この記事では、海上自衛隊における職の分類と経歴管理について、次の内容を説明します。
- 自衛官の仕事は「特技職」というカテゴリーで分類されている。
- 「特技職」とは人事管理や教育訓練上、類似する仕事のグループのこと。
- 自衛官は、特定の「特技職」の仕事に就くため、教育を受けて「特技」を認定される。
- 特技は当初幅広いカテゴリーで認定され、途中からより専門性の高い特技を認定される。
- A幹の場合、中級課程を修業すると専門性の高い特技を認定される。
- B幹・C幹は、幹部任官の時点で専門性の高い特技を認定される。
- 曹士の場合、海士課程を修業すると専門性の高い特技を認定される。
- ただし、実際には教育隊を修業した時点で特技は内定しており、これを変更するのは至難の業。
- 護衛艦のパート名は特技職の名称とほぼ同一だが、一部(特に砲雷科)で特技職の名称と異なるパートもある。
- 「●●員」と言う場合、パート名と特技職名のどちらを指しているのかは注意が必要
- 同じ特技職の中でも、専門にする装備品などの違いは「接尾語」によって表される。
- 「接尾語」は「特技職を示す番号の後ろに付記される記号」の意。
- 海上自衛隊では接尾語のことを「マーク」と呼ぶ事が多いが、誤用である。
さて、ここでいったんパート紹介を止めて、特技職の説明をしようか。
何回か口にしていましたね。
特技職とは
特技職と特技
「特技職」というのは人事管理や教育訓練上、類似する仕事のグループのことだよ。自衛官の仕事は全て、特技職というカテゴリーで分類されるんだ。
これと類似する概念として「職域」というものもあるよ。本来、類似した特技職をまとめて職域と呼ぶんだけど、海上自衛隊ではひとつの特技職にひとつの職域(小職域)を割り当てているからほぼ同義とみていい。陸自はきちんと複数の特技職をまとめて職域って運用しているんだけどね。
類似する仕事のグループっていうと……護衛艦に乗る人、とかそういうものですか?
そういう感じ。A幹で艦艇に乗る場合に就く「砲術士」「通信士」という仕事は「艦艇幹部」という名前の特技職なんだ。
その特技職の仕事に就くために、自衛官は教育訓練を受けて「特技」を認定される。特技といっても隠し芸とかではないよ?特技職に就くために必要な知識とか技能のことを「特技」というんだ。
うーん。わかるような、わからないような。
……というか「特技職に就くための特技」じゃなくて「特技を持っている人が就くから特技職」なんじゃないですか?
うん。まあ、どっちでもいいんじゃない?
規則上は前者だけど。
(用語の意義)
第3条 この訓令において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。(1) 「職」とは、一人の隊員に割り当てられる職務及び責任をいう。
陸上自衛隊、海上自衛隊及び航空自衛隊における職の分類制度に関する訓令
(2) 「職務」とは、隊員に対し遂行すべきものとして割り当てられる仕事をいう。
(3) 「責任」とは、隊員が職務を遂行し、又は職務の遂行を指揮監督する義務をいう。
(4) 「特技職」とは、職務の種類及び複雑の度と責任の度が十分類似している職をまとめたものをいう。
(5) 「付加特技職」とは、陸上自衛隊の特技職に特定の職務及び責任を付加するものをいう。
(6) 「職域」とは、人事管理又は教育訓練上の必要に応じ職務の種類が比較的類似している特技職をまとめたものをいう。
(7) 「特技」とは、特技職又は付加特技職の職務及び責任を遂行するために必要な知識、技能、身体的能力及び心理的適性をいう。
話を戻すと、特技職「艦艇幹部」である「砲術士」や「通信士」に配置される自衛官は、艦に乗るための教育訓練を乗り越えたことで、「艦艇幹部」の特技を認定されているから配置されるんだ。
なるほど……。技能の認定システムのようなものなんですね。
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最初は幅広、途中から専門的に
さっき未来の言っていた「護衛艦に乗る人」って考え方は結構漠然としていて、実際の特技職はもう少し細かく分かれているものがほとんどなんだ。
具体的には、幹部の場合「射撃幹部」「水雷幹部」「船務幹部」「機関幹部」なんて分類されるよ。
あれ?さっきの「艦艇幹部」はなんだったんですか?
あれは、最初期の幹部向けの特技職。最初は幅広いカテゴリーの特技を認定されて、途中から専門性の高い特技を認定されるんだ。
具体的には、A幹の場合、幹部中級課程を修業すると専門性の高い特技を認定されるんだ。
ボクの場合、今はただの「艦艇幹部」だけど、きっと来年には中級課程へ行って「艦艇用兵幹部」と「水雷幹部」の2つを認定されるはず……!
なるほど、「艦艇用兵幹部」とか「水雷幹部」を認定されることで、その特技がないと就けない仕事に就けるようになるんですね?
そういうこと。ちなみにB幹・C幹の人たちは最初から専門性の高い特技を認定されてるよ。
例えば、水雷士は既に「水雷幹部」だから、水雷関係の専門家でないと就けない仕事にも就ける。一方で「艦艇用兵幹部」の特技を認定されていないから、砲雷長とか艦長にはなれない。もちろん階級が足りないってのはあるけど。
水雷士がそういう仕事に就きたいと思ったら、ボクと同じように中級課程へ行って、艦艇用兵幹部の特技認定を受けないといけないんだ。
ちなみに、曹士の場合はこれが結構早い。
入隊して教育隊を修業すると「攻撃要員」「船務要員」のような幅広いカテゴリーの特技を認定されて、2~3年後に入る「海士課程」を修業すると「射撃員」「射管員」のような特技を認定される。
……というのは建前。実際には教育隊を出た時点で後々に認定される特技が内定してる。海士課程に行く前だったら内定してる特技を変更することもできるんだけど、まず余程のことが無いと通らない。
そうなると、曹士は教育隊を修業したときから、その先なんの仕事をすることになるかがほぼ決まってるってことなんですね。
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混同注意。パート名と特技職名
さっき言ってましたけど「射撃員」とか「射管員」っていうのは特技職の名前なんですか?
うん。パートの名前でもあるけど、特技職の名前でもあるんだ。
護衛艦のパート名はほぼ特技職の名前と一致しているんだけど、砲雷科に限って言えば、違うパートもあるんだ。ここが非常に厄介なところで、●●員と言ったときに、パートのことを話しているのか、特技職のことを話しているのかは十分に気をつけないといけない。
……あ、なるほど。
「私、魚雷員なんです」って言ってる人が実はVLS員だったりするんですね?
そういうこと。
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接尾語とは
でも、Phalanx員やSSM員が射管員の派生型だって、前言ってたのが分かってきました。「射管」も「Phalanx」も「SSM」も「射管員」の特技認定を受けている人が配置されるってことなんですね。
そう、それが言いたかったんだ!
でも、人事管理するとき全員「射管員」だと困りません?誰がPhalanxのスペシャリストで、誰がSSMのスペシャリストか、なんて分かるんですか?
うん。そのために「接尾語」という制度があるんだ。
……接尾語?
“available”の”~able”とかのアレ?
これまた謎用語だよね?ボクも未だに納得がいかない。
「接尾語」というのは同じ特技職の中で、専門にしている機器などを区別するために使う記号のことなんだ。
特技職に割り振られている番号の後ろに記号として付記されるから「接尾語」って言うんだ。
言われてみればなんとなく分かりますが……。
海上自衛隊の場合、接尾語認定はだいたいの場合、その機器に関する教育課程を修業するともらえる。
たとえば射撃員の場合、1術校の「海曹士専修科62口径76ミリ速射砲課程」を修業すると、特技職「射撃員」に接尾語「62口径76ミリ速射砲」が付与される。すると、76ミリ砲のスペシャリストってことで「あさぎり」型や「あぶくま」型護衛艦の上級射撃員として処遇されるようになるんだ。
なるほど、そうやって人事管理するんですね。
海上自衛隊では、この接尾語のことをよく「マーク」と呼ぶよ。
今の例だと「●●2曹は76ミリ砲のマーク持ち」って感じ。
ただ、この使い方は誤用なんだよね。
えぇ……
マークは本来特技職を指す言葉で、接尾語を指すのと同じくらいの頻度で「海士課程を出たから射撃のマークが付いた」とか「射撃の●●士長が射管にマーク替えを希望してる(変わるとは言ってない」とか、そういう言い方をする。
このあたりの制度は、普通に護衛艦で働く分には全く必要ないんだけど、いざ人事をいじり出すと結構必要になってくる。幹部になるならやっぱり知っておいた方がいいよ!
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