この記事では、護衛艦のパートについて次の内容を説明します。
- 「気象」は気象予察を行うパート
- 荒天は艦艇や航空機の天敵。行動予定を変更して影響を最小限に抑えるためには、指揮官への分かりやすく正確な報告が不可欠。
- 近年では、衛星画像など気象に関する各種資料が洋上でも手に入るようになったが、資料をどのように解釈するかは依然として気象の専門家の助言が必要。
- 気象員はDD、DDG、DDHなどに1~2名程度在籍。乗艦していない艦も珍しくはなく、その場合は航海員が代行する。
- 気象員の勤務形態は艦により千差万別。
- 航海員同様、艦橋ワッチに動員している艦もあれば、ワッチには加えない代わりに上級海曹としての管理業務を多めに配分している艦もある。
- いずれの場合も、艦長や群司令・隊司令等に直接気象予察の報告をさせられるため、知識に加えて度胸や機転も求められる。
天気は艦の行き先を左右する。
天気をなめるな!
さて、航海科のもう一つのパートは「気象」だよ。
気象……天気予報とかをする人ですか?
そのとおり。「気象」は気象予察を行うパートなんだ。
すごいですね、それが一つのパートになるんですか。
天気はバカに出来ないぞ?なんてったって、嵐は艦と航空機の天敵だから。
街に住んでいるとあまり実感できないかもしれないけど、近くに低気圧があるだけで艦はとんでもない影響をうけるんだ。
波は海面が風に引っ張られることで起きるんだ。陸地に来ると地形のおかげで風も波も弱まるから問題ないんだけど、海の上には遮るものが無い。数十キロ、百数十キロを何十時間も掛けて風に引っ張られてきた波は、とんでもない高さになって艦に襲いかかるんだ。
な、なんですか……これは。
大きな護衛艦とは言っても、嵐に巻き込まれると本当にマズい。救命浮環が飛ばされるとか、そのくらいで済むならいいんだが、艦橋まで波を被って窓を突き破って浸水したとか、ヘリ格納庫のシャッターがひん曲がったとか、そういう話は結構あるんだ。
この話なんかも記憶に新しいね。
吸気口から浸水してエンジンも発電機も止まってブラックアウト、エダクターが動かないから排水できず、風と波に揉まれるがまま浸水量が増え続けて沈没と。
いやぁ……天気ってバカに出来ないんですね……。
ここで大事になってくるのは単に恐れることじゃなくて、どうやったら影響を最小限に留められるか、ってことだ。
このとおり、海が荒れると作業どころじゃ無くなる。本来21ノットでぶっ飛ばすつもりだったのに10ノットしか出せなくなる。洋上補給するつもりだったのに出来なくなる。入港前にヘリを搭載解除しようと思ったのに飛ばせないから入港できなくなる。どれもこれも最悪だ。
でも、悪天候が来ると分かっているならやりようはある。1日早めに出港するとか、洋上補給の実施海域をずらすとか、飛ばせるうちに搭載解除しておくとかな。それをするためは、指揮官に分かりやすく、正確な報告が上がらないといけない。それこそが気象員の使命なんだ。
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いつの時代も大事なのは専門家の見解
でもですよ?今どき気象予報なんて、コンピューターでかなり正確なものが出るじゃないですか?それを送ってもらえば、十分分かるんじゃないですか?
もちろん、それも大事だ。天気に詳しい気象員とは言っても、空を見上げるだけで予察できるわけじゃないしね。
実際、数時間おきに陸上からは衛星画像とか気圧配置とか、その後の予想天気図なんかも送られてくる。
ただ、それだけで意思決定ができるかというと、なかなか難しいぞ?
そうなんですか?
たとえば、風速30ノット、波高3mという予報があったとする。これをもって、どのぐらいの影響が出ると考えるべきか。
ここで難しいのは、同じ波高3mでも、どのぐらい凶悪な3mになるかは、他の色んな条件によって変わってくるということだな。
風と波が同じ方向から到来するのは結構平易な状態。ここにズレがあると、動揺対策が面倒になってくる。もっと厄介なのは波と別に「うねり」が流入してくる場合で、近くを嵐が過ぎたあとなんかは、波と違う方向からうねりがはいってきて艦をシッチャカメッチャカに揺らしてくれる。
このあたりは衛星画像を見ても分からんし、波高●mって数値だけみてもやっぱり分からん。
それが結局どれくらい影響するものになるのか、時間や場所をどのぐらいズラせば影響を許容範囲に収められるのか。資料は与えられても、それを正しく読み解くには専門家の助言が必要なんだ。
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超希少パート
気象員の方は艦にどれぐらいいるんですか?
一つの艦には1人が普通。多くて2人。
それも、ヘリコプターを運用するDDや、司令部が指揮を執るのに乗艦するDDG/DDHの話。DEにはまず乗っていないし、DDでも乗っていない艦はそれほど珍しくはない。
気象員が乗っていない艦はどうするんですか?
その場合は航海員が兼務だね。専門知識がないから結構大変だけど、いないものはいないものだから、しょうがない……。
勤務形態は艦それぞれ。
気象員の方って、どういう働き方をしてるんですか?
これはもう、艦次第だね。
うちの艦では航海員と同じように艦橋ワッチに入ってもらってるけど、他の航海員とペアにしてて、気象業務で必要な場合にはワッチを抜けてそっちをやってもらうようにしてる。
前にいた艦は人に余裕があったのもあって、ワッチから外れてたね。気象業務に専念してくれって。その代わり、その人は1曹だったから分隊の管理業務を他の上級海曹より多めに引き受けてた。
航海員の仕事もするとなると、結構大変そうですね~
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必要なのは口達者……!?
気象員の大変なところは、毎日艦長や隊司令・群司令に気象予察の報告をしないといけないことだな。
大変なんですか?
そりゃあ、もう。うちの艦長はそんなでもないけど、指揮官には変に突っ込んだことや、聞いてもしょうがないことを質問するのも結構いるからな。そういう変な質問にパパッと上手く答えられないと、指揮官は機嫌悪くなるし。気象の知識はもちろんだけど、機転が利いて度胸がある人でないと、なかなか務まらないんじゃないかと思う。
うーん。なんだかなぁ……。
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……はぁ……。
ん?どうしたん?
いや、今日、荒天の話をしてたら急に思い出したんだけどさ。
昔やってた「提督の決断」で艦隊に任務を割り当てて委任しておくと、艦隊がどんどん指示したポイントと違う場所に移動してしまってさ。
ボクはそれが気に入らなくて「絶対にこのポイントにいろ!」って超タイトコントロールしてたんだ。
でも、後になって分かったんだけど、それ、荒天を避けて移動してたんだよね……。
あっ……。
ボクは……なんて惨いことを……。
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