この記事では、海上自衛隊の採用制度について次の内容を説明します。
- 自衛官候補生は「候補生」という名称であるものの、選抜されるようなものではなく、3か月後自動的に自衛官に任命されること。
- 任期制隊員はもともと入隊時から2士に任命され「練習員課程」の教育を受けていたが、2011年入隊者以降、入隊から3か月間は「自衛官候補生」であって「自衛官ではない」ことになった。
- この制度変更の効果は二つ。
- 充足率の向上。入隊直後に多くが退職する新入隊員を「自衛官の定数外」とすることで、部隊で働く人数を確保できる。
- 歳出の削減。自衛官候補生は2士より給与が低い。その分、2士任命時に「自衛官任用一時金」の支給で補填しているが、その前に退職した者には支給されないので、給与の総額を抑えることが出来る。
- 自衛官任用一時金は、自衛官任官から1年3か月以内に退職すると返還義務があるので注意。
- 自衛官ではないとされているが、教育訓練や職責は自衛官と全く同じ。
- 人事上は昔から続いている「練習員」の期別で管理されている。
先パイ、ふと気付いたんですが「自衛官候補生」の「候補生」っていうのは、その中から選抜されるって意味なんですか?
?
……あ!そういうことか!理解した!
「候補生」だけど候補ではない
未来が言っているのは「候補生」って名前が付いているんだから、その中から何割かだけが「自衛官」になって、それ以外はならないんじゃないかってことだよね?
ですです。
うん、まったくそんなことはない。
「候補生」と言ってるけど、単に「これから自衛官に任命される人」くらいの認識で良いよ。自分から依願退職したり、服務事故起こしたりしない限り、基本的に3か月経てば自動的に自衛官に任命される。
……なんでそんな制度にしてるんです?
最初から自衛官にしておけばいいじゃないですか。
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もともとは「はじめから自衛官」だった
ねー。普通そう思うよね。
うん、もともとはそうだったんだ。
ってことは、途中から「自衛官候補生」っていうものが出来たんですか?
うん。それまでは入隊時から2等海士に任命されて教育隊の「練習員課程」の教育を受けていたの。今の制度に変わったのは2011年の春からだったかな?
制度改正の効果
しかし、どうしてこんな制度を作ったんですか?
「訓練に耐えた成果として自衛官に任命することで、自衛官としての自覚を促す」とか、そういう理由がよく言われるね。
でも、ボクはそれは嘘だとは言わないけど、真意ではないと思う。
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充足率の向上
効果1つ目。
自衛官候補生を採用することによって、部隊で働ける人数が増えるんだ。
……どうしてです?
何故かと言えば、自衛官候補生は定員外の自衛隊員として、退職を見越して多めに採用できるからだよ。
自衛官には定員が定められていて、これを超過して採用をすることは出来ないんだ。ということは、もともとの制度では定員を超えない人数しか採用することが出来ない。
ところが、採用された新入隊員は教育隊に入るとどんどん辞めていく。最初の1か月くらいは凄まじいと言うね。これは幹部候補生や防衛大学校でもそうだし、なんだったら外国軍でもやっぱり同じ。いざ来てみたらこんな生活耐えられるか!と出て行ってしまう人は一定数いるんだ。
なるほど……。そうすると、定員より少ない人数しか残らないわけですね。
そういうこと。ここで新入隊員を定員外にする。すると、定員を超過して新入隊員を採用できるようになるんだ。3か月後には定員に組み込まれるから、あくまで退職分を見越して、ってくらいだけど。
最初の教育を終えるタイミングで、定員ギリギリに出来るわけですね。
あと、3か月という期間ではあるけど、その間にも定年退職や中途退職で辞めていく人は少なくない。その分も見越して採用人数を増やせる。
この制度が登場した頃は、動的防衛力構想が打ち出されたタイミング。平素から部隊を実際に動かすことで実質的な防衛力が増える(だから数を削れる)という構想なんだけど、いざそのための態勢を作ろうとしたら、実質的な充足率が低くて部隊を動かせる状態ではなかったんだね。それを補うために、少しでも部隊に人を集められるようにしたのが、この制度なんだ。
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歳出の削減
それから、給与の削減。
自衛官候補生には「自衛官候補生手当」という給与、月額146,000円が出るんだけど、2士の1号俸184,300円より安いんだ。
うわぁ……結局そういうことなんですね。
ここで損する分は、3か月を耐えて2士になると「自衛官任用一時金」221,000円が支給されることで補填される。
最初から自衛官だと 184,300円×3か月=552,900円、
自衛官候補生だと 146,000円×3か月+221,000円=659,000円……
むしろ特にはなっていますが……。
正確に言うと自衛官の場合は6月に期末手当と勤勉手当が出るから、ちょっと違うね。とは言え、勤務期間が全然足りてないから10万円も出ていないんじゃないかな?総額はほぼ同額になっているはず。
このご褒美は、入隊早々に辞めていった子たちはもらえないから、給与の総額を抑えることが出来るんだね。
まぁ……効果的なやり方だとは思います。
あ、ちなみに自衛官任用一時金だけど、自衛官に任命されてから1年3か月以内に退職すると償還義務が生じるから、実際の歳出はさらに抑えることが出来るよ!
血も涙もない
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受ける教育訓練や職責は自衛官と同じ
自衛官候補生であることで、お金以外で自衛官と扱いはなんか変わるんですか?
いや、全く同じだよ。
例えば、自衛官だと銃を撃ったりするじゃないですか。自衛官候補生でも撃つことは……あ。
そう。「自衛官ではない」からといって、受けている教育や訓練は自衛官とは何一つ変わらない。
それは職責だって同じこと。何か起きたときでも基本的には教育を継続するけど、真に非常時になれば、何かしらの任務に派遣されることは十分にあり得る。
ネット世論を見ていると、自衛隊関係者の犯罪が報じられたとき「自衛官候補生であって自衛官ではないから」「1任期で辞めたやつだから」なんて言う奴が少なからずいる。
でも、それは任期制隊員に対する冒涜だとボクは思う。定員外なのはお役所の都合だし、任期制だからといって別にアルバイトでやってるわけではない。公共のために身体を張っているという点では幹部から自衛官候補生に至るまで、何も変わることはないんだ。
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人事管理は依然として「練習員」
自衛官候補生は自衛官に任命されると1か月間の「練習員課程」を受ける。これは最も伝統的な海士の採用制度で、今でこそ年2回だけど昔は年に何回も募集されていたから、今では300期を優に超える。
その流れがあって、人事管理上、書類に入隊期別を書くときには「●●●期練習員」って書くんだ。
海上自衛隊としては「練習員」を採用しているってことなんですね。
そういうこと。だから「自衛官候補生」だからといって気後れする必要なんて、どこにもないんだ。
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