この記事では、護衛艦のパートについて次の内容を説明します。
- 「CDS」は戦闘指揮システムの操作・整備を行うパート。
- 戦闘指揮システム(CDS)は、周囲状況のピクチャー化や脅威評価、攻撃命令などを一元的に行い、戦闘指揮を支援するシステム
- CDSは、各種センサー・武器・戦術データリンクなどと接続されており、CDS自体を動作させるためのコンピューター・プログラムと、他の機器と接続するためのネットワーク、オペレーターのユーザーインターフェースとなるコンソールによって成り立つ。
- コンソールは幹部や電測員、射管員など、主にCDS員以外の者が使う。
- CDS員の仕事は、CDSが正常に動作するようにメンテナンスすること。
- 古いCDSは処理能力不足のために、新しいCDSは複雑化したために、動作が不安定になることがあるため。
- CDS員はシステムの動作状況を監視し、不要なデータを抹消したり、システムリロードを行うなどして、CDSの正常動作を維持する。
- CDS員がどのような業務を行うかは、艦に装備されているシステムにより大きく異なる。
- 艦によっては、コンソールに配置されて、指揮官並みの権限を持つこともある。
- コンピューターやネットワークの知識が非常に重要な仕事。
- 艦によっては、射管員同様にコンソールオペレーターをやることもある。
- CDS員は、射管員または電子整備(ET)員の派生型。
- 原則としてCDS員（砲雷科）とET員（船務科）は別々に養成されるが、異動に際して人員の充足状況によっては、それまでET員として働いていた隊員がCDS員に配置されることもある。
- 科が変わることで、気風や出入港時の作業が大きく変わるため、戸惑う者が多い。
- 戦闘指揮システム(CDS)は、周囲状況のピクチャー化や脅威評価、攻撃命令などを一元的に行い、戦闘指揮を支援するシステム
水雷長 遠見１尉さて、お次は「CDS」の紹介をしよう。
砲雷科はこれで最後だよ。
武整長 江渡１尉水雷長。CDSの説明は私がやります。
水雷長 遠見１尉あれ、いいんですか？
武整長 江渡１尉砲雷長から指示されたもので。
……まぁ、仕事ですから。
水雷長 遠見１尉そこまで嫌そうにしなくても良くない……？
指揮機能を維持する仕事。
武整長 江渡１尉そういうわけで、案内します。武整長の江渡１尉と言います。
「武整」とは「武器整備」の略で、これから紹介するCDS員の上司に当たります。
募集対象者 京井 未来はい、よろしくお願いしますね～。
武整長 江渡１尉「CDS」は戦闘指揮システムの操作・整備を行うパートです。
戦闘指揮システム(CDS: Combat Direction System)というものはご存じですか？
募集対象者 京井 未来なんか、前先パイが話していたような……。
レーダーで見つけた目標を画面に表示したり、それに対する攻撃指示を出したりってシステムでしたっけ？
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CDSの概要
武整長 江渡１尉それだけ分かっていれば十分です。
CDSは、周囲の状況をピクチャー化するとともに、その脅威評価を行います。
水雷長 遠見１尉脅威評価というのは、どのくらい危険な目標なのかを表示することだね。とは言っても、ミサイルの攻撃力を勘案するとかではなくて、どれが一番早く着弾するか、だね。真っ先に迎撃しないといけない目標がどれかを教えてくれるんだ。
武整長 江渡１尉……その結果をもとに、指揮官が行う攻撃命令を下級のオペレーターに伝達します。下級のオペレーターはそれを受けてFCSの指向、武器の割当、発射といった操作をして、攻撃結果を指揮官へ報告、指揮官はその妥当性について評価する、というオペレーションをします。
指揮官の意思決定と戦闘指揮を支援するシステム。それがCDSです。
募集対象者 京井 未来CDSが無いと周りでなにが起こってるのかも分からないし、攻撃命令を出しても部下がどれを攻撃したらいいのか分からないんですね。
武整長 江渡１尉ええ。
CDSの特徴はコンピューターの塊であることと、様々な機器と接続されていることです。レーダー、GPS、ジャイロコンパスのようなセンサーや、FCSやミサイル・ガンといった武器、そして戦術データリンクと接続されることで、CDSは価値を持ちます。
武整長 江渡１尉CDSはCDS自体を動作させるためのコンピューター・プログラムと、他の機器と接続するためのネットワーク、そしてオペレーターのユーザーインターフェースとなるコンソールからなります。
募集対象者 京井 未来コンソールというのは？
武整長 江渡１尉ディスプレイやトラックボール、操作ボタンや通信機材などを一体化したものです。オペレーターはコンソールの画面を見ることで状況を認識し、コンソールのボタンを押すことで攻撃命令を出します。
水雷長 遠見１尉例えば、ミサイルを迎撃したいときは、トラックボールでカーソルを動かして、ミサイルを表すアイコンをクリックするんだ。その状態で攻撃命令を出すボタンを押すと、部下がこの目標に攻撃できるようになるって仕組み。
武整長 江渡１尉そういうわけで、CDSのコンソールではありますが、実際に操作するのは主にCDS員ではない隊員です。幹部や電測員や射管員がほとんどです。
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CDS員の仕事はCDSのメンテナンス
武整長 江渡１尉CDS員の仕事は、一言で言えばCDSが正常に動作するようメンテナンスすることです。
募集対象者 京井 未来やっぱり、動かなくなることってあるんですか？
武整長 江渡１尉はい。あまり詳しくは申し上げられませんが。
古いCDSは処理能力が不足していましたので負荷に耐えられなくなることもあります。新しければ良いかというと、新しいシステムは年々複雑さを増しているので、多くのバグを抱えたまま運用している点は否めません。
募集対象者 京井 未来ですよね～。
武整長 江渡１尉そういうわけで、長く使っていると不具合が起きることもあります。
そこで、CDS員はシステムの動作状況を監視しているのです。
動作が不安定になってきたら、不要なデータを削除してリソースを確保したり、システムリロード――つまり再起動ですね。一度システムを立ち上げ直したりして、CDSの正常動作を維持するんです。
募集対象者 京井 未来保守作業するインフラエンジニアみたいなものですね。
武整長 江渡１尉とは言え、CDS員が具体的にどのくらいの仕事をするのかは艦によりかなり差があります。というのも、艦によって装備されているシステムが違うからです。
募集対象者 京井 未来でも、結局はメンテナンスするのが仕事なんですよね？
武整長 江渡１尉いえ、艦によっては、射管員と同様、コンソールを操作して射撃指揮をさせているところもあります。
武整長 江渡１尉また、システムによってはCDS員にそれ以上を求めるものもあります。
中には、CDS員のためのコンソールの配置があって、本来は指揮官でないと出来ない操作ができるような権限を持つこともあります。
募集対象者 京井 未来スーパーユーザーだ……。
武整長 江渡１尉そういう仕事ですから、CDS員はコンピューターやネットワークに関する知識が非常に重要になってくる仕事です。
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船務科から砲雷科へ？
水雷長 遠見１尉CDS員のもう一つの特徴は、射管員か電子整備(ET)員の派生型であることだよ。
武整長 江渡１尉職域特技の話ですね。
本来船務科員になるはずの「電子整備員」が砲雷科に配置されるとCDS員になるんです。
募集対象者 京井 未来随分変なことをしますね……。
武整長 江渡１尉もちろん、実際の人材育成は原則として別々に行われています。ただ、転出入に際して部隊の人員充足の関係で、それまでET員として勤務していた者が、次の艦ではCDS員として勤務するということもあります。
募集対象者 京井 未来仕事は似ているんですか？
武整長 江渡１尉いえ、全く。
そもそもET員はレーダーなどの面倒を見ていますから、CDSとは全く違う仕事です。しかも、船務科の気風で生きてきた人間がいきなり砲雷科に放り込まれるんです。気風も違うし、それまで甲板作業なんてやったこともない人間が甲板作業やらされるんです。
正直、たまったものではないですね。
水雷長 遠見１尉うんうん……。人事は慎重にしないとこうなってしまうんだよね……。
水雷長 遠見１尉人事について言うと、補職や学生選考は総監部の人事課補職係がやってるんだけど、砲雷科は「甲板補職」の人が担当しているのに対して、船務科は「船務補職」の人が担当してるんだ。
で、CDS員は砲雷科員だからボクみたいな第1分隊長が人事管理してるんだけど、電子整備員のカウンターパートは普段やり取りしてない船務補職になるから、結構厄介だね。
募集対象者 京井 未来何かと微妙なポジションなんです ね……。
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コメント
コメント一覧 （3件）
こんにちは。
いつもブログ拝見しております。海上自衛隊志望の者です。
以前YouTubeにてイージス艦の動画を見た際に「CDS長」のような役職を見かけたような気がしてインターネットで調べましたがよくわかりませんでした。また調べる過程において艦艇の幹部の役職について疑問が生じたためいくつかお尋ねしたいです。
①CDS長と武整長は違うのでしょうか？（そもそもCDS長という配置があるのか…）
②登場人物紹介で副長の経歴にあるミサイル長とは何なのでしょうか？
③ときどきブログに出てくる「当直士官」「哨戒長」とは違いがあるのでしょうか？そもそもどんな役職なのでしょうか？
④イージス艦や汎用護衛艦などで存在する役職の違いがあるのでしょうか？
いくつも質問してしまい申し訳ございません。
お忙しいところ恐れ入りますが、ご回答いただけたら幸いです。
よろしくお願いいたします。
ご愛読、ご質問ありがとうございます。
お答えします。
１ CDS長と武整長の違い
ほぼ同義と捉えて下さって結構です（笑
どちらも、電子整備幹部が配置され、CDS員を職能上の部下として従え、艦の戦闘指揮システムを管理するという責務を負っています。
では何が違うのかと言えば、乗っている艦の種類で、「CDS長」と付くのはDDG（イージス艦やかつての「はたかぜ」型など）になります。もともとCDSを装備していた護衛艦はDDGのみで、「はつゆき」「あさぎり」型でDDにもCDSがやってきました。DDは日本語訳した役職名にしたのに対し、DDGは役職名を維持したため、CDS長＝DDGの武整長になってます。（ちなみに「いずも」型では同等の配置を「CS長」と呼びます！ややこしい！）
ただ、イージスのCDS長の実際の仕事のあり方……日常的に勤務する場所や、戦闘配置時に実施する作業は、DDの武整長とは全く異なり、重い責任を負います。これは、極めて複雑な戦闘システムを維持するだけでも、多大な努力を必要とすることの表れであり、艦内での発言権や払われる敬意は段違いなものです。
２ ミサイル長とは
これもDDG配置です。護衛艦では戦闘配置になると、水雷長は対潜戦の主担当、といった具合に、艦長・哨戒長等から委任された範囲で、機能別の指揮権を負います。（●●を攻撃しろと艦長等から命令されたら、武器に入力するパラメーターを水雷長が決定して、水測員や魚雷員に発射命令するなど）
DDだと砲術長が対空戦・対水上戦を担当するところですが、DDGではミサイル長が対空戦・対BM戦、砲術長が対水上戦を主に担当します。これは、DDGが艦隊防空の中枢として、部隊全体の対空戦を左右する立場にあることや、ミサイルの交戦距離がDDより遙かに長く、対空戦の形態が全く異なることに由来します。つまり、スタンダードミサイルを使って対空戦を行うために高度に専門化した配置がミサイル長、というわけです。副長は今でこそ独立愚連隊「ひとなみ」に甘んじていますが、イージス界隈では未来を嘱望された超有名人、という設定だったりします。
３ 哨戒長と当直士官
似て非なるものです。当直士官は通常時に艦長に代わって艦の業務を遂行する（訓練・作業・行事などのスケジュールをコントロールする、火災など緊急時の対応をするなど）ポジションです。航海中になると操艦という重要な責任が加わります。（当直士官は停泊中・航海中どちらでも存在します）
対する哨戒長は速やかに戦闘に移行できるように、事前に態勢を整えるときに配置されるもので、原則として航海中にしか居ません。このとき、通常時の「当直士官」「副直士官」「機関科副直士官」といった配置は、別の名前の似た配置によって代替されます。
制度上、航海中に通常配置されるべきは「当直士官」で、戦闘という特異なシチュエーションに限り「哨戒長」が配置されることになっています。が、護衛艦において前者が採用されることはほぼなく、基本的には出港したら戦闘に移行できる態勢を整えるので、哨戒長が配置されます。本来イレギュラーな規定が常時有効になっているのです。（公共交通機関の「対テロ特別警戒中！」みたいですね。）
戦闘って、戦争もしてないのに……と思われるかもしれませんが、護衛艦が日々警戒監視などの任務に従事するためには、外界から情報を収集して分析したり、索敵を行ったりする必要があるので、戦闘に準じた配員を行うのです。（自艦にとっては単なる航海でも、周辺海域でトラブルが発生した場合、急遽派遣されることはありますからね！たとえ命令が来なくても、能動的に情報を集めて準備しておく必要があるわけです。）
哨戒長は交代制で配置され、艦の方針を決定する点では当直士官に似た性質を持ちますが、戦闘に関する艦全体の指揮が主な役割です。海自や米海軍では、指揮官は原則として部下に方針のみ与えて権限を委任し、部下が大きな間違いを犯した時に限り割り込みする、というやり方をします。というわけで、フィクションのように艦長が自ら号令を発することはほぼなく、哨戒長が艦長に代わり全てハンドリングするのです。
ちなみに、お気づきのことと存じますが、当ブログは「出港用意」を冠しながら、この返答作成時点で、ただの一度として航海状態を描いたことがありません！……というわけで、これまで当ブログで登場した「当直士官」は停泊時の当直士官（艦全体の業務のとりまとめ役、課業時間外のお留守番役）です。
「哨戒長」は、中級幹部たる自覚に欠ける遠見１尉が「哨戒長なんだから、もうちょっと勉強してくれ」とお説教される恒例行事で登場しますが、要は戦闘に関して、艦長とほぼ同じ責任負ってる自覚はあるのか、ということです。
さて、哨戒長は戦闘に関する指揮をするので「当直士官」が行う操艦や艦の日常業務をやる余地がありません。というわけで、艦橋に配置されるのが「航海指揮官」です。こちらが「当直士官」を代替する存在と言えます。
例えば、ある海域で未探知の対象国艦艇を捜索し、発見したら監視する、という任務があったとします。
哨戒長は、CICで電測員などに既知の情報を整理させて、捜索のプランを立てます。担当エリアの北西端で待ち受けるのが良さそうだと考え、艦橋の航海指揮官にそこまで移動するように指示し、各種センサーの運用方針も指示します。上級司令部に捜索方針を説明したり、付近にいる別部隊が疑わしい探知を得ていないか確認したりします。
航海指揮官は、指示に従って艦を進めていると、向こうから来る商船と衝突のおそれが生じたので、一時的に針路を変えて衝突を回避します。とやっていると、食堂で行っている安全教育が早めに終わったという報告が来たので、副長に断って士官室で実施予定の運航勉強会の開始を前倒ししたりします。
「通常」時の当直士官は、航海指揮官がするような仕事を行うことは出来るのですが、哨戒長の仕事はそもそも人が配置されていないし、操艦しながらパソコンのモニターをじっくり眺めるわけにもいかないしで、行うのは困難です。
４ イージス艦とDDの配置の違い
幹部について述べると、先述のCDS長、ミサイル長のほか、イージス艦には弾道ミサイル防衛長（BMD長）という配置があります。こちらはBMDに関する情勢の分析や、訓練管理などを担当します。裏情報ですが、轟３佐は定期異動の時期が近づくと「俺もそろそろBMD長だな……」と内々示を心待ちにしている、という設定があります。
CDS長・ミサイル長・BMD長は、いずれもイージスシステムに対する知識・技能を求められるので、ちょっと前「こんごう」のミサイル長だった人が「ちょうかい」のBMD長になった、なんて話がよくあります。
他には、単純にイージス艦の方が幹部が多いです。同じ役職名でも、複数人配置されることがよくあるからですね。（機関士A、機関士Bのように）
なかなか難しい話ですが、ご理解戴けたでしょうか。
入隊されて、関連配置につけば自ずと分かると思いますので、無事採用されることを、心より祈念しております。
それでは、今後もご愛読いただけますと、なによりです。
このたびは大変丁寧なご説明をいただき、ありがとうございます。
CDS長と武整長の違い、そしてDDとDDGにおける役職名称に背景について、とても分かりやすく大変勉強になりました。
ミサイル長、そして当直士官・哨戒長の違いについても、運用面での位置付けや役割の範囲の違いを詳しく説明していただき、読みながら状況が目に浮かぶほど具体的で、実際の現場をイメージしやすかったです。航海中の哨戒長が常備配置される理由や、航海指揮官との関係についてもとても興味深かったです。
また、副直士官や機関科副直士官（素人なものでそれらについて詳しくはよく知りませんが…）が代替されること、イージス艦では機関士A、Bのように複数人配置されることは新しい発見となりました。
今後もブログ、SNSの更新を楽しみにしております。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。