この記事では、我が国の栄典制度と自衛官の関係について、次の内容を説明します。
第1回
- 栄典は、国が功績のあった者に名誉を与える制度
- 叙位、叙勲など
- 位を授けることを叙位、勲を授けることを叙勲と呼ぶ。
- 勲章は叙勲されたことを表すメダル
- 現在、叙位は功労者の死後にのみ行われている。
- もともと皇族・政治家・官吏・軍人に与えるものであったが、時代とともに民間人にも開かれるようになった。
- 憲法の栄典に関する規定を根拠として閣議決定のみで運用されているため、法律条文など明文化された規則が少なく、非常に分かりづらいものとなっている。
- 形式主義的運用を避ける方針が叫ばれているが、実際には就いた官職に応じて決まる性質が強い。
- 叙位、叙勲など
- 勲章の種類など
- 現在、主に授与されている勲章は旭日章、瑞宝章、文化勲章。
- 旭日章は、国家又は公共に対し功労のある者のうち、功績の内容に着目し顕著な功績を挙げた者に授与される。
- 瑞宝章は、国家又は公共に対し功労のある者のうち、公務等に長年にわたり従事し成績を挙げた者に授与される。
- 公務員が受章するのは主に瑞宝章
- かつて、同等級であれば旭日章の方が瑞宝章より格上とされていたが、現在は差は無いこととされている。
- 各勲章は、大綬章、重光章、中綬章、小授章、双光章、単光章の6等級に分かれている。
- 以前存在した勲等は廃止されたが、依然として等級分けはされている。
- 現在、主に授与されている勲章は旭日章、瑞宝章、文化勲章。
第2回
- 一部の幹部自衛官は、長期勤続をもって叙勲を受章することが出来る。
- 対象者
- 春秋叙勲
- 1佐以上のA幹
- 2佐以上のB幹
- 危険業務従事者叙勲
- 3佐~3尉のB幹(定年時特別昇任の2佐を含む)
- C幹
- もともと2佐以上のみであったが、近年B幹・C幹魅力化のため、3尉以上に拡充された。
- 春秋叙勲
- 勲章の種類
- 瑞宝章
- 春秋叙勲は、瑞宝中授章~瑞宝双光章になるのが通例
- 危険業務従事者叙勲は、瑞宝双光章・瑞宝単光章になるのが通例
- 等級は最終階級によるが、在職中の功績などにも影響される。
- 叙勲の時期
- 春秋叙勲:70歳以降
- 危険業務従事者叙勲:55歳以降
- 高齢者叙勲
- 功労者で88歳まで叙勲されなかった場合に叙勲
- 死亡叙勲
- 功労者が死亡した場合、随時叙勲
- 人生の締めくくりに功績を評価する位置づけなので、原則として高齢者が受勲対象とされている。著しい功績があった場合は年齢によらず叙勲されることになっているが、適用されることは稀
- 服装規定上は自衛官の制服に勲章を付けることも可能だが、在職中に受勲されることはまず無い。
- 注意事項
- 勲章の等級は最終階級により決まる性質が強いものの、在職中の功績や退職後の振る舞いにも影響される。
- 詳細に審査され、軽犯罪や自己破産の経歴があると、叙勲されない可能性が高い。
- 死亡叙勲は、功労者の死後30日以内に審査結果を閣議に付さないと叙勲されない。遺族は死後5日以内に自衛隊側に通告することを求められている。
- 対象者
- 栄典の拡充
- 防衛力整備計画では、自衛官に対する栄典の改革が謳われている。
- 現状、叙勲の対象となっていない隊員も今後対象となる可能性がある。
そういえば、皆さんが制服の胸に付けてる勲章があるじゃないですか?
ん?……あー、あれは防衛記念章といって、勲章ではないよ。
あれ?そうなんですか?
というか、そもそも勲章って何なんですかね……。
じゃあ今日は防衛記念章の話は別にするとして、勲章の話をしようか。
複雑な日本の栄典制度
栄典制度とは?
まず、勲章というのは日本の栄典の一つなんだ。
栄典?
栄典というのは、社会に対する功績のあった者に対して、国が名誉を与える制度の事だよ。
叙位とか叙勲とか、耳にしたことくらいあるんじゃないかな?この二つが今の栄典制度の根幹になっているんだ。
えっと……なんとなく聞いたことがあるような。
叙位は「位」を授けることを言うんだ。位はもともと宮中での官吏の等級を表すもので、多分「位階」と呼んだ方が分かりやすいかも。正三位とか従五位とか、聞いたことない?
あー、昔日本史の授業でやりましたね。
なんでしたっけ?三位以上から殿上人と呼ばれるとか、そんなことを習ったような。
そうそう、まさしくソレ。
対する叙勲は「勲」を授けることを言うんだ。
勲、というのは…?
とてもつかみ所のない言葉なんだけど、手柄、功績やその名誉のことだね。律令制の頃は、戦功を挙げた武官に位階と同等の特権を与えるために「勲位(勲等)」を授けていたんだ。ただあまり長続きしなくて、平安時代から武官にも位階を授けるようになっていったから、たとえば織田信長も正二位に叙されたりしている。
そういう制度を明治政府が掘り起こしてきて、叙位・叙勲という制度ができたんだ。
ちなみに、今の制度では叙位は死者に対してしか行われていないんだ。亡くなった人の生涯の功績を讃えて、名誉を授けるという趣旨なんだね。
それに対して叙勲は生者にも死者にも行われる。とは言え、生きている場合でも高齢の人が叙勲されることになっているね。これも人生の締めくくりに功績を評価する位置づけだからね。
ん?えーっと……勲位っていうのは分かったんですけど、勲章はどこへいったんです?
正確に言うと、勲章は叙勲されたことを表すメダルなんだ。
だから、一番大事なのは授けられた名誉であって、勲章はそのオマケに過ぎない……というのが正しい。
へぇ、そうだったんですか。
とはいえ、受章した勲章は、公的な場面で佩用することが認められる。見栄えがするし、よく知らない人からも叙勲を受けた人として扱ってもらえるから、実際に欲しいのは勲章だよね。
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変化する栄典制度
栄典制度が本格的に固まったのは明治期なんだけど、戦後になって色々制度が変わったんだ。
戦前は叙位・叙勲とは別に、爵位も運用されていたんだけど、戦後の華族制度廃止にあわせて廃止されたんだ。
叙位・叙勲もしばらくは取りやめとなって、そのあと復活した時も死者にのみ、つまり生前の叙位叙勲が無くなったんだ。
あらら、そうなんですか。
その後、生前の叙勲は復活したけど、叙位は死後のみの運用が続いてるね。
で、叙勲の内容も変わったんだ。
戦前の叙勲は主に皇族や政治家、官吏、軍人に名誉を与えるためにあったから、そうでない人が叙されることはほとんど無かったんだけど、戦後は民間にも開かれるようになった。
基本的には各省庁からの推薦によって選ばれるから、今も公務員が中心だけど、近年では一般国民からの推薦も受け付けるようになったんだ。
ふぅん、そしたら誰でももらうチャンスはあるんですね。
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秘密主義?
ただ、話はそんなに簡単じゃない。
まず、どうすれば叙位・叙勲されるのかが、とてもわかりづらいんだ。
いや、そもそも叙位・叙勲とは何なのかすら、普通の国民は知りませんよ……
それもそのはず、栄典について明文化された規則はほとんどないから、結構あやふやなんだ。
えっ、
栄典の法的根拠は日本国憲法のみで法律には全く定めがない。それに基づいて、閣議決定により運用されているんだ。あとは戦前に出た勅令とかを「まだ廃止されてない」とそのまま準用したり。
だから、そもそも言葉の定義すら明確ではない。普通、国がやる事業は法律の冒頭に「この法律において、●●とは××のことを言う。」という定義が行われるんだけど、そういうものが無いんだ。
だから本来、勲章は叙勲されたことを示すメダルでしかなくて、併せて勲記(国璽の押された証書)が授与されたりすることも全て含めて叙勲のはずなんだけど、公文書で「叙勲とは何か」と説明はされず、ただ勲章を授与することを説明をしていることがほとんどなんだ。
そして、叙位に至っては内閣府のサイトで説明すらされていない。
うーん、なんだかよくわかりませんね。
もとを正せば、宮中の人事に関する話だし、位階に至っては神道の神階にすらリンクしてくる話だから、何もかも明らかにできるものでは無いとは思うんだけどね。
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形式主義?
一方で、叙勲について言えば、公務員はどの勲位に叙されるのか、だいたい分かるようになっている。
どうしてですか?
それは、功績を挙げたかどうかより、何の役職に就いたかで決まるからだよ。
あー、
第二 授与基準
1 旭日章の授与基準(3) 次の各号に掲げる者に対して授与する勲章は、それぞれ当該各号に掲げるものを標準とする。なお、その者の功績全体を総合的に評価して、より上位の勲章の授与を検討することができるものとする。
勲章の授与基準(平成15年5月20日 閣議決定)
ア 内閣総理大臣、衆議院議長、参議院議長又は最高裁判所長官の職にあって顕著な功績を挙げた者 旭日大綬章
イ 国務大臣、内閣官房副長官、副大臣、衆議院副議長、参議院副議長又は最高裁判所判事の職(これらに準ずる職を含む。)にあって顕著な功績を挙げた者 旭日重光章又は旭日大綬章
ウ 大臣政務官、衆議院常任委員長、参議院常任委員長、衆議院特別委員長、参議院特別委員長又は国会議員の職(これらに準ずる職を含む。)にあって顕著な功績を挙げた者 旭日中綬章又は旭日重光章
(後略)
実際に功績を挙げた人と、役職に就いただけでさして功績を挙げなかった人が、同じように叙位・叙勲されるのはおかしいんだよなぁ。
元警察官僚の佐々淳行氏も、よく著書に書いていたね。
だからこういう形式主義的な運用は止めようという話は度々持ち上がるんだけど、そうなったためしはないんだよね。
うーん、でも仕方なくないですか?
だってこれまでみんなもらってきたのに、その人だけもらえなかったら、その人だけ相当な無能だと国を挙げてバッシングしてるような話になっちゃいますよ。
まあ、それはそうかもしれないけどさ。
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勲章の種類など
旭日章と瑞宝章
勲章はいくつか種類があるんだけど、現在主に運用されているのは旭日章、瑞宝章、文化勲章の3種類だね。他にも菊花章、桐花章、宝冠章というのがあるけど、特例として運用されている。
文化勲章はよくニュースになってますね。著名な学者や作家が受章するやつですね。
そう、だから自衛官に関係しうるのは残りの旭日章と瑞宝章。いずれも国家又は公共に対し功労のある者に授与されるんだ。
その二つはどう違うんですか?
瑞宝章は、長期勤続した公務員等に贈られるものだね。それに対して旭日章は期間よりも功績の内容に着目したものだとされている。
もともと明治時代の制度創設時はそういうものだったんだけど、時代を経るうちに、旭日章と瑞宝章では旭日章の方が格上という風潮が出てきて、より功績の大きな者に旭日章を与えるという運用が行われてきたんだ。
それが平成中盤の制度改革で、あくまで旭日章と瑞宝章は同格という建前になったんだ。
第二条 旭日大綬章、旭日重光章、旭日中綬章、旭日小綬章、旭日双光章及旭日単光章ハ国家又ハ公共ニ対シ勲績アル者ニ之ヲ賜フ(第2項省略)
第三条 瑞宝大綬章、瑞宝重光章、瑞宝中綬章、瑞宝小綬章、瑞宝双光章及瑞宝単光章ハ国家又ハ公共ニ対シ積年ノ功労アル者ニ之ヲ賜フ(第2項省略)
勲章制定ノ件(明治八年太政官布告第五十四号)
第2章 我が国の栄典制度の今後の在り方
第2節 叙勲制度の在り方
1.等級
(3) 等級区分の簡素化
現在の春秋叙勲においては旭日章(女性の場合は、宝冠章)と瑞宝章の各6段階が交互に位置づけられており実質的に計12段階として運用されているが、やや煩雑、細分化されすぎている。このため、等級区分の簡素化を行うこととし、「3.功績の質的相違に応じた勲章の運用」において後述する功績の質的相違に応じた旭日章と瑞宝章の使い分けにより、実質的に12段階を6段階とすべきである。(中略)
3.功績の質的相違に応じた勲章の運用
叙勲の対象とされる功労には様々なものが考えられるが、評価の手法の観点から二つの性質のものに大別されると思われる。
一つは、長年にわたり特定の分野(例えば、公務)に従事し、この間に積み重ねられた貢献を顕彰するものである。この種の分野では、功績の度合いはポストに基本的に対応するため、ポストと従事した期間を中心として客観的な評価が可能である。(中略)
栄典制度の在り方に関する懇談会報告書(平成13年10月29日)
これに対して、従事期間の長さに専ら着目して功績評価すると形式的運用の弊害が大きくなるため、従事した期間の長さよりも功績の内容に着目して顕彰すべきものがある。民間における産業活動、各種民間団体における公的な活動などがこれに該当し、これらの分野については功績の内容自体に着目した評価が行われるべきである。
(中略)
このような観点から、同一の勲等であれば旭日(宝冠)章が瑞宝章よりも上位とされる現在の運用を改め、功績の質的相違に応じて旭日章と瑞宝章を別系統の勲章として運用することを検討すべきである。
勲章制度が創設された明治期においては、積年功労に対して瑞宝章、長さでは測れない個々の事績に応じた功績に対して旭日章を授与することを基本的な考え方としていた。このような勲章制度の沿革に照らしても、功績の質的な相違に応じて勲章を別々に運用することが適当である。
建前……ですか?
まあ、人がどう受け取るかだよね。
勲章の趣旨から言って、公務員が受章するのは瑞宝章ということになる。でも、実際には元公務員でも旭日章を受章している人はいる。
瑞宝章ならポストに就いた期間が長ければもらえるけど、旭日章は単にポストに就いただけじゃなくて何か大きな功績を挙げたということを示唆している。そうなると、旭日章の方が格上だと感じるのは当然とも言えるような。
まあ、そうですよね。
それに、長年そういう運用をしてきたなら、位置づけが変わっても印象は残りますよね。
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勲章の等級
それから、勲章は6等級に分かれているんだ。
もともとは勲章を呼ぶときにも勲一等、勲二等といった勲等を付けることになっていたんだけど、これも平成中盤の制度改革で廃止された。でも、勲章自体の等級分け自体はまだ残っているんだ。
この等級は、宮中で行われる行事に招待された時の席次なんかに影響すると言われている。
見た目が微妙に違うんですね。
勲章だけを写真で見るとそんなに違わないかもしれないけど、首から提げたり、胸に取り付けたり、佩用の仕方が等級によって違うから実際には大きく印象が変わるよ。
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……しかし、オマエはなんで勲章のことなんかいちいち知ってるんだよ?
そりゃあ、いつか勲章を手に入れるためですよ!
は?
いつか付けるんですよ!
付けてどうするんだ?
いや、どうもしませんけど……。
どうもしないのか……(困惑)
だって、ボクは防衛記念章ハンターを自称してるのに、全然防衛記念章がやってこないじゃないですか!そしたら、もう狙うは勲章しかないですよ!ボクの慎ましい胸を飾ってくれるのはそのくらいしか無いんですよ!
防衛記念章の代わりに勲章って、相当不敬なこと言ってるって自覚してる?
でも、勲章はなかなか来ませんからね……。こうなったら国に500万円寄付して紺綬褒章をもらうしか……!
ここまで己の虚栄心をつまびらかに出来るのは、一つの才能かもしれんな……。
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