この記事では、任期制隊員の継続任用・技能訓練制度について、次の内容を説明します。
- 任期制隊員は入隊翌年の10~11月頃、任期満了退職・継続任用のいずれを選ぶか、方向性を決めておく必要がある。
- 退職希望者は職業訓練(翌年度実施)の参加希望を提出する必要があるため。
- 継続任用希望者でも、絶対に継続任用するとは限らないので、技能訓練は検討すべき。
- 秋入隊者の場合、入隊翌々年の10~11月頃希望提出でも間に合うが、油断は禁物。
- 継続任用の概要
- 任期制隊員の任期は3年(2任期目からは2年)だが、継続任用により任期を延長できる。
- 任期満了日の約4か月前から手続きがスタートする
- 勤務成績不良、健康状態の問題、服務事故などにより、継続任用しないこともある。
- 継続任用の合否が決まるのは、任期満了日の約1か月前
- 職業訓練の概要
- 就職援助業務の一環として、定年直前の若年定年制隊員や任期制隊員を対象に行われる。
- 区分
- 技能訓練
- 部内
- 部外
- 車両操縦
- 防災・危機管理教育(任期制隊員対象外)
- 通信教育
- 技能訓練
- 注意事項
- 人気な技能訓練は一部の者しか受けられない
- 事前に申請しておくことが重要
- 転職方針が明確に定まっている者が優先
- 人気な技能訓練は一部の者しか受けられない
10月中旬 「ひとなみ」士官室
1分隊長、任期制隊員の職業訓練に関する調査が来たんで、11月中旬くらいまでに出してくださいね。
ありがとうございます。もうそんな時期なんですね~。
よし、じゃあ砲術士。よく調査要領をよく読んで、確認してね。
わかりました!
……で、その、職業訓練って何ですか?
……えーっと。。。
前にも何度か説明したんだけど。大丈夫?
すみません……。
継続任用の概要
任期満了と継続任用
まず、ここで話題にしているのは、任期制隊員の話。いい?
はい!自衛官候補生から入隊してきた人たちですね。
そう。彼らは入隊から3年で任期満了になる。
例えば、令和5年3月30日に入隊した、第27期自衛官候補生(第381期練習員課程)は、令和8年3月29日に任期満了ということ。
去年の春入隊した海士は、もう再来年の春には任期満了なんですね。
こうしてみると、とっても早い!
でしょ?つい去年の今頃、部隊実習を終えたばっかりだというのにね。
そこで、希望者は任期を延長できるようになっているんだ。これを継続任用と言うんだ。
(陸士長等、海士長等及び空士長等の任用期間等)
自衛隊法
第三十六条 陸士長、一等陸士及び二等陸士(以下「陸士長等」という。)は二年を、海士長、一等海士及び二等海士(以下「海士長等」という。)並びに空士長、一等空士及び二等空士(以下「空士長等」という。)は三年を任用期間として任用されるものとする。ただし、防衛大臣の定める特殊の技術を必要とする職務を担当する陸士長等は、その志願に基づき、三年を任用期間として任用されることができる。
2~6 省略
7 防衛大臣は、陸士長等、海士長等又は空士長等の任用期間が満了した場合において、当該陸士長等、海士長等又は空士長等が志願をしたときは、引き続き二年を任用期間としてこれを任用することができる。この場合における任用期間の起算日は、引き続いて任用された日とする。
2任期目ってヤツですね!
そう。継続任用は2年ごとだから、任期満了は3年、5年、7年……という周期でやって来ることになる。
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継続任用の手続き
継続任用の手続きですが、だいたい任期満了日の4か月前から行う事になります。つまり、3月に任期満了する場合、前年の12月です。その時期になったら、任期満了する隊員が誰なのかを明らかにする名簿を総監部へ提出します。
あわせて、この時期に健康診断を受けさせる必要があります。
年イチでやっている定期健康診断とは別に、継続任用のための検診をやらないといけません。もちろん、時期が合えばまとめてやってしまうこともありますけど。
あ、そうだった!健康診断の調整しないと……。
でも、ウチの艦、12月から1月まで出港してませんでしたっけ?
そうですね。ここが艦艇の辛いところ。
途中の寄港地で受けさせられれば良いですけど、受けさせられない可能性が高いなら、降ろしていかないといけませんね。
たった数時間健康診断するために、1か月以上の出港をまるまる降ろすんですか……。
ここは、よく調整してみましょう。健康診断の有効期間はそこまで短いものではありませんから、できる日もあるかもしれません。
で、継続任用に志願するなら、任期満了日の前月の始め、つまり3月任期満了なら2月のアタマに志願書を提出します。
これをもとに選考が行われ、その月の下旬に結果が出るということになります。
継続任用できないことってあるんですか?
いえ、普通は通りますから、そんなに心配はいらないです。
とは言え、油断は禁物です。
勤務成績が不良の人や、健康状態に問題のある人、服務事故を起こした人などは、継続任用を認められないこともあります。
その場合、いきなり任期満了退職になってしまうことがあるんです。
継続任用不適格者の判定基準
1 勤務成績不良の者
海士長等の継続任用について(通知)(海幕補第1575号。28.10.1)
(1)勤務意欲がなく、勤務成績不良の者
(2)直近の人事評価(能力評価及び業績評価)の調整者の全体評語がC(注:現行制度の「やや不十分」)以下の者
2 能力不足の者
(1)知能的に見て海士特技課程を修業する見込のない者
(2)素質的に見て海曹に昇任する能力のない者
3 心身の故障がある者
(1)防衛庁職員の健康管理に関する訓令(昭和 29年防衛庁訓令第31号)第10条第2項に該当する者(達第8条第3項による事後検診の結果適格とされた者を除く。)
(2)前号のほか、心身の故障のため職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えないと診断された者
(3)健康状態が良好でなく、勤務が極度に制限され実効のあがらない者
4 その他職務に必要な適格性を欠く者
(1)採用以来懲戒処分に処せられること3回以上の者
(2)採用以来重処分を含む懲戒処分に処せられること2回の者
(3)降任処分を受けた者
(4)詐欺、横領、窃盗、汚職その他悪質な破廉恥事犯を犯し、重処分に処せられた者
(5)懲戒処分を受け、その後反省の色がなく隊員として好ましくない者
(6)私行上の非行により不適格と認められる者
(7)その他性格的又は服務上不適格と認められる者
ほぇー
この話の恐ろしいところは、「継続任用ができないことが明らかになってからでは、全てが手遅れ」ということです。
だからこそ、任期制隊員には、他の隊員より行動に注意させる必要があるんだ。
それと、就職援護や技能訓練についても、考えさせないといけない。
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職業訓練の概要
では、この職業訓練について。
これは定年間近の若年定年制隊員や任期制隊員に対して、就職援助業務の一環として、就職援護と並んで提供されるものです。
就職援護担当部隊等が実施する、退職管理業務の分類
- 離職後の就職活動に関する承認手続き等
- 再就職等規制違反行為に係る調査への協力
- 就職援助業務
- 就職援護
- 職業訓練
- 退職管理教育(上級/中級管理講習、就職補導教育など)
- 進路相談
- 定年前異動
- 就職援助の効果を高める業務(就職援護広報など)
- 防衛大臣への届出
(隊員の退職管理業務について(通知)(海幕援第130号。29.5.26)に基づき作成)
職業訓練の区分
職業訓練は「技能訓練」「防災・危機管理教育」「通信教育」の三つに区分されます。ですが、「防災・危機管理教育」は幹部向けのコースなので、任期制隊員は受けられません。
防災の教育は、地方自治体で防災監や危機管理監をやるためのものですもんね。
ええ。そういうことです。ああいった仕事は連絡要員、あるいはアドバイザーとしての性質が強く、防災の知識以上に、自衛隊の内部機速や組織運用などへの知識・経験が求められますから、幹部じゃないとダメなんです。
そして、これが技能訓練は、部内技能訓練、部外技能訓練、そして車両操縦訓練の3つに分類されるのです。
えっと……部内と部外と。。。あれ?通信教育は?
まとめると、こんな感じ。
- 技能訓練
- 部内技能訓練:海上自衛隊の内部(主に術科学校)で実施する訓練
- 2級ボイラ技士、ガス溶接、高圧ガス製造保安責任者、第2種電気工事士などの資格取得を支援
- 部外技能訓練:民間の職業訓練学校などに委託して実施される教育
- 海技士などの資格取得支援
- クレーン、玉掛け、フォークリフトなどの技能講習
- 公務員試験の採用試験に関する学習支援
- 大学入学試験に関する通信教育
- 車両操縦訓練:民間の教習所で実施される運転免許取得支援
- 大型自動車、中型自動車、準中型自動車、普通自動車、牽引自動車、大型特殊自動車など
- 部内技能訓練:海上自衛隊の内部(主に術科学校)で実施する訓練
- 通信教育:民間の職業訓練学校などが提供する通信教育を受講
- 調理師、ファイナンシャルプランナー、宅地建物取引士、応用情報技術者試験など、資格取得支援に関するものが多い。
- 過去に契約実績のある通信教育が選ばれやすいが、部内で提供されるリストに載っていない通信教育(自衛隊援護協会の斡旋するものなど)も受けられる可能性がある。
部内技能訓練は主に横須賀の2術校が担当しているだけあって、ボイラー・電気・溶接など、機関科に関するものが多いですね。
このあたり取っておくと、建設業もそうですけど、ビルのメンテナンス業とかでも、すごく重宝されるんですよね。こういう資格者がいないとできない仕事が多いですから。
対する部外技能訓練は、結構ジャンルがバラバラなイメージがあります。
まあ、海上自衛隊内では教育できないようなものもありますから、自ずと多彩になりますね。
最近は、部外技能訓練の名目で、大学への進学支援も始まったと聞きます。特例の退職手当だけで大学の学費を賄うのはちょっと厳しい気がしますが、少しずつ選択肢が増えているのは良いことですね。
「任期制自衛官退職時進学支援給付金」の制度も始まってますからね。
圧倒的に額が足りていないけど!
こういう訓練って、たくさん受けていいんですか?
いえ、部内・部外技能訓練はどちらか1回のみです。車両操縦や通信教育は別の枠で、それぞれ1回ずついけるので、最大で3回の訓練・教育を受けられます。
この分類に無頓着な子は多いから気をつけないといけませんね。
そうですね。提示された全部の訓練・教育の中からどれか一つだけ受けられるって勘違いしている人は結構います。
まあ、必要もないのに取る必要はないですけど、受けられるなら受けておいた方がいいんじゃないですかね。
注意事項
ここで注意しないといけないのは、申請すれば絶対に受けられるってわけではないことです。
通信教育で問題になることはまずありませんが、それ以外の訓練だと、契約枠の問題だったり、訓練を行う側のキャパシティの問題だったりで、受けられないことも珍しくありません。人気な訓練は選考から漏れることも覚悟しなければなりませんよ。
あらら、そうなんですか。
だからこそ、事前に希望数の調査をやってるんです。
来年度にどれくらいの受講者がいるのかを把握しておかないと、予算を確保出来ませんから。
技能訓練が始まる直前に「●●士長、実はその訓練を希望してたんです!」って無理矢理ねじ込もうとする艦、結構多いんですよね。
契約の状態にゆとりがあれば、それでもなんとかなるんですけど。だいたいそういうことを言う時って、皆が受けたがる種目を言い出すんで、周りが迷惑するんですよ。きちんと前もって計画しておかないといけません。
で、きちんと前もって準備してても、やっぱりダメなことがあります。
大型自動車第2種免許なんて、その代表例です。
あー、やっぱりそうですか?
ええ。でも、援護業務課員が退職後の希望を聞くと、バスやトラックの運転手になりたいわけではないって言うんです。自力で取ろうとすると30万円くらいかかるものだから、とりあえずこれにしておこうって人がすごく多いんですよ。
うっ……そう言えば、ボクもそんなことを海士に言ってたような……。
車両操縦訓練なんて、教習所のキャパシティに左右される訓練の最たる例ですからね。使いもしない免許のために、バス/トラックの運転手を目指している人を押しのけるのはいかがなものかと思いますよ。
はい……。すみません……。
というわけで、そういう人気種目の場合、選考が行われます。
任期満了退職した後、どういう仕事に就きたいのか、その訓練を受けてどういうふうに活かしたいのか。きちんと考えている人がやっぱり有利です。
重要なのは、任期満了退職後のライフプランをきちんと主張することです。
それこそ、さっき水雷長のおっしゃったビルメンが分かりやすいかもしれません。「ビルメンの仕事がしたいから、部内技能訓練で2級ボイラー技士を、通信教育で第2種電気工事士を取って、幅広い現場に対応出来る人材になりたいです。仕事に使うであろうから準中型か普通自動車免許が取りたいです。」と言えば、かなり具体的なイメージを持って希望しているんだということが分かります。
おお~確かに。
「ガス溶接と、ドローン操縦士と、大型自動車免許を受けさせてください」って言われるより、遥かにそれっぽいですね。
ライフプランを明確化することは、退職準備を進めさせる上でも、その後の人生を円滑化する上でも大変重要なことです。
せっかく国のお金で職業訓練できるんですから、しっかり活かしてほしいですね。
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10~11月は検討の時期
さっき渡した紙は、来年度に実施する職業訓練の参加希望調査のものです。毎年10~11月は、こういう調査があるんで覚えておいてくださいね。
ここで参加希望を書いておくことによって、来年度予算案にどのぐらい枠を設けるか、反映されるんです。それに、援護業務課の人たちも誰が任期満了退職する方針なのか分かるので、準備が円滑に出来ます。
来年度に実施する職業訓練だから……再来年の春に任期満了退職する人たちが対象ですね。
ええ、それに限定はされませんが、一番喫緊になるのはその人たちですね。
去年の部隊実習が終わって1年。もう退職の準備に移らないといけないとは……。
もちろん、継続任用を希望しているなら必ずしも出す必要はありません。
ただ、出してはいけない、というわけでもありません。
継続任用はさっき言ったとおり、若干の不確定性を含みます。
それに、気が変わりやすい子は継続任用するつもり、と言っていたのに、後になってやっぱり退職、ということもあります。
まずは「退職の可能性があるならここでしっかり希望を出す」ことを分隊員に指導してください。
それから、誉められたことではありませんが、トラブルが起きた場合、後からねじ込むという手が全くないわけではありません。でもそのためには、事前にどういった訓練があるのかを理解させておく必要があります。
そうなると、継続任用を希望する人にも、きちんと見てもらった方がいいってことですね。
そういえば、秋入隊の人はどうなりますかね?うちにはいませんけど……。
秋入隊の場合、再来年度の技能訓練でも間に合わないわけではありません。比較的余裕があります。
が、年度が明けたらすぐに訓練させないといけませんし、時間のかかる教育は間に合わないので、やっぱり来年度の希望調査に載せておくべきだと思いますよ。
なるほど。よし、じゃあ早速調査するとしようか。
この記事では、任期制隊員の継続任用・技能訓練制度について、次の内容を説明します。
- 任期制隊員は入隊翌年の10~11月頃、任期満了退職・継続任用のいずれを選ぶか、方向性を決めておく必要がある。
- 退職希望者は職業訓練(翌年度実施)の参加希望を提出する必要があるため。
- 継続任用希望者でも、絶対に継続任用するとは限らないので、技能訓練は検討すべき。
- 秋入隊者の場合、入隊翌々年の10~11月頃希望提出でも間に合うが、油断は禁物。
- 継続任用の概要
- 任期制隊員の任期は3年(2任期目からは2年)だが、継続任用により任期を延長できる。
- 任期満了日の約4か月前から手続きがスタートする
- 勤務成績不良、健康状態の問題、服務事故などにより、継続任用しないこともある。
- 継続任用の合否が決まるのは、任期満了日の約1か月前
- 職業訓練の概要
- 就職援助業務の一環として、定年直前の若年定年制隊員や任期制隊員を対象に行われる。
- 区分
- 技能訓練
- 部内
- 部外
- 車両操縦
- 防災・危機管理教育(任期制隊員対象外)
- 通信教育
- 技能訓練
- 注意事項
- 人気な技能訓練は一部の者しか受けられない
- 事前に申請しておくことが重要
- 転職方針が明確に定まっている者が優先
- 人気な技能訓練は一部の者しか受けられない
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