この記事では、入隊後の生活イメージを明確化するため、海上自衛隊幹部候補生学校における学生隊当直学生及び週番学生の業務について、次の内容を説明します。
- 学生隊当直学生・週番学生は、当直勤務のトレーニング制度
- 学校の運営に参加し、業務計画の立案・実行、問題点の把握・改善を通じて、幹部としての素養を磨く。
- 週番学生には種類があり、それぞれ役割が異なる。
- 学生隊当直学生
- 週番学生への指示
- 課業整列等の統制
- 当直士官の補佐
- 甲板週番A
- 校内の清掃・整理整頓の維持
- 備品・施設管理
- 甲板週番B
- 短艇の現状把握
- 甲板週番Aの補佐
- 人事週番
- 人員の把握
- 体調不良者、受診希望者などの把握
- 外出簿の集約
- 人員の把握
- 文書週番
- 文書管理
- 気象観測・天気図作成
- 令達週番
- 号令の伝達(放送機材の運用)
- 学生隊当直学生
- 勤務期間
- 学生隊当直学生:1日間
- 週番学生
- 1週間
- 1つの週番の役職には正/副の2名が割り当てられ、半週ごとに交代する。
- 週番学生の生活と乗り切るコツ
- 通常の学生とは異なる生活スタイル
- 教務・別課以外は週番室で勤務
- 総員起床前から働き、消灯後も働く。
- 週末も外出せず、学校に残る。
- 鬼門は巡検と引継書類の提出
- 巡検は順路を正確に回ること、不具合事項を説明できること。
- 引継書類は、勤務中に発生した問題を網羅すること。
- 準備9割
- 立直の前から勝負は始まっている。勤務要領や引継書類の内容は事前に確認すること。
- しっかり知識を準備した上で、問題を探そう。
- 気楽に。
- 辛くても、時間が経てば解決する。
- 普段見ることの無い、学校の裏側を見て楽しもう。
- 通常の学生とは異なる生活スタイル

そういえば、そろそろ第1学生隊も週番が始まる頃じゃない?



ええ。そういうのが始まるらしいですね。アレ、なんなんです?
学生隊当直学生・週番学生とは
学校の運営に携わる、当直勤務のトレーニング



週番っていうのは、1週間まるまる、学校のために尽くす……うん、修行みたいなモノだよ。



あのー、現時点で既に学校のためにさんざん滅私奉公させられてるんですが。



それは……うん。頑張って。



冗談はさておき、ここで言う「学校のために」は、学校の運営に参画するってことだよ。候補生たちは確かに昼も夜も走り回らされて大変な思いをしてるけど、あくまで教官たちが準備した機会に身を委ねているに過ぎないでしょ?



むぅ、何やら言い方は気に入りませんが……。



別にそれがダメだと言ってるんじゃないよ。学生である以上、学校のやり方には粛々と乗っかってくれないと困るだろうし。
でも、それだけではただ上から言われたとおりにしか動けない人間が出来上がってしまう。だからこそ、学校というシステムを機能させる側に回る機会が必要なんだ。



それが週番ですか。



そういうこと。例えば、総員起床を考えてみよう。時間になるとらっぱの放送が入るし、天候が悪ければ体操を雨天の位置をやる旨が令達される。冬場なら、まだ日が出てないから外には照明機材が用意されて、階段を照らしてもらえる。これって、候補生からしたら当たり前のことかもしれないけど、誰かがやらないと発生しない現象が起きてるでしょ?



言われてみれば。



他にも、誰かがやらないと学校が成り立たないことは沢山ある。そういうアレコレを担当して、学校を運営する側に回るのが週番学生なんだ。



「運営する側に回る」っていうのは結構重要で、いつも同じことの繰り返しに見えて、そのルーチンを回すだけでも事前に計画して、実際にやるときは計画とのズレをどうやって修正するか考える必要がある。
そして、実施してみたら上手く行ったかどうかはともかく、沢山問題点が見つかるはずなんだ。それを見逃さず、改善策を考案する。これをやることこそが幹部の仕事みたいなもんだからね。
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週番学生の種類と役割



週番学生には、甲板週番A、甲板週番B、人事週番、文書週番、令達週番の5種類がいて、それとは別に学生隊当直学生というのもいるよ。
学生隊当直学生



まず、学生隊当直学生。これは、正確に言うと週番学生と並ぶ存在であって、週番学生では無い。ただ、役割的には週番に近いところがあるから、一緒くたにされてるよ。
週番学生は黄色地に赤線2本の腕章を付けるけど、学生隊当直学生は赤線が3本になる。



これって、よく外出員整列とかで「学当!!」って怒鳴られまくってる人のことですか?



あー、そうだね。
あとは課業整列の時、壇上に立って「課業にぃぃ……かかれぇぇ!!!」って叫んでる人。



学生隊当直学生は、その名の通り、学生の中の当直士官みたいな役職だね。他の週番学生に方針を与えて、その日の学生のやることについて、一義的に責任を負うんだ。



目立つところで言うと、朝イチの体操の時に各分隊の当直学生から人員報告を受けて、当直士官に報告することや、さっき言った課業整列の取りまとめ役。それから国旗掲揚・降下時の当直士官や学校長への報告。このあたりは艦でいうところの副直士官みたいな役割だね。



あれ、思ったより重いもんでもないですか?要は、時間通りに報告を挙げれば良いんですよね。



まぁ、ボクも学生隊当直学生で苦戦した覚えはないから、週番ほどは大変な仕事ではないと思ってる。
とは言え、油断は禁物。何かイレギュラーな状況が起きれば、たちまち当直士官の補佐役としてトラブル対応をやらないといけないよ。学生隊当直学生がヒィヒィ言ってる状況は既にマズい状態になってる証。



学生隊当直学生と週番学生の違いとして、勤務期間の違いがあるよ。週番はその名のとおり1週間勤務するのに対して、学生隊当直学生の勤務期間は1日。



言われてみれば、朝壇上に立つ人、毎日代わってますね。



ただ、仕事ぶりがあんまりだと、交代を認めてもらえず、連続勤務する人もいないわけではないからね……。
その場合、本人より大変なのは周りの人。スケジュールがみんなズレ込むことになるからね……。



恐ろしや……。
甲板週番A



さて、ここから週番学生について。
甲板週番Aは、校内の整理整頓や、備品や施設の管理を担当するよ。



この「甲板」ってのは何なんですか?



海自用語だね。何と言えばいいんだろう。「甲板」は「甲板」なんだよなぁ。学校にもいるでしょ?「甲板係」の学生って。まぁ、でもよく考えてみたら意味不明だよね、「甲板係」って。



言葉の響きは「地面係」とか「床板係」ですからね……。



艦には甲板士官とか甲板海曹っていう役職があって、掃除とかゴミ処理とか、補給物品の搭載とかに責任を持つんだけど、陸上部隊でもそれに倣って甲板係とか、そういう名前の役職名があるんだ。
(甲板士官)
自衛艦乗員服務規則(海幕補第10346号。25.12.2)
第359条 甲板士官は、副長の命を受け、警衛士官を補佐して艦内の規律、風紀の維持に任じ、また、当直士官の指揮を受け日課及び号令が迅速、かつ、確実に実行されるように注意し、しばしば艦内を巡回して諸規則又は命令の違反者があるときは、その都度注意を与え、必要と認めるときは、これを副長に報告し、又は当直士官、警衛士官若しくは関係の分隊長に申告しなければならない。
2 甲板士官は甲板海曹及び諸役員を指揮して諸甲板、内外舷、諸倉庫、食器室、浴室、便所等の清潔整頓に留意して掃除を督励し、船体、短艇等の保存手入れ、修理、整備等について意見を有するときは、これを副長に報告し、又は担当の科長に申告しなければならない。
3 省略
4 甲板士官は、艦内のごみ、汚物等廃棄物の処理又は油類の取扱いに際しては、役員その他乗組曹士を監督するとともに、関係の科長と連絡を密にして海洋を汚染しないよう十分注意しなければならない。



うーん、それを陸上部隊に持ってくると……設備の維持管理とか、そういうことですかね?



そうそう!そんな感じ。
海自には、「施設」っていう特技職の人もいるんだけど、地域に何人かいて、業者への発注とかをするような感じだからね。日常的に施設のメンテナンスをするのは、実際に使う部隊の人間。その中で、特に責任を持っているのが「甲板」ってこと。



生活や仕事をする空間を、自分たちで整えておくということですね。



甲板週番Aは、まさにそういう仕事。代表的な仕事としては、甲板掃除時の学生たちへの指示に、巡検の不備事項取りまとめ、営繕工事や物品請求の書類作成、週末の防火隊の作業計画作成とかだね。



特に、各分隊の甲板係との連携が重要な仕事だね。甲板週番が自分自身で何とかしようとしても、出来ることはたかがしれている。



掃除とか、とにかくマンパワーが必要ですもんね。



私見になるけど、週番の中では一番の花形かな。学生たちのやることなすことが、仕事にモロに影響してきて、それをどう切り盛りするかが問われる。
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甲板週番B



続いて、甲板週番B。これはAと同じ甲板週番ではあるんだけど、短艇の状況把握が主な仕事になるところが違うよ。さっき言った、艦の甲板士官は内火艇の運航や整備についても担当するからね。その部分をやるのが甲板週番Bってワケ。



分隊に短艇係がいますけど、あれの親玉って感じですかね?



うん。短艇の整備自体は自分自身でやることはあんまり無いんだけど、短艇庫の掃除なんかはやらないといけないからね。短艇係を通じて、そういう調整をやるんだ。



一番ホットなのは、きせ巻きの整備かな。



きせ巻きって、あの櫂の?
きせ巻き
櫂(オール)に巻かれた保護材のこと。
非動力船であるカッターは櫂で漕ぐことにより推進するが、櫂座(船体に設けられた、櫂を乗せるためのくぼみ)との接点には大きな力が掛かるため、船体・櫂の双方を摩耗させてしまう。そこで、接点に索を巻き、やにを塗る「きせ巻き」を設けることで、船体・櫂の摩耗を防いでいる。



そう。普段は問題無いんだけど、総短艇をやった後はきせ巻きがブチブチ切れてるんだ。そのまま使うわけにはいかないから、短艇庫にある状態の良い櫂と交換するんだけど、どこかで学生を動員して巻き直さないといけない。ただ、普通の掃除と違って、知識や経験が必要で、出来る学生は限られてる。皆が忙しい中、どうやって計画的に整備していくかが難しいんだ。



なんと、あの汚らしいきせ巻きにそんな苦労があったとは……。



あと、扱うのはカッターだけじゃないよ。ヨットや伝馬船も管理の対象だし、ポンド(短艇の乗降艇に使用する船着き場)に異状が無いかも見回りしないといけない。干満差が大きい時は、フロートの位置が悪くなることもあるからね……。
あとは、毎日運用科教官のところに行って命令受領したり。



こう、聞いていると、結構動き回らないといけない仕事ですね。



そうなんだよ。そのための自転車は与えてもらえるんだけど、とにかく移動に時間が掛かる。ボクも甲板週番Bを担当したんだけど、なかなかしんどいよ。



それから、甲板週番Aの補佐が仕事に含まれてるのも忘れちゃいけない。学生の労働力をどう割り振るか考えないといけないから、必然的にAとは協力しないといけない。大抵の場合、AはBよりもっと忙しいから、よほど優秀な人でもない限りサポートしてあげないといけないんだ。



なるほど。これもなかなか大変ですね……。
人事週番



さて、次は人事週番。学生の人員把握が主な仕事だよ。



人員把握って、何やるんです?



毎朝、総員起床と体操が終わったら「人員報告!」ってやってるでしょ?あのとき、各分隊の当直学生から報告を受けるのが人事週番。



……え!?それだけ!?



いや、それだけじゃないんだけど。
この人員報告も結構大変みたいだよ。各分隊から口頭で上がってくる報告には微妙に誤りがあったりして、集計すると数が合わないこともちょいちょいあるみたい。ボクが甲板週番やってたときの人事週番もその確認に結構苦戦してたなぁ。



なるほど、それでたまに体操後にグダるんですね……。



まぁ、ボクが候補生やってた頃は、正直、甲板週番より楽な仕事だと言われていたんだけど、ここ最近はコロナ禍があったからねぇ……。
体調不良者や受診希望者を把握するのも仕事だから、相当大変だったと思うよ。何しろ、学生は朝何も言わないで、課業整列とか巡検とかのタイミングで体調不良を言い出す。学生隊本部のボードに書き込んだ現況と、実際にどんどん差が出るから、人員の把握をしているだけで一日が過ぎてしまうよ。



なるほど……。具合が悪いなら朝イチにきちんと申告しておいた方が良いんですね……。



あと、食数管理も人事週番の仕事だね。不喫食者が出ると、その調査をしないといけなくなる。



いつも不喫食はどうの、と言われますけど、そんなの本人の勝手じゃないですか。



まあ、そう思うのも分からなくはないけど。とは言え、不喫食は結構大きな問題なんだ。
自衛隊の食事は給与の現物支給として行われるものだから、隊員が食事できないとすれば、給与の支給を適切にできてないってことになる。組織としては、その現状を改善する義務があるんだ。



いや、それこそ、食事できない環境に追い込んでるのは学校じゃないですか……。



本当にね。食事くらいゆっくり食べたいよね……。



あと、切実な問題として、残飯の処理にもコストがかかるって話がある。艦で検食簿書くようになって気付いたんだけど、残飯の量も記録されているんだ。残飯がどんどん出て行ったらどうなるか……。



残飯が出ないように、準備する食事の量を減らす……?



そういうこと。食べている人間の数は書類上変わらないのに、実際に消費される量が減ってるんだから「じゃあ一人あたりの食事量を減らしても大丈夫だね!」って話になってしまう。それを防ぐには、きちんと食べてもらわないといけないんだ。



言ってることは分かるんですけどね……。



で、人事週番一番の仕事、それが外出。
各分隊から外出簿をもらって、集計して外出員の一覧表を作らないといけない。



それって、そんなに大変ですか?



うん。だって、防火隊で残る学生もいるでしょ?体調不良で外出できない学生なんかがいれば、それも外出員から外さないといけない。最終的に、外出する人数が実際に外出員整列に並ぶ人数ときちんと合致しないといけないんだ。
人事週番がやらかすと、外出員整列がグダグダになるよ。そうしているうちに、学生隊長がやって来て「総員再点検!」って怒鳴ることに。



うへぇ



これは人事週番自身も大事なんだけど、各分隊からの報告も大事だからね。皆が皆、しっかりやっていればそうはならないんだ………。
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文書週番



文書週番。はて……文書週番って、何をしてたっけな……?



あんまり覚えてないですか?



うん。正直言うと、影が薄いね……。
文書管理を担当するから、学生が提出する書類が行政文書として正しいかどうか、確認する役割があるよ。まあ、そうは言っても、他の週番に比べると……ね。



それより、気象関係の業務の方が大きいかも。天気図を更新して、気象が教務や学校生活に与える影響を幹事付に報告するんだ。



そういえば、学生隊本部のところに天気図や天気の豆知識が掲示されてましたね。そうか、あれって週番学生が書いてるんですね。



うん。なんとなく分かったと思うけど、他の週番学生に比べると負担は小さめだと言われている。だからって、責任が軽いわけじゃないからね。むしろ、ここ数年で行政文書関係のやらかしはシャレにならなくなってきたから。もし文書週番になるとしても、舐めてかかってはいけないよ。
令達週番



そして最後。令達週番だよ。これ、実は一番馴染みが深いかもしれない。何しろ、校内で流れる放送は令達週番が流してるからね。



えっ、そうだったんですか?



教官が放送機材使うのは、「学生隊待て」だけ。それ以外は「0730に時刻整合を行う」も、「国旗揚げ方5分前」も、全部令達週番の声だよ。



言われてみれば、教官の声がスピーカーから聞こえてくるのって、総短艇の時だけですね……。



令達週番は、とにかく放送機材をたくさん扱う。号令もマイクに向かって発声しないといけないし、朝昼のラジオ放送も流さないといけない。国旗掲揚・降下は、1術校がらっぱ隊を出すかどうかで放送機材の設定を変えないといけないし、定時点検や課業整列のらっぱもCDで流さないといけない。



本当に放送してばっかりですね。



令達週番は結構ハードで、ミスしたら一発でバレるんだ。何しろその時やってる仕事が学校中で共有される。
ちなみにCDを使うってことは、可搬記憶媒体の取り扱いになるからね?都度借用して返却しないといけない。それもなかなか面倒。



確かに。他の週番はその瞬間ミスってもやり直せば済みますけど、放送はやり直し効かないですもんね。



号令入れるのがうっかり10秒遅れたとか、言い間違えたとか、CDの違うトラック流しちゃったとか、放送先の設定をミスったとか、英語で時刻整合の日に日本語で流しちゃったとか、ラジオ放送のチャンネル間違えて民放を流しちゃったとか、1術校の放送に被せちゃったとか、もう挙げ始めればキリが無い。



あー、いくつか心当たりありますね……。



ボクが週番やってたときも、同期の令達週番が度々失敗してしまってね。幹事付から、それはそれは厳しい指導を受けてたなぁ。
彼、元気にしているかな。「キミたち1隊の学生が弛んでるから、その仕事ぶりが令達に表れてるんだよ!!」って怒鳴られて、「失敗したのは私の問題!同期を悪く言われるのは心外です!!」って怒鳴り返したんだ。



すごい、そんなアツい人がいたんですか。



うん。ボクもそれを聞いてジーンときたよ。
ただ、それでも令達は失敗しちゃいけないんだよね。艦でもよくあるんだけど、スピーカーで何度も何度も「只今の号令を取り消す」ってやるのは本当に印象が悪い。単純に格好悪いだけじゃなくって、それを繰り返していると、本当に誰も号令に従わなくなってしまうから……。



確かに、どうせ間違ってるだろって先入観が生まれたら、単なる雑音にしかならなくなりますね。



彼も、その後すごく反省してた。「令達の失敗は、自分一人の問題じゃ済まないのに」って。



責任重大だ……。



ちなみに、令達週番の「令達」は基本的にスピーカー越しに行われるんだけど、例外的に肉声で行われるものもあるよ。なんだと思う?



え、なんでしょう?



正解は、外出員整列の「外出時の注意事項」でした!



あ、「所在を明らかにし!」ってヤツですか。確かに腕章巻いた人が前に出てきて怒鳴ってるなと思ったんですが。あれが令達週番だったんですね。



そう。放送ばっかりが仕事じゃないんだよね。確か、あの注意事項を起案するのも令達週番の仕事だったと思うし、定時点検の整列位置とか色んな書類も作らないといけない。



明日から、もうちょっと真面目に号令聞きます……。
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勤務期間など



「週番」って言うからには、勤務期間は1週間続くんですかね?



うん。学生隊当直学生は1日間だけど、他の週番学生はみんな1週間勤務するよ。



毎週月曜から勤務するんですかね?



いや、必ずしもそうじゃないよ。週番学生には正と副の計2名がいるんだ。つまり5種類×正副2名=10名の週番学生がいる。で、半分の5名は月曜朝から翌週の月曜朝まで働いて、残りの5名は木曜朝から翌週の木曜朝まで働くって感じで、交代時期が半週ズレている。で、先に立直した方が「正」になるんだ。



つまり……月火水は木曜から立直した学生が正で、木金は月曜から立直した学生が正ですか。



惜しい。週番は土日も続くんだ。だから、木金土日は月曜から立直した学生が正、ってこと。



あ……そうなんですね。
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週番学生の生活と乗り切るコツ
通常の学生とは異なる生活スタイル



しかし、そんなに忙しい仕事、とてもじゃないですけど出来ないですよ。普段の生活だってカツカツなのに。



そりゃあ、普段の生活を続けながらは無理だよ。でも、週番学生は通常の学生と全く違う生活を送るんだ。



まず、生活と勤務の拠点が変わる。普段寝起きする居室を離れて、週番学生用の寝室が与えられる。



いや、飛ばされるベッドが2倍になるだけじゃないですか。



そこは幹事付の裁量によるけど……。もとの居室については一旦忘れて大丈夫。使ってないから乱れることも無いし、仮に飛ばされてもそこは同期がなんとかしてくれる。
で、週番学生用の寝室は……まあ、よほど酷くない限り、あれこれ指導されることも無い。週番は、そういう次元の仕事をさせようって話じゃ無いから。



で、勤務場所も週番室になる。だから、自分の居室に戻ることはほとんど無いよ。



あれ?その場合、教務はどうなるんです?



教務は当然受ける。教務と別課は普通の学生と同じだよ。
あ、総短艇が発動した場合は別ね。準備とか、色々業務がある。



逆に言えば、教務と別課以外は、普通の学生と違って週番の仕事をしないといけないんだ。



朝は、総員起床より前に起床して、見回りとか、総員起床の準備業務をする。夜は巡検を回って、消灯後も見回りや書類作成をする。



朝から晩までじゃないですか。寝られるんですか?



一応建前上は、24時までに全ての業務を完了させることになってる。まあ、そのくらいしないと身が保たないよ。



で、土日も働かなきゃいけないんです?



うん。週番は外出できない。非常時の初動対応要員だし、外出から一時帰校する学生の管理や、日曜夜の外出員帰校状況の確認なんかもやらないといけない。



うへぇ
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鬼門は巡検と引き継ぎ



でも大丈夫。ボクだって出来たんだから。未来にも出来るよ。



特に気をつけないといけない事ってあります?



そうだね……、多分一番つまづくのは巡検だね。



幹部候補生学校の巡検は、第1順~第3順の3グループに分かれている。それぞれ、週番学生が当直士官や幹事付と一緒に決められた場所を回って、異状の有無を確認するんだ。
自習中に巡検隊が入ってきて「体調の悪い者!」って訊かれたことあるでしょ?アレだよ。



あー、やってますね。しかし、何か困ることでもあるんですか?



たくさんある。まず、順路を間違えないようにしないといけない。どこの部隊でもそうだけど、巡検は原則として一筆書きなんだ。同じ場所を何度も見るのは時間の無駄だし、不具合が初見のものか指摘済のものか分かりづらくなる。だから、正しい順路に従って歩かないといけない。
で、その先導役を努めるのも学生隊当直学生や週番学生なんだ。



あー、道を間違えて当直士官や幹事付にしばかれるワケですね。



そう。しかも、正しく廻りながら、先導者は随行の週番に、点検項目を一つ一つ声に出して確認させないといけない。
巡検中、時々聞こえない?「●●の確認を行え!」「●●の確認終わり、異状なし!」って。あれは週番学生だよ。
夕方になると、大抵は下点検をやってるね。廻り方のリハでもあるし、トラブルを事前に潰すためのものでもある。



しかも、学校には、もう数え切れないくらいの不具合事項がある。何しろ古い建物だから。教官たちも分かった上で敢えて訊いてくるんだ。「●●が動いてないが、どういうことだ?」って。



そんなこと訊かれても……。



実際の部隊でも、そういうのはあるからね。未知の不具合を見つけるためには、まず何が既知の不具合なのかをハッキリさせないといけない。でも自分でそれを全部見極めようなんて、絶対にできっこない。
だからこそ、前任者からしっかり引き継ぎを受けるんだ。



で、この引き継ぎも、また鬼門だよ。勤務期間が終わったとき、各週番学生は後任者のための引き継ぎ書類を幹事付に提出して点検を受けるんだけど、まぁまず上手くいかない。



何がそんなに引っかかるんです?



だいたいどれも、情勢の変化が反映出来ていない、ってところだね。
1週間も週番やってると、何かしら不具合事項が出てくる。その不具合や対処の進捗状況、再発防止策とかが記載されていないと、突っ返されることが多い。まあ、実際全部それを書くのは至難の業なんだけどさ。せめて、起きた問題くらいはしっかり網羅しておかないと、幹事付も認めるわけにはいかないからね。
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準備9割!



週番勤務を無事に終えたいと思ったら、とにかく事前の準備をしっかりすることだね。なんとなく分かったと思うけど、週番は始まってしまったら朝から晩まで仕事漬けで、+αの仕事なんてやってる暇はない。始まる前に、例規や勤務要領を確認したり、前任者が作ってる引き継ぎ書類の案を見せてもらったりして、どんな感じで働く事になるのかを調べておくんだ。もう、9割方はこの準備やってるかどうかだよ!



そのようですね……。



それから、週番期間中は本当に何にも出来なくなるからね。テスト勉強とか、外出時の買い物とか、色々計画的に。事前に終わらせておくんだよ。



というか、週番としてまともに働くためのスタートラインに立つのがそこで、本当はそこから先が重要なんだ。本来、週番は問題把握して改善してこそなんだから。どうやってルーチンをこなすかなんて、それ以前の問題なんだよね。



まぁ、ボクも偉そうに言ってるけど、候補生の時はただただルーチンを回すだけで精一杯だった。



ただ、週番で一番印象に残ってるのが、やっぱり巡検でさ。
事前に順路とか、既知の不具合とかをしっかり頭に叩き込んでたんだ。で、冷蔵庫を確認したとき、機関幹部の当直士官から「冷蔵庫温度が規定値から外れているが、問題無いのか?」と質問があったんだ。これは週番申し継ぎでは定番の質問とされてたから、ボクは自信満々に「法令上求められる規定値に達していませんが、現在この冷蔵庫は食品保存に用いていないので問題ありません!」って答えたんだ。



へぇ、そんなことがあるんですか……。



そしたら、当直士官はなんて言ったと思う?
「確かに、法令上は問題無いのかもしれない。しかし、本来その温度に到達すべき機器が規定値に達していないということは、何らかの故障の兆候と考えるべきで、そのまま放置していて良いものなのか?」って。



……あー。



「この冷蔵庫がそういう状態にあるのはもちろん知っているし、君たちがそういう風に申し継いでいるのも知っている。この冷蔵庫について、今さら君たちに何かしなさいとは言わない。だが、前任者から問題無いと言われたから問題無いとは思わず、日々、目にするもの、耳にするものについて『何か問題は無いか?』と考えながら勤務して欲しい。」ってさ。



ただ丸暗記するだけじゃダメなんですね。



巡検中とは思えないくらい、すごく穏やかに諭されたからさ。だからこそ、自分の浅はかさを思い知らされたし、今でも週番の想い出っていうと、真っ先に思い出すんだ。
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気楽に行こう



いやはや……それにしても、やっぱり責任重大だし、キツそうですね……。



まあ、そこまで不安に思わなくても大丈夫だよ。



なんて言ったって、時間が解決するから。



……え!?これまでのしんみりとした話はなんだったんです???



いや、別に適当にやり過ごせって言ってるんじゃないよ!
ただ、色々不安に思ったところで、結局1週間すれば終わるんだ。(引き継ぎでやらかさなければ……)



学校生活の中でも屈指と言われるキツさではあるけど、ずっと続くわけじゃなくて、それなりに頑張っていれば1週間で終わる。恐れずに、ドンとぶつかっていけばいいんだよ。



うーん……。そういうもんですかね。



それにね。週番期間は、滅多に見ることの出来ない、学校の裏の姿を見ることが出来るんだ。
今ひとつ何をやってるのかよく分からない、当直士官とか当直海曹が何をやっているのか、とか、学校を回すのにどんな文書が出回っているのかとか、色々知るチャンスなんだ。



確かに……。



それに、なんと言っても、夜、学生館の外に出られるんだよ?
普段、学生は総員起床より前に部屋から出られないし、延灯終了後も部屋から出られない。23時を過ぎたとき、学校の中がどうなっているのかを見るのは週番の特権なんだ。



え、そんなことして、なんかあるんですか?



開放感だよ。普段なら絶対出来ないけど、無人の風呂にゆったり浸かったり、学生館と赤レンガの間をゆったり歩いたり。幹事付すら帰宅した後だから、まず教官とすれ違うことはないし、当直士官や当直海曹と出くわすことがあっても、別にルール違反してるワケじゃないから「遅くまでご苦労。早く寝ろよ?」って言われておしまい。



……すごくどうでも良いんですけど、そこはかとなく、見てみたいような……。



週番の時だよ、ボクが江田島の星空を知ったのは。周囲に明るい建物が全くないから、0時あたりになると、本当に真っ暗になるんだ。そこで空を見上げると、一面の星空。
今でこそ、艦でもっと凄いのが見られるけどさ。当時、あれほどの星を見たのは生まれて初めてだったんだ……。



大変大変って言うけど、先パイ結構エンジョイしてたんですね。
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さて、どうかな?週番についてだいたい分かった?



ええ、ここまで分かったなら、勝ったも同然!私の能力をもってすれば恐るるに足らず、ですよ!



おお、頼もしいね。
あ、でも、未来は今、室次長やってるんだっけ?そしたらすぐには廻ってこないかな?



ええ、そうですとも。
まずは、先週人事週番に提出した外出簿が色々ミスってて、外出員整列を崩壊させてしまったので、それを詫びてきます!



お、おう……。
この記事では、入隊後の生活イメージを明確化するため、海上自衛隊幹部候補生学校における学生隊当直学生及び週番学生の業務について、次の内容を説明します。
- 学生隊当直学生・週番学生は、当直勤務のトレーニング制度
- 学校の運営に参加し、業務計画の立案・実行、問題点の把握・改善を通じて、幹部としての素養を磨く。
- 週番学生には種類があり、それぞれ役割が異なる。
- 学生隊当直学生
- 週番学生への指示
- 課業整列等の統制
- 当直士官の補佐
- 甲板週番A
- 校内の清掃・整理整頓の維持
- 備品・施設管理
- 甲板週番B
- 短艇の現状把握
- 甲板週番Aの補佐
- 人事週番
- 人員の把握
- 体調不良者、受診希望者などの把握
- 外出簿の集約
- 人員の把握
- 文書週番
- 文書管理
- 気象観測・天気図作成
- 令達週番
- 号令の伝達(放送機材の運用)
- 学生隊当直学生
- 勤務期間
- 学生隊当直学生:1日間
- 週番学生
- 1週間
- 1つの週番の役職には正/副の2名が割り当てられ、半週ごとに交代する。
- 週番学生の生活と乗り切るコツ
- 通常の学生とは異なる生活スタイル
- 教務・別課以外は週番室で勤務
- 総員起床前から働き、消灯後も働く。
- 週末も外出せず、学校に残る。
- 鬼門は巡検と引継書類の提出
- 巡検は順路を正確に回ること、不具合事項を説明できること。
- 引継書類は、勤務中に発生した問題を網羅すること。
- 準備9割
- 立直の前から勝負は始まっている。勤務要領や引継書類の内容は事前に確認すること。
- しっかり知識を準備した上で、問題を探そう。
- 気楽に。
- 辛くても、時間が経てば解決する。
- 普段見ることの無い、学校の裏側を見て楽しもう。
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