ダメ。ゼッタイ。

記事の要旨

この記事では、薬物乱用防止の啓発を目的として、次の内容を説明します。

  • 薬物の危険性
    • 心身への悪影響と社会的悪影響
      • 大麻事犯の増加:違法性と悪影響の誤認識
      • 所持・使用等は懲戒免職の対象
        • 仮に免職を回避できても、失職リスク大
    • 夏休みの注意点:帰省先で旧友からの勧誘
    • 大麻抽出物の恐ろしさ:「植物片」ではない見た目
      • CBD:合法だから大丈夫、とは言いがたい現実
        • 実際には違法成分を含むことも
        • 違法薬物へのきっかけになるおそれ
  • 薬物に出くわしてしまったら……
    • 摂取しない、触らない。
    • どれほど仲の良い相手でも、離れる。
    • 摂取した後で、それが薬物と気付いた場合
      • 体調に異状が生じたら、ただちに受診を。
      • 車両を運転しない。
      • 処罰を回避するため、最大限の努力を。
        • 薬物は所持だけでなく使用も処罰対象だが、薬物であることを知らずに摂取した場合は、処罰の対象外
        • 必ず警察や上司に、薬物を摂取した可能性があることを申告する。
        • 証拠を残す。残った飲食物や包装などを自己判断で破棄しない。通話記録やメッセージを削除しない。

某日 「ひとなみ」士官室

ひとなみ士官室のイラスト
水雷長 遠見1尉

船務長。服務教育資料を起案しました。合議をお願いします。

船務長 先野1尉

ああ、警衛士官がやる夏季休暇前教育か。ご苦労。
……なんだ、自前で準備したのか。こんなの、服務が用意する資料を流すだけでいいだろ。

水雷長 遠見1尉

もちろん、大半はそうなんですけど。ウチは、薬物の教育ちゃんとやっておかないとマズいかなって……。

船務長 先野1尉

ああ……そう言えば、この艦は初任海士が着任即日警務隊にしょっ引かれた、なんて話もあったんだったか。本格的に後始末が始まったのは、キミが着任してから。まったく貧乏くじも良いところだな。

水雷長 遠見1尉

ええ。会ったこともない奴の懲戒処分手続きで悪戦苦闘しましたよ。拘置所に接見にも行きましたし、裁判も傍聴しに行きましたし。
本当にうんざりでしたが、まぁ、この艦ですからねぇ……。

目次

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薬物の危険性

薬物とは

船務長 先野1尉

さて……まずは、何が薬物に該当するのか、の話か。

水雷長 遠見1尉

ええ。大麻、覚醒剤、コカインといった典型的な「薬物」もさることながら、近年では「危険ドラッグ」と呼ばれる薬物も話題になっています。

船務長 先野1尉

いつも思うが、ネーミングセンスに難があるな……。

水雷長 遠見1尉

もともと覚醒剤などの伝統的な薬物の分子構造にちょっと手を加えて、法規制をかいくぐる手段が横行していて、「合法ドラッグ」「脱法ドラッグ」と俗称されてたんです。今ではそうした類似品も違法化され、合法でも脱法でも無くなったんだぞとアピールするための名前ですね。
厚生労働省・警察庁が「危険ドラッグ」と呼称するようになったので、報道でもそういう呼ばれ方をしますね。

船務長 先野1尉

ま、それくらいド直球でないと伝わらんのかもしれんな。

水雷長 遠見1尉

あとは、医薬品を正規の用途で用いないのも薬物乱用の一種ですね。向精神薬みたいな分かりやすいのもそうですけど、市販薬でも過剰摂取すると危険なのは結構あります。

船務長 先野1尉

あれだろ、歌舞伎町の一角に行くと、咳止めのガラス瓶が尋常でない数散乱しているという……。

心身への悪影響

船務長 先野1尉

で、次はお決まりの心身への悪影響って奴だな。

水雷長 遠見1尉

ええ、依存性があるとか、そういう話はもう聞き飽きてると思うので簡潔に。ただ、いくつかはハッキリ伝えておこうと思います。

怖いのは依存症だけではない。急性症状

水雷長 遠見1尉

よく薬物というと、依存性があって、耐性がつくからどんどん量も増えて、次第に身体がボロボロになって……という話が強調されがちです。

水雷長 遠見1尉

でも実際は、そうした反復使用が徐々に身体を蝕むだけでなく、意識障害錯乱呼吸困難といった劇的な症状が突然発生し、場合によっては死亡することすらある危険性を強調した方がいいと考えます。

船務長 先野1尉

いわゆる急性症状というやつだな。学生の頃、MDMAの危険性として習ったような記憶があるが。

水雷長 遠見1尉

急性症状は、MDMAだけじゃないですね。他の薬物でも起こり得ます。どのぐらい起こるかは体質や摂取状況によりけりで、この種類なら、この量ならセーフというラインはありません

水雷長 遠見1尉

海外の症例だと、薬物の常習歴がないとされる若者が、フェンタニル入りの錠剤を1錠摂取しただけで急性中毒を起こして死亡したケースが報道されています。

船務長 先野1尉

ま、手を出さん人間からすれば、急性も慢性も、どうでもいいがな。

本当に分かってる?

水雷長 遠見1尉

いや、それがですね……。ボクも今回教育のために調べてみて唖然としたんですけど、「禁止されているのは知っている、でも実際はそこまで恐れるほどではないんでしょ?」ってスタンスで捉えている人が、実は結構多いんですよ。その傾向が顕著なのが大麻です。

水雷長 遠見1尉

実際、検挙された人数を見ても、大麻は増加傾向にあります。ここ10年、薬物犯罪全体の数は横ばいで、覚醒剤は減少していますが、大麻は右肩上がりなんですよ。

薬物事犯検挙人員の推移
「令和7年における組織犯罪の情勢」(警察庁)より転載
船務長 先野1尉

このところ、服務指導でやたら大麻について注意喚起されると思ったら、そういう背景があったのか。

水雷長 遠見1尉

厚生労働省が実施したアンケート調査によれば、ほとんどの人は大麻が違法だし危険だと回答しています。

以下のとおり、多数の方が、大麻の乱用は心身に悪影響がある、大麻には依存性があるなど、正しい認識を持っていることがわかった。

  • 回答者の約9割が、大麻乱用は心身への悪影響があるとの認識を有していると回答
  • 回答者の約8割が、大麻に依存性があるとの認識を有していると回答
  • 回答者の約8割が、家族や友人が大麻を使っていたら「止める」と回答

(後略)

「薬物乱用防止に関する調査」の結果について(厚生労働省)
船務長 先野1尉

コレ、1~2割は違うと回答したのか……。

水雷長 遠見1尉

ええ、そこが問題でして。海外では合法だとか、依存性はそんなに高くないと聞いたとか、そういうのを理由に、危険性を過小評価する人が一定数いるんです。

大麻の危険性を過小評価する理由
「薬物乱用防止に関する調査」の結果について(厚生労働省)から転載
船務長 先野1尉

「特に理由はない」が半数を超えているのも気になるな。早い話、興味が無いということだと思うのだが。

水雷長 遠見1尉

ええ、そんなところだとは思います。でも、アンケートに完全に投げやりに答えているなら、わざわざ「依存性が少ない」という意思表示はしないと思うんですよ。アンケート自体を回避することだってできるんだし。

船務長 先野1尉

なるほど。だからこそこの結果は、積極的に大麻を肯定したいわけではないし、正直どうでも良いとは思っているが、別にそんなに危険だとは思っていないという者が結構いることを示していると、キミは言いたいのだな。

水雷長 遠見1尉

ええ、そのとおりです。「アンケートだから本音を語ってない」っていう観点で言えば、むしろ「危険」と答えた人達こそ本音を語っていないのでは?という気もします。

船務長 先野1尉

ふむ。確かに、行政が行うアンケートで、わざわざ違法なことに興味を持っているような回答をするのはバカげているな。本心はどうであれ、教科書的な回答をしてやり過ごしている人間がいる可能性は低くない。

水雷長 遠見1尉

実際、警察が出してる資料も調べたんですが、大麻で捕まった奴らの多くが「なんとなく」としか言い様がない理由で始めてるんですよ。

1 大麻乱用者の実態調査の取りまとめ結果

(中略)

(2) 大麻を初めて使用した動機及びきっかけ(図表3、4)
大麻を使用した動機は、「好奇心・興味本位」が最多で、いずれの年齢層でも約5割を占める。大麻を初めて使用したきっかけは、いずれの年齢層でも「誘われて(唆されて)」が過半数を占める。

「令和7年における組織犯罪の情勢」(警察庁)

この「好奇心・興味本位」という動機、いまいち深刻さが分かりづらいかもしれません。
引用した資料では動機の項目として「好きなアーティスト・音楽からの影響」「ストレス発散」「現実逃避」「多幸感」といった「いかにも」な項目があるにもかかわらず、それらはそんなに高い値を示していません。つまり「メリット」を求めて「よっしゃ、ヤクやるぞ!」と明確な意思をもって始めたわけではないことが、強く示唆される。これこそが、真に深刻と言えるのだと、私は思うのです……。

水雷長 遠見1尉

ボクからすると「なんとなく」で始めるなんて、あり得ないんですけど。そういう行動をしてしまう背景には、やっぱり有害性の認識が欠けているというのが外せないと思います。

令和7年11~12月に大麻単純所持・単純施用で検挙された者の、大麻・覚醒剤に対する危険性の認識の違い
「令和7年における組織犯罪の情勢」(警察庁)より転載

大麻は本当に危ない?合法な国もある?

船務長 先野1尉

確かに、ひと昔前、ネットでやたら大麻解禁を主張している輩がいたな。「アルコールは大麻より危険なのに野放し」とか、そういう言説をよく目にしたものだ。「それほど危険ではない」という認識は、思いのほか浸透しているのかもしれん。

水雷長 遠見1尉

まぁ、アルコールはアルコールで、割と危険なものだとボクは思ってますけどね。文化的に一定の地位を築いているのと、作成難易度の低さから規制出来ないってだけなんじゃないですか。

船務長 先野1尉

素晴らしい。キミは伊藤計劃の世界で生きると良い。茶も砂糖も無い、健康で優しい世界が待っているぞ。

船務長 先野1尉

しかし……よく考えてみれば、実際のところどうなのだろうね。危険危険とは言うが、合法化されている国もあるとは聞く。こんな状況では「実は危なくないのでは」と思う者が出てくるのも当然なのではないかね。

水雷長 遠見1尉

そこなんですよね……。
まず「アメリカでは認められている」って人は結構いるんですが、アメリカは州によりけりで、合法とされている州もある、というのが実態です。連邦法で認めているわけではありません。連邦としてむしろ否定的で、疾病対策予防センター(CDC)はその危険性を訴えています。

How cannabis can affect your health
(大麻が健康に与える影響)

Cannabis is the most commonly used federally illegal drug in the United States, with an estimated 61.9 million people using it in 2022. Cannabis use may have a wide range of health effects on the body and brain.
(大麻は、米国において連邦法で違法とされている薬物の中で最も広く使用されており、2022年の推定使用者数は6,190万人に上ります。大麻の使用は、身体や脳に多岐にわたる健康への影響を及ぼす可能性があります。)

(後略)

Cannabis Health Effects:米疾病対策予防センターWebサイト 2026年7月25日閲覧
船務長 先野1尉

国全体では違法としているのに、州で勝手に合法化しているのか……。

水雷長 遠見1尉

連邦法として違法な状態は存続しているものの、それを州として取り締まるにあたって免許制度などを設ける、というふうにしているようですね。アメリカで、連邦政府はFBIみたいな警察組織を持ってはいますが、原則として日常的な取り締まりは州政府が保有する州警察などが行います。連邦法に基づく取り締まりを、州警察に強制することもできないそうで。

水雷長 遠見1尉

なので、州の免許を得て営業している店でも、連邦捜査官はこれを摘発する法的な正当性は持っているそうで……。

船務長 先野1尉

だが、それを実行に移すマンパワーは無いし、そんなことをすれば州政府と対立することにもなるので、州のルールに従っている限り連邦捜査官は手出しをしない、というわけか。本当に理解しがたい国だな……。

船務長 先野1尉

日本にも大麻解禁論者はいるが、せいぜいネットの片隅で喚いているだけだろ?アメリカはヒッピーが政治家までやってるのか?

水雷長 遠見1尉

これも調べました。合法化されているのは西海岸が中心で、確かに文化的背景から嗜好用途で使いたいという要求が強いのも大きな要因ですね。
ただ、それ以上に、あまりに浸透しすぎていて、合法だろうが違法だろうが、もう蔓延を止められないというのが一番の理由だそうで……。

船務長 先野1尉

……なるほど。どうせ止められないなら、せめて行政の管理下に置かないと、マフィアの資金源にされるからか。

水雷長 遠見1尉

はい。それから、薬物乱用の治療・更正プログラムを運営する費用を捻出するというのも理由としてあるそうですよ。

船務長 先野1尉

安全だから認めているわけではなく、彼らなりに害を最小化しようとして合法化されたのだな。

水雷長 遠見1尉

実際、合法化した州では交通事故の発生率・死亡率が高くなったり薬物関連の救急搬送が増加したりと、多くの問題が発生しています。「取引を地下化させない」って狙いもあまり効果がでてないようで、違法取引をはじめとする犯罪はむしろ増加してしまっているようです。

大麻合法化の影響
第6回大麻等の薬物対策のあり方検討会 資料4(厚生労働省医薬・生活衛生局 監視指導・麻薬対策課)から転載
船務長 先野1尉

行政が公認すれば、本来手を染めなかったはずの善良な市民も始めるようになるからな。当然と言えば当然な気がするが。

水雷長 遠見1尉

健康への影響としては、精神疾患の発症率上昇も指摘されているようです。特に、若年層が使用すると、後からうつ病など繋がりやすくなったり、自殺傾向が高まったりというデータもあるようですね。

大麻使用と精神障害の関連について
第6回大麻等の薬物対策のあり方検討会 資料4(厚生労働省医薬・生活衛生局 監視指導・麻薬対策課)から転載
船務長 先野1尉

脳細胞がダメージを受けるからなのだろうか。ま、いずれにせよ手出しするものではないな、コレは。

水雷長 遠見1尉

ちなみに、連邦職員は連邦法に従う必要があるので、米軍人は合法化されている州でも使用が認められないようですね。

船務長 先野1尉

それは安心材料だな。米軍におおっぴらにヤクをキメてる奴らは、ひとまずいないということか。


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社会的悪影響

懲戒処分と刑事罰

船務長 先野1尉

しかし、こんな健康問題の話をくどくどやるより、サクッと刑罰の話をした方がいいんじゃないか?

水雷長 遠見1尉

ええ。そう思って、この後社会的悪影響の話も入れてます。
まず、懲戒処分の話ですね。自衛隊の懲戒基準では、薬物乱用は一発で懲戒免職の対象です。

別表第2(第13条第1項第2号関係)

規律違反の態様規律違反の態様
(1)麻薬、大麻、あへん、覚醒剤、危険ドラッグ等の所持等免職
懲戒処分等の一般的基準に関する訓令(防衛省訓令第324号。令和7年7月31日)
船務長 先野1尉

これは、ちと矛盾しているな。医薬品の不適正使用なども薬物乱用なのだろう?だが、咳止めを大量に飲んだからと言って、免職にはならんだろう?

水雷長 遠見1尉

あ……言われてみれば。

船務長 先野1尉

まあ、重箱の隅をつつく話だし、無理に直さんでもいいか。

船務長 先野1尉

この話のポイントは、他の窃盗や傷害なら「免職、降任、停職、減給又は戒告」などと懲戒処分の内容に幅があるところ、薬物乱用だと「免職」以外の選択肢が用意されていないことだな。

水雷長 遠見1尉

そのとおりです。基本的に、クビになる以外の未来はないです。

水雷長 遠見1尉

で、それとは別に、刑事訴訟にも直面することになります。薬物は結構重いです。

各種薬物の所持・使用等への規制

普段なら条文を引用するところですが、あまりに量が多いので、代表的なものを整理しました。

  • 覚醒剤取締法
    • 覚醒剤の所持・使用など:10年以下の拘禁刑
  • 麻薬及び向精神薬取締法
    • ジアセチルモルヒネ(ヘロイン)等の所持・施用など:10年以下の拘禁刑
    • 麻薬(コカイン、大麻、MDMAなど)の所持・施用など:7年以下の拘禁刑
      • 咳止めの市販薬に含まれるコデインも麻薬に該当し、低濃度製剤が例外的に規制対象外とされている。
  • あへん法
    • あへん・けしがら等の所持・吸食など:7年以下の拘禁刑
  • 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
    • 危険ドラッグの所持・使用など:3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその併科
  • 毒物及び劇物取締法
    • シンナー等の摂取・吸入またはその目的での所持:1年以下の拘禁刑もしくは50万円以下の罰金、またはその併科

乱用のおそれのある医薬品は、使用自体は法規制されていないものの、販売・流通管理の厳格化などにより乱用を防止する規制が行われています。

水雷長 遠見1尉

あと、近年の法改正で薬物乱用で交通事故を起こした場合の処罰がより厳格化されています。薬物の影響で事故を起こした場合、通常の事故よりも重い刑罰が科せられますし、最近では事故後に薬物を使用して「事故時は使っていなかった」と言い訳するとか、大量に水を摂取して体内の濃度を薄めようとするとか、そういう行為も処罰対象になっています。

(危険運転致死傷)
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期拘禁刑に処する。
一 省略
二 薬物影響正常運転困難状態(薬物の影響により正常な運転が困難な状態をいう。次条第一項において同じ。)で自動車を走行させる行為

第三条 アルコールの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、アルコール影響正常運転困難状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は十五年以下の拘禁刑に処する。薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、薬物影響正常運転困難状態に陥り、人を死傷させた者も、同様とする。

(注:第2条は既に正常な運転が困難な状態で運転を開始した場合を指し、第3条は運転開始時点では正常な運転が困難とまでは言えないがそうなる可能性が十分あった場合を指す。)

過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱
第四条 アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたときは、十二年以下の拘禁刑に処する。

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
船務長 先野1尉

危険運転致死傷と言えば、最近は飲酒運転のことで度々ニュースにもなっていたが、薬物も処罰対象なのだな。

船務長 先野1尉

いずれにせよ、仮に、懲戒手続きがあり得ない方向に進み免職を回避できたとして、刑事も回避しないとクビは避けられないのか。

水雷長 遠見1尉

はい。自衛隊法の規定では、拘禁刑(かつては禁錮刑)以上の刑罰を科された段階で欠格条項に該当し、自動的に失職することになります。たとえ、執行猶予がついてもアウトです。

(欠格条項)
第三十八条 次の各号のいずれかに該当する者は、隊員となることができない
一 拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者
二 法令の規定による懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者
三 日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者
2 隊員は、前項第一号又は第三号に該当するに至つたときは、防衛省令で定める場合を除き、当然失職する。

自衛隊法
船務長 先野1尉

ヤクをキメるなら、クビになることは覚悟しておけよ、と言うことだな。果たして、それで思いとどまらせられるかどうかは、よくわからんが。

水雷長 遠見1尉

どうですかね……。これだけ教育されていても、自衛隊内での薬物事案は毎年のように起きているのが現実です。

近年の自衛隊関係者の薬物事案
  • 2023年3月 陸上自衛隊に入隊した自衛官候補生が、入隊前身体検査で大麻陽性反応⇒自宅への捜査で大麻発見、さらにもう1名も自宅から大麻が発見される。
    • 同年6月 2名とも懲戒免職
  • 2023年4月 陸上自衛官が友人の勧めで大麻を吸引し、その後の職務質問で検挙
    • 刑事では不起訴となったが、2025年1月 懲戒処分
  • 2023年11月 情報本部所属の航空自衛官が、いわゆる「大麻クッキー」を摂取したことが発覚
    • 同年12月 懲戒免職
  • 2024年3月 情報本部所属の1等陸尉が、覚醒剤の使用と知人女性の譲渡により逮捕
    • 同年6月 懲戒免職
    • 逮捕・免職時、実名報道された。
  • 2024年7月 防衛装備庁新世代装備研究所の防衛技官が、受診時に挙動不審であったことから医師が尿検査を実施し、覚醒剤の陽性反応が出たため逮捕
    • 同年10月 懲戒免職

――と、投稿日までの事案を書き連ねようと思ったのですが、あまりにも件数が多く心が折れたので止めます……。

船務長 先野1尉

毎年のように、どころか、年数件起きているな。

水雷長 遠見1尉

ええ、そうですね……。

船務長 先野1尉

しかし、刑事では不起訴になっても、懲戒免職になることがあるというのは本当なんだな。

水雷長 遠見1尉

はい。刑事訴訟の推移はもちろん懲戒処分に大きく影響してくるんですけど、刑事罰と懲戒処分はあくまで独立したペナルティです。懲戒手続きは刑事ほど「疑わしきは罰せず」というわけでもなく、本人の供述やある程度信用出来る証言があれば事実認定され懲戒処分が成立するんです。

水雷長 遠見1尉

さっきの事例で出てきましたけど、入隊時の身体検査では薬物検査が行われますし、それ以外でも無作為抽出ですけど抜き打ちで検査が行われますからね。防衛省が積極的に薬物乱用者をハンティングしに行っていることはもっと知られて良いと思います。

船務長 先野1尉

あの抜き打ち検査も、実は対象者がある程度恣意的に選ばれている説があるな。我々は選ばれた人間に検査に応じろと指示するだけなので、どうやって選ばれているか知らん。だが、私が警務官なら、捜査上「可能性がある」として浮かび上がった奴がいるなら、わざわざ面倒な裏取りなどせず、検査にねじ込んで、それを根拠に家宅捜索に持ち込む。

「生命を左右する」薬物乱用

水雷長 遠見1尉

でも、ボクとしては、懲戒処分や刑事罰より、もっと根本的な危険を訴えたいと思うんですよ。

水雷長 遠見1尉

海上自衛官の働く場所はどこも危険がつきまとうじゃないですか。普通のサラリーマンみたいな生活をしている人も、いるにはいますけど。大多数の人は手順を間違えれば命に関わるような作業にあたっているわけです。

水雷長 遠見1尉

投錨の時に錨鎖に巻き込まれたら一発アウトですし、内火艇の運航だって舵取りを一つ間違えれば艇員が海に投げ出されることがあります。艦内でも油圧装置に巻き込まれて腕を欠損させる人がいます。そういう職場で正常な判断力を失うというのが、どれほど恐ろしいことなのかを理解してほしいんですよ。

船務長 先野1尉

ま、そうだな。別に機器の取り扱いでなくとも、ラッタルを踏み外して落ちれば最悪命を落とすし、なんなら酔っ払って岸壁から落ちて死ぬ奴もいるしな。

水雷長 遠見1尉

ましてや、航空部隊なんか論外ですよね。手順一つ間違えたら、本当に墜落に繋がるわけです。

水雷長 遠見1尉

そういう事故が起きたとき、命を落とすのは自分自身じゃなくて、隣にいる友人かもしれない……。そのことを、皆には真剣に考えてもらいたいと思うんです。

船務長 先野1尉

キミの言いたいことは分かる。が、過去の服務指導も度々そういう話はしてきた上で、食い止めることが出来なかったのだよ……。

部隊全体を巻き込む薬物事案

水雷長 遠見1尉

そうなると、あとは部隊全体に降りかかる不利益の話ですね……。

水雷長 遠見1尉

艦艇で薬物事案が明らかになった場合、捜査がある程度進むまで上陸止めになったっていう話聞いたことあります?

船務長 先野1尉

ああ、聞いたことがあるな。私が入隊した頃には、既にそういう話が出回っていたから、だいぶ昔の話だとは思うが。

水雷長 遠見1尉

こんな話、どこかに記録が残るわけでもないから、真偽の程は定かじゃないんですけどね。

船務長 先野1尉

職場内での乱用の可能性が高まれば、あるいは同僚にも影響している可能性があれば、当然職場内の家宅捜索や同僚の検挙などにも繋がる。
上陸させると逃亡や証拠隠滅のおそれが高まると判断されれば、上陸止めになる蓋然性は十分にあるだろうな。

水雷長 遠見1尉

そうなれば、原因となった人物は、周囲に多大な不利益を振りまくことになるわけです。責められることがなくても、相当いたたまれないことになるんじゃないですかね。

薬物に限らず、海上自衛隊で何か事案が起きた時に上陸止めにする風習は、かつて一般的なものでした。一例として、2008年「あたご」がCSSQTの帰国途上で漁船と衝突事故を起こした時は、政治的判断もあって約1か月間にわたり上陸止めが行われました。こうした上陸止めは、上陸した先で「余計なこと」をしでかさないようにするため、というリスク回避によるところもありますが、何より「反省の姿勢」をアピールする意味合いが強いと言えます。
近年、こうした長期間の上陸止めは、乗員の精神衛生に悪影響を与え、さらなる服務事故を誘発する(実際、「あたご」衝突事故の時は乗員の自殺未遂が発生)ことを考慮し、あまり行われなくなっています。が、それに代わり「メチャクチャ激務を押しつけられる」という新たな反省が明確になりつつあります。数年前、ある事案を発生させた某艦は、予定を大幅に変更し、休暇を返上、母港から遠く離れてひたすら訓練に明け暮れる日々を送る羽目(基本的なことが出来ていないから訓練し直す、という名目なので、一応論理は通っている)になっていたと言います。また、別の事案を発生させた某艦は、修理期間中、他の修理艦艇より遥かに多い臨時勤務の派出を行い、留守番担当のごく僅かな人員がギリギリで艦内の業務を回していた、という話も耳にしました。(それが新たな事案の遠因となったのは、また別の話……)
私としては、どうせ主要人員は更迭や定期人事で交代してしまうので、半年経っても1年経っても「艦」を責めるのは合理的でないとは思いますが、穴埋め・火消しに奔走させられた他部隊の心情を思えば、やらかした艦がのうのうと休んでいることを許容出来ないのも、また真実であると思います。自衛隊が人間の組織である以上、何か問題を起こせば「反省」アピールをしなければならなくなるのは、時代が変わっても不変なのです。


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夏休みは特に注意!

船務長 先野1尉

キミの資料に一応書いてはいるが、夏休み前にどうして薬物乱用防止教育をするのか、もう少し強調した方が良いな。

水雷長 遠見1尉

そうですか?

船務長 先野1尉

試しにそこの愚者に尋ねてみたまえ。

水雷長 遠見1尉

えっと……砲術士、ちょっといい?

砲術士 嶋村3尉

はい!

船務長 先野1尉

……私は、別に砲術士だとは言わなかったのだが。

水雷長 遠見1尉

えっ、いや……それは……。

砲術士 嶋村3尉

水雷長 遠見1尉

砲術士は、薬物乱用について、どうして夏休みが危ないか分かる?

砲術士 嶋村3尉

ああ。そりゃあ、帰省先でやらかすからですよ!

水雷長 遠見1尉

ほら、砲術士だって分かってるじゃないですか。

砲術士 嶋村3尉

私の中高の同級生も、何人かしょっ引かれてますからね!防大時代も、久々に会って呑んだら、クラブで怪しいタバコに火を付けだした奴とかいましたよ。

水雷長 遠見1尉

……。

船務長 先野1尉

……キミのような温室育ちには、まるで想像も付かない世界が、そこにはあるのだ。

水雷長 遠見1尉

知識として、そういう事例があるとは知っていたんですが。まさか実例がこんなところにいるとは。
え、その時はどうしたの?まさか一緒になって吸ったりしてない?

砲術士 嶋村3尉

ははっ、まさか!巻き込まれると面倒だなと思って、警急呼集が来たって嘘ついて、そのまま別れましたよ!

通信士 与那覇3尉

……どさくさに紛れて、凄いこと訊くんですね。

水雷長 遠見1尉

あ、その。なんか……ゴメンね?

砲術士 嶋村3尉

水雷長 遠見1尉

気を取り直して。やっぱり帰省は結構リスクが大きいですね。

船務長 先野1尉

部外の世界では、自衛隊ほど薬物乱用防止の教育などしていないからな。そもそも私行上の非行にこれほど口出しする組織は、警察か自衛隊くらいだろ。

船務長 先野1尉

先ほどキミが述べたように、一般人の薬物への警戒心は必ずしも高くない。大麻に至っては、そこら辺の中高生すら検挙される有様だ。
部外の人間との接触機会が増えれば、それだけ薬物に触れる機会が増える。

水雷長 遠見1尉

ええ、そこで自衛官自身の警戒心が緩いと、うっかり手を出してしまうということです。
ほとんどの年齢層で、始めたきっかけが「友人に誘われて」であり、危険性を軽視する情報の入手先で最も多いのが「友人・知人」です。

船務長 先野1尉

薬物に限らず「友人からの働きかけ」は、人間の弱いところを刺激するものだ。まったく、そんなことに警戒しなければならないとは哀しいものだな。


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大麻抽出物に注意!

船務長 先野1尉

そして……次に資料に出てくるのは……やっぱり大麻の話か。

水雷長 遠見1尉

ええ。何しろ件数も多いので。

水雷長 遠見1尉

大麻について警戒して欲しいのは、ボクらが想像する「大麻」って、植物片の見た目をしていたり、それをタバコに混ぜたりしたものじゃないですか。でも、最近はそれだけじゃないんですよね。

船務長 先野1尉

あとは、大麻樹脂か。隠語で「チョコ」と呼ばれるというから何かと思ったら、教科書に板チョコみたいな茶色い板の写真が載ってたな。

水雷長 遠見1尉

最近はグミやクッキー、リキッドのような、一見すると薬物に見えないモノが流通しています。挙げ句の果てには、バスボムなんてのまであるんですよ。

船務長 先野1尉

もはや何でもアリだな……。

水雷長 遠見1尉

大麻抽出物が蔓延していて、これを混ぜ込めば、だいたい何でも薬物になります。

船務長 先野1尉

リキッドというのはなんだ?よく知らんのだが、注射するのか?

水雷長 遠見1尉

いえ、リキッドも吸入するヤツです。電子タバコ……アイコスみたい加熱式タバコではなくて、カートリッジに入った液体をミスト化して吸い込むヤツがありまして。一般に売られている電子タバコは、味や香りを付けただけの液体なんですけど、そこに大麻抽出物が入ってるモノがあるんです。

船務長 先野1尉

ふむ。本当に色々考えるのだな。

水雷長 遠見1尉

いきなり注射器をドンと置かれたら、みんなビビって逃げると思うんですけど、お菓子みたいな見た目をしていると、なかなか警戒しづらいと思います。リキッドも、普段電子タバコ吸ってる人からすると、ちょっと変わったフレーバーを試してみようくらいの感覚じゃないですかね。

船務長 先野1尉

なるほど、蔓延するわけだ。なんなら、大麻が入ってることすら知らずに口にすることもあるだろうな。

CBDは大丈夫?

水雷長 遠見1尉

この問題を複雑化させているのが、CBDという大麻抽出物です。

船務長 先野1尉

む。聞き覚えがあるな。……そうか、基地の近くの電子タバコ屋が看板を出してたな。あれは大麻抽出物だったのか。

水雷長 遠見1尉

CBDはカンナビジオールと呼ばれる物質で、大麻特有の陶酔作用などを示さないと言われています。日本でもCBD自体は麻薬指定されていません

船務長 先野1尉

それは知らなかった。大麻なら一律にアウトなのだと思っていたな。

水雷長 遠見1尉

海外では「てんかん」などの治療薬として承認されたケースがあり、日本でも治験は始まっているようですが、今のところ承認に漕ぎ着けたケースはないようですね。
で、御多分に漏れず、嗜好品としての利用も盛んです。合法な大麻として、日本でも流通しています。

船務長 先野1尉

ま、合法なら放っておけば良いではないのかね。そこまで口出しすることはなかろう。

水雷長 遠見1尉

いえ、そうとも言い切れない問題がありまして。
CBD製品として流通しているモノが、本当に合法なのか疑問が残るんです。

水雷長 遠見1尉

CBDを抽出する際、大麻の有害成分で、違法成分として規制されているTHC(テトラヒドロカンナビノール)が混入するんです。本当に医療用として用いられているモノは、純度を高めて影響を無くすようにしているようなんですが。

船務長 先野1尉

ははあ、嗜好品として流通しているモノは、そんなコストをいちいち掛けていないから、違法成分が混入したままになっているおそれがあるのだな。

水雷長 遠見1尉

そうした事例は実際に発生しています。合法だと思っていたら、実は違法だった、ではシャレにならないんです。

水雷長 遠見1尉

米海軍では職員に対しCBDの使用を禁止しています。CBD製品であっても、THCを含有することがあるのは当然と考えているようですね。

Q. Can Sailors use CBD products?
(海軍軍人はCBD製品を使用できますか?)

A. No. CBD products are not allowed under the Navy’s drug policy. Products that include THC are typically age-restricted and more expensive than non-THC products. They often have some sign on the label that it contains THC because it’s a selling feature of the product.
(いいえ。海軍の薬物方針により、CBD製品の使用は許可されていません。THCを含む製品は通常、年齢制限があり、THCを含まない製品よりも高価です。THC含有は製品の販売ポイントとなるため、ラベルにはTHCが含まれていることを示す表示がされていることがよくあります。)

THC Usage Across the Fleet Fact Sheet (MyNavy HR February 2023)
水雷長 遠見1尉

それから、CBDは確かに法規制されていませんが、そもそも無害であると証明されたわけではありません

船務長 先野1尉

医薬品として用いられるということは、身体になんらかの作用を及ぼすのだろう。それを単なる嗜好品として摂取して問題無いとは思えんな。

水雷長 遠見1尉

そのとおりです。今後の研究によっては、思わぬ作用が明らかになって、規制される可能性も否定出来ません。

君子危うきに近寄らず

船務長 先野1尉

ま、一つ言えることは「君子危うきに近寄らず」だな。

水雷長 遠見1尉

ええ、まったく。
さっきのCBDではないんですけど、何年か前には合法だとされていた大麻抽出物による健康被害も発生しています。

水雷長 遠見1尉

ちょっと話が複雑なんですけど。お祭りの会場で、当時合法だった「HHCH」製品であるグミを周囲に配ったヤツがいたんですよ。で、それを食べた人が次々と体調不良になり、救急搬送される事態になったんです。

船務長 先野1尉

そういえば、そんなニュースも耳にしたな。

水雷長 遠見1尉

で、検査をしてみたら、そのグミには違法成分である「THCH」が含まれていたと。これによって、グミを配ったヤツは指定薬物所持で摘発されています。

船務長 先野1尉

「自分は食べるとふらふらになるので食べなかった」とか書いてあるぞ。なんて迷惑な輩なのだ……。

水雷長 遠見1尉

問題はここからで、パッケージに記載があったHHCHも、別に無害な成分ではなくて、摂取して救急搬送される事件が頻発していたということで、指定薬物に追加されることになります。

水雷長 遠見1尉

さっき説明したCBD製品の販売店では、当たり前のようにHHCH製品も並んで販売されていました。取扱業者も、CBD、THC、HHCH、THCHも何が違うのかよく分からないまま販売している実態が浮き彫りになったんです。

船務長 先野1尉

つまり、
① 今規制されていないことは、将来にわたって安全・合法であることを保障しない。
② グレーゾーンを攻めると、違法品を掴まされるリスクがある。

ということだな。

水雷長 遠見1尉

はい。

船務長 先野1尉

そもそも、まっとうな生き方をしている人間なら、わざわざリスクのある大麻抽出物の販売を生業にしようなどとは考えないものだ。本当に法的・安全リスクが低いなら、マツモトキヨシやココカラファインの店頭に大麻抽出物が並ぶだろう。

船務長 先野1尉

そういうグレーな人間が、客の心身と法的な安全性を保障してくれると考えるのは、いささかナイーブとしか言えん。

水雷長 遠見1尉

それは手を出す方も同じです。大麻への警戒心が十分じゃないとは言いましたけど、それでもほとんどの人は「大麻」というワードが出てきた時点で、たとえ合法でも離れていくものです。
わざわざ大麻抽出物に接近するということは、普通の人に比べて警戒心が弱い人、薬物に興味がある人であることをアピールするようなものです。

船務長 先野1尉

そうなれば、違法薬物の勧誘に繋がるのは自明だな。

水雷長 遠見1尉

はい。なので、とにかくそういう世界には近寄らないのが一番です。


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出くわしてしまったら、どうする?

とにかく距離を取る

船務長 先野1尉

で、最後に、実際に薬物に出くわしてしまったときの、対応要領か。

水雷長 遠見1尉

まぁ……離れろ、としか言いようがないですね。まず薬物かもしれないと思った時点で、摂取しない、触らないのが一番です。

水雷長 遠見1尉

触らないのは本当に大事です。うっかり受け取ってしまって、そこで職務質問でも受ければ、単純所持禁止で検挙されかねません。

船務長 先野1尉

刑事的には不起訴処分で済むかもしれないが、持っていたこと自体は事実になるから、懲戒免職に至る可能性大だな。

水雷長 遠見1尉

それから、受け取らずに返したとしても、薬物に指紋が残っていたら、あとで痛くない腹を探られることにもつながります。その意味でも、薬物かもしれないと思ったら、とにかく物理的に触らないのが大事です。

船務長 先野1尉

以前の教育で、部隊内で発見した場合も、ベタベタ触るなと言われたな。証拠能力を喪失するおそれがあると。

水雷長 遠見1尉

その上で、たとえどんなに親しい人でも、その人とは別れるべきです。

船務長 先野1尉

しかし、それが出来ないのが、人というものなのだろう?友人から勧められたとき、断れるのだろうかね?

水雷長 遠見1尉

それは……確かにそうかもしれません。
砲術士は、薬物っぽいものに遭遇したとき、迷わなかったの?

砲術士 嶋村3尉

そりゃあ、悪友がそういうのに手を染めてるのは悲しかったですけどね。でも、そこで情を優先したら呑まれますよ。

砲術士 嶋村3尉

私は育ちは悪いですけどね。そういう社会でも、そこのところの仁義ってもんがあるんです。悪事に友人を利用しない、巻き込まないって。その仁義を通さない時点で、残念ですけどそいつは私の敵なんですよ。

砲術士 嶋村3尉

中学の時、友達と一緒に店に入ったら、店を出た後で鞄の中から買った覚えのない商品が出てきたことがあるんです。何かと思ったら、一緒にいたヤツが、私の鞄に放り込んで万引きしてたんです。

水雷長 遠見1尉

えぇ……。

砲術士 嶋村3尉

その時点で絶交ですよ。そこに情けなんて掛けたら、利用されて自分がやられます

砲術士 嶋村3尉

薬物だって同じです。ソレを目の前にチラつかせてきた時点で、私を巻き込もうとしてるんです。それは裏切りでしかないです。その裏切りを前になあなあで済ませたら、いずれ私は運び屋か何かにされます。

水雷長 遠見1尉

本当に……大変な人生を歩んできたんだなぁ……。

船務長 先野1尉

それでも、この澄んだ瞳を維持しているのだ。小原台に来なければ、今頃仁義なき戦いに身を投じる剛の者であったこと間違いない。単なる愚者だと侮った、その浅薄さを反省したまえ。

水雷長 遠見1尉

いや……愚者だって言ったの、船務長じゃないですか……。


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万が一摂取してしまったら……

船務長 先野1尉

しかし、さっきの大麻の話でも出てきたが、外観から大麻とは分からないモノが増えている今、摂取したあとでそれが薬物だと気付いたらどうなるのだ。使用が違法なら、その時点でアウトなのではないか。

水雷長 遠見1尉

ええ、そこも説明します。
まず、処罰の話も大事なんですけど、何よりも体調に異状ないかに注意を払わせます。体質や摂取状況によっては初回で劇的な急性症状を発することもありますから。おかしいと思ったら、即受診です。救急車を呼ぶ必要もあるかもしれません。

水雷長 遠見1尉

あとは、車も運転するな、と言わないといけませんね。薬物を摂取した可能性が高い中で、運転して事故を起こせば危険運転致死傷罪に問われるリスクが高まります。

船務長 先野1尉

ふむ。確かにそうだな。

水雷長 遠見1尉

処罰の話はそれからです。

処罰は回避可能!……だが。

水雷長 遠見1尉

本当に知らずに摂取してしまったなら、処罰を回避する方法はあります。ただ、結構な努力が必要です。

水雷長 遠見1尉

刑事罰の話をすれば、薬物の使用は処罰対象ですが、薬物であることを知らずに摂取した場合は処罰の対象外です。

(故意)
第三十八条 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。

刑法
船務長 先野1尉

ふむ。しかし、その故意か故意でないかは、どうやって決めるのだ?

水雷長 遠見1尉

故意か否かは内心の話なので、本当に知っていたか否かを物証で明らかにすることは出来ません。なので、本人の言動や摂取に至った経緯、摂取後の振る舞いから推定されることになります。

水雷長 遠見1尉

ちなみに、刑事訴訟では、故意であったことを立証するのは検察側の責任です。故意と立証出来なければ、有罪に持ち込むことは出来ません。
しかし、懲戒手続きは……「けしからん罪」なので、刑事訴訟ほど厳格な立証の必要はありません。

船務長 先野1尉

ハッキリ言ってはどうかね?当事者側に故意でなかったことを立証する責任があると。

水雷長 遠見1尉

……まあ、そうとまでは言えないですけど。若干そういう雰囲気があるのは否めません。

水雷長 遠見1尉

まずは、摂取した可能性があると分かった段階で、直ちに警察や上司にその旨を申告することです。

水雷長 遠見1尉

このやり方は、米海軍でも同じです。

Q. What should a Sailor do if they think they have accidentally ingested?
(誤って摂取してしまったと思われる場合、海軍軍人はどのように対応すべきですか?)

A. Sailors should notify their chain of command immediately if they believe they have innocently or accidentally ingested THC. Sailors should not wait until a urinalysis occurs; notice to the command should occur BEFORE a urinalysis.
(意図せず、あるいは誤ってTHCを摂取してしまったと思われる場合、海軍軍人は直ちに指揮系統に報告しなければなりません。 尿検査が行われるまで待つべきではなく、尿検査が行われる「前」に指揮系統へ報告を行う必要があります。)

THC Usage Across the Fleet Fact Sheet (MyNavy HR February 2023)
船務長 先野1尉

故意に摂取したのだったら、自分から名乗り出る可能性は少ないからな。自己申告すれば、捜査対象になることは免れないが。

水雷長 遠見1尉

あとで勧誘者が摘発されて捜査線上に浮かんだり、尿検査で発覚したりすれば、故意犯と推定される可能性が高まりますからね。捨て身の策ではありますけど、生き残るには絶対必要です。

水雷長 遠見1尉

もう一つは、とにかく証拠を残すことです。あるいは、証拠隠滅したと疑われないようにする、と言ってもいいですね。

水雷長 遠見1尉

たとえば、グミやクッキーが薬物かもしれないと疑ったとき、食べ残しや包装を勝手に廃棄すれば、証拠隠滅したと疑われるおそれがあります。自己判断で廃棄せず、警察に提出するべきです。

船務長 先野1尉

後に体調が急変した時にも、何を摂取したのかが明らかになれば、救命処置をしやすくなるしな。

水雷長 遠見1尉

あとは、大量に水を飲むのも、止めた方がいいです。状況によっては、尿検査・血液検査をごまかすために薄めようとしたと見なされるおそれもあります。

水雷長 遠見1尉

警察官が近づいてきたのを見て急に水を飲むとか、そういうのは本当に危険です。

船務長 先野1尉

なかなか難しい話だな。

水雷長 遠見1尉

もうひとつ、重要なのは、関係者とのメッセージや通話履歴を削除しないことですね。絶交するからといって、削除してしまうと、事前に薬物の勧誘があったことを隠す意図があったと類推されるおそれがあります。

水雷長 遠見1尉

そうやって、一つ一つの実績を積み上げていくことで、自分は本当に知らなかったんだと客観的に納得してもらえるようにするのが重要です。

何はともあれ「君子危うきに近寄らず」

水雷長 遠見1尉

ただ、この話は「薬物であることを知らずに」であって、「違法であることを知らずに」ではありません。

(故意)
第三十八条 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。

2 省略

3 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。

刑法
船務長 先野1尉

ふむ。つまり、アレか。「何らかの薬物だと、あるいはその可能性が高いと知りながら、それが違法だと思わず摂取した場合」はあくまで故意犯として扱われるということか。

水雷長 遠見1尉

はい。刑事的にそうなんですから、懲戒手続きはなおさらです。

薬物だと知っていたと類推されるおそれのある状況
  • 怪しげな雰囲気の店
    • 治安の悪い地域
    • サイケデリックな電飾
    • 電子タバコやシーシャ(水煙草)といった「それらしい雰囲気」を漂わせるアイテム
    • 周囲に薬物中毒者と思われる人物が存在
  • 薬物の存在の示唆
    • 大麻抽出物
    • 「合法ハーブ」「脱法ハーブ」などの宣伝
    • 「疲れが取れる」「トランス」などの宣伝
  • 関係者の社会的評価
    • 暴力団員
    • 薬物中毒者/売買人と噂のある人物
水雷長 遠見1尉

一つ一つは問題無くても、複数の要素が積み上がっていくと「本当に知らなかったのか?」「薄々感づいていたが、興味本位で手を出したのではないか」と疑われることになります。

船務長 先野1尉

何しろ「けしからん」罪だ。上の虫の居所が悪いと「そういう火遊びをしてるから、犯罪に巻き込まれるんだ、自業自得」と判断される可能性すら否めない。

船務長 先野1尉

何にせよ、言えるのは「怪しいモノに近寄らない。」これに尽きるな。

水雷長 遠見1尉

ええ、全くです。


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船務長 先野1尉

よろしい。若干説教臭いところが気にはなるが、まあそれが服務教育というものだからな。

水雷長 遠見1尉

ありがとうございます。あとは、夏休み明け、皆が無事に帰ってきてくれることを願うばかりですね……。

船務長 先野1尉

分隊長としても、警衛士官としても、切なる願いだな。

記事の要旨

この記事では、薬物乱用防止の啓発を目的として、次の内容を説明します。

  • 薬物の危険性
    • 心身への悪影響と社会的悪影響
      • 大麻事犯の増加:違法性と悪影響の誤認識
      • 所持・使用等は懲戒免職の対象
        • 仮に免職を回避できても、失職リスク大
    • 夏休みの注意点:帰省先で旧友からの勧誘
    • 大麻抽出物の恐ろしさ:「植物片」ではない見た目
      • CBD:合法だから大丈夫、とは言いがたい現実
        • 実際には違法成分を含むことも
        • 違法薬物へのきっかけになるおそれ
  • 薬物に出くわしてしまったら……
    • 摂取しない、触らない。
    • どれほど仲の良い相手でも、離れる。
    • 摂取した後で、それが薬物と気付いた場合
      • 体調に異状が生じたら、ただちに受診を。
      • 車両を運転しない。
      • 処罰を回避するため、最大限の努力を。
        • 薬物は所持だけでなく使用も処罰対象だが、薬物であることを知らずに摂取した場合は、処罰の対象外
        • 必ず警察や上司に、薬物を摂取した可能性があることを申告する。
        • 証拠を残す。残った飲食物や包装などを自己判断で破棄しない。通話記録やメッセージを削除しない。

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