【Q&A】艦種記号は何で決まる?

中国海軍の中核戦力であるJIANGKAI-II FFG。写真は防衛省統合幕僚監部Twitterアカウント(https://x.com/jointstaffpa/status/1047399633243107329)から転載。

この記事では、読者からの質問にお答えします。

お世話になっております。
フリゲート艦(FF)とミサイルフリゲート艦(FFG)の明確な違いをご存知でしょうか?インターネットの海を彷徨っているのですが、明確な違いを見つけられていません。
ご存知でしたらご教示お願いいたします。

かなぱぱ 様

回答の要旨
  • 艦種記号(艦の分類)に明確な基準はない。
    • 分類する者の主観(=運用構想)により決定される。
    • ジェーン年鑑は各国海軍に強い影響力を持つが、各国の認識と完全に一致しているわけではない。
  • 防衛省は分類基準を完全には公開していないが、概ね米海軍と同じと思われる。
    • 米海軍は、艦隊防空(または僚艦防空)能力を有する艦に「G」を与えており、近年は水平線付近での低高度多目標迎撃能力が「G」の有無を左右していると思われる。
    • 水上艦では防空能力により「G」の有無が左右されるが、潜水艦では対地・対艦ミサイルの運用能力をもって「G」が付与されており、一貫性はない。
水雷長 遠見1尉

砲術士~、警戒監視の報告書案だけど、色々滅茶苦茶だったから直しておいたよ。
出す前にきちんと確認してね。

砲術士 嶋村3尉

えっ、すみません……

水雷長 遠見1尉

たくさんあったけど、目標の艦種もてんでバラバラだったよ。JIANGKAI-IIがFFとか、JIANGKAI-IがFFGとか……。そういう基本的なところは落とさないようにね。

砲術士 嶋村3尉

はい……。

目次

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主観で決まる艦種記号

鍵になるのは運用構想

砲術士 嶋村3尉

その……水雷長。
この艦種記号、何か明確な基準があって決まってるんですか?FFとFFGなんて、何が違うのかよく分からなくて……。

水雷長 遠見1尉

……難しい質問だね。

水雷長 遠見1尉

うーん。もちろん、この艦はDDだ、あの艦はFFGだっていう分類表自体はあるから、それに従っておけばいいんだけど。
ただ、何で決まってるのか、かぁ。

水雷長 遠見1尉

……うん。決まりはない。

砲術士 嶋村3尉

えっ、無いんですか!

水雷長 遠見1尉

排水量が何トン以上だからDDとか、ミサイル射程が何マイル以上だからDDGとか、そういう基準を決めてはいないよね。
あくまで、分類する者の主観で決まるんだ。

砲術士 嶋村3尉

えー!

水雷長 遠見1尉

意外に思うかもしれないけど、何のために分類するのかを考えれば、自ずと答えは出るよ。艦を分類するのは「その艦がどんな役割を与えられた艦なのか」を分かりやすくしたいからでしょ?
つまり、分類する人が考える、その艦の運用構想が艦種記号に反映されるんだ。

水雷長 遠見1尉

現に、海自のDDとDDHを考えてほしい。もともと「はつゆき」形が登場する前のDDはヘリコプターの運用能力なんて持ってなくて、「はるな」型・「しらね」型DDHでもないとヘリコプターを使うことは出来なかったんだ。

砲術士 嶋村3尉

へぇ~、そうなんですか!

水雷長 遠見1尉

うん、そうなの。
で、「はつゆき」型以降はヘリコプターの運用能力を獲得して。でも艦種記号はDDHにならなかったでしょ?

砲術士 嶋村3尉

……確かに!

水雷長 遠見1尉

それは、艦隊の中でヘリコプターの運用に特化させたのがDDHだと、分類する海上自衛隊が決めたからなんだ。
DDもヘリコプターが使えるようになったけど、あくまで期待する役割は旧来のDDと大きく変わらない。だから、DDHとは呼ばないんだ。

砲術士 嶋村3尉

なるほど~

水雷長 遠見1尉

話がそれるけど、今、海上自衛隊では新型の対空誘導弾(陸自中SAMの改良型)を導入しようとしてる。

水雷長 遠見1尉

これが実際に艦に載るようになれば、従来の個艦防空しかできなかったDDも、僚艦防空・艦隊防空の能力獲得のチャンスがやってくる。
そのとき、果たしてDDはDDのままでいるんだろうか?

砲術士 嶋村3尉

うーん、DDGになるんですか?

水雷長 遠見1尉

ボクはDDのままじゃないかと思う。DDGにするとイージスとの区別が厄介になるから。
能力が向上するとは言っても、まだまだイージスの足元にも及ばないだろうから、艦隊防空の中枢としてイージスが君臨する現状は変わらない。だから、イージスがDDG、国産システム艦がDDという分類は維持されるんじゃないかな?
逆に「国産システム艦も、とうとうイージスに肩を並べるようになった!」と宣伝するために変わる可能性は否定しないけど。


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ジェーン年鑑の分類はあてにならない?

砲術士 嶋村3尉

そう言えば、CICにある分厚い図鑑、なんて言いましたっけ?アレにも載ってましたね。

水雷長 遠見1尉

ジェーン年鑑(Janes Fighting Ships Yearbook)ね。
あれにも艦の分類は載ってるけど、あんまり参考にはならないかな?

砲術士 嶋村3尉

あれ!?そうなんですか!

水雷長 遠見1尉

アレは外観を確認したり、艦番号・艦名の対応や保有装備を知るために見るものだから……。自衛隊の内部文書だと秘密保全上の問題で取扱いが面倒だから、その程度の用途なら一般図書を使ってるってだけ。

水雷長 遠見1尉

とは言え、データ量は尋常でなく、全世界の海軍に絶大な影響力を持ってるのも事実。
外国艦艇のスペックとして秘密指定されているようなデータも、下をたどると実はジェーン年鑑からの引用にすぎない、なんてことはよくある。

砲術士 嶋村3尉

へぇ~、そんなにすごい本なんですね!

水雷長 遠見1尉

ところが、艦種の分類となると話は別。
例えば海自艦艇の分類を見てごらん?

砲術士 嶋村3尉

えーっと……
「たかなみ」型は「DDGHM」……?

水雷長 遠見1尉

そう、「こんごう」型も「DDGHM」で、DDとDDGが同じ分類になってる。他にも、「あぶくま」型は「FFGM/DE」「ひゅうが」型に至っては「CVHG」になってる。

砲術士 嶋村3尉

海自の分類と全く違いますね……。

水雷長 遠見1尉

そうなる原因は、ジェーン年鑑が運用構想ではなく、単純な装備の有無で分類をしていることにある。

G denotes a vessel with a force guided missile system, including SAM, USM and SUM, usually with a range exceeding 20 miles.
(Gは、SAM・USM・SUMを含むミサイルシステムを装備する艦船を示す。通常、ミサイル射程は20NMを超える。)

H denotes a vessel equipped with a helicopter, or with a platform for operating one.
(Hは、ヘリコプターまたはその運用のためのプラットフォームを装備する艦船を示す。)

M denotes a combatant vessel with a close-range guided missile system.
(Mは、近距離のミサイルシステムを装備する戦闘艦艇を示す。)

Janes Fighting Ships Yearbook
水雷長 遠見1尉

ジェーン年鑑では、種類に関係なく射程20マイルを超えるミサイルを持っていたら「G」を与えることにしているから、ハープーンを持っている「あぶくま」型にも「G」が付くなんて、おかしなことが起きてる。

砲術士 嶋村3尉

うーん、全然違いますね……。

水雷長 遠見1尉

ちなみに、ジェーン年鑑ではJIANGKAI-I FFもJIANGKAI-II FFGも「FFGHM」と記載されてる。これも同じことだね。
だから、ジェーン年鑑の分類からその艦の役割を類推するのは難しいし、各国海軍の分類とは一致しないんだ。


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米海軍はどう見ている?

防衛省の分類は米海軍と一致してる?

水雷長 遠見1尉

じゃあ、防衛省は実際にどう分類しているのか……と言うと、よく分からないのが実情。何しろ明らかにされてないからね。
一般に報道発表される情報が防衛省の公式見解だと思うんだけど、統幕の資料を見ても艦種記号は載ってないんだよね。その代わり艦種自体は日本語で記載されている。

米海軍の呼称統幕発表名称
RENHAI CGレンハイ級ミサイル駆逐艦
LUYANG-III DDGルーヤンⅢ級ミサイル駆逐艦
LUYANG-III MOD DDGルーヤンⅢ級ミサイル駆逐艦
LUYANG-II DDGルーヤンⅡ級ミサイル駆逐艦
SOVREMENNYY-III DDGソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦
SOVREMENNYY-II DDGソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦
JIANGKAI-II FFGジャンカイⅡ級フリゲート
JIANGKAI-I FFジャンカイⅠ級フリゲート
JIANGDAO FFLジャンダオ級小型フリゲート
STEREGUSHCHIY-II FFGステレグシチー級フリゲート
STEREGUSHCHIY-III FFGステレグシチーⅡ級フリゲート
米国呼称と統幕呼称の比較
水雷長 遠見1尉

報道発表を見るに、RENHAI CGとLUYANG DDGには「ミサイル」を付与してるけど、JIANGKAI-II FFGには「ミサイル」を付けてない。
統幕の分類は、一般に使われている区分とちょっと違うし、なんだったら多くの海上自衛官の認識とも一致しないと思う。

砲術士 嶋村3尉

統幕と海自で分類が違うんですか。

水雷長 遠見1尉

「違う」とは言ってない。何しろ艦種記号が明示されてないから。ただ、ちょっと違う気がする。

砲術士 嶋村3尉

じゃあ、水雷長の考える分類って何に基づくんですか?

水雷長 遠見1尉

当然、米海軍の分類だよ。共同作戦を考える上で、わざわざ違う艦種記号を使うことにメリットは全くないからね。

水雷長 遠見1尉

というわけで、基本的には米海軍の分類と同じものを使うはずなんだ。統幕の資料と若干の齟齬があるんだけど、それが何故かは分からない。


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FFとFFGは何が違う?

水雷長 遠見1尉

さて、いよいよ砲術士の間違えたFFとFFGの違いについて。

水雷長 遠見1尉

まず、米海軍が「G」を付与するのは、基本的に艦隊防空能力(あるいは僚艦防空能力)を有する艦なんだ。

水雷長 遠見1尉

古いところで言うと、ロシアのSOVREMENNYY DDG。長射程・超音速SSMであるSS-N-22 SUNBURNが注目されがちだけど、「ウラガーン」という対空ミサイルシステムも持っていて、レーダーや火器管制システムの能力も高かった。

水雷長 遠見1尉

もちろん、今どきの艦艇と比較してはいけないけどね。「ウラガーン」の射程はせいぜいシースパローと同程度、SOVREMENNYY級の防空能力は「たかなみ」型並み……とまでは言わないけど、たぶん「あきづき」型より劣ると思う。
だから、今この瞬間にこの程度の艦が就役したらDDと呼ばれるかもしれない。でも、就役当時としては艦隊防空艦と呼べるだけの能力を持ってたから、米海軍はこのクラスをDDGと分類することにしたんだ。

水雷長 遠見1尉

米海軍自身も、かつてフリゲートはKNOX級までFFとしていたところ、OLIVER HAZARD PERRY級からはFFGとした。前者はシースパローを装備していたのに対して、後者はSM-1 スタンダードミサイルを装備していたんだ。
同時代の艦艇としては、DDであったSPRUANCE級がシースパローを装備していたのを考えると、格下であるフリゲートがSM-1を装備しているというのは、それだけ防空を重視していたことがうかがえるね。

水雷長 遠見1尉

では、中国のJIANGKAIはどうか。
中国自身はJIANGKAI-I就役の頃から、ミサイルフリゲート(导弹护卫舰)と呼んでいたんだ。でも、米海軍はこの時点ではFFと分類したんだ。

水雷長 遠見1尉

というのも、JIANGKAI-Iが装備していた対空ミサイルはHHQ-7という、射程数マイルの短SAMだったから。70年代ならともかく、2000年代でコレだからね。こんなシースパローより射程の短いミサイルでは、個艦防空が関の山で、他艦を守るなんて夢のまた夢。

水雷長 遠見1尉

ところが、JIANGKAI-IIになるとこれが一変する。JIANGKAI-IIはVLSを装備して、射程20~30NM程度のHHQ-16を運用するようになったんだ。これはESSMと同等くらいの射程。
対空レーダーもSOVREMENNYY級と同等の三次元レーダーを装備して、火器管制システムも、きちんと複数目標に同時対処出来るようなモノに変わった。

水雷長 遠見1尉

そこで、米海軍はJIANGKAI-IIに艦隊防空、あるいは僚艦防空の能力があると認めて、FFGの艦種記号を付与したんだ。

水雷長 遠見1尉

もちろん、このすぐ後に登場するDDG、LUYANG-IIなんかと比べると防空能力は雲泥の差なんだけどね。

水雷長 遠見1尉

このあたりを踏まえると、ボクが考える、この20年程度で米海軍が「G」を付与するかしないかを判断する基準は、水平線付近での低高度多目標迎撃能力だよ。

「G」が付いたケース・付かなかったケース
  • 中国
    • JIANGKAI-I FF → JIANGKAI-II FFG
      • SAMをHHQ-7(射程 数NM)からHHQ-16(射程 20~30NM程度)に変更
      • VLS・対空レーダー・FCSの改良により多目標同時対処可能に
    • JIANGWEI-II FF 近代化改修
      • SAMをHHQ-7(射程 数NM)からHHQ-10(射程 数NM)に変更
      • 能力向上というよりは、JIANGDAO FFLとの共通化が目的とみられ、FFGにはならなかった。
    • SOVREMENNYY-I DDG → SOVREMENNYY-III DDG(近代化改修)
      • SAMを「ウラガーン」(射程 10NM程度)からHHQ-16(射程 20~30NM程度)に変更、VLS化
      • もともとDDGではあったが、近代化改修によりJIANGKAI-II FFGと同等以上(電子装備の差による)の防空能力を獲得し、DDGの区分を維持
  • ロシア
    • STEREGUSHCHIY-I FF → STEREGUSHCHIY-II FFG
      • SAMをSA-19 Grison(射程 数NM)から「リドゥート」(近・中・長SAMで共用可能なシステム、長SAM射程 100NM程度)に変更、VLS化
水雷長 遠見1尉

海上自衛隊の区分をそのまま適用すると、射程20~30NMのSAM……つまりESSMと同等のミサイルを持ってるだけで「G」を付けるのはやり過ぎじゃない?と感じるはず。

水雷長 遠見1尉

でも、最近流行りのシースキマー対艦ミサイルを考えると、初探知距離はせいぜい20NMちょっと、状況によっては15NMくらいまでは探知できないかもしれない。そう考えると「長射程のSAMを保有しているから防空能力が高い」とは一概に言えないんだ。

水雷長 遠見1尉

もちろん、シースキマーではないミサイルだって未だに存在しているし、射程が長ければ発射母体である爆撃機も迂闊に近寄れないから、依然と長射程SAMの意義はあるんだけどね。

水雷長 遠見1尉

というわけで、低高度目標を水平線付近で迎撃できるミサイルを持っていて、レーダーや火器管制システムの仕様から多目標同時対処能力を持っていれば、米海軍は僚艦防空の能力有りとみなして「G」を付与しているんだと思う。
その観点から言えば、日本のDDもDDGと呼んで良いのかもしれない。ちょっと釈然としないけどね……。


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SAMは持ってないけどSSGN

水雷長 遠見1尉

……という話を散々しておいて、全然違うのが潜水艦。
潜水艦の中にはSSGNという艦種があるんだ。アメリカのOhio級の一部や、ロシアのOscar-II級がソレで、SSBNとほぼ同等のつくりで、弾道ミサイルの代わりに、対地または対艦攻撃用の巡航ミサイルを大量に装備しているんだ。

水雷長 遠見1尉

潜水艦、ということで当然防空能力は皆無なんだけど、でもここではGが付く。もちろん「G」は「Guided Missile」つまり誘導弾の意だから、間違ってはいないんだけどね。
だったら、なんで水上艦では対空ミサイルに限って「G」を付与しているんだと思う。このあたり、なんとも一貫性がないよなぁ、というのがボクの感想。


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水雷長 遠見1尉

……という感じなんだけど、分かったかな?

砲術士 嶋村3尉

……えっ!?はい!大丈夫です!!

砲術士 嶋村3尉

えっと……!アレですね!
ジャンカイ1がFFで、2がFFGなんですね!

水雷長 遠見1尉

……うん。
とりあえず、それを理解してくれればいいよ。

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