別のパートということになってましたが、実際はほぼ1つのパートとして動いてましたよ。そもそも人数が少ないってのもありましたが。
艦が修理に入ったときのオーバーホールなんかはその特技の人間がやってましたけど、普段はガスタービン員もディーゼル員もなく、全員で両方の主機の面倒を見てましたね。
そのときはガスタービン員長が機械員長だったんですが、ディーゼルの最先任が員長と呼ばれてるのを見たことがなかったです。本当はディーゼル員長なんですけど。

機関長 降旗3佐

そのくらい、ガスタービンとディーゼルが一体化してたのね。


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実に幅広い所掌機器

機関長 降旗3佐

先ほど述べたとおり、機械員の扱う機器はとても幅広く、機械室に設置されてる主機や補機はほぼ全て取り扱います。
補機も発電機やボイラーの他、特に種類が多いのはポンプです。冷却海水を動かすポンプ、真水を動かすポンプ、潤滑油を動かすポンプ、変節油(プロペラピッチを変えるための作動油)を動かすポンプ……本当に様々な種類の補機が動いています。

機関長 降旗3佐

それに、機器が設置されているのは機械室だけではありません。
艦の後部にある軸室には主軸があって、正常に回転しているか、潤滑油がきちんと回っているかを確認する必要があります。
他にも、区画内が酸欠にならないように空気を供給するための空調設備が艦内の至る所にありますし、消火海水を供給するためのポンプも分散設置されています。これらもすべて機関科の担当で、主に機械員が整備や運転監視を行っています。

水雷長 遠見1尉

機関科が大変なのは、停泊中でも担当機器を止められないことだね。主機なんかはむしろ例外の方で、ほとんどの機器は航泊を問わず動き続けている
それを発停したり、運転監視したりするのが、機械員の仕事なんだ。


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機械室ワッチと操縦室ワッチ

募集対象者 京井 未来

出港中、機械員の人たちはどういう働き方をしてるんですか?

機関長 降旗3佐

若い子は機械室で当直勤務していますが、中堅海曹くらいになると、上の操縦室で勤務するようになります。

機関長 降旗3佐

操縦室には、計器類やMCSという機関を遠隔操縦するためのシステムが設置されています。主機のほか、全てではありませんが、主要な補機の発停や出力調整が遠隔で出来るんです。

水雷長 遠見1尉

艦橋で航海指揮官が「速力を●ノットにしてくれ」って機関科に指示を出すんだ。その内容は速力通信器という機器を介して操縦室に伝えられる。
機関長をはじめとする、運転指揮官である幹部の指示の下、機械員の当直員はエンジンの回転数を変えることで、スピードを調整するんだ。
最近はこのあたりも全部自動化して、艦橋でボタンを押せば勝手にスピードが変わるようになってる艦も多いんだけど、艦橋の当直員はエンジンが悲鳴を上げてないか、なんて気にしたことはないからね。機関科がそこを見るようにしているんだ。

募集対象者 京井 未来

ふうん、遠隔で出来るなら、中に人がいなくてもいいんじゃないですか?

機関長 降旗3佐

最近の艦はそういうつくりになってきています。機器の発停時だけ機械室に入るようにして、それ以外は機械室を無人にする艦も増えました。
でも、計器を見るだけでは気付けないような、機器自体の振動や音などを監視することも、不良個所の発見には非常に重要なんです。自動化が進んだ現在でも、機械室内での運転監視を重視する機械員は多いですね。

水雷長 遠見1尉

ただ、機械室に留まるのは中々に過酷だね……。暑いし、振動も騒音も酷いしで、長時間居続けるのはしんどいよ。大事なのはわかるんだけど。


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切っても切り離せない、燃料との関係

機関長 降旗3佐

それから、もう一つ大事なのが燃料に関する業務です。燃料を燃やすのは機関科に他ならないわけですから、燃料の残量の管理なんかも機関科がやります。

募集対象者 京井 未来

なるほど~

機関長 降旗3佐

特にここで活躍するのが燃料係です。
艦の燃料タンクは艦底付近で縦横いくつもの区画に分かれていて、バラストタンク……つまり、艦が浮きすぎてひっくり返らないようにするための重石の役目も兼ねています。
燃料係は燃料の使用計画を立てて、どの燃料タンクからどのくらいの量を使っていくかを決めます。上手く調整しないと艦が傾いてしまうので、技術が必要になります。
それに海外派遣時に燃料を搭載すると、品質管理や通関の関係で搭載した燃料を別に管理しておく必要も出てきますね。そのあたりを上手く調整するのも、燃料係の仕事になります。

水雷長 遠見1尉

ちなみにこの燃料係、誰が言いだしたのか知らないけど「オイルキング」って俗称されてるよ。むしろ、「燃料係」って言うと通じないくらい。
燃料管理は間違えると、特に搭載時やタンク間の移動時は海中への燃料漏洩に繋がるから、責任重大なんだ。

募集対象者 京井 未来

燃料搭載って、ガソリンスタンドみたいな感じでやるんですか?

機関長 降旗3佐

そうですね。管を差して油を注入するという点では同じです。
海自の場合は、一部の基地を除くと岸壁には給油設備がなくて、油船という小型タンカーを横付けして給油を受けます。
この燃料蛇管を艦の受給口へ持って行ったり、搭載中に油が漏洩していないか監視するのは機関科、特に機械員の重要な仕事です。

募集対象者 京井 未来

さっきも言ってましたけど、油ってそんなに簡単に漏れるものなんですか?

水雷長 遠見1尉

それはもう……。まず、燃料タンクには必ず2つ以上の穴があるんだ。でないと、1つの穴から燃料を注入したときに、中に溜まっている空気の逃げ場がなくて、内圧が高まってタンクが破裂してしまうからね。だからエア抜き用の穴が必ずある。
ところが、エアが抜けてなお油を注ぎ続ければ、エア抜き用の穴から吹き出してくるのは空気ではなく燃料ということになる。
燃料搭載はタンクの水準計を見ながらやるから、普通そんなことは起きないんだけど、ごく稀にそういうのをいい加減にしてた艦がタンクの切り替え操作を遅らせてお漏らしする事がある……。

募集対象者 京井 未来

あらら……

水雷長 遠見1尉

もう一つ大変なのは、燃料搭載しないといけないために、上陸が遅くなることだね。
大型艦になると搭載量も多くなるけど、時間あたりに搭載できる量は変わらないから入港後、拘束される時間が長くなるね。場合によっては、その日には終わりきらないから、翌日また搭載のために出勤しないといけない……なんてことも。

募集対象者 京井 未来

おぉ、それは辛いですね……。

機関長 降旗3佐

そうですね。燃料搭載はどうしても……。発展途上国に行くと、岸壁の給油設備も油船も整備されていないので、タンクローリーを呼んできて搭載することもあるんですが、1台あたりの搭載量が少ない上に、送油圧力も低いので搭載が終わるまでに数日かかってしまうこともあります。
遠洋練習航海だと1回の停泊が2~3泊程度なので、ほとんど上陸できないままに出港しなければならないこともありますね……。

募集対象者 京井 未来

それは……厳しいですね。

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