この記事では、令和7年度概算要求に記載された自衛官任用一時金の増額について、次の内容を説明します。
- 自衛官任用一時金は、任期制隊員(自衛官候補生)が自衛官に任用される(2士)際に支給される一時金
- 金額は221,000円
- 自衛官候補生の採用制度開始時に併せて導入された制度
- 早期離職の防止がねらい
- 自衛官任用前(採用から3か月以内)に退職すると支給されない。
- 自衛官任用後1年3か月以内に退職すると償還義務あり。
- 概算要求に自衛官任用一時金の見直しが記載された。
- 来年度から50万円に引き上げ(=来年度採用者から)
- 任期制隊員の募集状況は近年特に劣悪、任期制隊員の待遇改善は急務
- 入隊希望者は任期制隊員も検討を。
- 任期制隊員は階級ごとの人口比率を維持する重要な制度
- 3曹昇任では非任期制隊員の方が有利だが、職業訓練・就職援護・特例の退職手当など、任期制隊員にしかない特典も。
- 転職の可能性がある場合、任期制隊員の方が圧倒的に有利
概算要求と言えば、任用一時金の増額も触れられてましたね。
お、そうでしたか。見落としてました。
任用一時金?なんです、それ?
まあ、分隊人事には関係しないから、別に知らなくてもいいんですけど。任期制隊員に与えられる特典のひとつですね。
自衛官任用一時金とは
まず、任期制隊員と非任期制隊員の違いは……さすがに分かりますよね?
もちろん、さすがの私でもそれくらいは分かります!
自候生が任期制隊員で、補生が非任期制隊員ですよね!
そうです。
そして、自衛官任用一時金とは、任期制隊員(自衛官候補生)の採用から3か月後、自衛官に任用=2士という階級を与えられるときに、あわせて支給されるお金で、221,000円が一括で支払われます。
自衛官候補生の採用制度がスタートしたときに、あわせて導入されました。
自衛官になったお祝い金……みたいなものですか?
そう捉えてもらっても問題ありません。が、真意は早期離職防止のためですね。なんといっても、入隊から3か月しないと支給されないわけですから。入隊早々退職したいなと思った隊員も、3か月耐えれば22万が入ってくると思えば我慢するということです。
でも、それなら支給されてすぐ辞めればいいんじゃないですか?
そうならないように、自衛官任用後1年3か月以内に退職すると、償還義務が生じるようになっています。
陸自は初回から任期2年なので、ほぼ1任期目を全うするまでは残ってね、ということですね。入隊から1年半経ったら、あとは半年で任期満了時の特例の退職手当、100万円が目前ですからね。
なるほど~。
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任用一時金の増額と任期制隊員のススメ
22万⇒50万!
で、今回の概算要求では任用一時金の増額が盛り込まれたんですよ。
Ⅳ 共通基盤
防衛力抜本的強化の進捗と予算-令和7年度概算要求の概要-
5 防衛力を支える要素
(1)人的基盤の強化
1 優秀な人材確保のための取組
ウ 自衛官等の給与・手当等の見直し
○ 任期制士の処遇改善(自衛官任用一時金の見直し)
ということは、任期制隊員の給料が実質増額になったってことですね!
どのぐらい増えるんですか?
概算要求の書面には明記されていませんでしたが、一般報道によると現行の221,000円から500,000円に増額される、とありますね。
すごい!2倍以上に増えるんですか!
非任期制隊員に比べると、昇任が遅いために給与面で不利だった任期制隊員ですが、ここまで増額されると、そのデメリットも埋まりますね。
分隊の皆にも伝えないと!
いえ、ちょっと待ってください。
今、艦で働いている任期制隊員たちは、既に任用一時金を受け取っています。これが適用されるのは、来年度に新しく入隊する隊員ですよ。
あっ……そうなんですか……。
それは残念ですね。
入隊が一年違っただけでもらえる金額がそんなに変わることに、皆が納得するといいけど……。
そうですね。とは言え、少しずつ増額、なんてやってる余裕はもうないですからね。
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増額の背景は任期制隊員の募集難
今回、これだけの増額を打ち出してきた背景には、任期制隊員の募集難があります。
募集難は知ってるんですけど、任期制隊員の、ですか?
ええ。ここ数年、景気回復に伴う労働力不足もあって、特に任期制隊員の募集状況は極めて劣悪なんです。
本当だ……。令和5年度の一般曹候補生は64%に対して、自衛官候補生は32%……!?
この比率は、採用計画数と実際の採用人数の比率です。
本来1,398名を採用することで充足状況の維持を図りたいところ、実際には444名しか入隊させられなかったってことです。
合格した人に入隊を拒否されちゃったってことですか?なら、繰り上げ合格すれば……。
いえ、そうじゃないんです。
採用試験の結果から、いくら定員割れとは言え採用するわけにはいかないレベルの人を排除した結果が、これなんです。
ということは、今後海上自衛官の定員が増えることがあっても……
ええ。空席が増えるだけ。それか自衛隊でも面倒見切れないような人を座らせるか。どっちかです。
こ、こんなに深刻だったとは……。
このとおり、任期制隊員の待遇改善は急務です。
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入隊希望者の皆さんへ
あの……ちょっと思ったんですけど、これって任期制隊員に応募する人がどんどん減ってるってことですよね。そしたら、そんな制度はやめて、みんな非任期制隊員にしてもいいんじゃないですか?
うーん。これはなかなか難しいところですね。
そうですねぇ……。
任期制隊員って、確かに任期満了で辞めてしまう人も結構いるから、全員非任期制にした方がいいんじゃないか?って議論がないわけではないんです。
でも、私は任期制隊員って結構重要な制度だと思うんですよ。
それは、任期制隊員は海士の比率を維持するのに貢献しているからです。
近年、非任期制隊員がすぐに3曹昇任するようになっているので、部隊の海士比率は下がる一方です。でも、士官室係や食卓係のような諸役員業務、要するに「雑用」……なわけですが。そういう仕事や応急班のような仕事の担い手がいなくなることで、部隊の業務に支障が出てるんですよね。
ですね。うちの分隊も、海士がいないものだから、かつて海士がやってた仕事を若手3曹がやってるんですよね。それじゃあ、なんのために海曹になったんだと思いますよ。いくら省人化・省力化が進んでいるとは言え、やっぱり海士は一定数欲しいところです。
海士が担う「雑用」。海士にとって負担に感じるところが多く、近年は海士人口の減少に応じて負担軽減の試みが行われています。そうなると、そもそも「下っ端」にそんなこと押しつけていることに問題があるのではないか?という意見が出てきます。
ここで理解戴きたいのは、特に艦艇のような部隊では、民間企業とは比べものにならないほど、雑用が必要になるということです。これは部隊の自己完結性に起因しています。例えば食事。普通のオフィスなら、各自が弁当を持ってくればよくて、食事の準備もゴミの始末も各自が家でやれば良いのです。社員食堂だって全てアウトソーシングすればいいので、社員は食べるだけで良いのです。でも、艦内は違います。食事の準備も、食べ終わった後の食器の洗浄も、残飯やゴミの始末も、艦内の誰かがやらなければなりません。それを狭い艦内で一人ひとりが入れ替わり立ち替わり行えば、「待っている人」の長蛇の列が出来てしまいます。だからこそ、「上の人」は訓練や哨戒態勢維持のための準備に時間をあてて、「下っ端」がそれを引き受ける、というのが最適解になるのです。応急班だって同様です。体力があって、運用員や応急工作員の指示に従うことが出来れば、特別なスキルなんていりません。でも、誰かがやらなければならないのです。
そういうわけで、省人化・省力化を追求するのは当然の事ですが、それでも無くならない「誰にでもできる仕事」の担い手は、間違いなく必要になるのです。
非任期制隊員は、本人が中途退職してしまわない限り、いつかは海曹にならないといけないわけです。だから、海士が足りなくなってきたからって非任期制隊員の採用を増やせば、数年後にその世代の海曹が増えてしまいます。だから人口バランスの調整がしづらいんですよ。
その点、任期制隊員はある程度の割合で、海士のまま退職してくれます。だから海曹の増加を抑制する上で、非常に便利な制度なんですよ。
うーん、考えたこともなかったです。
そもそも、転職が当たり前になった最近の世代にこそ、任期制隊員が適していると、ボクは思うんですよね。
ええ、それは同感ですね。
一定のタイミングで必ず退職できるから、非任期制隊員と違って慰留に悩まされることもないですし。転職先が決まらなければ継続任用を希望すれば、よほど勤務成績が悪くない限りは継続任用出来ますし。
非任期制隊員と違って、職業訓練で資格取得できますし、就職援護もしてもらえるから、転職先についてそこまで深刻に悩む必要もないですし。
そういえば、就職援護と言えば、警備員とか運送・土木・介護のような肉体労働系ばかりだと思っていたんですけど、最近は色んな業種を斡旋してもらえるらしいですね。
ええ。まだまだ数は少ない方ですが、意外な職種もあるんですよ。それこそ、最近はシステムエンジニアになる人もいます。
概算要求では、職業訓練にIT系の内容を追加するとしてますから、これからは、ますます増えていくんじゃないですかね。
Ⅳ 共通基盤
防衛力抜本的強化の進捗と予算-令和7年度概算要求の概要-
5 防衛力を支える要素
(1)人的基盤の強化
1 優秀な人材確保のための取組
イ 再就職支援の充実・強化
○ 再就職に向けた教育の充実
・職業訓練機会の充実(8億円)
IT分野(Java、Python、半導体)などの資格取得に係る訓練課目を追加。
そして、何と言っても特例の退職手当、いわゆる「任期満了金」ですね。100万、150万というまとまった金額が20代前半にポンと入ってくる。これほど心強いものはないんですよ。
確かに、非任期制隊員の方が昇任も早いから、自衛官一筋でやっていくならそっちの方がいいとは思いますけどね。「何年かやってみて合わなかったら転職しよう」って考えている人は、任期制隊員の方が圧倒的に有利だと思うんですよね。
その割に、みんな非任期制隊員に集まるのは、リスク回避志向が強いんですかね……?本当に不思議なことです。
実際、中にいる間は非任期制隊員の方が、何かと得した気分になりやすいですからね。この勢いで任期制隊員の待遇が改善されて、入隊を検討する人が増えたら何よりです。
この記事では、令和7年度概算要求に記載された自衛官任用一時金の増額について、次の内容を説明します。
- 自衛官任用一時金は、任期制隊員(自衛官候補生)が自衛官に任用される(2士)際に支給される一時金
- 金額は221,000円
- 自衛官候補生の採用制度開始時に併せて導入された制度
- 早期離職の防止がねらい
- 自衛官任用前(採用から3か月以内)に退職すると支給されない。
- 自衛官任用後1年3か月以内に退職すると償還義務あり。
- 概算要求に自衛官任用一時金の見直しが記載された。
- 来年度から50万円に引き上げ(=来年度採用者から)
- 任期制隊員の募集状況は近年特に劣悪、任期制隊員の待遇改善は急務
- 入隊希望者は任期制隊員も検討を。
- 任期制隊員は階級ごとの人口比率を維持する重要な制度
- 3曹昇任では非任期制隊員の方が有利だが、職業訓練・就職援護・特例の退職手当など、任期制隊員にしかない特典も。
- 転職の可能性がある場合、任期制隊員の方が圧倒的に有利
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