護衛艦パート紹介シリーズ:航海員

護衛艦「おおよど」での実習で発光信号の送受信を行う1術校航海科学生。大湊地方隊Twitterアカウント(https://x.com/JMSDF_orh/status/1430645572956868613)から転載。

この記事では、護衛艦のパートについて次の内容を説明します。

  • 「航海」は航海指揮官の補佐航海計器の整備信号の送受信などを行うパート
    • 航海指揮官の補佐
      • 航海中、艦橋当直員のまとめ役として、見張り員や操舵員を指導する。
        • 定期的に気象観測(気温、気圧、雲量など)を行い、天候の急変の可能性について報告する。
        • 近年は幹部を早期に航海指揮官にする方針から、初任幹部が行ってきた副直士官業務(海図への艦位記入、遅れ進み等の算出、変針リコメンド、無線交話など)を航海員が行うことがある。
      • 海図を管理しており、更新を反映したり、予定コースや航行警報情報を記入したりする。
        • 経験豊富な航海員は、航海長が航海計画を作成するにあたって、海流や漁場などを考慮して安全・効率的な運航ができるように助言することもある。
    • 航海計器の整備
      • 電磁ログ、ジャイロレピーター、操舵コンソール、電子海図表示装置、AIS装置などを受け持つ。
      • 停泊中の整備だけでなく、航海中にもジャイロエラーの確認などを定期的に実施する。
    • 信号の送受信
      • 「航海員」は伝統的に「信号員」と呼ばれることが多い。
        • 昔は信号の送受信の比重が非常に重かったため。
      • 旗流信号手旗信号発光信号速力マークといった視覚信号の送受信を行う。
        • 無線通信の発達により手旗信号や発光信号の出番は減っている。
        • 旗流信号と速力マークは依然として運用されている。
        • 無線通信は作戦方針や被害発生により使用できなくなる可能性があるため、視覚信号の重要性は今も失われていない。
      • らっぱを吹くのも仕事。
        • 儀礼的な意味合いが強いが、本来は号令を伝達する聴覚信号。
    • 2分隊では珍しく、伝統的に体力を尊ぶ気風が強い。
      • 1術校の航海科学生は教官室に入室する際、大声を張り上げる。
        • らっぱを吹きながらの行進や、らっぱ譜を大声で叫びながらの駆け足など、他科の学生に比べてよく目立つ。
水雷長 遠見1尉

続いて案内するのは艦橋だよ。
艦橋は人が常駐している区画としては最も高いところにあって、航海中は、ここで航海指揮官が操艦をするんだ。

募集対象者 京井 未来

見晴らしが良いですね~。

航海長 梶1尉

やぁ、艦橋へようこそ!ここからはおれが航海科を紹介するよ!

目次

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艦を目的地に辿り着かせる仕事。

航海長 梶1尉

これから紹介するのは「航海」。航海科のほぼ全員が所属するんだ。
パートの役割は、航海指揮官の補佐航海計器の整備信号の送受信とかだね。

航海指揮官の補佐

募集対象者 京井 未来

航海指揮官っていうのは、艦を操艦する人のことですか?

航海長 梶1尉

うん。航海指揮官は3時間交代制で、艦の針路や速力を指示する指揮官なんだ。おれは航海長だから、出港中は航海指揮官の1人として働いているよ。航海員はそんな航海指揮官をサポートしてくれるんだ。


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艦橋当直員のまとめ役

航海長 梶1尉

まず、航海員は艦橋当直員のまとめ役をやってくれるんだ。

  • 一般的な艦橋当直員
    • 当直海曹・当直海士(当番)
      • 航海の記録作成、艦内令達(放送設備を使って号令をかける)など
    • 操舵員
      • 航海指揮官の操舵号令に従い、舵を取る。
    • 速力通信器員 兼 艦橋伝令
      • 機関科に対して速力指示を行う。
      • 1・2・3番見張りやCICと情報交換し、他船舶の発見報告などを航海指揮官に伝達する。
      • 最近の護衛艦では操舵員と兼務していることが多い。
    • 1・2番見張り
      • それぞれ右・左ウィングで見張りを行う。
      • 3番見張りは艦尾付近で勤務するため、艦橋にはいない。
航海長 梶1尉

航海員自身もこういう仕事はやってくれる。特におれたちA幹は操舵や見張りなんて候補生学校の練習船実習くらいでしかやったことないから、航海員が操舵や見張りについて指導してくれるのは非常にありがたいんだ。

募集対象者 京井 未来

そんなに難しいことなんですか?

航海長 梶1尉

操舵は自動車みたいにハンドル回したらすぐに曲がってくれるものじゃないからな。変針する時は航海指揮官の号令で動かしていくけど、いったん定針させたら、あとは操舵員自身が指示された針路を保たないといけないんだ。左右の振れを見越して、でも取り過ぎないように舵を取るっていうのは、見ているより遥かに難しいことだよ。
あと、見張りも。波間に隠れている漁具標識は結構重要で、大きな護衛艦とは言っても漁網をスクリューに巻き込むと壊れてしまうことがあるから、遠くにあるうちに見つけて避けていくんだ。1・2番見張りなんて経験の浅い海士がやってて、漁具標識はなかなか見つけられないから、航海員が見てくれているのは安心感が違うね。

航海長 梶1尉

それから気象観測。定期的に気温や気圧、雲量なんかを測定して日誌に記録しているんだけど、航海員はその観測をしてくれる。これが結構バカにならなくて、天候が急変するときは気圧が急に下がったりするから、それを報告してくれるのもありがたいね~。


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最近は副直士官業務も。

航海長 梶1尉

それから、最近はもともと幹部がやっていた仕事も航海員にやってもらうケースがあるよ。副直士官業務といって、砲術士や通信士みたいな若い幹部は海図に艦位記入を記入して、航海計画に対する遅れ進みを算出したり、変針するタイミングをリコメンドしたり、他の船舶と無線で交話したりするんだ。

募集対象者 京井 未来

それも航海員がやることがあるんですか?

水雷長 遠見1尉

うん。
最近は、幹部の育成ペースを速めようという気運が盛んでね。副直士官なんてやらせずに、早いところ航海指揮官や哨戒長にしようという部隊が多いんだ。人の少ない「あぶくま」型なんかは1年目の初任幹部が航海指揮官をやってたりするよ。
それをカバーする役割をになっているのが航海なんだ。

海図の管理

航海長 梶1尉

それから海図の管理をするのも航海員の仕事。特に、その中には海図係っていう係の海曹がいて、海図に更新があったら反映させたり、航海計画をもとに予定コースを海図に記入したり、航行警報――例えば、標識の故障とかの情報を記入しておいてくれるんだ。

募集対象者 京井 未来

海図は海の地図みたいなものなんですよね?

航海長 梶1尉

そう。車と違って道が見えないから、海図に自分が走るコースを書いておいて、測定した艦位と比較することで安全に航海出来るんだ。
航海計画を考えるときはおれも海図に線を引っ張るけど、あんまり精度が良くないからな。線のズレとかを修正して、最後の清書は海図係がやってくれるんだ。

募集対象者 京井 未来

そんなにしっかり書かないといけないんですか?

航海長 梶1尉

うん。海図は艦橋とCICで同じものを2セット用意するんだけど、作業精度が悪いと線のズレが生まれるんだよな。しかも、最近の艦はCDSのコンソールとかレーダー指示器とか、電子海図とか、いろんな装置でもコースを表示できるようになった。そうなると、線がどこからどこに引っ張られているのかにズレがあると困るんだ。
艦橋の海図ではコースから左に100mはみ出してるのに、CICで哨戒長が見てる画面だと右に50mはみ出してる、なんてことになる。航海指揮官がズレを修正しようと、針路をちょっと右に動かすと、CICではこーすからドンドン離れていくようにみえるから不安になるんだ。
特に陸岸の近くでは、そういうのを放置しているとすぐに座礁してしまうから、ミリ単位で拘らないといけないんだ。

募集対象者 京井 未来

なるほど~

航海長 梶1尉

それから、うちの員長は航海計画を作るときにアドバイスをくれるんだ。海流とか漁場とか、そういうのを考慮したコースを引いた方が安全で効率的な航海ができるからね。

水雷長 遠見1尉

漁場は大事だね~。漁船がどれぐらい集まってくるかで動きやすさは全然違うからね。


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航海計器の整備

航海長 梶1尉

それから航海員の大切な仕事が、航海計器を整備すること。
砲雷科と違って受け持ちの装置はあまりないようなイメージもあるけど、実際は、電磁ログ、ジャイロレピーター、操舵コンソール、電子海図表示装置、AIS装置……なんて、たくさんあるんだ。

募集対象者 京井 未来

電磁ログとかジャイロレピーターってなんですか?

水雷長 遠見1尉

ログは速度メーターのことだよ。艦の底の方に「測程儀室」って区画があって、そこから艦底を貫通させてピトー管を突き出すんだ。入港後航海員がこれを引っ張って収納するんだけど、手順をミスるとそのままログがスポンと引き抜けて、艦底から浸水する……なんて恐ろしい話もあるよ。

航海長 梶1尉

ああ。ごく稀にだが。ちなみに、ピトー管だと勘違いしてるヤツは時々いるけど、実際は違うよ。

水雷長 遠見1尉

えっ、そうなの?

航海長 梶1尉

ああ。昔はピトー管のログが使われてたらしいが、今の艦艇では、おれの知る限り、電磁ログを使ってるよ。
ピトー管は飛行機の対気速力を算出するときに使うが、あれは実際に穴の空いている管を使って圧力差を導くんだ。
対する電磁ログは電磁石を使う。海底に管を突き出すのは一緒だけど、その周囲に磁場を発生させて、磁場の中を導体(海水)が通過する時の起電力を計測することで、導体の通過速度が分かる……。

募集対象者 京井 未来

ファラデーの電磁誘導の法則ですね。
なるほど、発電に使うだけじゃなくて、そんな使い方もあるんですね。

電磁ログの仕組みについての誤りを読者の方から指摘されたため、訂正しました。

航海長 梶1尉

で、ジャイロレピーターというのは、これ。

練習艦「かしま」で操艦する実習幹部。おそらく占位運動を実施中。
ジャイロレピーター越しに目標を見ることで方位を測定している。
練習艦隊Twitterアカウントから引用。
航海長 梶1尉

レピーターは艦のジャイロコンパスから信号を受け取って、同じ内容を反映する。つまり、コンパスそのものではないけど、コンパスと同じ物が見られるんだ。航海指揮官はレピーター越しに目標を見ることで、その目標の正確な方位を知ることが出来るんだ。

募集対象者 京井 未来

これの整備って何をするんでしょう……?

航海長 梶1尉

ジャイロコンパスの整備自体は機関科がやるから、航海科はやらないよ。でも、レピーターが本当に正しい表示をしているかは毎日航海科が確認しているよ。それこそ出港中でもやるんだ。


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信号の送受信

航海長 梶1尉

それから、視覚信号の送受信も航海員の重要な仕事。
むしろ昔はそれこそが航海員の仕事とされていたから、航海員は伝統的に「信号員」と呼ばれるんだ。

募集対象者 京井 未来

視覚信号ですか……?

航海長 梶1尉

そう。他の船に意思を伝達する手段として、旗流信号手旗信号発光信号を送受信するんだ。ちなみに、速力マークっていう自分の速力を僚艦に知らせる標識もあって、これを上げ下げするのも航海員の仕事だよ。

募集対象者 京井 未来

昔は、とおっしゃいましたけど、今は違うんですか?

航海長 梶1尉

昔に比べると、無線通信が発達したのが大きいね。
今だと、パソコン間でメールやメッセンジャーのやりとりもしてしまうし。それに、昔の護衛艦隊は仰々しく大艦隊で訓練して、その連絡手段として信号を流すことも多かったんだけど、今や任務行動で艦が散っているから、そういう機会もどんどん減っているのが現状だね。
とは言え、旗流信号つまり国際信号旗や、速力マークは依然として使われ続けているよ。

水雷長 遠見1尉

それに、無線通信はいつも使えるとは限らないからね。
作戦の方針――要はどれぐらい部隊を隠しておきたいか、とか、被害を受けて通信機やアンテナが故障した場合なんかは、無線通信が出来なくなる。だから、視覚信号で情報を伝達する重要性は今も失われていないんだ。

航海長 梶1尉

あと、航海員はらっぱを吹くよ。
自衛艦旗の掲揚・降下とか、儀式の場合なんかに使用するのがメインになっているんだけど、これも元はと言えば、号令を伝達するための聴覚信号だよ。


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体力勝負……!?

水雷長 遠見1尉

ボクは常々疑問に思っているんだけど、航海員は別にそこまで体力勝負ってわけでもないのに、体力を尊ぶ気風があるよね?

航海長 梶1尉

うーん、そうか?

水雷長 遠見1尉

1術校だと、航海科の学生が教官室に入るときはすごい大声で叫ぶんだよね。他の科とは明らかに違うから分かるよ。

航海長 梶1尉

お前、よくそんなところ見ているな?

水雷長 遠見1尉

あと、課業行進の時にらっぱを吹きながら行進したり、教場間の移動の時にらっぱ譜を大声で歌いながら駆け足したりするから、やっぱり他科の学生に比べると、よく目立つよ。

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • ログはファラデーの電磁誘導の原理で速力を検出するのでピトー管とは原理が違いますね。

    • ご意見ありがとうございます。
      ご指摘の通り、作動原理の記載に誤りがありましたので、きちんと調べなおしたうえで、後日訂正させて戴きます。

      これからも、ご意見・ご感想をよろしくお願い致します!

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