この記事では、「あぶくま」型護衛艦について、2回に分けて次の内容を説明します。
第1回
- 就役当時は地方隊隷下の護衛艦だったが、組織改編により護衛艦隊へ移籍したこと。
- 武器が少なく、艦隊唯一のノンシステム艦であること。
- 「あさぎり」型に準じた武器体系を有しているが、短SAM・ヘリコプター・CDSを持たないが故に、戦闘能力は大幅に劣る。
- 船体の小ささ故に、DDに比べると悪天候に弱いこと。
- 人数の少なさ故に、一人あたりの業務量が多いこと。
第2回
- CODOG艦であり、燃費の良さは随一であること。
- 警戒監視のような任務で大活躍していること。
- 意外にも居住性は結構良いこと。
よし、気を取り直して「あぶくま」型の良いところも見ていこう!
超経済的!CODOG艦の魅力
ガスタービンとディーゼルの切り替え式
まず、「あぶくま」型一番のセールスポイントは、圧倒的な燃費の良さだよ。
……燃費って何の、ですか?
いや、そのままだよ。同じ量の燃料で艦がどれくらい長く走れるかって。
あ、そこは車と同じ話なんですね。
うん。「あぶくま」型は、巡航用のディーゼルエンジンと、高速用のガスタービンエンジンを2機ずつ装備していて、速力に応じて切り替えるんだ。
この推進方式をCODOG(COmbined Diesel Or Gas-turbine)と呼ぶよ。
そうすると「あさぎり」型みたいなオールガスタービンではないってことですか。それが、燃費に関わってくるんですね。
そのとおり。小型・軽量・高出力・良好な応答性・自動制御性・整備性……良いことずくめに思えるかもしれないけど、ガスタービンは燃費がバカみたいに悪いという問題があるんだ。
そんなに悪いんですか?
うーんとね……。理論上は発生したエネルギーの2/3くらいは、エンジンを動かすための圧縮機の動力として消費されるんじゃなかったかな?
……はい?
人間で言えば、食べ物が持つカロリーの2/3を、咀嚼して消化吸収するために使ってるような感じか。
これはひどい。
要は、必要な出力の3倍のエネルギーを入力しないといけないってことじゃないですか。
その点、ディーゼルは実用的なエンジンの中で最高の燃費を誇るんだ。
実際「あぶくま」型がディーゼルエンジンを使って動くときの燃料消費量は、DDの半分どころか1/4、1/5だって余裕で狙える!
部隊で働いてると、自分でお金払うわけじゃないから燃費を気にしない人も多いけどね。
海自が持ってる燃料の量にも限りはあるし、基地の給油能力や補給艦の燃料在庫にもやっぱり限りがあるから、燃料を使いすぎると補給が追いつかなくなる可能性がある。
その点「あぶくま」型は使う燃料も少なければ、燃料タンクも慎ましい大きさだから、影響が小さくて済むんだ。
実際、大型艦が燃料搭載するときには、油船(給油するための小型タンカー)が2隻3隻態勢で入れ替わりながら給油することも珍しくありません。そうなると、他の艦の給油希望に応じられず別の日に、なんてこともしばしば起こります。大型艦の優れた戦闘能力は贅沢な補給によって支えられているのですが、全ての艦にそれを施せるほど、わが国は恵まれていないのです。
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欠点はスピードの遅さ。
それは素晴らしい。
でも、先パイが言うことだから、また欠点もあるんですよね。
人が批判ばっかりしてるような物言いはいかがなものか……まぁ、いいや。
騒音が大きくて潜水艦に見つかりやすいとか、そういう欠点もあるんだけど、一番は出せるスピードが遅いことかな。
ディーゼルは燃費こそいいんだけど、エンジンサイズに対して出せるパワーが小さいから、あんまり速くは走れないの。
護衛艦は1隻だけで動くわけじゃないからね。他の護衛艦がパワーに物を言わせて高速航行するなら、置いていかれるわけにはいかないからガスタービンを使わないといけないでしょ?そうすると、通常の3倍4倍5倍……とゴリゴリ燃料が削れて、あっという間にガス欠になっちゃうの。
いつ、どのくらい給油すべきなのか見通しを立てるのが難しいってのがこの艦の厄介なところだね。
なるほど。燃費の良さも条件付きなんですね。
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警戒監視で本領発揮
砲火無き戦争
そんな「あぶくま」型が一番活躍するのが、警戒監視のミッションなんだ。
前から思っていたんですけど、その「警戒監視」って何ですか?
警戒監視というのは、外国海軍やその疑いのある船舶が日本の周りに近づいてきたときに、その船舶が国際法に違反する行為をしていないかを確認して、必要に応じて呼びかけをしたり、警告をしたりする任務なんだ。
まあ、警備員みたいなものだね。
そうでした。前にもそんなこと言ってましたね。
別に、日本の周りをうろちょろされたからって、ただちに戦争になったりするわけではないんだけどね。
ただ、何しろ見に行かないとその艦が存在することすら把握できないんだ。仮に、その艦が日本の領海を我が物顔で占有して、商船を追い出すようなことをしていたとしても、気づけなければ何も出来ない。
その状況を確認して、外交ルートでクレームを入れる。
そういう無法なことをされたと国際社会にアピールする。
本当に武力攻撃が行われているようなら、防衛する。
こういうリアクションをする上で絶対に欠かせないのが警戒監視なんだ。
ふむふむ。。。
そうやって「その気になればいつでも対応出来るんだぞ」って相手に見せつけるのも警戒監視の重要な側面なんだ。
警察官の目の前で犯罪をやる人はいないでしょ?警備兵力にはその場に存在するだけで不法行為の発生を抑制するパワーがあるんだ。
なるほど。そこで活躍するのが「あぶくま」型ですか。
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必要にして十分な性能
今言ったとおり、警戒監視の時にはそこまで重武装で行く必要はないんだ。どちらかというと、その場にいることが大事という性質が強い。
本格的に緊張が高まってきたら、重武装な艦を前に出すことで相手にプレッシャーを与える余地を残しておく必要もあるし。その点「あぶくま」型は決して無力ではないけど、重武装でもないということで、平時には前に出しやすいんだ。
駆け引きですね。
それから、悪天候下でもある程度活動出来るのもポイント。
あれ?さっきは悪天候に弱いって言ってませんでした?
それとはまた別の話。
地方隊が行う警戒監視では、地方隊の持ち物であるミサイル艇や掃海艇が使われるんだけど、こういう小型艦艇は「あぶくま」型以上に悪天候に弱くて、下手をすると本当に沈んでしまいかねないんだ。
その点、「あぶくま」型は台風が近くを通らない限りは、その場に踏みとどまるくらいのことはできる。
……まあ、中の乗員にはたまったもんじゃないんだけどね。
なるほど。警戒監視に欲しいくらいの性能は備えてるんですね。
敢えて言うなら……そうだね。やっぱりヘリコプターが欲しいところ。
目標を見つけるまでが大変だからね。あとCDSや、それと繋がる指揮統制システムがないから、上級司令部にリアルタイムで周囲の状況を伝えるってのも、やっぱり苦手。
このあたりの教訓はFFMに活かされたんだ。
とは言え、そういう能力の不足は固定翼の哨戒機で捜索を支援するとか、他の通信手段で司令部と連絡を密にするとか、運用でカバーできるところではあるよ。
地方隊に置かれてたら、所属地域の警戒監視しかやらなかったんだろうけど、今では自衛艦隊が行う大規模な警戒監視で日々活躍しているんだ。
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意外にも良い居住性
他に良いところと言うと、居住性の良さだね。
嘘だ!!
ところが本当なの。
艦内は案外広々してて、結構快適なんだよ。まぁ、揺れるのが難点だけど、それもすぐ慣れるし。
いや、だっておかしくないですか?小さい艦なんですよね。
ところがね。艦が小さい以上に人と機器が少ないから、一人あたりが使えるスペースは大きいんだ。
護衛艦で初めて居住区のベッドが3段ベッドから2段ベッドになったのも「あぶくま」型からだよ。
えぇ……?というか、3段ベッドなんてあるんですね。
もともと、設計時には対空ミサイルやCDSを装備する計画もあったようだね。そういうのが予算落ちした結果、本来機器を入れるはずだったスペースが居住区や倉庫に化けたんだ。
なんか、こう……良いんだか、悪いんだかって感じですね……
「あさぎり」型で悩みの種だった造水能力も「あぶくま」型ではほとんど問題にならないんだ。作る水の量自体はほぼ同じ、使う人や機器が少ないんだから当然だね。乗員が無駄遣いしないように気をつけさえすれば、毎日機械洗濯を許可しても大丈夫だし、優秀な艦だと日が経つにつれて真水保有量が増えるなんてこともあるよ。
なんなんだ、この艦は
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まとめ
じゃあ、まとめていこう。
「あぶくま」型護衛艦は、もともと地方隊で地域の警備をするために造られた護衛艦で、組織改編で護衛艦隊へ移ったよ。
正直、あんまりよく分からなかったんですけど、ある地域にだけ専従してた状態から、全国規模でどこでも赴いて働くようになったんだと理解しました。
だいたいその理解でいいよ。
次に、この艦のデメリットとして、対空ミサイル・ヘリコプター・CDSを装備してないから、戦闘力で劣るということを話したね。
これはそもそも、そういう使い方のために作られたわけではなかった、ということでしたね。
あとはとにかく揺れるのと、一人あたりの業務量が多いっていう問題点があるね。
こうしてみると、めちゃくちゃ扱き下ろしましたね。
でも、護衛艦としては珍しくCODOG艦で燃費が良いから、大型艦みたいに補給部隊を困らせることが少ないんだ。
それから、警戒監視で大活躍しているという話でしたね。
本格的に戦闘するには能力が足りてないけど、ひとまず警戒監視するのに必要な能力は持ち合わせているからね。地方隊のミサイル艇や掃海艇と違って海が荒れても多少は持ちこたえられるから、まさしく適任なんだ。
それから……にわかには信じがたいですが、居住性は割と良いと。
人とモノが少ない分、一人あたりの使えるスペースが広いのと、水も余裕があるよ。揺れるのにさえ慣れれば割と快適!
今回話を聞いて思ったんですけど、ものは使いようって本当なんですね。
分かってくれたかな?それじゃあ未来は全国600人の「あぶくま」型乗員に謝って!
別にいいですけど、その前に先パイも謝った方が良いんじゃないですかね……
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