名艦?失敗作? 「あさぎり」型護衛艦 その2

「あさぎり」型護衛艦7番艦「さわぎり」。画像は海上自衛隊Webサイトから引用。

この記事では「あさぎり」型護衛艦を紹介するため、3回に分けて次の内容を説明します。

第1回

  • 「あさぎり」型は、現存する最古のDDであり、その前級である「はつゆき」型護衛艦の改良型であること。
  • 「はつゆき」型に引き続き「オールガスタービン」であるが、採用した主機や機械室の配置が改善され、整備・管理が容易になり、抗たん性が向上していること。

第2回

  • 対空戦・対水上戦・対潜戦にバランス良く対応出来るよう、武器を装備していること。
  • 本格的なCDSを装備しており、戦闘指揮が容易になっていること。
    • CDSは、周囲の状況を自動で画面表示してくれること。
    • CDSは、センサーや武器を繋いで、指揮官の指示した目標を間違いなく攻撃できるようにすること。

第3回

  • 第2マストの存在が外観上大きな特徴となっているが、決して評判は良くないこと。
  • 他の護衛艦に比べると造水能力が低く、真水不足に悩まされやすいこと。
  • 近年はCOTSリフレッシュによって、戦闘システムの大幅な改善が図られたこと。
目次

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オールマイティな武器体系

水雷長 遠見1尉

次は武器を見ていこう。「あさぎり」型は対空戦も対水上戦も対潜戦も、バランス良くこなせるように、色んな種類の武器を装備しているよ。

募集対象者 京井 未来

オールマイティなのが汎用護衛艦だと言ってましたもんね。


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対空戦

水雷長 遠見1尉

まずは対空戦、ミサイルが飛んできたときに迎撃する武器を紹介するね。艦尾のシースパローミサイル、艦首の76ミリ速射砲、艦橋左右のPHALANXの3種類を装備しているよ。
対空戦は、ミサイルが艦に迫るにつれて、射程距離の長い順に武器を変えながら迎撃するんだ。

「あさぎり」型護衛艦の対空戦用の武器(赤枠)とセンサー・指揮装置(青枠)
写真は海上自衛隊Webサイトから引用し、解説は筆者が追記した。

射程距離の長い順=迎撃に使用する順番

  1. 対空ミサイル:短SAM(シースパロー)
  2. 砲:62口径76ミリ速射砲
  3. CIWS:高性能20ミリ機関砲(PHALANX)
水雷長 遠見1尉

シースパローは元々戦闘機用の対空ミサイルだったスパローミサイルを艦艇用に改造したもので、単に「シースパロー」と呼ばれる他、よく「短SAM」って呼ばれるよ。

募集対象者 京井 未来

たんさむ?

水雷長 遠見1尉

SAMっていうのはSurface-to-Air Missile、艦対空ミサイルのことで、射程が短いものを短SAMって言うんだ。
短いとは言っても砲やPHALANXよりは長射程だから、まずはこの短SAMで迎撃するんだ。

募集対象者 京井 未来

ふーん。ミサイルをミサイルで撃ち落とすんですね。

水雷長 遠見1尉

シースパローで撃ち落とせなかったら76ミリ砲、「ナナロク」ってよく言われる艦砲で迎撃するよ。この砲はとにかく連射速度が早いから、たくさん弾を飛ばして命中を狙うんだ。76ミリ砲でダメならPHALANXでなんとかする。

募集対象者 京井 未来

そのファランクスっていうのは、この白い筒みたいなやつですか?

水雷長 遠見1尉

うん。高性能20ミリ機関砲というのが正式名称だよ。普通のミサイルや艦砲は人が目標を指定して発射命令をすることで発射するんだけど、PHALANXはレーダーも含めて全てパッケージ化されていて、全自動で目標を捜索して艦に突っ込んでくる目標を迎撃してくれる機関砲なんだ。PHALANXというのは製造元のアメリカでの呼び名だよ。

募集対象者 京井 未来

なるほど。3種類あるのは防壁を3層構造にするためと。
これだけあれば安心ですね。

水雷長 遠見1尉

うーん。ところがそうでもなくってね……。シースパローの射程は決して十分な長さもないし、76ミリ砲もあまり命中は期待できないと言われているし、PHALANXは命中率こそ抜群の評価をされているけど威力が足りないんじゃないかとも言われているの。

募集対象者 京井 未来

えっ、そうなんですか。

水雷長 遠見1尉

詳しくはまた今度説明するね。それ以前の日本の護衛艦を考えれば破格の性能を持っていたんだけど、ようやく当時の国際標準に追いついたというか。今どきの兵器の性能を考えると、絶対的には能力が足りないと言わざるを得ないかなぁ。

募集対象者 京井 未来

難しいんですねぇ。


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対潜戦

「あさぎり」型護衛艦の対潜戦用の武器(赤枠)とセンサー・指揮装置(青枠)
写真は海上自衛隊Webサイトから引用し、解説は筆者が追記した。
水雷長 遠見1尉

お次は対潜戦。潜水艦を沈めるためには魚雷を使うよ。中部の左右に3本ずつ装備された水上発射管を使って短魚雷を発射できるの。

募集対象者 京井 未来

「短魚雷」の「短」はさっきと同じく射程が短いってことですか?

水雷長 遠見1尉

射程の長さ、というより魚雷自体の大きさかな。潜水艦が使う魚雷はもっと長くて大きい「長魚雷」ってやつで、中に詰まってる爆薬の量が全然違うの。護衛艦が使う短魚雷は潜水艦の船体に穴を空けられれば十分なんだけど、潜水艦が使う長魚雷はもっと大きな艦を一撃で真っ二つにするくらいの威力がないといけないからね。

募集対象者 京井 未来

ふーん。魚雷といっても色々あるんですね。

水雷長 遠見1尉

「あさぎり」型は短魚雷の発射管に加えて、艦橋の前にアスロックランチャーを装備しているよ。アスロックというのは、短魚雷の後ろにロケットを装着した「対潜ミサイル」だよ。ロケットで短魚雷を遠くまで飛ばすことができるんだ。

アスロックを発射する「やまぎり」
写真は海上自衛隊Webサイトから引用
募集対象者 京井 未来

すごいものがあるんですね。
でも、なんでわざわざロケットで飛ばすんですか?

水雷長 遠見1尉

遠距離目標の命中率を上げるためだよ。
魚雷は艦よりはスピードが速いけど、やっぱり水中を走る以上あんまりスピードが出ないんだ。そうすると、魚雷が遠くの敵に届くまでにすごく時間が掛かってしまうでしょ?潜水艦を見つけて攻撃しても、魚雷が届くまでに5分も10分も掛かっていたら、潜水艦は針路や速力を変えてしまうから、目標の未来位置に向けて発射しても当てられない。アスロックで魚雷を飛ばせばその時間が数十秒や1、2分に短縮できる。潜水艦に逃げる隙を与えないためにアスロックはあるんだ。

募集対象者 京井 未来

そんなに時間が掛かるんですね。それは大変です。

水雷長 遠見1尉

対潜戦については、パッシブ戦の機能が充実したのも「あさぎり」型の特徴だよ。

募集対象者 京井 未来

パッシブ戦?

水雷長 遠見1尉

センサーにはアクティブセンサーとパッシブセンサーがあるんだけど、主にパッシブセンサーを使う戦い方のことだよ。アクティブセンサーはレーダーみたいに自分から電波や音波を発射するもので、パッシブセンサーは自分からは電波や音波を発射しないで受信に徹するの。

募集対象者 京井 未来

なるほど、相手に気付かれずに捜索できるんですね。

水雷長 遠見1尉

そういうこと。それと、一概には言えないんだけどパッシブセンサーの方が探知距離が長いっていう利点もあるよ。レーダーやアクティブソーナーは反射波を検出する構造上、電波や音波が往復しないといけないからね。パッシブセンサーは相手が出した電波や雑音を拾うから、片道分届くだけの信号強度があれば検出できるの。
で、あさぎり型からは曳航式パッシブソーナー(TASS)の装備艦載ヘリコプターの新型化(SH-60J)を実現したおかげで、潜水艦を遠距離で探知して攻撃できるようになったんだ。こういう特徴は「はつゆき」型にもバックフィットされたけど、初だったのは「あさぎり」型なんだ。

募集対象者 京井 未来

ふーん。

対潜戦は、魚雷について論じるより、ソーナーについて論じるのが有意義です。
が、今回は「あさぎり」型の解説なのでこのくらいにして、いずれ別の機会で深掘りしていきます。


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対水上戦

水雷長 遠見1尉

お次は対水上戦。艦と戦うためには76ミリ砲対艦ミサイルを使うよ。

「あさぎり」型護衛艦の対水上戦用の武器(赤枠)とセンサー・指揮装置(青枠)
写真は海上自衛隊Webサイトから引用し、解説は筆者が追記した。
募集対象者 京井 未来

あれ?魚雷は使わないんですか?
よくゲームだと艦の武器で魚雷が出てきますが。

水雷長 遠見1尉

これ、ボクも入隊前は勘違いしてたんだけどね……。
残念だけど、対艦攻撃に魚雷は使わないんだ。

募集対象者 京井 未来

えっ、そうなんですか……。

水雷長 遠見1尉

魚雷はあんまりスピードが出ないし、射程距離が長くないの。敵に近づいていったら魚雷の射程に収める前にミサイルで先制攻撃されてしまうから、護衛艦が装備している魚雷はあくまで対潜水艦用で、水上艦艇を攻撃することは想定していないんだ。
それこそ、魚雷で攻撃しようと思ったら、潜水艦で忍び寄らないと。

募集対象者 京井 未来

ふーん、そうなんですね。それで、さっき言ってたシースパローを使うんですね?

水雷長 遠見1尉

いや。対空戦で出てきたシースパローは対空ミサイルで、対艦攻撃にはハープーンという別のミサイルを使うよ。目的が違うから、射程距離とか誘導のやり方とか弾頭の性能が違うんだ。

実際には、SAMにも対艦攻撃モードが用意されているので、対艦攻撃可能です。
ただ、弾頭の破壊力が大きくないので、敵艦を沈めるというより、露出したアンテナ等に被害を与えるために使われるようです。また、アクティブレーダーホーミングのSSMと異なり、セミアクティブレーダーホーミングのSAMは、目標へのイルミネーター照射が必要ですから、見通し圏内でしか使うことが出来ないでしょう。
さらに、DDが保有するSAMの弾数は少ないので、対艦攻撃に振り向ける決心が出来るかはまた別の問題です。

水雷長 遠見1尉

ハープーンに限ったことではないけど、対艦ミサイルは艦自身のレーダー探知距離より遠くまで届くほど射程距離が長いんだ。だから、対空戦と違って射程距離の短い砲と同時に使うことはまず無いよ。

募集対象者 京井 未来

なるほど……。
あれ?そうなると、艦は探知できていない敵艦へミサイルを撃つんですよね?そんなこと出来るんですか?

水雷長 遠見1尉

よく気付いたね。そこで出てくるのが航空機だよ!
レーダーは水平線の向こうを見ることが出来ない(=地球の向こう側は見えない)んだけど、高いところから探すと水平線が遠ざかって探知距離が伸びるんだ。だから、艦載ヘリコプターや哨戒機に敵艦を探してもらって、その位置情報に向かって攻撃するの。発射されたミサイルは途中まで事前にプログラムされたとおりに飛んで、目標の手前でミサイル自身が持ってるレーダーで敵艦を見つけて突っ込むんだ。

募集対象者 京井 未来

「あさぎり」型はヘリコプターを搭載できるんでしたね。なるほど、そういう使い方をするんですね。

水雷長 遠見1尉

そういうこと。外国の対艦ミサイルもだいたい同じ感じで運用されてるから、艦同士が戦う場合はお互いに身を隠しながら、いち早く敵を見つけて射程距離内に収めた方が勝つの。そうなると、水平線内で使う砲はまず出番がないね。
とは言え、例えば至近距離で自爆ボートが突っ込んできた場合なんかはやっぱり砲で対応することになるかな。

募集対象者 京井 未来

武器のことはだいたい分かりました。確かに、ミサイルにも艦にも潜水艦にも対応出来るようになっているんですね。


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戦闘指揮の要、CDS

水雷長 遠見1尉

「あさぎり」型の特徴っていろいろあるんだけど、個人的に一番推したいのはコレだなぁ。CDS

募集対象者 京井 未来

しーでぃーえす?

水雷長 遠見1尉

Combat Direction System、戦闘指揮システムってやつ。レーダーで探知している目標を画面に表示したり、目標へのミサイル発射命令を出したりするシステムなんだ。昔の艦はDDGくらいしか積んでなかったんだけど、「はつゆき」型で簡易的なCDSを装備するようになって、「あさぎり」型では本格的なCDSを装備するようになったんだ。

募集対象者 京井 未来

……よく分からないんですが、その画面に表示して命令するシステムってのがなんで一番大事なんですか?


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CDSはピクチャーを作る

水雷長 遠見1尉

うーんとね……。こればかりは口で言ってもなかなか分からないかもね。CDSの役割って当たり前すぎて地味に思えるかもしれないんだけど、多分皆が想像する「戦闘」って、CDSが無いと成り立たないんじゃないかな。
……そうだね、ちょっと想像してもらいたいんだけど、アクションゲームにしても、戦略シミュレーションゲームにしても、プレーヤーの周りの状況って画面に表示されるよね?あの画面が暗転してて、音声とか文字だけでどこに何があるのか教えてもらえるようになったら、どうやってプレイする?

募集対象者 京井 未来

えぇ……そんな縛りプレイ、したこと無いですね。
そのCDSが無いと、そういう感じになるんですか。

水雷長 遠見1尉

そういうこと。確かにレーダーは周りの艦や飛行機の方位や距離を教えてくれるんだけど、あくまで「このあたりから電波が反射してきました」ってだけだから、映ってるものが敵なのか味方なのか、飛行機なのか艦なのか、なんていくらレーダー画面を見ていても分からないんだよね。だから指揮官はレーダー以外からも情報を集めて周囲の状況を把握しないといけない。
例えば「右90°5マイルにいる目標は、目視により味方艦艇間違いなし!」っていう具合にね。でもそういう報告をみんな口頭でやっていたら、指揮官は頭の中で想像するなり、手で図に書き起こすなりしないと周囲の状況が分からないでしょう?CDSはレーダーとか、他の艦との戦術データリンクとか、いろんなものと繋がっていて、自分の艦から見てどこにどういう目標がいるのかを自動で図にしてくれるんだ。しかも、距離やスピードから計算して「この目標は優先的に攻撃した方がいいですよ」ってリコメンドもしてくれるの。

募集対象者 京井 未来

なるほど。確かに、ゲームでも周りの状況が表示されないとゲームになりませんからね。


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CDSはセンサーと指揮官と武器を繋ぐ

水雷長 遠見1尉

それに攻撃しようと思ったら「この目標に向かって撃て!」って命令しないといけないでしょ?その時、CDSが無いと「●●●°●●マイルの目標」って口頭で指示して、射撃指揮装置のオペレーターにその目標を探させないといけないの。これは想像以上に大変なことなんだ。なんと言っても、そもそも指揮官はどこに目標がいるのかよく分からないしね。レーダー員から位置を聞き取っても、指示を出すまでに目標は動いてしまうから、目標の数がちょっと増えるだけでどの目標を狙うべきか全く分からなくなってしまうんだ。
その点CDSがあれば、レーダーとも射撃指揮装置とも繋がってるから、「この目標」って指示を出せば、その目標が移動しても狙うべき目標がどこにいるのかを自動で修正してくれるの!

募集対象者 京井 未来

RPGで「勇者の何マス左にいる物体に攻撃しろ」って言わないといけなかったのが、CDSがあると「スライムAに攻撃しろ」って言えば済むようになるようなもんですか。確かに大事ですね。

水雷長 遠見1尉

ね。大事でしょ?
ちなみに「はつゆき」型のはTDS、目標指示装置と言って、レーダーと繋がってなくて、手動入力された目標についてどれに攻撃しろって指示を出すだけのシステムだったんだ。
対して「あさぎり」型のはレーダーや戦術データリンクと繋がったおかげで、目標の位置がある程度自動で入力されるようになったから、名実共にCDS、戦闘指揮システムと呼べるようになったんだ。これ以降、全てのDDはこのCDSを中核とした戦闘システムを装備するようになるんだ。

募集対象者 京井 未来

なるほど。ガスタービンの話もそうでしたけど、「はつゆき」型が大きな転換点だったんでしょうが、それを「あさぎり」型があるべき姿に持っていったんですね。


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まとめ

水雷長 遠見1尉

さて、じゃあここで1回まとめるね。

募集対象者 京井 未来

今回は、「あさぎり」型がバランス良く武器を装備しているって話でしたね。

水雷長 遠見1尉

そう。対空戦にも、対潜戦にも、対水上戦にも、どれでも対応出来るように作られているのが特徴なんだ。

募集対象者 京井 未来

それから、本格的なCDSを装備したのも特徴でしたね。

水雷長 遠見1尉

CDSはセンサーやデータリンクと繋がって、周囲の状況を自動で画面に表示してくれる。これが無いと、口頭で聞き取った内容を頭の中で想像しないと周囲の状況を把握できないんだ。
それから、武器とも繋がっているから、指揮官が指示した目標を間違えることなく狙えるようになるんだ。
そういうわけで、戦闘指揮をする上で、間違いなく必須な装備だよ。

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