この記事では、護衛艦のパートについて次の内容を説明します。
- 「射撃」は主砲の整備・操作を行うパート
- 狙いを定めて発砲するのは「射管」の仕事
- 元々は砲塔内に入り人間が操作していたが、現用の護衛艦の主砲は全て無人砲になったため、整備員としての性格が強くなった。
- 砲が正常に動く状態を維持するのが射撃員の仕事。
- 射撃前後の整備の他、射撃中の給弾など、筋力を要求される場面が多い。
- 普段の出港では、若手(概ね3曹まで)の頃は艦橋ワッチに立つが、中堅~上級海曹になると管制室ワッチに移行する。
- 小火器の整備も担当する。
- 狙いを定めて発砲するのは「射管」の仕事
「弾が出なかったら射撃のせい」
護衛艦の仕事を見るなら、最初はやはりこちらでしょう。
大きな大砲ですね~
募集のパンフレットを持ってきたんですけど……
これを扱っているのは、この「射撃」の人ですか?
ええ。よくご存じで。砲雷科の中には「射撃」と言うパートがあります。そこに在籍する「射撃員」が取り扱います。
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射撃員と射管員の違い
なるほど。こんなに大きな砲をいじって引き金を引けるというのは、自衛隊でもないと出来ないですね。人気な仕事なんですか?
ええ、花形の仕事には違いありませんね。
ただ、ひとつ訂正しておくと、引き金を引くのは射撃員ではないんです。
あれ?そうなんですか。
ええ、目標に狙いを定めて引き金を引くのは射管員――つまり射撃管制の仕事なんです。
どれどれ……?あ、今のパンフレットって職域紹介に「射管」が書いてないんだね。
ボクが入隊した頃は、ここに「射撃」「射管」が書いてあって、何が違うんですかって質問しても、地本のおっちゃん(陸自)は「さぁ……?」としか答えてくれなかったんだよね。
……ド素人だな……。
えっと、それで。
撃つのが射管員って人たちの仕事なら、射撃員は何をしているんですか?
射撃員の仕事は、砲の整備ですね。
メンテナンス……ですか。
意外ですか?でも、砲を撃つ上では射撃員の仕事は無くてはならないものです。砲そのものにしても弾にしても、重量のある物体を動かすわけですし、発砲するともなれば強い衝撃が加わりますから、きちんとメンテナンスしてやらないと壊れてしまいます。
昔の砲は砲塔の中に射撃員が入って、射撃員自身が操作することで撃っていたんだけどね。今の護衛艦が使っている砲は無人で、遠隔操作だけで動かせるようになったから、整備員としての性格が強くなったんだ。
ちなみに「弾が出ないのは射撃員のせい、弾が当たらないのは射管員のせい」なんて言い回しもあるよ。引き金を引くのは射管員だけど、そもそも砲がきちんと動く状態を維持するのは射撃員の仕事なんだ。
なるほど~
いえ、水雷長が今言った話はちょっと違います。
弾が当てる上でも射撃員の仕事というのは重要なんです。というのも、射撃員がしっかり仕事をしないと、弾が狙った方向に飛んでいかないからですね!
えっ、その話するの……?
砲というのは砲身から弾が出たら最後、ミサイルのように誘導されませんから、ちょっとした誤差があるだけで着弾位置が数メートル、数十メートルも変わってしまうこともあるんです。
砲身の摩耗や僅かな歪み。管制するコンピューターが認識している角度と実際に砲が向いている角度のズレ。誤差は日々刻々変わっていくものです。その誤差をきちんと修正して、弾は初めて狙った方向へ飛んでいくんです。
そ、そうですか……。
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射撃員は力仕事……!
それから、射撃をする時にはもう一つ大事な仕事があるんだ。
それは、弾を込めることだよ。
弾を込める?
ええ、弾は砲の下にある火薬庫に格納されているんですが、そこから弾を取り出して砲に給弾してやることで、射撃を継続できるんです。いざ射撃が始まると、射撃員一番の仕事は給弾になります。
えぇ……、それって自動化できないんですか……?
ある程度自動化されてはいます。
給弾室――砲の直下で弾を込める場所ですが、火薬庫から給弾室までは揚弾機という搬送装置があって、弾を運んでくれます。
でも、火薬庫の中で弾を取り出して揚弾機にセットするのと、給弾室の中で揚弾機から弾を取り出して砲にセットするのは人間がやらないといけないんです。
その装置を砲に直結できないんですか?
かなりシンプルな構造をしている揚弾機ですら故障することもあるから、これ以上複雑な機械を入れるのは止めたほうがいいんじゃないかな?
ええ。今の態勢だと人間が辛い思いをすればなんとかなります。
揚弾機が故障した場合でも、最悪弾を人力で給弾室まで持ち上げてやることもできますからね。
凄い世界だ……
そもそも砲を使うタイミングって、かなり特殊な状況だからね。対空戦にしても対水上戦にしても。対艦ミサイルが目の前まで突っ込んできている時とか、なんらかの原因で目視できる距離まで近づいてしまって、撃ち合いになったときとか。
システムが完調で動く事を前提には考えない方がいい装備の第1候補だよ。
それにしても、力仕事なんですね。
うん。給弾といい、射撃の前後にやる整備作業といい、筋力を要求される仕事が多いね。どこの艦も射撃員は体力自慢が多いんだ。
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艦橋ワッチと管制室ワッチ
しかし、いくら自衛隊だからって、いつも射撃しているわけではないんでしょう?射撃員の人たちは普段は何してるんです?
ワッチって言葉、分かる?
ワッチ……ですか?
英語でWatch、船の世界では数時間ごとに交代して行う当直勤務のことをワッチというんだ。
若手の射撃員だと、艦橋(艦の上の方にある操艦するための場所、飛行機のコックピットにあたる)でのワッチをやるんだ。見張りをしたり、操舵員をしたり。
……その仕事は射撃と関係あります?
いや、無い。でも誰かがやらないといけないからね。射撃員とか、魚雷員とかの若手が、航海科員と協力してやるんだ。
後ほど航海長に説明させますが、今水雷長が言った仕事は本来航海科員の仕事です。ただ、全員が配置に就いている時はそれでもいいんですが、当直態勢を組んで交代しながらやろうとすると、必要な人数が3倍、4倍に膨れあがってしまいます。全てを航海科員でまかなうというのは現実的ではありません。
一方で、射撃員や魚雷員は、戦闘時には必要でも、普段は必要ない配置というものがたくさんあります。そこで、普段の当直勤務ではその人員を艦橋の当直員に振り向けることにしているんです。
なるほど~
艦橋ワッチをするのはだいたい3曹くらいまで。艦によるけど。
ある程度偉くなってくると、突発的な戦闘に備えて砲の管制室で待機する、いわゆる管制室ワッチになるよ。艦橋みたいに常時立ち仕事をする必要もないし、CICみたいに幹部の目に晒されているものでもないから、悪くない仕事だと思う。
水雷長、余計なことは言うな。
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小火器整備も担当
あとは……そうだね。小火器の整備も担当するよ。
消火器?
火を消すやつじゃないよ。小さな銃火器のこと。
艦内には拳銃や小銃、機関銃のような小火器が保管されているんだ。
お~、さすがは自衛隊。
ぶっちゃけ、普段は使わない。というか、戦闘でも使わない。
ミサイルが飛び交うような超長射程の戦場で、数十メートル、数百メートルしか飛ばない銃なんて、基本的には役に立たないからね。
……言われてみればそうですね。
とはいえ、テロリストが無理矢理乗り込んでくるとか、そういう可能性が絶対にないとも言い切れない。どんな強い艦だって、乗っ取られたらおしまいだから、そうならないように銃を持っているんだ。
そんな銃を整備しておくのも射撃員の仕事だし、銃を扱い慣れている人間、ということで銃を使わないといけないときの射手になるのもだいたい射撃員だよ。
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