この記事では、護衛艦内の編成について次の内容を説明します。
- 艦艇の人員は、役割に応じた「科」に分かれている。
- 護衛艦の場合、砲雷科、船務科、航海科、機関科、補給科、衛生科、飛行科の7つの科に分かれる。
- 衛生科は海外派遣などで医官が乗艦しない限り、補給長が科長を務めており、事実上補給科の一部として機能している。
- 「あぶくま」型護衛艦や、ほとんどのイージス艦には飛行科がない。
- 「科」の中には、さらに役割に応じて細分化された「パート」がある。
- 曹士は先任伍長を除いて、全員がどれか1つのパートに属する。
- パートのリーダーは海曹で、「●●員長」と呼ばれる。
- 艦内の区画にはそれぞれ担当のパートが決まっており、通常はそのパートの職場として独占的に使われる。
- ただし、艦橋、CIC、上甲板などは複数のパートが協力して働く。
- 曹士は先任伍長を除いて、全員がどれか1つのパートに属する。
- 幹部は、艦長・副長を除き、どれか1つの科に属し、パートには属さない。
- 科長以外の幹部は、いくつかのパートを指揮下に持つことがある。
- 護衛艦の場合、砲雷科、船務科、航海科、機関科、補給科、衛生科、飛行科の7つの科に分かれる。
- 曹士は「分隊」単位で人事管理される。
- 第1分隊:砲雷科
- 第2分隊:船務科・航海科
- 第3分隊:機関科
- 第4分隊:補給科・衛生科
- 第5分隊:飛行科
- ほとんど科と同義で、原則として科長が分隊長になる。
- 今でこそ科とほぼ同義だが、旧海軍の頃は人数が多かったため、科と分隊の構成が全く異なっていた。
艦内を巡る前に、この艦の人々がどうやって働いているのかについて説明するね。
「科」と「パート」で細分化された職能集団
さっき、幹部一人ひとりが「砲雷長」とか「航海長」って自己紹介したよね?
ええ、先パイは「水雷長」なんですよね?
うん。この役職に、なんでそんな名前が付いているかというと、艦内の人員がその役割ごとに縦割りされているからなんだ。例えば、砲雷長は武器を司る。
つまり、艦内には武器専門の人がいて、そのリーダーが「砲雷長」だってことですか?
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護衛艦には7つの「科」
そういうこと。その役割による縦割りを「科」と呼ぶんだ。
護衛艦だと、砲雷科、船務科、航海科、機関科、補給科、衛生科、飛行科の7つの科があって、それぞれに科長がいるんだ。
もっとも、衛生科は海外派遣の時に医官が乗ってきたりしない限り、補給長が科長を兼ねるから、事実上補給科の一部になってしまっているけど……。
各科がどんな科が、ざっくり説明しよう。
砲雷科
砲雷科は、砲と水雷、要するに武器を扱う科だよ。
「護衛艦」となると、やっぱりそういう科があるんですね。
武器を扱うほか、伝統的に甲板上での作業、つまりロープを使って艦を係留するような仕事を引き受けるよ。
船務科
船務科は……と言われても、聞いても何をする科なのかよく分からないんじゃないかな?
ええ、他の科はなんとなく分かりますが……。
だよね、ボクも入隊するまでよく知らなかったもの。
船務科を一言で言うと、インテリジェンスで戦う科だよ。
それ自体が攻撃力を持っているわけではないんだけど、レーダーの探知状況や、傍受した電波、味方の持っている情報、そういった情報を組み合わせて指揮官の判断を助けるんだ。
船務科には、そういうインテリジェンスを処理する人と、それを実行するために必要な機材を整えておく人がいる。
うーん。なかなか難しいこと言いますね……。
大丈夫、また後できちんと教えるから。
航海科
航海科は、艦の運航を司る科だよ。
こっちは民間の船にもいそうな人ですね。
そうだね。出港するときには目的地があって、そこに行き着くまでの経路がある。そこをいい加減にすると、行方不明になってしまったり、浅瀬に乗り上げてしまったりする。それは護衛艦でも貨物船でも変わらないからね。
航海科は計器や海図を整備したり、他の船と衝突しないように行船のアドバイスをしたりして、艦が安全で計画通りに目的地に辿り着けるようにするんだ。
機関科
機関科は文字通りエンジンを司る科だよ。
エンジンが動かないと艦は動けないですもんね。
でも、動かすのはエンジンだけじゃない。発電機を動かして艦内に電力を供給したり、ポンプを回して真水や海水を艦中に張り巡らしたりする。まさしく縁の下の力持ちだよ。
補給科
補給科は単純なようで、結構表現が難しい。
経理業務をやって皆の給料や旅費を処理したり、行政文書の出入りを管理したり、交換部品の出入りを管理したり、食事を作ったり。
あー、なんとなく分かります。他の人をサポートする仕事ですね。
そうだね。機械を動かさないサポート系の仕事はだいたい補給科と思って間違いが無い。一言では言い表せないけど、やっぱり縁の下の力持ち。
衛生科
衛生科は、医療を司る科だよ。普段は乗員の健康管理をしていて、艦内で病人・怪我人が出た際に対応するんだ。
艦内に医者が乗ってるんですか?
いや、衛生員は医師免許を持っている訳ではない。ただ、一通りの医学の知識はあって、中には看護師免許を持っている人もいる。
普段は緊急搬送する必要があるかを判断する程度だけど、緊急時には簡単な医療行為を行うことも認められているんだ。
ちなみに、海外派遣される時は、医師免許を持った医官が乗艦するよ。
飛行科
飛行科は艦載ヘリコプターを司る科。
ヘリのパイロットが所属するんですね?
いや、パイロットは陸上にある航空隊から一時的に乗艦するんだ。
艦にいる飛行科はヘリの整備員だね。
ちなみに、飛行科があるのはヘリを搭載可能な護衛艦のみ。
「あぶくま」型護衛艦や、イージス艦(一部を除く)は、ヘリを搭載する能力が無いから、飛行科もいないんだ。
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「科」をさらに細分化する「パート」
「科」の中でも、まだまだ役割に応じて縦割りがある。それが「パート」と呼ばれる集団だよ。
……吹奏楽みたいですね。
曹士は、先任伍長と呼ばれる最上級の海曹を除くと、全員がどれか1つのパートに所属するんだ。
例えば、「砲雷科」の中には「射撃」「射管」「水測」……のようなパートがあるんだけど、ここまで分かれるとかなり専門的になってくる。
パートのリーダーは海曹が務めていて、「射撃」というパートのリーダーは「射撃員長」ということになる。
職人さんの作業班みたいなものですかね……?
だいたい、そういうイメージで問題ない。
艦内にはたくさんの区画――要するに部屋があるんだけど、担当のパートが決まっていて、倉庫だったり作業場だったり、そのパートの職場として独占的に使われるのが一般的なんだ。つまり、パートはある程度、独立して働く集団ということだね。
もちろん例外もあって、艦橋やCIC、上甲板のような場所は、たくさんのパートの人が協力して働く場所ということになるよ。
水雷長はどのパートに所属しているんですか?
いや、幹部は1つの科に所属するけど、パートには所属しないんだ。
ただ、指揮系統として、幹部がパートを自分の指揮下に持つことはあるよ。
例えばボクの場合は、砲雷科の中の「水測」「魚雷」「運用」の3つのパートが水雷長の部下、ということになってる。
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人事管理単位「分隊」
ちょっと厄介になってくるのがここから。「科」は「科」で存在するんだけど、同時に存在するのが「分隊」なんだ。
なんか、どこかで聞いたような話ですね……。
まさしく候補生学校の「分隊」と同じ。「分隊」は人事管理の単位なんだ。分隊のメンバーは科とほぼ同じだけど、船務科と航海科が同じ分隊にまとめられているよ。
- 分隊と科
- 第1分隊:砲雷科
- 第2分隊:船務科・航海科
- 第3分隊:機関科
- 第4分隊:補給科・衛生科
- 第5分隊:飛行科
分隊長は原則として科長が担当するよ。
2分隊の場合、船務長と航海長では船務長の方が序列が上だから船務長が分隊長。
ただ、科長が副長を兼務する場合は、その次に序列が高い人が分隊長になる。ちょうどボクがそのパターン。
あと、5分隊は人数が少ないのと、整備員の集団だということもあって、飛行科の科長である飛行長ではなく、その部下の整備長が分隊長をやるケースもあるね。
なかなか複雑な話ですね……
それにしても、なんでこんな面倒な制度があるんですか?どうせほとんど科の単位と変わらないなら、科として人事管理すれば良いじゃないですか。
いやはや、ごもっともなんだけどね……
この話をすると100年前の帝国海軍まで遡ることになってしまう。
戦前の艦、特に大型艦は1000人以上の人が乗り組んでいたんだ。
1000人……!?
戦艦の写真なんか見ると分かるけど、そこら中に大小様々な砲がくっ付いていて、その砲一つ一つに数十人以上の操作員がいたわけ。パソコンなんて無くて、全てを手書きでやっていた時代、数百人を超える砲雷科員の人事管理なんて、砲雷長にはできない。
というわけで、数十人単位で分隊が作られて、それぞれに「分隊長」という職名の士官が人事をするためだけに乗艦していたんだ。
凄いスケールですね……
ね。科と分隊が一致しないのが当たり前の時代から、戦後の自衛隊になって、艦に乗る人数も減ったことで、ほぼ科と分隊は一致する時代になった。でも、艦の人事管理をするためのシステムは全て分隊単位で動かすことを前提に作られてしまっているから、未だに「分隊」で動いているってワケ。
なるほど、よく分かりました。
よし、この話が分かったところで、艦内を巡っていこうか。
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