この記事では、海上自衛隊の採用制度の一つである、キャリア採用幹部について次の内容を説明します。
- 制度概要
- キャリア採用幹部は、一定の技能・職歴のある人物を幹部として任用する中途採用制度
- 部内では「公募幹部」として知られる。
- 応募条件
- 専門分野に関する一定の職歴
- 大卒以上(専門分野と合致する学科)
- 38歳未満
- 対象となる専門分野・職歴
- 船舶・航空機・その他機械のエンジニアリング
- コンピュータ(システムエンジニア、サイバーセキュリティ)
- 精神衛生(臨床心理士等)
- 過去、募集要項に記載の無い職歴でも採用された実績あり(体育など)
- 採用人数
- 年に約20名
- 従来制度の下では年3~5名程度
- キャリア採用幹部は、一定の技能・職歴のある人物を幹部として任用する中途採用制度
- 制度の変遷
- 以前は「技術海上幹部」の名称で募集
- 募集難+戦争様相の複雑化・広範化から中途採用を強化
- 令和5年度採用で「公募幹部」、令和6年度採用から「キャリア採用幹部」に改称
- 今後は対象専門分野を拡大する方針
- 採用後のキャリアパス
- 採用時から幹部(=幹部候補生を経由しない)
- 階級は職歴・資格等に応じ決定
- 9月下旬から12月中旬まで、幹部候補生学校の「公募幹部課程」に入校
- 同じく中途採用の医科・歯科幹部も公募幹部課程に入校
- A幹と同じ第1学生隊に所属
- 2か月に1年分の教務を凝縮、候補生以上に忙しい
- 修業後、専門分野の経験を必要とする業務に従事
- 昇任はA幹と同等の管理を受ける。
- 採用時の階級に応じ、採用年以前の期として扱われる。
- 幹部中級課程への入校等も同等で、佐官への昇任も十分狙える。
- 現状、監理系列・装備系列がほとんどなので戦闘色の強い配置には補職されていない。
- 採用時から幹部(=幹部候補生を経由しない)
某年9月末
やあ、久しぶり。あちこち実習に行って帰ってきた頃かな?
ええ。護衛艦実習でワッチに入ったんですけど、コレしんどいですね。みんないつもあんなのやってるんですか……。
それはそうと、潜水艦に乗せてもらって、実際に潜ったりしたんですよ!こんな経験できるとは思ってませんでした!
江田島から解き放たれて、なかなか充実した実習だったでしょ?
候校みたいにガミガミ言う人たちばっかりじゃないっていうのが分かって、ひとまず一安心です。
あと、帆走訓練ですね。とにかく長くてダルかったんですけど、まあ、良い気分転換になりました。
そしたら次は原村の陸戦訓練か。いよいよ終わりが見えてきたね。
私からしてみればようやく後半か、って感じですよ。もういいかなって感じなんですけど。
……そういえば、つい先日学校に新しい学生がやって来ましたよ。
ああ、飛幹でしょ?航空学生出身者の。
いえ、飛幹は私たちが実習に行ってる間に来てました。今回のはちょっとそういう感じではなくて、本当に何人かしかいないんですよ。なんか1隊に組み込まれるらしいんですけど……何なんです?
んー……?なんだ……?
……あ!そうか。公募幹部だ!
キャリア採用幹部の制度概要
そういや、最近名前が変わったんだったな……。
そう、「キャリア採用幹部」だ。
キャリア採用……中途採用ってことですか?
そう。ある専門分野に関して、一定の技能や職歴のある人物を、幹部として採用する中途採用制度のことだよ。
入隊すると「公募幹部課程」という課程の学生になることや、その前にも採用制度の名前がちょいちょい変わってきたこともあって、部内の人からは「公募幹部」という名前で知られているよ。現時点で「キャリア採用幹部」って呼んでもピンと来る人は少ないんじゃないかな。
応募条件
応募条件として明確に記載されているのは、対象となる専門分野に関する一定の職歴があること、そしてその専門分野に関する学科で大学を卒業していることだよ。
正確に言うと、「独立行政法人大学改革支援・学位授与機構により学位を授与された者」も対象になっているから、短大や高専の専攻科を卒業した人なんかも含まれるはず。
年齢制限はないんですか?
採用要項には記載されてない。
でも、自衛官募集サイトの応募可能な採用区分に年齢フィルターをかけると、38歳未満じゃないとダメなことになってる。実際のところどうなのかは分からないね。
年齢制限ってめちゃくちゃ重要な内容だと思うんですけど……。
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対象となる専門分野
で、対象になる専門分野ってのはなんですか?
機械やコンピュータ関連のものが多いね。
本当だ。工学系ばっかりですね。
珍しいのだと、臨床心理士だね。総監部のカウンセラーになったり、心理適性検査の運用・制度作りに携わったりする。
ちなみに……、過去、募集要項には書いていない専門分野でも採用された実績はあるみたいだよ。
例えば、幹部の体育教官を見るとほとんどがB幹なんだけど、ごくまれに公募幹部課程出身者がいるんだ。そういえば……令和6年度の公募幹部課程には、東京オリンピックに出場した選手がいるとか、そんな話を聞いた気がする。
この話、公募幹部課程に体育のスペシャリストがいる、というだけの話であって、その人が「キャリア採用幹部」という枠で採用されたとは限らない点に注意が必要です。というのも、公募幹部課程は幹部候補生/幹部予定者等、通常のルートを介さず幹部になった人(医科歯科幹部など)が必ず受ける課程だからです。
法令上は、公募幹部課程に入校するような人物は、試験によらず選考により採用をすることができるとされているため、試験により採用が決まる「キャリア採用幹部」とは別に、特殊な技能を持つ人物を選考により採用し、公募幹部課程へ送り込んでいる可能性は否定できません。
へえ、それはすごいですね。オリンピック選手が同じ職場にいるってことですか。
他にも、もうボクが入隊するよりずっと前の話だけど、テレビのアナウンサーだったかな?なんかの有名人が公募幹部に来たことがあったらしい、というのは聞いたことがあるよ。
制度の運用が落ち着いていないこともあって、年により募集対象が微妙に変わっていたり、採用要項・パンフレット・募集サイト等の内容がどうも噛み合わないところが散見されたりします。また、他の自衛官採用制度と異なり、募集の仕組みに関する規則が明示されていないので、当ブログとしても本当の募集要件は分からない、というのが正直なところです。
興味のある方は、たとえ採用要項上は募集対象になっていないように思えても、一度地方協力本部の募集担当者に問い合わせされることを推奨します。
ちなみに、公募幹部を受けるとき、同時に自衛官候補生や一般曹候補生を受ける人もいるみたい。応募年齢は限られるけど……。
その場合、どっちも受かると教育隊で8月下旬まで海士として教育を受けて、卒業後どこかの部隊で預かってもらい、9月下旬に江田島に来ることになるんだ。
わざわざ教育隊にも候校にも行くって、正気ですか?
ま、まぁ。価値観は人それぞれだから……。
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採用人数
このキャリア採用幹部の募集は年1回行われていて、令和6年度採用人数の枠は約20名とされているよ。ちなみに令和5年度の枠は約10名。さらに前は2人とか3人とか、それくらいしかいなかったんだ。採用人数枠がどんどん大きくなってるんだね。
あれ?そんなにいましたっけ?先日見たときは、4、5人しかいなかったような。
うん。実際は年に3~5名くらいなのが普通。ボクの年もそのくらいだった記憶があるよ。
海上自衛隊幹部候補生学校の発表によれば、82期(令和4年度)は4名、83期(令和5年度)は3名、84期(令和6年度)は5名とのこと。10名、20名と枠を大きくしても、実際に集まって、それでいて有望な人材はそのくらいしかいない、という現実を直視しなければなりません……。
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制度の変遷
「技術幹部」?
そういえば、名前がコロコロ変わるからピンと来ないって話ですけど。
ああ、それね。
前は「技術海上幹部」っていう制度名だったんだ。
ただ、海自には「技術幹部候補生」ってのもあったんだよね。
違うんですか?
うん。技術幹部候補生ってのは、装備系列(艦船装備幹部や航空装備幹部など)に行くことを確約された一般幹部候補生だったんだ。自衛隊奨学生(旧 貸費学生)にその名残があるね。もともと貸費学生は卒業したら技術幹部候補生にスライドする制度だったんだ。
……ということは、新卒採用?
新卒に限るわけじゃないけど、新卒か中途か、でいったら間違いなく前者。
そりゃ、ややこしいですね。
うん。技術幹部候補生の「技術」は「エンジニアリング」のことなんだけど、技術海上幹部の「技術」も同じかと言うと、微妙に違う。
工学が主ではあるけど、心理に、語学にと、機械とのお付き合い以外のものも含んでいる……。つまり「スキル」とか「テクニック」のニュアンスを含んだ「技術」なんだ。
そこで困ったのが語意の統一。
「技術幹部」という言葉は、実のところ明確には存在していなかったんだけど、俗称として使われることも無いわけではなかった。
でも、言った人、聞いた人が想像するのが装備幹部のことだったり、公募幹部のことだったりして、認識が一致しなかったんだ。
私も、技術幹部って聞いたら、技官みたいな扱いの人なのかな?って思います。少なくとも中途採用の人をさす言葉だとは思えないですね。
そもそも、技術海上幹部について、そういう採用制度があることをほとんど周知してなかったという実情もあって、全然応募者が集まらない。でも、中途採用は増やさなきゃ、ということで、令和5年度入隊のときに「公募幹部」に名を改めたんだ。
当ブログ開設前は採用情報をそれほど積極的に収集してなかったので、確たることは言えないのですが、令和2~4年度くらいの頃、技術海上幹部は存在すらほとんど発信されていなかったような記憶があります。と言うのも、技術曹で入隊する方と知り合ったので「せっかく技能があるなら公募幹部になればいいのに」とネットで調べたのですが、まるで募集情報が手に入らなかったのです。どうも、地本事務所に足を運んで相談した人にだけ、紙で要項を渡していたのではないかと考えています。
うん、これならまだどういう制度なのか分かりやすいですね。
で、その翌年度、令和6年度には「キャリア採用幹部」に改称。
このところ、制度名を変えて理解してもらおうという動きが盛んだね。
民間の企業もほとんどのところは、中途採用を「キャリア採用」って言ってますからね。分かりやすくて良いと思います。
さっき名前が出た「貸費学生」も「自衛隊奨学生」に改称されたし、
その少し前には「縁故募集」と呼んでたものも「隊員自主募集」に名を変えたよ。なんなら部内では「これは『リファラル採用』だから!」って言ってる。
少しでも娑婆っぽさを出そうと、涙ぐましい努力をしてるんですね。
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より多くの、より変わった経験の人が必要
ここまでして中途採用を増やさないと、っていうのはなんといっても募集難が原因。募集難であると同時に、中途退職者がどんどん増えてるってのもあるね。減った人数はどこかで補填しないといけない。でも、新規採用の定員を増やしても、質が落ちるばかりで残る人数は変わらない。
そうか、自衛隊って基本的には新卒しか採ってないから……。
今どき、中途で穴埋めできないと厳しいですよね。
加えて、これからの時代はこれまで以上に、人材の多様性が重要だと言われている。
戦争で考慮すべき事柄がどんどん広範囲になってきてるし、複雑化してきてるんだ。
広範化に複雑化って、どういうことです?
戦争が、単なる部隊と部隊のぶつかり合いで考えるものではなくなってきてるってこと。というか、本当は昔からそうだったんだよね。科学技術の優れた国が新兵器を作り上げて敵を圧倒する。政治宣伝の上手い国が周囲を味方に付ける。情報収集能力の優れた国が、敵の裏をかく。でもそれらは指揮官の感覚的指導によって整えられてきたものだったし、なんなら「偶然そういう条件が整ったおかげで勝敗が決まった」なんて言われてた。
従来、「新兵器」には着目できても、それを生んだ背景――そういうモノを作ろうと発想できる考案者はいかに生まれたのか、とか、そういったところにまではなかなか理解が及ばなかった。
でも、近年はそういう裏の裏まで研究が進んでいる。従来は指揮官や政治指導者が天性の才能で整えていた下地を、凡人が科学的手法で再現するんだ。そうやって互いの軍事力にバフ・デバフを掛け合って、最後の最後に軍事力同士が衝突して結果が出る。
そのためには、軍事以外のことも理解出来る人が必要なんだ。
それこそ、新兵器なんて新しい科学技術のことを知らないことには作れない。兵器を作るのは確かにメーカーの人の仕事ではあるけど、自衛隊が「そういうものを作ってほしい」という要求を言えないと、メーカーも作り出せないんだ。
理解の及ばない人がやると「なんかよく分かんないけど、人工知能ってヤツでなんとかしてくれるんだろ?あれで射程距離2倍にしてよ!」みたいな事を言い出しかねませんね……。
さすがにそこまで酷い人はいないと思うけど……。
でも、理解してないことには発想が及ばないというのは間違いない。
なので、昔は「武器とか船舶の設計をやってた人は来てくれ!」って制度だったんだけど、ここ最近は「宇宙や電磁波について研究したことのある人もどうぞ」となってきてる。
今後はさらに対象となる専門分野が拡大していくことになるよ。
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採用後のキャリアパス
採用時から幹部
キャリア採用幹部は、3月上旬から5月中旬にかけて募集されてて、6月中旬に採用試験を受けるよ。試験は小論文・口述試験・身体検査ということで、A幹の2次試験みたいなものだね。
難易度はどのくらいなんでしょう?
それは、問題が公開されてないから分からないなぁ。
公募幹部の人とも交友が無いし。
ただ、制度の趣旨を考えれば、口述試験が肝になってくるんじゃないかな?
小論文は、その人の専門分野にあわせて問題を用意するわけにはいかないから、幹部の素養を見るということでA幹の2次試験と同じぐらい。
口述試験でその人が自分の専門分野について、どのぐらいわかりやすく説明できるか、とか、軍事という未経験分野に活かす柔軟性があるか、とか、そういうところを量るんじゃないだろうか。
なるほど。そうかもしれませんね。
試験はこの1回だけ。結果は7月下旬に通知されて、採用されれば9月下旬に入隊となるよ。
それが今回やってきたあの人たちってことですね。
……そういえば、気のせいかもしれないんですけど。公募幹部課程の人たちって、普通の幹部の制服着てます?候補生じゃないんですか?
うん。彼らは採用されたときから幹部なんだ。
幹部って、原則曹長を1年間やってからじゃないと昇任できないようになっているんだけど、その数少ない例外が彼ら。一度も曹士の階級に身を置くことなく、幹部になれるんだ。
やっぱりそうですよね?階級もバラバラだったし。
階級は専門分野での職歴によって決定されるよ。
職歴……じゃなくて、大学卒業からの年数じゃないですか!
これだと、単に歳取ってれば高位高給になれてしまいますよ!
そうなんだよね……。その問題は結構言われてる。
一応、職歴に応じて、とは言ってるから調整されてるはずだけど。
そこはかとなく。高校卒業したらいったん就職などせず、大学に進学して。大学を卒業したら一つの職業にひたすら打ち込んで。という、お役人の人生観が透けて見えます……。
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公募幹部課程
新入隊幹部の素養教育
9月下旬に入隊したキャリア採用幹部は、海上自衛隊幹部候補生学校に入校し、公募幹部課程を受けることになる。
公募幹部課程は、新入隊の幹部自衛官に対する素養教育として行われるものなんだ。
(基本教育の区分)
第8条 基本教育は、素養教育及び術科教育に区分する。(素養教育の区分等)
第11条 素養教育は、海士(中略)の素養教育、海曹候補者の素養教育、海曹の素養教育、幹部候補者等の素養教育及び幹部自衛官の素養教育に区分し、素養教育のため、それぞれ次の課程を置く。
(1)~(3)省略
(4)幹部候補者等の素養教育
一般幹部候補生課程
飛行幹部候補生課程
医科歯科看護科幹部候補生課程
幹部予定者課程
(5)幹部自衛官の素養教育
公募幹部課程
指揮幕僚課程
幹部特別課程
幹部高級課程(公募幹部課程)
海上自衛隊の教育訓練に関する訓令(海上自衛隊訓令第4号。42.6.7)
第21条 公募幹部課程においては、新たに入隊した幹部自衛官(任期付自衛官を除く。)に対し、幹部自衛官としての資質を養うとともに、幹部自衛官として必要な基礎的知識及び技能を修得させる。
候校でやってる課程は公募幹部課程以外、全て「幹部候補者等の素養教育」なんですね。
そうだね。
逆に言うと、幹部候補者でない人が幹部になるときは、公募幹部課程に入校することになっているんだ。
だから、同じく中途採用で入ってくる医科・歯科幹部も公募幹部課程に入るよ。年に1名いるか、いないかだけど。
必ず、全員が公募幹部課程に入ってくるんですか?
文書を読む限り、原則入ることになっていると思うんだけど、確証はないね。というのも、他の課程は「必修課程」とあるのに、公募幹部課程だけその記載が無いんだ。ひょっとしたら、幹部候補生学校には一度も入らずに幹部になる人というのもいるのかもしれない。
(一般幹部候補生課程)
海上自衛隊の教育訓練に関する訓令(海上自衛隊訓令第4号。42.6.7)
第17条 一般幹部候補生課程は、一般幹部候補生、技術幹部候補生及び薬剤科幹部候補生の必修課程とする。
2 省略
(飛行幹部候補生課程)
第18条 飛行幹部候補生課程は、飛行幹部候補生の必修課程とする。
2 省略
(医科歯科幹部候補生課程)
第19条 医科歯科看護科幹部候補生課程は、医科幹部候補生、歯科幹部候補生及び看護科幹部候補生の必修課程とする。
2 省略
(幹部予定者課程)
第20条 幹部予定者課程は、3等海尉への昇任試験に合格した准海尉及び海曹長の必修課程とする。
2 省略
謎ですね。
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所属は第1学生隊
そうそう。あの人達、1隊に所属するらしいんですよ。なんというか……。どっちかというと2隊の方が近いんじゃないかと思うんですけど、どうしてなんですかね?
そう。公募幹部課程学生は第1学生隊所属なんだ。
確かに、年齢層から言うと、20代前半が中心の1隊に30代中頃の人たちが入ってくるのは違和感があるかもしれないね。
でも、きちんと意味はあるよ。というのも、公募幹部は人事管理上A幹と同じ扱いを受けるからなんだ。
えっ、そうなんですか?
詳しくは後で説明するね。
A幹と同じ土俵で戦うからこそ、入口での評価は平等にやらないといけない。要するに、同じ第1学生隊長が評価をしてこそ意味があるってこと。
ああ、そういうことですか。
B幹の候補生と同じ目線で見ずに、あくまでA幹の候補生と比べてどうか、っていう見方が必要なんですね。
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一般幹部候補生より多忙!
じゃあ、長い付き合いになりそうですね。一応仲良くしておいてやりますか。
なんちゅう言い草だ……。
まあ、なんだかんだで部隊勤務になった後も、お付き合いはあると思うよ。ただ、同じ1隊とは言え、なかなか候校で仲良くするというのは難しい。
なんでです?
そりゃあ、もう、メチャクチャ忙しいからだよ!
公募幹部課程の課程期間はわずか2か月間。10月上旬に入校式をしたら、12月の中旬には修業して出て行くことになるんだ。約1年ある一般幹部候補生課程に比べると、教務時数には約6倍の開きがある。
でも、そのわずかな時間でも、やらないといけない教務のジャンルは変わらないんだ。ましてや、実習の数も同じ!違うのはかけられる時間だけだよ!
だから、毎日のように実習に行ったり、陸戦訓練に行ったりしてるものだから、皆と同じように赤レンガで教務を受けたりということがほとんどない。
あー。言われてみれば、8分隊がそんな感じでしたね。
第8分隊
海上自衛隊幹部候補生学校における、医科歯科幹部候補生課程のこと。同課程は、防衛医科大学校の卒業生や一般医大の卒業生からなり、修業後の候補生は自衛隊病院の医官などになる。
第1学生隊は一般幹部候補生課程(1・2課程)からなる第1~第6分隊に加え、同課程の課程期間のみ第8分隊が加わり、計7個分隊となる。
課程期間は幹部候補生学校で最短の約6週間であり、4月に一般幹部候補生の入学式に併せて入校式を挙行すると、ゴールデンウィーク休暇明けには早々に修業式を迎えることになる。
8分隊に比べれば、まだマシな部類ではあるけど、指導学生として序盤に世話役をやった後は、実のところほとんど関わりを持てないのが実情だね。
あらら、そんなものですか。
とは言え、やっぱりお付き合いはしっかりしておいた方がいいよ。
A幹からしてみれば、急に学校にやって来て、すぐいなくなってしまう人たちかもしれないけど。でも、向こうからしてみたら、とにかく目まぐるしい日々にあって、数少ない「話せる人たち」なんだもの。
部隊勤務になった後、候校で一緒だった公募幹部の人と、たまたま一緒に仕事したことがあったんだけどさ。
ボクは辛うじて向こうの名前を覚えてるくらいだったのに、あっちはボク達と何を話してたか、事細かに覚えてたんだ。本当に気まずくて……。
それは、いたたまれないですね……。
でも、それって単に先パイがコミュ障なだけでは?なんか、まるでA幹が公募幹部を無視してるような言い方で誤魔化すの、どうかと思いますよ。
ええい、黙れ!
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修業後は専門業務に従事
そうこうしている間に、あっという間に12月中旬。そしたら、彼らは修業して行ってしまうんだ。C幹の修業式と一緒に出て行くのが通例だよ。
そっか。あの3隊の人たちも、もうすぐいなくなってしまうんですね。
修業後、彼らはそれぞれの専門分野での仕事に従事するよ。
具体的にはさっき言ったとおり。
心理が専門なら総監部のカウンセラーをやったりするし、サイバーセキュリティが専門なら保全監査隊で通信監査をやったりする。
やっぱり、その道のプロだけあって、仕事はできるんですかね?
うん、あんまり悪い評判は聞かないね。もちろん、普通の自衛官があんまりやらない仕事だからこそ、比較されにくいってのはあるかもしれないけど。
でも、中には本当に凄い人もいるよ。ボクが知ってるのは装備幹部で護衛艦のソーナーシステムとかを扱ってる人。
JMU(ジャパンマリンユナイテッド:護衛艦の建造・修理を担う造船所)で設計担当してたんだけど、それが海上自衛隊に鞍替えしてきたんだ。
契約の取り方をどう工夫すれば故障した武器をすぐ修理できるかとかをよく知っていて、とにかく仕事が早い。
なにしろ造船所のウラをよく知ってるものだから、造船所側も手を抜けない。公募幹部としてはかなりの有名人だね。
ずいぶん面白い人がいるんですね。
……というか、その人、逆に造船所の手先じゃなくて良かったですね。
そうだね。前職との利害関係というのは、よく気をつけないといけないと思う。ただ、何しろ狭い業界だから、そういう経歴の人を排除したら誰も残らないという問題もあるんだよね……。
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A幹と同じ人事管理
で、さっき言ったとおり、A幹と同じ人事管理を受ける。つまり、どのぐらい昇任するかとか、そういう話。
でも、いくら最初から幹部の階級でも、入隊が遅いじゃないですか?そんなに出世するものなんですか?
うん。採用時に、入隊年より前の期のA幹と同じ扱いになるんだ。
つまり、2024年入隊の公募幹部は、22幹候とか18幹候とか、そういう以前のA幹と同じ時期に昇任や入校があるってこと。この期別は採用時の職歴によって決まるんだ。
幹部海上自衛官の入隊期別
原則として、幹部自衛官は候校に入校した年によって期別分けされる。「第○○期一般幹部候補生課程」のような分け方もあるが、課程の制度変更などにより値が変わることもあるため、入隊年(西暦下2ケタ)と幹部候補生としての分類によって分けるのが一般的。
すなわち、令和6年度(2024年度)入隊の一般幹部候補生課程(=A幹)の場合「24幹候」、令和2年度(2020年度)に入校した一般幹部候補生課程(部内課程)(=B幹)の場合「20部内」と表される。
期別管理は特にA幹において重要な意味を持ち、昇任や学生選考の基準として「○○幹候の者」などと示されることがある。
へぇ、そしたら同じ年のA幹より先に、どんどん昇任していくこともあるってわけですね。
うん。そうだよ。そういうこともある、というより、そうなっていく。
というわけで、幹部中級課程への入校もきちんと用意されてる。
それを終えたら、きちんと佐官にだってなれるんだ。
実際、現職の1佐、2佐にも公募幹部出身者が数名はいるんだよ。
へぇ、意外です。本当にA幹と同じ扱いをしてるんですね。
もちろん、ポジションの影響はある。
今募集がかかっているのは、監理とか装備とかに関するポストばかりだから、艦長や護衛隊司令になって部隊を率いるような、そういう戦闘配置、指揮官配置というのは無い。それ故に、A幹を押しのけて出世する、という人はなかなかいないのが実情だね。でも、同じ系列の中ではむしろ専門性が高い分しっかり出世してるんだ。
なるほど。そうですよね。元はその道のプロなんですから。
そう。ハッキリ言って、自衛隊に来るなんてどうかしてる、そういうレベルの高度人材が、わざわざ江田島の門を叩いてくれたんだということは知っておいてもらいたいな。
公募幹部課程の間は、生活に慣れないこともあって周囲に迷惑を掛けることも多々あると思うんだけど、修業したらむしろ世話になるのは君たちなんだからね!
肝に銘じます。
この記事では、海上自衛隊の採用制度の一つである、キャリア採用幹部について次の内容を説明します。
- 制度概要
- キャリア採用幹部は、一定の技能・職歴のある人物を幹部として任用する中途採用制度
- 部内では「公募幹部」として知られる。
- 応募条件
- 専門分野に関する一定の職歴
- 大卒以上(専門分野と合致する学科)
- 38歳未満
- 対象となる専門分野・職歴
- 船舶・航空機・その他機械のエンジニアリング
- コンピュータ(システムエンジニア、サイバーセキュリティ)
- 精神衛生(臨床心理士等)
- 過去、募集要項に記載の無い職歴でも採用された実績あり(体育など)
- 採用人数
- 年に約20名
- 従来制度の下では年3~5名程度
- キャリア採用幹部は、一定の技能・職歴のある人物を幹部として任用する中途採用制度
- 制度の変遷
- 以前は「技術海上幹部」の名称で募集
- 募集難+戦争様相の複雑化・広範化から中途採用を強化
- 令和5年度採用で「公募幹部」、令和6年度採用から「キャリア採用幹部」に改称
- 今後は対象専門分野を拡大する方針
- 採用後のキャリアパス
- 採用時から幹部(=幹部候補生を経由しない)
- 階級は職歴・資格等に応じ決定
- 9月下旬から12月中旬まで、幹部候補生学校の「公募幹部課程」に入校
- 同じく中途採用の医科・歯科幹部も公募幹部課程に入校
- A幹と同じ第1学生隊に所属
- 2か月に1年分の教務を凝縮、候補生以上に忙しい
- 修業後、専門分野の経験を必要とする業務に従事
- 昇任はA幹と同等の管理を受ける。
- 採用時の階級に応じ、採用年以前の期として扱われる。
- 幹部中級課程への入校等も同等で、佐官への昇任も十分狙える。
- 現状、監理系列・装備系列がほとんどなので戦闘色の強い配置には補職されていない。
- 採用時から幹部(=幹部候補生を経由しない)
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コメント
コメント一覧 (2件)
海自の幹部職に興味があります
自分は今高専に在学しています。将来は大学院まで進学しその後の進路に海自を考えています。
ここまで聞くとただ候校に行けとおっしゃられるかもしれません。
しかし、僕は自分の技術力を生かしたいです。
普通にA幹になってしまうと自分の専門(機械工学)を生かせない気がします。
この記事のキャリア幹部は中途者限定ですし何かいい手はないでしょうか?
ご教授いただきたいです
ご質問ありがとうございます。返事が遅くなり申し訳ありません。
高専生の知識・技術のレベルは大変高いと聞いております。私自身も大学で高専から編入してきた方と会ったことがありますが、大学のぬるま湯につかってきた私たちとは段違いで、驚かされたのが記憶に残っています。そのような方が自衛隊の道を志されていること、大変喜ばしく思います。
ご質問の件ですが、道はいくつかあります。
1 防衛技官
A幹以外で工学などの専門知識を活かしたいなら、防衛技官が最有力候補になるでしょう。機械工学がご専門なので、装備幹部の自衛官同様に、造修補給所で監督官を務めたり、航空修理隊で航空機の修理・整備などを担当したりすることになるでしょう。もしも数学(特に統計学)が得意なら、オペレーションリサーチ(OR)の研究職を目指すのもアリです。海幕防衛課・自衛艦隊司令部・海上システム開発隊などで、計画(捜索など)の適否や装備品の能力を数学的に評価し、各種意思決定を支援する仕事です。
技官の特徴は、A幹に比べて業務内容の変化が少ないことです。採用区分によりますが転勤もそれほど多くはなく、一つの部署に留まる期間が長いので、より業務内容に習熟することができるでしょう。
また、特別職国家公務員である自衛官に対して、技官は一般職国家公務員なので勤務時間が厳格に管理されます。つまり、課業時間外に勤務すると超過勤務手当が発生するし、自衛官のような長時間労働は発生しづらい、ということです。が、予算取りが十分でないと手当を支給するわけにはいかないので、無理をしてでも課業時間内に仕事を終わらせろ、という方向に転んでしまうこともあります。
一方、待遇(特に給与面)は、決して良い方とは言えません。装備系列ではあまりありませんが、OR系列では「昨年まで艦艇勤務していた人」と机を並べることも少なくなく、彼らの経済感覚の違いに戸惑うこともあるかもしれません。
また、そもそも技官は募集の枠が大変少ない仕事です。応募したいタイミングで募集がかかっているとは限りませんので、それにも注意が必要です。技官を希望されるなら、特に前もって地本の広報官に相談されることをオススメします。
2 防衛装備品メーカー
さっそく自衛隊を外れる話になりますが……、せっかく専門知識を磨き抜いたならメーカーに行ってしまう、というのもアリです。装備品に関する知識量で言えば、自衛隊内よりメーカーの人の方が断然上なのです。残念ながら、自衛隊は部内で装備品に関する専門家をしっかりと養っていく態勢が十分にできていない……ということの裏返しでもあります。(だからこそ、少しでも知識技能のある人が自衛隊に入って欲しいんですけどね!)
装備品メーカーというと、三菱重工業や三菱電機などが想起されがちですが、それだけではありません。例えば、ジャパンマリンユナイテッド、東芝、富士通、NEC、沖電気、日立製作所なども候補に挙がります。ただ、防衛装備品はあまり儲からない業界なので、大企業がごく一部のリソースを振り向けてやっている性質が強く、入社してもその道に進めるとは限らないので注意が必要です。
3 B幹
一般曹候補生で入隊し、最短での3曹昇任・幹部選抜を目指します。A幹に比べてひとつの業務に携わる期間が長いので、より専門性を活かせるでしょう。ただ、この方法には問題が2つあるため、正直あまりオススメしません。
ひとつは非常に時間を要することです。B幹選抜は最短でも入隊の6年後になるので、それまで長い下積み期間が続きます。3曹昇任が遅れた場合はさらに長くなります。機械工学の知識を活かすとなると、装備系列の仕事を希望されることになると思いますが、(特に艦艇系の場合)そうした職場は現場でその装備品を扱ってきた人たちが、海曹としてのキャリア形成の過程で立ち寄ることがほとんどなので、海士のうちに補職されることは稀でしょう。この長い下積み期間に知識を劣化させず、志を維持するのはなかなか簡単なことではないと思います。
もうひとつは入隊後の要員区分に大きな影響を受けることです。残念ながら、教育隊での要員区分は適正に行われていません。(教育隊分隊長・班長が要員区分の仕組みを正確に理解しておらず、自身の業務の便宜を最優先して新入隊員の要員区分希望を誘導、場合によっては強制するケースを多く聞きます。)従って、自身の強みを人事担当者に理解してもらえず、不本意な要員区分になってしまう恐れがあるのです。教育隊修業時の要員区分は、とても尾を曳きます。B幹になるときは、海曹士時代の特技職からある程度外れた特技職へ移行する(電測員⇒水雷幹部など)こともできるのですが、あくまで例外としての扱いであって、基本的には関連する特技職へ行きます。経補要員から装備系列へ行くのは、ほぼ無理でしょう。また、そうでなくても装備系列は狭き門なので注意が必要です。
この道は、サブプランとしてそのまま海曹を続けてしまう、というのもあります。幹部にはなれませんが「一つの技能を極めたい」と思うなら、幹部よりむしろ海曹の方が適しています。
4 A幹
やはり、A幹を目指すのは選択肢に残しておくべきと考えます。大学院まで出れば、ほぼ間違いなく装備系列の要員区分を受けますから、機械工学系の知識を活かすことが出来ます。仮にそうならなかったとしても、機械工学系の知識が無駄になるA幹の配置は皆無と言って良いでしょう。
A幹は異動が多く管理業務の性質が強いため、専門知識が活かせないのではないか、という考えは決して間違っていません。一方で、専門知識を有したA幹が求められているのも、また事実です。組織の中で意思決定をする立場の者は、下の者が報告してきたときにその報告が妥当であるか、見抜く力を求められます。特に装備品関係の話題は専門性が高く「どうしてその方針が適当なのか」「他の方法ではダメなのか」の決定要素を一から説明している時間がないため、「●●のためA案は不適」などと一言で報告を済ませてしまうことがよくあります。が、報告者自身よく理解していなかったり、本意は別にあるが説明できない(A案を採用すると面倒、趣味/こだわり的にA案が気に入らない、関係者が嫌がってる、など)ため●●を言い訳にしてたり、と不適切な報告になっていることが少なくないのです。そこで上の者に十分な知識が無いと「よくわからんがヨシ!」と承認して、後で取り返しの付かないことになってしまいます。(逆に、「●●のためと言えば当然理解してくれるだろう」と思って報告してみたら、意思決定者の知識の乏しさ故に「なんでそうなるのか理解出来ない、承服できない」と、完全に根回しの済んでた方針をひっくり返される惨事もよく耳にします……)
A幹は、自分自身では図面を引いたり、機械を操作したり、ということがほとんどありません。しかし、若い時分、入隊前からの積み上げの有無は、間違いなくA幹としての仕事の質を左右します。これは本当です。
もう一つアドバイスしておくと、「技術力を活かす」という希望について、もう少しイメージを具体化することを推奨します。
「4 A幹」で述べた通り、自分で図面を引いたり、機械をいじったり、というのも技術力ですし、構想研究(未来の戦闘様相・技術レベルなどを分析して、どういった部隊運用や装備品が必要か考える)をしたり、メーカーに要求する装備品の仕様を考えたりするのも、また技術力です。どちらを志向するのかによって、取るべき選択肢は大きく変わるのです。
「幹部職を」とおっしゃるのですから、後者を志向していらっしゃるのではないか……と類推していますが、いかがでしょうか。
悩みは尽きないと思いますが、まだまだ時間はあります。じっくり考えて、納得のいく選択をされて下さい。
引き続き、ご愛読をよろしくお願い致します。