この記事では、一般幹部候補生課程(部内課程)や、その出身者について、次の内容を説明します。
第1回
- 一般幹部候補生課程(部内課程)を修了した幹部は「B幹」と呼ばれる。
- 正確には飛行幹部候補生課程出身者も「B幹」だが、「飛幹」と呼ばれることが多いため、単に「B幹」と呼ぶ場合は「部内」を指すことが多い。
- 3曹昇任から4年以上経過後に受験する選抜試験に合格すると、幹部候補生になる。
- 部隊の中核となる存在
- 曹士時代の知識と経験を活かして「できる初級幹部」として活躍する。
- A幹より同じ仕事をする期間が長く、知識の蓄積が大きい。
- A幹が配置されないような、専門的な業務にも従事する。
- 昇任スピード
- 2尉までは一斉昇任するが、それ以降はかなり開きが出る。
- 好成績だと、1尉まではA幹とほぼ同じスピード
- 3佐昇任には幹部中級課程への入校が必須
- 中級課程の途中に3佐昇任することがほとんど。
- 艦艇系列の場合、海技資格の取得も必須となる。
- CS選抜試験に合格すれば2佐昇任も可能
- 艦艇長や陸上部隊の科長も狙える。
- 2尉までは一斉昇任するが、それ以降はかなり開きが出る。
第2回
- 不人気と魅力化
- 海曹の幹部昇任意欲は概ね低調。
- 転勤が生じるため
- 業務内容が変わるため
- 休暇を取りづらくなるため
- 近年は、選抜試験の受験者を増やすために「義務受験」が行われている。
- 選抜試験に合格すると、優良昇給の対象になるなど、魅力化の取り組みが行われている。
- 海曹の幹部昇任意欲は概ね低調。
- B幹自身からは意外に評判が良い制度
- 給与の増額
- 権限の拡大
- 第2学生隊
- 幹部候補生学校では、第2学生隊として勤務する。
- A幹の候補生よりは圧倒的に勤務経験が多いが、まだまだ若者に過ぎない。
- 部隊でも何かと会うことになるので、努めてコミュニケーションを図るべき。
不人気と魅力化
志願者が少ない理由
B幹って、海曹の中からはどのぐらいの倍率で選ばれるものなんですか?
結構人気だったりします?
……えっとね……。
正直言って、めちゃくちゃ不人気だよ。
あら?そうなんですか?
せっかく出世できるのに。
なんでですか?
広告
転勤が生じるため
第1に、幹部になると転勤が発生するからだね……。
あー……。
B幹はA幹より異動が少ないとは言ったけど、それでも2~3年に1回くらいは別の配置に転出する。それが同じ地域の部隊とは限らないんだ。
海曹にも転勤が無いわけじゃ無いんだけどね。
でも、一生に1~2回有るか無いかという海曹と、数年に1回転勤する幹部では全然違うよね。
そうですね……。確かに、転勤せずに済む仕事が既にあるなら、それでいいやと思ってしまうかも。
一応、補職制限という制度があって、勤務地や業務内容を限定してしまうことも出来なくはないよ。
だけど、使った場合は人事上の不利益が生じるようになっているし、そもそも特殊な理由が無い限り認めてもらえないことも多い。
うーん。転勤を拒否ると不利益を課すんですか。嫌な組織ですねー。
ねー、そうだよね。
……とは言え、そうでもしないとみんな転勤を拒否してしまうし。
転勤した人へのインセンティブを充実させるべきと思うんだけど、なにせ公務員だからね……。給与を簡単に変えることは出来ないんだ。
世知辛い……。
広告
業務内容が変わるため
第2に、業務内容が変わってしまうから、というのがある。
幹部と海曹では仕事が違うって話ですね。でもそんなに変わってしまうんですか?
職種にもよるけど、特に艦艇で顕著だね。1・2分隊から幹部になると、航海指揮官やその補佐をしないといけないとか。
パートによるものも多いね。運用員から幹部になると射撃幹部になることがほとんどだから、曹士時代に全く関わらなかった射撃をやらないといけなくなったり。
魚雷員は発射管やランチャーの操作・整備が仕事だから、水中音響理論なんてこれっぽっちも知らなくても一応務まるんだけど、水雷幹部になった途端に、対潜捜索を指揮しないといけなくなるし。
通信員から通信士になっても「通信士」って名ばかりで、実際はほとんど航海科の仕事しかしてないから、通信員時代の経験はあまり役に立たない。
あとは、ET員。武整長がよく言ってるけど、船務科のET員が幹部になると砲雷科の武整長・士に変わってしまうんだよね。すると甲板作業をやらないといけなくなってしまう。
その逆がイージス艦のBMD士になった場合で、射撃幹部や電子整備幹部でも船務科扱いになるから、艦橋での航海指揮官補佐の仕事が増える。
うーん。やっぱりみんな、やったことのない仕事は気が進まないものですかね?
このあたりは人によるところが大きいね。新しい仕事でも積極的に受け入れようとする人は決して多くはないけど、少なくもないよ。
海曹だって、上に行くにしたがって覚えないといけない仕事はどんどん増えてくるわけで、新しいことに全く取り組みたくない、というのは流石に無理があると思う。
これを理由にする人のほとんどは、他に理由があるけど堂々と言うのに躊躇いがあるから、業務の変化を理由にしてるだけじゃないかなぁ。
広告
休暇を取りづらくなるため
第3に、休みを取りづらくなるから。
こればかりはなぁ……。
幹部になると休めなくなるんですか?
うーん。。。半分あってる。
そもそものことを言うと、海上自衛官……特にその中でも艦艇乗員は、幹部・曹士に関係なく休めてないと、ボクは思う。
えぇ……
腹立たしいけど仕方ない。艦はみんなが力を合わせないと動かないんだから。
艦が出港するときには乗員を乗せないわけにはいかないし、艦は平日しか動きませんってわけにはいかないし。
ただ、幹部と曹士で違うのは、その後で代休を取れるかだね。艦が港に戻ってきて停泊状態になったとき、曹士は当直員や特別に業務がある者以外は、原則として代休を取得して潰れてしまった土日を取り返すんだ。
一方で幹部は、お盆や年末年始なんかの休暇取得推進期間でなければ、休まないといけない理由がない限り、停泊中でも平日は原則出勤する。
あー……。それじゃあ休みは無いってことですか……。
うん。そういうことになるね……。
艦として頑張って平日に休めるようにしようとする努力は行われているんだけど、艦だけでは限界があるんだ。
平日は他部隊から業務調整の電話がどんどん掛かってくるし、上級司令部から数日中に返答しないといけない調査が次々と舞い込んでくる。担当者が休暇を取ってるので対応できません、というわけにもいかないから、出勤して対応することになるの。
そりゃあ、みんな幹部になりたがらなくなりますよ!
これは幹部が、というより責任が重くなるとそうなるんだ。幹部ほどひどくはないけど、海曹だって上級海曹になると、だんだんそうなっていく。その重みに耐えかねて、出世をしたがらない者、退職して楽な仕事を探そうとする者が次々と出てくる。
これを何とかするには潤沢な人的資源が必要なんだけど、残念ながら海上自衛隊はこれからますます人が減っていく。B幹になりたがらない人が多いっていうのは、その表層に過ぎないんだよ。
それをなんとかするのも幹部の務め……なんて言ってられるかぃ!!
流石に中間管理職の工夫でなんとか出来るレベルを超えてるよ!
仕事選び……間違えたかもしれない……。
広告
義務受験
そんなこんなで、B幹の志願者は本当に少ない。
そこで近年、志願者数を激増させる施策が行われるようになったんだ。
お、なんです?受験するとお金がもらえる、とかですか?
それは……受験資格を獲得した隊員に志願を義務づけたのさ!
……は?
おやおや……頭の良い未来にも分からないことがあるみたいだね?
もう一度言うよ。新たに受験資格を獲得した隊員は、その最初の受験機会で必ず志願するように義務づけたんだよ。
これで志願者は激増したってワケ!
えぇ……
いやぁ……思い出すなぁ。分隊員から「機関士!わしゃ志願なんてしてないのに、なんで『志願票』を書かにゃならんのですか!?これで希望してないのにB幹にさせられたら責任とれるんすか!?」って詰め寄られてさ……。
受験の義務づけじゃなくて、志願の義務づけなんですね……。末期的だ……。
一応ね?これが導入されるには、「志願して悪目立ちするのを恐れて、志願できずにいる隊員に受験の機会を与えるため」というロジックがあったんだけど……。
どんなロジックですか、それ……。
導入当初はものすごい反発があったんだけど、最近では「新たに受験資格を得る隊員」は入隊したときからこの制度があったから、あまり反対意見は聞かなくなってきてる。
希望していない場合は無理に幹部にしないという約束も、不安視されていたけど、一応守られているみたいだしね。
ならよかったですね?
それで人手不足が解消するとは思えませんけど……。
ただ、最近は艦艇乗員の充足率がどんどん下がってきて、しかも出港日数が長期化しているものだから、部隊の中核になりつつある若年海曹を義務受験のために降ろしていくというのが、かなりの負担になりつつあるんだ……。
導入当初はここまでひどくなかったんだけど。
うーん……何だかなぁ……。
広告
叙勲対象に
もちろん、給与面で優遇する、初回勤務地で融通を利かせるといった魅力化が行われているんだけど、地味に大きいのが叙勲だね。
叙勲?なんです、それ?
社会に大きく貢献した人は国から勲章をもらうことが出来るんだ。といっても、定年退職した後になってしまうけどね。
もともとB幹はほとんどの人が選考対象にすらなれなかったんだけど、近年の制度改正で、ほぼ全てのB幹が叙勲の選考対象になったんだ。
自衛隊内の表彰は所詮艦長や司令の名前でしか出ないけど、叙勲の場合、賞状である勲記には天皇陛下の名の下に国璽が押されて、内閣総理大臣の署名も入るんだ。まるっきり別格というわけ!
はぁ、そうですか……。
B幹になるメリット
……とまぁ、色々アレな話もしたけど、B幹の人に話を聞くと、意外にも評判はそこまで悪くないんだ。
えー、本当ですか~?
本当ですよ!このワタクシが言うんだから間違いありません!
いや、だからこそなんだけどなぁ……
広告
給与の増額と優良昇給
まず、何が良いかと言えば給与が増える!そこですよ!
まぁ、そりゃあそうかもしれませんが……
あ、アナタ今、心の中で給与をバカにしましたね?
アナタ、お金で苦労したこと無いから、そんなことを言えるんですよ。
さぁ、今すぐ日本銀行券のプリンターの製造会社に謝ってください!
でも、幹部になったら給与が倍になったりするわけじゃないんでしょ?
倍!心地よい響きですね~、それくらいやってくれたらいいのに!
というわけで補給長!あと説明お願いしますね!
やれやれ……いったい何の騒ぎですか……。
B幹になると給与が増えるって本当ですか?
ええ、そうですね。階級自体が上がることに伴い、俸給月額が増えますし。それに近年は魅力化施策として、優良昇給の対象になるようになったんですよ。
広告
優良昇給
優良昇給?
自衛官は年に1回、定期昇給しますが、通常なら4号俸増えるところ、成績が良いと6号俸または8号俸分昇給するんです。これを優良昇給と言います。
すると……B幹になると優良昇給しやすくなるんですか?
しやすくなるどころではなく、必ず優良昇給するんです。
幹部候補生学校に入校して曹長に昇任した、次の年の1月の定期昇給の際、必ず優良昇給で8号俸上がります。その翌年の1月も成績によりますが、ほとんどの人が8号俸または6号俸の優良昇給が得られます。
おお~、思ったより良かった。
で、本来4号俸上がるところ、8号俸上がった場合、どのくらい給与が変わるんですか?
どのぐらいの金額になるかは、その人にもよりますが、俸給月額にしてだいたい1万円程度は変わりますね。
うーん、1万円かぁ……
お忘れですか?海上自衛官には多くの手当があることを。
期末・勤勉手当や乗組手当、地域手当などは全てこの俸給額を基準に算出されるんです。
だから、俸給が1万円変わると、期末・勤勉手当は年間4~5万円くらい変わるし、乗組手当は月に4300円変わるんです。
なんだかんだで、艦艇乗員なら優良昇給分だけで20万円くらいは年収が変わりますよ。
確かに……。
優良昇給は何が良いかと言えば、効果が永久に持続することです。
勤勉手当で良い成績率が付いてもその効果は一度きりですが、優良昇給は退職するまで毎月の給与が増えるんです。
若いうちに得た優良昇給は人生を変えますよ。
広告
広域異動手当
他にも考慮事項はあります。それが広域異動手当ですね。
えっと……それってなんでしたっけ?
広域異動手当というのは、異なる地域にある部隊に異動した場合、3年間にわたって支給される手当です。異動距離が300キロ超だと……これは総監部間異動なら全てそうですが、俸給月額の10パーセントが支給されます。
そうか、曹士は転勤しないけど、幹部は転勤するから広域異動手当が付くんですね。
そういうことです。その人の俸給月額にもよりますが、だいたい3万円くらいは支給されますし、広域異動手当は期末・勤勉手当の金額にも影響するので、年収が50万円くらい変わることになります。
おぉ~
もっとも地域手当と重複しては支給されないので、もともと10パーセントの地域手当が支給されている横須賀の隊員には旨味がありませんが……。
うーん……なんだかなぁ。
地域手当は都市圏・地方間の物価水準の差を埋めるために存在し、広域異動手当は転勤する労働者の給与水準が高いことを考慮して設置されました。
手当の意義からして両者は異なるわけですが、重複支給を認めないということは、東京に永住している隊員と年イチで東京・地方間を往復し続ける隊員がいたとき、両者は同じ待遇で扱うべきとされていることを意味します。当然後者の方が負担が大きいわけで、納得のいかないところです。
広告
実際、どのぐらい変わる?
では、一つシミュレーションをしてみましょう。
- 3曹30号俸の隊員が、B幹になった場合とならなかった場合の、月間・年間の総支給額を試算
- B幹になった場合は、優良昇給(8号俸)した場合と、しなかった場合(4号俸)も試算
- 当該隊員のデータ
- 呉地区の護衛艦乗員
- B幹になった後は佐世保地区の護衛艦乗員(広域異動手当の対象)
- 独身(扶養手当等なし)
- 算出の基準
- 期末・勤勉手当の年間支給額は、俸給月額+αの4ヶ月分とする。
- 航海手当・海上警備等手当などは無視する。
まず、いつ何号俸をもらえるようになるか、というのが下の図です。
3曹30号俸の隊員が6月に幹部候補生になった後、修了直前の1月に8号俸分の優良昇給を得て曹長26号俸をもらえるようになります。
部隊に着任して7月に昇任、さらに翌年の1月には再度優良昇給して3尉の38号俸が得られるようになるわけです。
乗組手当や広域異動手当も考慮して月収・年収を計算すると、上の図のようになります。幹部候補生になった翌々年の1月には、月収にして7万円程度、年収にして100万円以上増加していることが分かります。
もちろん、3曹のままでも昇給しないわけではありませんが、その差は歴然です。
確かに、数字にしてみると結構違うもんですね。
ちなみに優良昇給の恩恵についてですが、同様の基準で「翌々年1月」から5年間の年収の合計を試算してみます。
すると、優良昇給しなかった場合は3尉30号俸⇒3尉34号俸⇒2尉34号俸⇒2尉38号俸⇒2尉42号俸となり、合計額は35,633,056円です。
一方優良昇給した場合は3尉38号俸⇒3尉42号俸⇒2尉42号俸⇒2尉46号俸⇒2尉50号俸となり、合計額は36,909,892円です。
つまり、5年間で実に120万円もの収入差が生じることになります。
この差がこの後もさらに開いていくのか……
若いうちの優良昇給はバカに出来ないですね。
広告
勤勉手当の成績率
金額を明示できるようなものではありませんが、他にも、給与が上がる理由はいくつかあります。
第1に、勤勉手当の成績率がよくなりやすいからです。
これは……ボーナスの査定みたいなもんですか?
だいたいそういう理解でいいです。
勤勉手当は特に手続きをとらない場合「C」(良好)の手当が出ますが、部隊の中で階級ごとに一定数「B」(優秀)を与えることが出来ます。また、階級に関係なく全体から一定数の「A」(特に優秀)を出せます。そのため、艦内で誰に「A」や「B」を与えるか、艦長・副長や各分隊長は人事会議を開くことになります。
その様子だと、「A」の方が「B」より金額が高くて、「C」は最低ってことですかね?
はい、その通りです。
ここで重要になってくるのは、「A」は階級に関係なく与えられる……とは言っても、幹部や上級海曹に与えられることがほとんどだということです。
部隊への貢献度がモノを言うので、3曹でAが付くことはきわめて稀です。それに、幹部は異動の時に4級~5級賞詞の表彰を受けることが多いので、それが人事評価や勤勉手当の選考にも強い影響力を持ちます。
なるほど、3曹だともらえない「A」を、B幹だともらえるチャンスがあるんですね。
それだけではありません。
「B」は階級ごとに一定数なので、同じ階級から「A」が現れるとその分「B」の枠が下りてきます。
同一階級内で「A」か「B」をもらえる可能性が高くなると。
そういうことです。
広告
転勤が優良昇給を招く
もうひとつの理由は、幹部になった後も優良昇給しやすいことです。
優良昇給の対象になる条件は結構厳しくて、普通の人はなかなか優良昇給できません。でも、最も条件を満たしやすいものとして、過去数年間の転居回数というものがあります。
あー、転勤が多いから優良昇給の対象になりやすいんですね。
そういうことです。もちろん、転勤さえしていれば優良昇給できるというほど甘くはありませんが、対象になりやすいのは確かです。
逆に言うと、転勤する人から優先的に優良昇給していくので、転勤なしでこれを勝ち取るのはかなり成績が良くないと厳しいということになります。
うーん。魅力的ではありますが、そのために転勤族になれるか……微妙ですね。
広告
単身赴任
あとは、単身赴任手当を受け取るきっかけを得やすいことですね。
うーん。。。それは本末転倒では?
そうかもしれませんが、少なくとも給与の額面が増えるのは事実です。
曹士隊員だとなかなか単身赴任が必要になるような異動ができません。仮に家族が勤務地以外での居住を希望したとしても、完全に自己都合になるので、単身赴任状態になっても手当は出ないんです。
その点、幹部なら事前の同居実態を作っておいてから、異動のタイミングで分離すれば、手当をもらうことができます。
はぁ……。
広告
割に合うか合わないかで考えたら微妙かもしれませんけどね。
でも、給与の額面が増えるってのは本当にバカに出来ないもんなんですよ。少なくとも、自分がキツい思いすれば家族はもう少しマシな暮らしが出来るようになるんで。
そうですね……。
権限の拡大
お金のことも大事ですが、もう一つ大事なのが、与えられる権限が拡大することです。
3曹では、まだまだ部隊の中での発言力が強くありませんし、簡単な機器整備や作業くらいは任せてもらえるかもしれませんが、基本的には作業員の一人にすぎません。
でも、幹部になると自分で計画を立てて訓練や整備を監督できるようになります。
あれ?でも初級幹部ってあんまりやりたいようにはやらせてもらえないんじゃないですか?
いや、確かに初級幹部の発言力って軽んじられがちではあるけどね?
でも、それは作業の要領や規則を理解せずに適当なことを言い出すから、周りに認めてもらえてないだけ。きちんと勉強している人には、自ずとみんなが従うようになるよ。
通信士を見てごらん。初任幹部なのに既にボクより裁量権を与えられてる。
お、おう……
若い幹部にどれだけ任せられるかは、それこそ上の人の度胸が試されるところでもありますからね~。ワタクシも水雷長にはやりたい放題やらせてもらってるので感謝してますよ。
そ、そうだね……。
裁量権を与えられないのって、やっぱり辛いものなんですか?
それはその人のやる気次第ですね~。
自分で決められるってことは、逆に言うと自分で決めないといけないってことなんで。面倒くさいことは多いですよ、やっぱり。
でも、自分で決めなければ面倒くさくないかと言うと、そういうもんでもありません。ロクに分かってない幹部や上級海曹からワケの分からん指示が飛んでくると、結局しんどい思いするのは若い海曹や海士なんで。
それに不満を言う海曹も多いんですけどね、階級社会である以上、上の階級の人間のやることには逆らえませんから。だったら、自分が幹部になって改善した方が、いくぶんか建設的だなと思ったんです。
なるほど~
広告
精神的充足
それに、自分たちのやってきたことが、海上自衛隊全体の中でどう役に立っているかが、幹部になって改めて分かったんですよね。
本当は、そういう意義を幹部が曹士に伝えないといけないのに……面目ない……。
まぁ、そうかもしれませんが、やっぱり自分の目で見ないと分からないってのはありますからね。
幹部は日常的に色んな会議に参加したり、資料を読む機会も多いので、部隊が行っている訓練や任務の意義なんて、わざわざ言われなくても分かるんですよ。
でも、毎日決まった作業をし続けている海曹士にそれを理解させるのはかなり難しいことです。その意義が分からないと、多少給料が良くても精神的にしんどくなって仕事を続けられなくなりますねぇ……。
人間ってなかなか難しいんですね。
広告
幹部候補生学校におけるB幹
あ!そうでした!
そんなことより、B幹の人が今度幹部候補生学校に来るじゃないですか。
どう接したらいいのかなと思ってたんですよ。
そうだね。B幹は第2学生隊の学生として勤務することになるよ。
学生館では2階に住むことになるし、講堂も違う場所にあるから、そんなにたくさん交流があるわけでもないけど。
まぁ、食堂とか浴室とかでは会うか。あとはクラブ活動とか、週番学生とか。
そういう時って、どうすればいいですか?
え……いや、普通の候補生同士として接すれば良いんじゃないかな?
えー、だって向こうの方が10年くらい先輩なんですよね?
いや、そこで上官のように奉ってやる必要はありません。あくまで同じ時期に幹部候補生になった、同期ですよ。
なにしろ、部隊に行った後も、ほぼ横並びか、A幹の方が少し上に行くくらいなんで、変に上下関係は付けない方がいいです。
もちろん、年齢差や部隊での経験には敬意を払うべきだよ。
でも、それは第1学生隊の中でもそういうところはあるでしょ?部内A幹とか、社会人をやってから来た人とか、防大を留年して1年浪人してきてる人とか。
メチャクチャ親しいわけでもなければ、タメ口ではなく敬語で話すとか、そのあたりは上下関係以前の話だし。
なるほど。なんとなく分かります。
あと、部隊経験があるって言っても、所詮10年程度の若者には相違ありません。上級海曹ほど仕事の真髄を見てきたわけでもないので、間違えるときは本当に間違えます。なので、彼らの言うことを全て真に受けるのも止めた方が良いです。敬意を払うのと盲信するのは違いますからね。
うーん。それは難しいですね。
まあ、本当か間違っているかは、部隊に行けば自ずと分かることもあるし。忙しい中でもコミュニケーションはしっかりとった方が良いよ。
なんて言ったって、部隊に行けば何かと再会することもあるからね。
良き仲間としての想い出を作っておけば、部隊で協力しなければいけなくなったときも腹を割って話しやすい。
クラブ活動なんかは、互いの利害が絡まずに話せる機会だから、活用してね。
分かりました。ありがとうございます。
コメント