海上自衛隊って何だろう? その1

この記事では、海上自衛隊の業務内容に関して、次の内容を説明します。

  • 海上自衛隊が「海を守る」組織であること。
  • 海洋には「輸送路」「資源」「障壁」の機能があり、わが国はそれにより多大な利益を得ていること。
  • 海上自衛隊の「海を守る」とは、「海洋への自由なアクセスを維持する」ことであること。

本記事は8月16日に公開したものですが、当日夜に不注意から記事データを破損させてしまい、バックアップの取得も十分でなかったため、データ復旧を断念し再執筆しました。
公開当初の内容と若干異なる部分がありますが、ご了承ください。

目次

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海上自衛隊は「海を守る」

水雷長 遠見1尉

早速だけど、自衛隊は日本の平和と独立を守るため、国家防衛にあたる軍事組織だよ。その中でも、海上自衛隊は主として海で活動する組織と位置づけられているんだ。諸外国で言うところの海軍に相当する組織と言えるね。

水雷長 遠見1尉

まず断っておくと、自衛隊は事実上の軍隊で、組織の構造や業務内容は全て戦闘することを前提に作られているんだ。
東日本大震災以降、災害派遣の存在感が大きくなったけれど、あくまで組織としての主な任務は国家の防衛にある、というのは覚えておいて欲しいな。

募集対象者 京井 未来

わかりました。実際、災害救助に行ってるイメージが強いんですが、それは決して最重要な業務ではないってことですね。

水雷長 遠見1尉

海上自衛隊が国家防衛のために戦う場所は海になるんだ。海上自衛隊では自分たちの使命を「海を守る」ことだと表現することが結構あるね。

募集対象者 京井 未来

「海を守る」ですか。くだらないこと言いますけど、環境破壊を防ぎましょうって話ではないですよね?

水雷長 遠見1尉

もちろん。これは、海の恩恵を敵に奪われないようにするって言った方が分かりやすいかもしれないね。


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海洋の機能

水雷長 遠見1尉

それじゃあ、今度は海洋の機能について解説するよ。

募集対象者 京井 未来

いきなり話が変わりますね。

水雷長 遠見1尉

海自が何故海を守らなければならないのか、戦ってまで守りたい海の恩恵は何なのかを知っておいた方がいいと思ってね。


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輸送路としての海

水雷長 遠見1尉

まずは、「輸送路」の機能。海は船を使うことで輸送路になるんだ。

京井 未来

……そりゃあ、そうだろうね。

水雷長 遠見1尉

日本は島国だからね。当たり前と思うかもしれないけど、外国と貿易をする場合、船で運ぶか飛行機で運ぶかの二択しかない。離島と本土の間でやりとりする場合も同じだね。

水雷長 遠見1尉

この二つの輸送手段は非常に対照的で、飛行機が素早く高コストに運ぶのに対して、船はゆっくり安価に運ぶんだ。船舶輸送の重量・距離あたりのエネルギー消費量は飛行機の2~3%くらいで、燃料のコストに直結する。
他にも、飛行機の方が船よりも機械として高価だし、維持費も掛かるね。

輸送重量・距離あたりのエネルギー消費量
画像は日本海事広報協会「日本の海運 SHIPPING NOW 2023-2024」から引用。
募集対象者 京井 未来

輸送手段の特徴、中学受験の時にやりましたね。懐かしい。
大量輸送に一番向いているのは船で、飛行機で運べるのはICみたいな小型軽量で高価な物に限られるって習いましたね。しかし、そんなにエネルギー効率が違うとは知りませんでした。

水雷長 遠見1尉

そう。飛行機でペイできるのは追加料金をガッツリ徴収するお急ぎ便くらいなもので、基本的には1~2か月くらいかかっても船で運ぶんだ。
そういうわけで、日本を出入りする貨物は実に99.6%が船で運ばれているよ。日本は多くの資源を輸入に頼っていることを考えると、その資源のほぼ全てが船舶輸送で持ち込まれたものと言っても過言ではないんだ。

資源の対外依存度と輸出入における海上輸送の割合
画像は日本海事広報協会「日本の海運 SHIPPING NOW 2023-2024」から引用。
募集対象者 京井 未来

そうでした。化石燃料も、鉄鉱石も、ボーキサイトも、綿も、大豆も小麦も、飼料も、ほぼ全てを輸入に頼ってるんでしたね。

水雷長 遠見1尉

というわけで、海が輸送路としての機能を持っているということ、改めて考えてみると結構重い話なんだよね。

水雷長 遠見1尉

ちなみに、歴史的に見ると、国家の発展と海上輸送による貿易には密接な関係があって、それを支えるために海軍が発展してきたって経緯があるんだ。昔から、海運というものがいかに重要だったかが分かるね。


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「資源」としての海

水雷長 遠見1尉

次に「資源」の機能。海は色んな資源を供給してくれるんだ。

募集対象者 京井 未来

資源というと、海底油田とか、メタンハイドレートとかですか。

水雷長 遠見1尉

それもあるけど、一番メジャーなのは水産資源だよ。
漁業は人類の主要な食糧生産の中で唯一採集によって成り立つものだからね。優れた漁場が無ければ漁業は成り立たないんだ。

募集対象者 京井 未来

うーん、漁業ですか。

水雷長 遠見1尉

地味?けど、日本の漁業生産額は年間1.3~1.5兆円くらいあるんだ。養殖を除いても8000億円くらいははあるからね。

漁業生産高の推移。
画像は水産庁「令和4年度 水産白書」から引用。
募集対象者 京井 未来

えっ、そんなにお金が動いてるんですか。

水雷長 遠見1尉

そう。それに、お金の問題だけじゃなくて食糧自給率の観点から見ても、日本が国内で生産できる食材として、水産資源は重要な意味を持っているんだ。


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「障壁」としての海

水雷長 遠見1尉

最後に「障壁」の機能。日本は海に囲まれているおかげで、外国から侵略されるようなことがほとんど無かったんだ。

募集対象者 京井 未来

確かにヨーロッパの国とか見ると、いつも戦争して国境が変わり続けてましたね。それに比べると、日本の領土に外国軍がやって来たのは、元寇くらいですか。

水雷長 遠見1尉

……あと、沖縄戦ね。
細かいところで言えば、千島列島や竹島もそうだけど。

水雷長 遠見1尉

人間は海を生身で渡ることが出来ない。
飛行機や船を使えば海を越えることが出来るけど、陸続きの場合に比べてとんでもない努力が必要になるんだ。

募集対象者 京井 未来

そんなに変わるもんですか?

水雷長 遠見1尉

まず、飛行機で運ぼうと思ったら、大きさと重量の制約がとんでもないことになる。空港が使えない場合はパラシュートを付けて投下しないといけないけど、よっぽど軽くないと落下の衝撃で壊れてしまうよ。
空挺兵って奴だね。彼らは生身の人間が手で持てるくらいの装備しか持たずに敵地に下りるんだ。下りた先に戦車でもいた日には全滅待ったなし。

募集対象者 京井 未来

うわぁ……

水雷長 遠見1尉

船にしたってそうだよ?船が大量輸送できるのは、港湾施設で荷下ろしができるからであって、そういう施設を押さえてないなら、輸送艦が陸地に乗り上げるなり、上陸用舟艇を使うなりして、部隊を陸地に届けないといけない。
ここでも大きさと重量の制約が出てくるし、天候が悪ければ上陸できなくなるし、往復して細切れに部隊を上陸させないといけないから、上陸地点で敵が待ち構えていたら多勢に無勢で当然アウト

エアクッション艇。「おおすみ」型輸送艦から部隊を上陸させるのに使用される。
戦車であれば1輌まで、装甲車であれば2輌まで輸送可能。
写真は海上自衛隊Webサイトから引用。
水雷長 遠見1尉

なんとか部隊を上陸させても、燃料や弾薬や食糧を船で運び続けないといけない。そこを潜水艦に待ち伏せでもされたら、やっぱりアウト。

募集対象者 京井 未来

海を隔てるだけでそんなに変わるものなんですねぇ……

水雷長 遠見1尉

海がどれほど防衛上重要な意味を持っているか、分かってくれたようだね。


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海洋への自由なアクセスを守る

水雷長 遠見1尉

これは先輩からの受け売りなんだけどね、「海を守る」というのは「海洋への自由なアクセスを維持する」ことなんだ。

募集対象者 京井 未来

自由な……アクセス?

水雷長 遠見1尉

そう。さっき言った海の機能を、利用したいときに利用できるようにすること。

海が守られないと……

水雷長 遠見1尉

敵の攻撃で、海洋へのアクセスが出来なくなってしまったら、どういうことになると思う?

募集対象者 京井 未来

そうですね……。やっぱり一番思い浮かぶのは、「輸送路」の機能ですね。燃料や食糧の輸入が止まったら、この国はやっていけません。

水雷長 遠見1尉

そうだね。国内で自給できているものだって、車両輸送できたり、電気があったりして初めて成り立っているんだから、物流が止まれば大変なことになる

水雷長 遠見1尉

太平洋戦争を振り返れば、米軍の「飢餓作戦(Operation Starvation)」によって日本の主要な航路が機雷封鎖されてしまったんだ。
当時日本は食糧難を打開するため、満洲から食糧を輸送していたんだけど、航路が使えなくなってしまったことによって、朝鮮の港に大量の食糧が積み上がり、本土の人々は文字通り飢餓状態に陥ったんだ……


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現代だって起こりうる、海洋へのアクセスの阻害

募集対象者 京井 未来

でも、ですよ?それはもう70年以上前の話ですよね。
今どき、そんなこと起こるんですか?

水雷長 遠見1尉

それが、残念ながら、ね。

日本・中東を結ぶシーレーンと、その海域にまつわる諸問題
日本・中東を結ぶシーレーンと、その海域における諸問題。
地図は国土地理院Webサイトから引用し、解説は筆者が追記した。
水雷長 遠見1尉

たとえば、ソマリアの海賊

募集対象者 京井 未来

海賊……ですか?

水雷長 遠見1尉

そう。乗組員を人質にとって、船会社から身代金を巻き上げてトンズラする奴ら。
未来が想像してるのは、多分「ワンピース」とか「パイレーツ・オブ・カリビアン」とかだと思うけど、そうではないよ?
現代の海賊は、爆走する改造漁船に乗って、貨物船に突っ込んで無理矢理ハシゴかけて、ライフル片手に船に乗り込んでくるんだ。

水雷長 遠見1尉

少し前だけど「キャプテン・フィリップス」っていう映画にもなったね。

募集対象者 京井 未来

あー。タイトルは聞いたことあります。

水雷長 遠見1尉

ソマリア周辺の海域は海賊が度々出没して、一時期は民間船が通れなくなってしまったんだ。だから、各国海軍が部隊を派遣して海賊の取り締まりや商船の護衛をやってるんだよ。
ちなみに、日本も部隊を派遣しているからね?

募集対象者 京井 未来

そうだったんですか。知りませんでした。

水雷長 遠見1尉

うん……。もう少しニュースを見ようね?

水雷長 遠見1尉

他にも、ペルシャ湾に入るために通らないといけないホルムズ海峡では、イランが海峡封鎖を示唆する動きを何度も見せているし。
東南アジアでは南沙諸島を巡って度々軍事衝突が起きたり、中国が勝手に人工島を建設して軍事拠点化したりするし。
台湾は、中国が統一のために武力行使を厭わない姿勢を見せているし。
尖閣諸島では、日中間の緊張がどんどん高まっているし。
国家間の軍事衝突が起きたら、商船だって通るのが難しくなるんだ。

募集対象者 京井 未来

あれ?でも先パイ。
あんまり詳しくはないんですが、国際法で軍隊は民間人には攻撃しちゃいけないんじゃないんですか?

水雷長 遠見1尉

それは半分正解で半分間違い。
船について言えば、一定の条件を満たせば商船でも攻撃が許される場合があるし、そうでなくても捕獲して船や積み荷を没収することが許されることもあるんだ。

水雷長 遠見1尉

それに紛争が起きると、船舶運送にかかる保険料が激増したり、そもそも保険に加入できなくなってしまったりするんだ。船会社もそういうコースは忌避するし、乗組員が集まらなくなることもある。
運賃が激増したり、輸送できる量や時間に制約が生じたりして、やっぱり経済に大打撃を受けることになるんだ。

水雷長 遠見1尉

そうならないように、海上自衛隊は海を守らないといけないし、もし起きてしまっても商船を護衛して物流を維持しないといけないんだ。


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海は日本にとっても障壁になり得る

水雷長 遠見1尉

それから、忘れてはいけないのが障壁の機能。
もし、離島を敵に奪われてしまったら、島を奪い返すには海を渡らないといけないんだ。

募集対象者 京井 未来

さっき言ってた話の逆ですね。海が大きな障害になりそうです。

水雷長 遠見1尉

そう。だからこそ、海上自衛隊は海を越えるだけの能力を持っていないといけないんだ。


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まとめ

水雷長 遠見1尉

それじゃあ、ここで話をまとめるね。
海上自衛隊は、わが国の平和と独立を守るために海で活動する軍事組織だよ。

募集対象者 京井 未来

「海を守る」と言いましたね。

水雷長 遠見1尉

海洋には「輸送路」「資源」「障壁」の機能があって、日本はそこから多大な利益を得ている。だから海を守らないといけないんだ。

募集対象者 京井 未来

海を守るとは、海洋への自由なアクセスを維持することだと言いましたね。

水雷長 遠見1尉

そう。現代であっても、海洋への自由なアクセスが侵害される可能性は十分にある。そうなったらこの国はやっていけない。だから海上自衛隊は海を守るんだ。

募集対象者 京井 未来

ここまではよく分かりました。
でも、先パイ。ちょっと抽象的というか、仕事のことはもう少し具体的に教えてもらわないと分からないです。

水雷長 遠見1尉

おーけー。次回からはもう少し具体的な話をしていくね。

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