この記事では、護衛艦のパートについて次の内容を説明します。
- 「通信」は通信機材の操作・整備、電報の発信・着信、パソコンの管理、暗号の取り扱いなどを行うパート。
- 無線通信を行うためには、通信に適合した無線機(送受信機)が必要。
- 艦橋やCICには送受話のための装置(管制器)が設置されているが、それ自体は無線機ではなく、無線機の遠隔操作・出入力装置でしかない。
- 通信員は無線機を整備するとともに、数に限りのある無線機に使用目的を割り当てて効率的運用ができるようにする。
- 通信は「維持できて当然」と思われがちだが、本来トラブルなく運用できていること自体が有能の証拠。
- 実際に無線で送受話をするのは幹部や電測員が中心だが、事前の感度チェック(コムチェック)や入港時の基地への通報は通信員が担当する。
- 電報とは指揮官対指揮官でやり取りされる無線メッセージ。
- 持っている機能は電子メールとほぼ同様だが、専用の通信回線が設けられており、通信員の手によって発信・着信処理が為されるので、確実に指揮官へ伝達される。
- 自動処理機能が充実し通信員の負担は減ってきているが、短時間での処理や秘密保全上の処置などは依然として通信員の重要な業務。
- 業務用のパソコンの管理は通信員が担当している。
- サイバー攻撃を受けた場合、一般の隊員が独力で処置するのは極めて危険。専門的知識を持った通信員がシステム通信隊などと協力して対処する。
- 暗号の取り扱いを行う唯一のパート。
- 暗号は保管、破棄、送達などの手続きが極めて厳格で、僅かでも逸脱すると事故になる。
- 通信は暗号機材や規約を取り扱うため、情報漏洩に対しては最も厳しいパート
- 無線通信を行うためには、通信に適合した無線機(送受信機)が必要。
さて、次は「通信」だが、……おや、何だね?通信士?
ここからは私が案内しましょう。
……まぁ、普通なら初任幹部になんか任せんが、お前ならいいか。
ではよろしく頼むよ……。
通信はできて当然……?
では私から「通信」の説明をします。
「通信」は通信機材の操作・整備、電報の発信・着信、パソコンの管理、暗号の取り扱いなどを行うパートです。
他のパートに比べると、色んな種類の業務があるんですか?
ええ。通信に関係する業務にはどこかしらで関わってきます。
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無線通信を維持すること
まず、通信員の重要な役目は無線通信を維持することです。
そのためには、無線機(送受信機)が使える状態になってないといけません。
その整備が通信員の仕事なんですか?
ええ。艦内を見ると、艦橋やCICには管制器――マイクやスピーカーの付いている送受話装置がたくさん用意されています。ですが、これはあくまで無線機の遠隔操作装置、入出力装置に過ぎず、無線機本体は電信室にあるので、これを整備してやります。
加えて、無線機の台数には限りがあって、同時に違う用途では使えませんから、どの無線機をどの目的で使うか、周波数や変調方式の割当てを変えて、効率的な運用が出来るようにします。
なるほど~
こういう作業ってすごい地味なんだよね……。
通信ってどうしても「出来て当然」と思われがちで、あんまり感謝されないんだけど、本当はトラブルなく運用できていること自体が有能な通信員の証拠なんだ。
インフラ系の仕事って、どうしてもそういう目で見られてしまうんですよね~。そのくせ、いざトラブルが起きるとめちゃくちゃに怒られるんです。
「通信員」という名前なので、よその艦と通信するのが仕事と思われがちですが、実際に送受話するのは幹部や電測員の仕事です。
ただ、訓練に先だって所要の通信系がきちんと通じるか確認する感度チェック(コムチェック)や、入港時に基地へ通報をするのは通信員がやります。通信員自身が肉声で送受話する数少ない機会ですね。
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電報
そういえば、さっき電報と言ってましたが。
電報って、あの電報ですか?
「あの」が何を指しているか分かりませんが……。
一般に言う電報はNTTが行うメッセージ伝達サービスですが、海上自衛隊にも同様のメッセージ伝達手段が用意されています。
今では添付ファイルすらつけられますから、機能自体はほぼ電子メールと同じですね。
ふーん。なら電子メールでも良いんじゃないですか?
ただ、メールと違うのは、指揮官対指揮官のみでやりとりされること、専用の通信回線を設けられていること、通信員の手によって発信・着信処理が為されることです。
メールと違って、発信するにあたって指揮官の決裁が必要になるなど手間が掛かりますが、確実に指揮官へ伝達されるという点が強みです。
加えて言うと、米海軍との間でもやりとりすることが出来ます。メールの送受信が出来るようにしようとすると、お互いのネットワークを繋げないといけないのでセキュリティ上のリスクが大きくなりますが、電報のやりとり自体はネットワークを繋げているわけではないので、安全にメッセージ交換できます。
……あ、今気付いたんですけど、インターネットでやり取りしているわけじゃないんですね。
そうそう。インターネットと繋がっているところが全く無いわけではないけど、防衛省はDIIとかMSIIっていう独自の情報通信基盤を持っているんだ。そのおかげで部外とのやりとりに苦労するんだけど、だからこそセキュリティが保たれているっていうところがあるね。
電報は通信員が手作業で暗号化してモールス信号で発信していた時代もありましたが、今は暗号化も発信・着信処理も復号も自動化されています。そのおかげで通信員の業務負担は大きく減りました。
とは言え、優先順位の高い電報を短時間で処理したり、秘密保全上の措置を誤りなく行ったりというのは、依然として通信員の重要な業務です。
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パソコンの管理も通信員の仕事
それから、業務用のパソコンを管理するのも通信員の業務です。
無線通信の維持や電報処理が通信員の本来の仕事でしたが、パソコンを介した情報通信が発達するにしたがって、通信員の業務比重は徐々に変わりつつあります。
そうでしょうね~
電話でいちいち話さなくてもデータ通信でなんとかなるなら、みんなそうしますよね。
とはいえ、そうしたネットワークの活用にはセキュリティ上のリスクが伴います。自分の使っている端末でサイバー攻撃の兆候に気付いたとき、ユーザーが独力で何とかしようとするのは無謀で危険です。
そうした場合、専門的知識を持った通信員が、地域にあるシステム通信隊などと協力しながら対処します。
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暗号の重み
暗号を取り扱うのも通信の特徴です。
日本やアメリカでは、独自の暗号機材に「規約」を読み込ませることで、通信内容を秘匿しています。
暗号は受取や保管、破棄などの手続きに全て厳格な決まりがあります。これを少しでも逸脱すると事故になるので気を抜けません。
たとえば、暗号書表の種類によっては、破棄の証明として決められた箇所を切り出して返却する作業があるんですが、それを忘れて全てシュレッダーにかけてしまうような事故が数年に1回は報告されます。たとえ、間違いなく裁断していたとしても、破棄を証明できない以上、事故は事故になります。
そうですね。厳しいようですが、秘密鍵が危殆化すると大変なことになりますから、まぁそれも仕方ないんでしょうね……。
そういうわけで、通信は情報漏洩に対して最も厳しいパートです。
暗号だって暗号取扱者に指定された一部の隊員しか取り扱いませんし、幹部が何と言おうと規則上ダメなものは絶対に許さない、という気風がありますね。
なるほど~
よくわかりました。ありがとうございました。
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