この記事では、護衛艦のパートについて次の内容を説明します。
- 「魚雷」は水上発射管・アスロックランチャーの操作・整備を行うパート。
- 短魚雷は護衛艦が潜水艦を攻撃する唯一の手段。
- 水上発射管は、高圧空気で魚雷を海中に放出する装置。
- アスロックランチャーは、短魚雷にロケットモーターを装着したアスロックミサイルの発射装置。
- 魚雷を空中飛翔させることで、遠距離探知した潜水艦の周辺へ、瞬時に魚雷を投射できる。
- 現在では垂直発射式に置き換わり、アスロックランチャーを装備している護衛艦は「あさぎり」型・「あぶくま」型のみ。
- 電気・高圧空気・油圧といった異なる種類の動力を全て要求する装置であり、VLSのような自己診断機能や故障探求機能が無いため、故障時の復旧が非常に難しい。
- 高圧空気を取り扱うパートであり、機械室の高圧空気圧縮機の操作などを要求される。
- 「発射装置の整備員」という位置づけから、射管員や水測員に比べると目立たない存在。
- 心理適性の許容範囲は広い。
- 水測員と異なり、必ずしも水中音響理論などへの習熟は求められない。
- 射撃員と同様、若い頃は艦橋ワッチに立ち、中堅海曹になると管制室ワッチへ移行する。
- VLS搭載艦の場合、途中からVLSの専門教育を受けてVLS員に転向する場合が多い。
- 出入港時は水測員と同様、中部甲板の作業員になるのが通例。
- 短魚雷は護衛艦が潜水艦を攻撃する唯一の手段。
- 「短SAM」は短SAMランチャーの操作・整備を行うパート。
- 短SAMランチャーは、シースパローミサイルの発射装置。
- ほとんどがVLSに置き換わり、現在は「あさぎり」型を残すのみ。
- 短SAM員は射撃員の派生型。
- 短SAMランチャーは、シースパローミサイルの発射装置。
- 「VLS」は垂直発射装置の操作・整備を行うパート。
- 垂直発射装置(VLS)は、各種ミサイルを真上に発射する装置。
- かつてのランチャーと異なり、射界制限が無くなった。
- 発射装置であると同時に弾薬庫であり、発射後の次弾装填が不要になった。
- 使用できるミサイルの範囲が広く、SAMもアスロックも発射できる。
- コンピューターによる管理が行われており、自己診断機能や故障探求機能が充実している。
- VLS員は射撃員・魚雷員の派生型。
- VLS員と魚雷員の棲み分けの度合いは艦により異なる。
- 搭載ランチャーや、戦闘システムとの連接状況が艦により異なるため。
- VLS員と魚雷員の棲み分けの度合いは艦により異なる。
- 垂直発射装置(VLS)は、各種ミサイルを真上に発射する装置。
魚雷
さてさて、お次はこちらですよ、「魚雷」!
魚雷は潜水艦を攻撃するのに使うんでしたね?
はい、その通りです!大戦期の駆逐艦や巡洋艦は水上艦相手に魚雷を撃ちまくってましたが、今どきはそこまで近づく前にミサイルでドカンですからね。水上艦の魚雷はもっぱら対潜攻撃のために使います。
潜水艦は基本海に潜ったまま出てこないので砲やSSMで攻撃することが出来ません。だからこそ、海中で目標を探して突っ込んでくれる短魚雷は唯一の攻撃手段になるんです。
広告
水上発射管とアスロックランチャー
短魚雷を発射する手段は3つあります。水上発射管とアスロックとヘリコプターです。
ただ、ヘリコプターの魚雷は飛行科のものですから、ここでは説明しません。魚雷員に関わってくるのは前2つ、水上発射管とアスロックです。
水上発射管っていうのは……短魚雷発射管のことですか?
ええ、短魚雷発射管です。装備品としては「水上発射管」って名前が付いているだけです。
発射管は高圧空気を使って短魚雷を海中へ放出する装置です。このあと説明するアスロックと違って、目の前の潜水艦へ攻撃するために使います。
アスロックは……短魚雷をロケットで飛ばすんでしたっけ?
よく知ってますね~!
アスロックランチャーはアスロックミサイルの発射装置……って、まんまですね。そのアスロックミサイルというのは短魚雷の後ろにロケットモーターをつけたものです。ロケットで空中を飛翔させることで、遠距離探知した潜水艦のすぐ近くに、瞬間的に魚雷を投射することが出来るんです。
魚雷をロケットで飛ばすなんて、よく考えますね……。
アスロックランチャー、見た目はイカしてるんですが、今となってはほとんどVLSに置き換わりました。護衛艦で装備しているのは「あさぎり」型と「あぶくま」型を残すばかりですね。あとは練習艦「かしま」「はたかぜ」「しまかぜ」だけです。
そのVLSってやつの方がいいんですか?
ええ、詳しくはこの後説明します。
まあVLSが良いと言うより、アスロックランチャーに問題があるって言うんですかね?魚雷員からの評判はあんまりよくありません。
というのも、構造が複雑すぎるんですよね。
この手の機械って、動力に電動モーターとか油圧装置を使うのが定番なんです。でも、アスロックランチャーはよりによって、電気と高圧空気と油圧って、3種類の動力を全部要求するんですよ。それも、高圧空気の中でも圧力の違うのを2種類要求したりとかですね。
だから、動かすだけで事前の準備がたくさん必要になるし、メンテナンスもいろんな系統をいじらないといけないんです。
あー、なるほど。なんとなく分かります。
故障したら大変なことになりますね、ソレ。
おっしゃるとおりです。今どきのシステムはだいたい自己診断機能が付いていて、故障したら自分で教えてくれるし、どこが悪いのかも分かるようになってます。ところが、アスロックにはVLSにあるような自己診断機能や故障探求機能はありません。そうなると、壊れたらすっかり黄ばんで背表紙と紙が分離しかけた取扱説明書を引っ張り出して、図面とフローチャートを辿りながら、どこが悪いのかを探していかないといけないんです。まあしかも、原因を探るのが大変なくせに、原因が分かっても乗員修理が困難な場合がほとんどで、結局は修理業者を呼んでこないといけないんです。
そんなこんなで、故障時の復旧が非常に難しいというのがアスロックの悪いところです。
広告
高圧空気を扱うパート
魚雷のちょっと変わっているところは高圧空気を扱うところだね。
発射管にしてもアスロックにしても、発射には高圧空気が必要だから。
他のパートは使わないんですか?
うん。機関科でエンジンの始動に使われるのと、イージス艦で機器冷却用に使われるってのは聞いたことがあるけど、他にはあんまりないね。
そういうわけで、魚雷員は砲雷科員なんだけど、機関科が管理している機械室へ行って高圧空気圧縮機を操作することが多いよ。
広告
影の薄さ……。
魚雷員のもう一つの特徴は、砲雷科の中で若干影が薄いことかなぁ……。
発射装置のメンテナンスが仕事だからですか?
うん。魚雷を扱うとは言っても、要求したときに発射できる状態を維持してくれていればいいってことだからね。魚雷をどこに撃つかを決めるのは水測員だから、対潜戦をやるとなったら水測員は作戦を立てるために呼び出されるけど、魚雷員が呼ばれることは稀だね……。
なるほど……。
その恩恵として、心理適性の許容範囲が広いってのも特徴ですね。
水測員と違って水中音響理論を頭に叩き込まなくても、発射管の操作と整備が出来ればひとまず魚雷員は務まります。もちろん、知っているに越したことはありませんけど。
これ、別に魚雷員の悪口を言ってるわけじゃないからね。そういう役割分担ってだけ。
ただ、業務負担が軽い分どうしても評価されにくい傾向にあるね。
広告
艦橋ワッチと管制室ワッチ
若手は艦橋ワッチ、中堅になってくると管制室ワッチというのは、他の砲雷科員と同じだよ。
VLS員への転向
もう一つの特徴が、VLS員への転向だね。艦の中でどのパートに配置するかは艦で決めることが出来るから、若手は魚雷パートに配置しておいて、ある程度経験を積んだところで一部をVLSパートに移動させるという運用をしている艦も珍しくないよ。
VLSの方が扱いが難しいんですか?
うん。どうしてもシステムが大がかりになるからね。
それにアスロックランチャーの頃からして、ランチャーは中堅海曹以上じゃないと触らせないようにしていた艦も結構あったから、発射管からランチャーへステップアップしていく図式からするとあんまり違和感はないんだ。
ちなみに、VLS員への転向自体は別に教育を受けなくても出来るんだけど、学校で専門教育を受けさせて転向させるのが通例だね。
広告
甲板作業は中部甲板
「水雷」ってひとくくりにされがちなのに実際は水測員と全く違う。それが魚雷員ですが、水測員と共通点が1つありまして、甲板作業は中部甲板でやります。
えっと、搭載艇の揚げ降ろしでしたっけ?
ええ。それと桟橋の設置ですね。
広告
短SAM
このあと「VLS」の説明するんだけど、その前に「短SAM」の説明もしてしまうね。
「短SAM」は短SAMランチャー、つまりシースパローミサイルの発射装置の操作・整備を行うパートだよ。
急に全然違うパートになりましたね?
短SAMランチャーもアスロックランチャーと同じように、VLSに置き換わったんだ。今では「あさぎり」型護衛艦にしかない装備だよ。
つまり、「あさぎり」型にしか「短SAM」というパートは無い?
今となってはそういうことになるね。
短SAM員は射撃員の派生型で、「射撃」パートが砲の操作整備をしていたのと同様、短SAMランチャーの操作整備をしているんだ。実際に発射操作をするのは射管員なのも同じ。
広告
VLS
さて、ここからが本題。「VLS」は垂直発射装置(VLS: Vertical Launching System)の操作・整備を行うパートだよ。
VLS、VLSってずっと言ってて何かと思ってたら、そういう意味だったんですか。
VLSの特徴
そう。VLS最大の特徴は、ミサイルを垂直、つまり真上に向かって発射すること。
真上って……真上に撃つと良いことがあるんですか?
一番の利点は射界制限が無くなることだね。
アスロックにしても短SAMにしても、発射方向に自艦の構造物があると発射できなかったんだ。でもVLSなら真上に高く打ち上げた後、向きを変えて目標へ飛んでいくから、360°どの方向にも発射できるんだ。
なんとなく分かりました。でも艦の向きを変えれば済みません?
うん。非VLS艦はそうしてるんだ。
でも、対空戦は一分一秒を争うから変針に掛かる10秒が惜しい。対潜戦の場合、変針すると目標を失探してしまうことが少なくない。今向いている方向のまま発射したいという要求はとても強かったんだ。
そういうものなんですね。
他にも、次弾装填が不要なんて利点もあるね。
ボックスランチャーはグイングイン振り回す都合上、あんまりたくさん弾を入れられないところがあって、発射した後は弾庫から次弾を装填しないといけなかったんだ。
それに対してVLSは船体に埋め込まれていて動かないから、発射装置自体が弾庫になる。装填作業をしなくても、装備しているセルの数だけ発射することが出来るんだ。
搭載している弾はどれでも、いつでも発射できるってことですね。
それから使えるミサイルの幅が広い。
短SAMもアスロックも入れられるし、SM-2もSM-3も入れられる。国産弾だって入るし、なんならトマホークだって入れられる。あとは弾と繋がる戦闘システムの方が対応しているか、だね。
ちなみに、VLSで発射するためのアスロックをVLA(Vertical Launched ASROC)と呼ぶよ。
そしてさっきコンピューターで管理されていること。さっき水雷士が言っていたとおり、自己診断機能や故障探求機能が充実していて、故障しても原因がすぐに分かるし、修理には何が必要なのかもすぐに分かる。
至れり尽くせりですね~
広告
射撃員と魚雷員の派生
VLS員が珍しいのは、射撃員と魚雷員、両方の派生型であることだよ。
どちらからでもなれるってことですか?
うん。ただ、実際どういう風に人を取り回しているかは艦によって結構差があるんだ。
ん?どうしてですか?
そもそも艦によって装備しているランチャーに若干差があるし、戦闘システムとの連接状況が違うからだね……。
たとえば、「むらさめ」型護衛艦はMk41ランチャーをVLA用、Mk48ランチャーをシースパロー用に装備しているんだ。
これが「たかなみ」型になるとどっちもMk41ランチャーに統一されたんだけど、シースパロー用のランチャーとVLA用のランチャーと分離する態勢は維持された。
一方イージス艦や「あきづき」型以降のDDになると、シースパロー用もVLA用も無く、ごちゃ混ぜに搭載しているんだ。
VLS員は整備員としての性格が強いから、そういう領分の差が人の配置にも影響してくるんだね。
そ、そうですか……。
広告
さてさて、京井さん、水雷の世界はどうでした!?
楽しかったでしょう!?入隊したら是非第一希望は水雷にしてくださいね!!
あ、ありがとうございます……。
このページには防衛省をはじめとする、日本政府・官公庁のWebサイト、SNSアカウント等から転載されたコンテンツが含まれます。
転載にあたっては、「リンク、著作権等について(首相官邸)」「防衛省・自衛隊ホームページのコンテンツの利用について」「海上自衛隊ホームページのコンテンツの利用について」等に示される各省庁の利用規約を遵守しています。
コメント