この記事では、読者からの質問にお答えします。
現在高校3年の男子です。防衛大学校は不合格でしたが、一般曹候補生(海上自衛隊)には合格しています。また、公立大学受験も予定しています。
将来的には幹部(A幹・B幹どちらでも構いません)になりたいと考えていますが、
以下の2つの進路のうち、どちらを選ぶべきか迷っています。
①曹候補生としてまず入隊し、その後B幹を目指す
②大学進学後に、幹部候補生/幹部候補曹の試験を受ける
もしよろしければ、とーみふたさんの意見をいただきたく思います。
お忙しいところ恐れ入りますが、何卒よろしくお願いいたします。
ちご 様
大学での高等教育の機会は重要。ただし、その機会を活かすも殺すもあなた次第。
- 金銭的損得
- 短期的には高卒で入隊した方が得、長期的には大卒の方が得
- 高卒入隊者の先行ボーナスを巻き返すには、A幹として入隊するのが確実
- 幹部候補曹は、高卒入隊者に対し損にも得にもなり得る。
- 転職時にも大卒の方が得
- 短期的には高卒で入隊した方が得、長期的には大卒の方が得
- 昇任スピード
- 幹部を目指すなら、大卒→A幹が最短
- B幹を目指すなら、高卒→一般曹候補生が最短だが、実際には大卒→幹部候補曹の方が確実
- 高卒でも佐官を狙えるが、大卒でないと知的負荷に耐えられないのが現実
- 職域の自由度
- 一般曹候補生・幹部候補曹よりA幹の方が、部隊のことを知った上で希望調査に回答する余地あり
- 曹士・B幹は一度決められた職域から大きく外れない。A幹は頻繁に業務内容が変わる。
- プライベートの充実
- A幹でプライベートの充実を追求するのは困難
- B幹は曹士の間に基盤を固めるのが鍵
- 幹部任官に伴う生活の激変にも備えること
- 大学での学習内容は仕事に活かせるか?
- 特に活かせる分野:工学、法学、政治学
- その他、論文の読み書き経験、数学への理解などは有用性大
- 活かしにくい分野も、全く役に立たないものではない。ただし、活かすための努力がより重要。
- 特に活かせる分野:工学、法学、政治学
- その他のアドバイス
- A幹・B幹は、同じ幹部でも長期的に求められる役割が全く異なる制度。どのような職業人を目指すかは考えておこう。
水雷長 遠見1尉いよいよ入隊が近づいてきたね。準備は出来てる?



ええ、なんとか。
それより、先日、久々にうちの高校へ挨拶に行ってきたんですよ。で、高3の田中くん覚えてます?



ああ、副部長の?



ええ、実は彼は防大を受けてたそうで。



えっ!?そうだったの?
しまったな、隊員自主募集のネタに出来たのに……。



……。



まあ、でも。落ちちゃったらしいんですよ。



あ、そうなの……。



で、一般曹候補生も受けてたらしくて。そっちは合格してるから、高校卒業したら入隊するか、大学に行ってから入隊するか迷ってるそうなんですよ。先パイはどう思います?



え?大学行けるなら行った方が良いんじゃない?



まあ、私もそう思いますけど。
金銭的な損得



ただ、彼の家は経済的にそんなには余裕ないみたいで。学費とかで家に負担をかけたくないそうなんですよ。



いいヤツだ……。高校・大学でゲームばっかやって留年スレスレだったボクに、その質問はあまりにも厳しい。



実は、ちょうど補給長にそういう話を聞いたことがあってね。
短期的には高卒で入隊の方が得だけど、長期的には大卒で幹部になった方が得って話だったよ。



まあ、そりゃあそうですよね。
先行ボーナスを得る高卒入隊



高校卒業と同時に入隊すれば、大学を卒業してから入隊するより、4年早く収入を得られるもんね。やっぱり、この先行ボーナスこそが高卒入隊の魅力だよ。
- 4年間多く給与収入を得られる。
-
- 4年間の年収は、俸給+期末・勤勉手当だけでも400万円前後、乗組手当があれば年収500万円前後に達する。
- 4年間の手取りで、1,000万~1,500万円程度の給与収入が得られる。
- 学費が不要、生活費も軽減
-
- 大学の学費を負担せずに済む。
- 国立大の場合、入学金と4年間の授業料で250~280万円程度。教材費、実習費用などを含むと300万円程度は必要。
- 私立大は大学・学部により千差万別だが、一般に、4年間で450万円~500万円程度必要。他に寄付金等が必要な場合も。
- 生活費の負担も軽減される。
- 営内居住・艦内居住の間、住居費・食費・水道光熱費などが不要になる。
- 地域や生活スタイルにもよるが、4年間で500~800万円程度の軽減効果が発生
- 営内居住・艦内居住の間、住居費・食費・水道光熱費などが不要になる。
- 大学の学費を負担せずに済む。
-
⇒ 4年間で得られる給与収入・負担せずに済む費用により、2,000万~3,000万円程度の差が発生
- 早く入隊した分、昇任・昇給に先行ボーナスが付く。
-
※次の試算は、大卒者が一般曹候補生として入隊した場合のもの。
- 同じ一般曹候補生を比較すると、大卒者の方が初任給は高い。
- 高卒:2士1号俸(239,500円)
- 大卒:2士9号俸(252,700円)
- 確かに大卒者は高い号俸からスタートするが、同級生が大学に通う4年間で、高卒者は4回の昇給機会を得る。
- 高卒・大卒間の初号俸の差は、時間経過に応じて徐々に吸収されていく。
- 大卒の一般曹候補生が士長に昇任するのは、高卒の一般曹候補生が入隊5年目のとき。高卒者は3曹に昇任出来なくても士長25号俸(291,300円)以上の可能性大。一方の大卒者は士長7号俸(263,700円)なので、同級生に対して3万円程度高い給与が得られる。
- 3曹昇任選考も4年早く始まるため、より多くの昇任機会を得られる。
- 昇任選考は学歴を考慮せず、主に勤務成績(教育隊での成績、部隊での業務への貢献度、新入隊員に対する接し方など)や士長昇任からの経過期間を考慮する。
- 早く業務経験を積んで、「新入隊員」のポジションから脱却した者が圧倒的に有利
- 一般曹候補生は入隊翌々年から3曹昇任選考スタート。最短で、同級生が大学3年生のときに3曹昇任も可能。
- 昇任選考は学歴を考慮せず、主に勤務成績(教育隊での成績、部隊での業務への貢献度、新入隊員に対する接し方など)や士長昇任からの経過期間を考慮する。
- 同じ一般曹候補生を比較すると、大卒者の方が初任給は高い。



えっ……、2,000万!?ボクが入隊した頃は、こんなに高くなかったよ。
こうやって数字にしてみると、ここ数年の物価高騰でブーストされた生活費軽減効果に、若年隊員の処遇改善の効果は絶大だなぁ……。



まあ、実際は呑み代やパチンコに散らしたり、バイクや車買ったりしちゃうんだよなぁ。みんな。
ほとんど貯金してない士長なんて珍しくないからね。



1,000万、2,000万と言うととてつもない金額のようですが、日々の積み重ねで軽々と溶けてしまうんですね……。儚い。



艦艇乗員は下宿も借りるからね。昔は数名でタコ部屋みたいなのを取って私物置き場と寝床にしてた人も多かったんだけど、最近は普通にアパート・マンションの部屋を契約する子も多いから、そうなるとこの経済的メリットは数百万円単位で目減りする。



陸上部隊の営内居住は普通のアパート・マンションに比べて不便も多いけど、艦内居住に比べれば十分生活していけるレベルだからね。艦艇乗員の手当の多さに惑わされがちだけど、陸上部隊の海士はそういう無駄な出費をせずに済むから、その気になれば十分貯金は出来るね。
最終的には巻き返せる大卒



最初の4年間で2,000万オーバーの積み上げを得る高卒入隊者だけど、やっぱり毎月の給与は大卒の方がいい。時間経過に応じて徐々に差は縮まるし、最終的には大卒に追い越されることがほとんどなんだ。
- 大卒者は初任給が高くなる。
-
- 大卒者は2年分の業務経験と同等と見なした初任給調整が行われる。
- 高卒:2士1号俸(239,500円)
- 大卒:2士9号俸(252,700円)
- ただし、この初任給調整は時限的で、昇任時の号俸調整によって徐々に吸収される。
- 1士以降の号俸差は「2」、通常は毎年「4」号俸が加算されるので、半年分しか差が残らない。
スクロールできます時期 高卒 大卒 俸給月額差 入隊時 2士1号俸
(239,500円)2士9号俸
(252,700円)13,200円 入隊年10月~ 1士1号俸
(250,000円)1士3号俸
(254,800円)4,800円 入隊翌年1月~ 1士5号俸
(259,700円)1士7号俸
(261,100円)1,400円 入隊翌年4月~ 士長5号俸
(259,900)士長7号俸
(263,700円)3,800円 高卒・大卒による号俸変化
(優良昇給を考慮しない)⇒ 同じ海士として入隊する場合、大卒者の方が年間10万円+α程度高給を得られる。
- 大卒者は2年分の業務経験と同等と見なした初任給調整が行われる。
- 一般幹部候補生への道が拓ける。
-
- A幹の採用に学士取得は必須ではないが、4年制大学卒業と同等の学力が必要
- A幹は入隊・3尉任官時点で、同年齢・高卒入隊の曹士より俸給月額が1~2万円程度高額、その後も徐々に差が開き、特に3佐昇任後は5万円以上、2佐・1佐になる頃には10万円以上(比較対象がB幹になっても5万円程度)の差となる。
- 諸手当(期末・勤勉手当、地域手当、広域異動手当、乗組手当など)は俸給額をもとに算出されるため、月数万円の差は絶大
- 退職手当の金額も退職時の俸給額に依存する。
⇒ 40代には高卒者の先行ボーナスを逆転、その後の給与差により、定年時の累積賃金は数千万円勝る。
※幹部候補曹の場合、同年齢・高卒入隊の一般曹候補生に対し、給与でわずかに劣後
⇒ 比較対象がB幹にならない場合は逆転するが、最短でB幹になった場合は逆転しない。 - 転職時の給与水準が高い。
-
- 転職時の給与は業務経験に影響されるため、新卒に比べ高卒・大卒の差はマイルドではある。
- 曹士は職域により業務経験への評価の差が激しい。
- 自衛隊特有の職域(武器関係や電測など)は、評価されづらい。
- 給与水準の高い管理職の募集は、曹士の経験を評価しないことも多く、そもそも大卒でないと応募出来ないことも少なくない。
- 曹士は職域により業務経験への評価の差が激しい。
⇒ 評価されやすい経験を積んだ海曹は技術職で重宝されるが、それ以外の曹士・高卒者は幹部・大卒者により薄給な仕事しか得られない可能性大
- 転職時の給与は業務経験に影響されるため、新卒に比べ高卒・大卒の差はマイルドではある。



一番上のヤツはメリットなんですか?



一応、同じ海士になるなら大卒の方がちょっとだけ有利ってことだね。
さっき挙げた、4年分の先行ボーナスを巻き返すパワーは全くない。だから、自衛官として得る給与総額だけを追求するなら、大学を卒業して海士になるより高校卒業と同時に海士になっちゃった方が得ではあるね。



ただ、大卒者はA幹になりやすいから良いと。



そういうこと。
A幹になっておけば、定年までにはほぼ間違いなく給与総額で高卒者を逆転出来る。
幹部候補曹は……ちょっと微妙かなぁ。そもそもB幹はどこまで昇任するか、人によってバラつきが大きいから、佐官までなるB幹と2尉留まりのB幹では違うし。少なくとも、大学卒業時に一般曹候補生で入隊するよりは遥かにお得だし、高卒入隊に比べても損とまでは言い切れないかな。



あと、補給長が言ってたのは厚生年金。今どき、どこまでアテに出来るかは分からないけど。厚生年金の額は現役時代の給与水準に影響されるから、幹部と海曹では月数万円の年金受給額の差になり得るって。



色々考える事ありますね。



民間に強いのも魅力だよね。今どき、いつ転職することになるかなんて分からないし。



大学行ける条件は整っているのに、高卒で入隊するのは、退路断っている感があって、ちょっとリスキーですよね。
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昇任スピード
採用制度により変わる昇任ペース



そもそも田中くんは、幹部を希望しているの?



ええ。私もちょっと聞いてみたんですが、A幹・B幹の別はともかくとして、幹部の仕事をしたいと言ってましたよ。それで防大を受けたって。
- 幹部任官(3尉昇任)までに要する時間
-
高校を「X」年に卒業、大学は4年制大学を浪人・留年することなく、X+4年 3月に卒業すると仮定して、幹部任官の最短時期を算出する。
- 高校卒業時、一般曹候補生として入隊した場合:X+8年 7月1日
- 入隊(2士):X年 春
- 3曹昇任:X+3年 1月1日
- 幹部候補生学校入校:X+7年 夏
- 大学卒業時、幹部候補曹として入隊した場合:X+9年 7月1日
- 入隊(士長):X+4年 春
- 幹部候補生学校入校:X+8年 夏
- 大学卒業時、一般幹部候補生として入隊した場合:X+5年 3月下旬
⇒ 大学卒業してA幹になるのが最短。B幹になるなら高卒で入隊するのが最短だが、不確実性大
- 高校卒業時、一般曹候補生として入隊した場合:X+8年 7月1日
- 幹部任官後の昇任スピード
-
- 学歴自体は昇任スピードに影響しない。
- A幹とB幹の差
- 1尉までは、大きく変わらない。
- ただし、A幹は一斉昇任するのに対し、B幹は最短での昇任者がA幹と同等のスピード
- 勤務成績不良のB幹は長期間2尉に留め置かれる。
- 佐官以降は、大きく異なる。
- A幹は、ほぼ全員が30代半ばに3佐昇任、2佐には早ければ30代終盤、遅くとも50代初頭には昇任
- B幹には中級課程・CSの壁があり、多くのB幹が1尉で定年を迎える。
- 1尉までは、大きく変わらない。
⇒ 学歴自体は影響しないが、A幹かB幹かにより大きく変わる。



やっぱり、上を目指すならA幹ですよね。



まあ、そういう採用制度だからね。



でも、大卒で幹部候補曹になるより高卒で入隊した方がB幹の任官が早いのは、意外でした。



まあ、計算上はそうだけど……。ただ、これはあくまで最短での計算だからね。差は所詮1年分だから、3曹昇任やB幹選抜がちょっと遅れればたちまち並ぶし、なんなら幹部候補曹に追い越されるよ。「1選抜」で3曹になるのは、ごく一部だからね。ほとんどの場合は幹部候補曹の方が早いことになるよ。



しかし。こうしてみると、高卒時に入隊して、年齢の応募資格を満たしたらA幹(いわゆる部内A幹)になるのが、経済的にも、その後の出世コース的にもベストなんじゃないかな?



いや、大卒クラスの学力無いと合格は難しいんでしょう?



それは確かにそう。仕事しながら試験勉強するのも大変だろうし。
でも、そうやってA幹になった人は、ボクの同期にも何人かいるよ。田中くん、勉強は結構出来る方だったでしょ?そういう選択もあるんじゃない?



なんと無責任な……。
部内A幹の多くは、入隊時点でA幹採用試験に合格しうる能力を持った人達です。全く合格見込みがない水準から、海士の仕事をしながら成績を底上げするのは極めて困難なので、安易に考えないようにしましょう……。
「高卒でも上に行ける」は真実?



まあ、とはいえ、B幹だって上を目指せないわけじゃないからね。ウチの副長だってB幹で3佐になってるし。イージス艦の艦長目指してるらしいよ?



ああ、きちんと上には行けるようになってるんですね。



……あのな。さっきから聞いていれば色々言っているが。ああ見えて、ウチの副長は大卒だからな?



えぇっ!?



最近のB幹佐官は氷河期世代でな。大卒者も珍しくないのだよ。
まあ、本人の顔を想像するとまるで同情する気にもならんが、アレはアレで苦労人なのだ。



そうだったんですか……。あの人が……。



それから、確かに、採用試験さえ通ってしまえばA幹になることは出来る。B幹の3佐昇任要件に学歴が含まれていないのも確かだ。
とは言え、大学に行かずに上へ行くのは無理があるぞ。



中級幹部以上になったとき、求められる役割はどう変わる?



それは……指揮官とか、そのサポートですよね。



ああ。部隊指揮官に加え、なんと言っても幕僚業務が入ってくるのだ。中級未修業のB幹でも司令部の下っ端幕僚をやることはあるが、そいつらは所詮は上の幕僚の下請けに過ぎん。ヘマをやらかしても上の幕僚が蹴散らすから問題無い。



だが、中級を出て3佐以上になったような幕僚は、自分で計画を練らねばならん。指揮官もチェックはするが、そいつが大きな間違いを犯せば、取り返しの付かないことになるのだよ。



た、確かに……。



情勢判断に作戦立案……。こういった仕事はとにかく知的負荷が重い。なに、中級課程に行けば嫌というほどやらされるから、覚悟しておきたまえ。
この知的負荷に耐えるには論理的思考力が必要だ。これが無ければ、考えがまとまらず無為に時間を浪費するか、どこかで致命的な思い違いをしたまま誤った判断をするか、考えるのが嫌になって無責任な選択をするか、だ。



中級課程の作戦要務・戦術図演の教務は、そういった過ちを犯さないための思考のテクニックを磨く機会だ。だが、論理的思考力は思考のテクニックであると同時に、思考基盤そのものでもある。論理的に考える経験の無かった者にたかだか2、3か月教えた程度では、十分な論理的思考力は身につかないのだ。



なるほど、それが大学の教育だということですか。



うむ。分野の違いこそあれど、大学での高等教育は、論理的思考力を鍛えるトレーニングになっているのだ。実験のレポートや論文などは、構成自体が論理的に整理されたものになっている。それらを読み書きした経験の有無ですら、巡り巡って適切な作戦を遂行出来るかに影響するのだよ。



高卒で上に行く人はいないんですか?



いるにはいる。だが事実として、B幹で佐官になっている者の多くは大卒だ。



補職や昇任の調整には指揮官の意見が強く反映されるからな。日々の業務で論理的に考えられないヤツだと見なされれば、中級課程への入校は難しくなる。中級へ行っても、作戦要務・先述図演を含む教務で点数を付けられ、勉強の出来ないヤツはふるい落とされる。
結果として、そのフィルタリングを乗り越えられるB幹の多くは大卒になるのだよ。



それでも3佐クラスの仕事なら、それまで見てきた指揮官の行動を模倣して、足りない部分を経験で補うことでうまくやっていけている高卒者もいる。が、その先はさらに厳しい。1佐2佐になった高卒もいないわけではない。だが……幹部名簿を見てみたまえ。どいつもこいつも、頭のおかしいヤツしかいないだろ?



あっ……。



ヤバい人達なんです?



あ、いや。ヤバいというか……。別に大学行かなくても、大卒者を圧倒するような超天才だね。ボクも知ってるような有名人だし、ともすれば本人のスペックが高すぎて周囲が振り回されるタイプ。



こういう規格外の連中ですら、勤務を続ける中で限界を感じて、放送大学で学士を取っていることも珍しくない。



海自で仕事しながら学位を……???いったいどこにそんな時間が……???



大学の教育や学位は、昔から足の裏の飯粒だと言われ、軽んじられることもしばしばあるな。
「学歴が無くとも上を狙える!」というのも、間違いではないし、ある種の人間には心地よい言葉だろう。だが、上を狙うならその素地を作っておかなければ危険だというのが私の意見だ。……邪魔したな。



いえ、確かにそのとおりですね。
ありがとうございます。
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職域の自由度



これは大卒か高卒か、というより幹部と曹士の違いだと思うんですけど、仕事の傾向にも違いがあるんですよね?



うん、幹部が総合的な仕事をするのに対して、曹士はより専門的な仕事をするね。
要員区分の違い



そうそう、それを言うなら要員区分の仕組みが違うね。



要員区分というのは「お前は射撃だ」「お前は航海だ」ってヤツでしたね。
- A幹
-
第1次要員区分と最終要員区分の二段階に分かれる。
- 第1次要員区分
- 幹部候補生学校卒業後、遠洋練習航海の終盤に発表される。
- 艦艇や飛行、経補、装備など、大まかに分類される。
- 経補、装備、施設、警務などは、この時点でほぼ最終要員区分まで確定する。
- 特に艦艇は特に振れ幅が大きい。
- 最終要員区分
- 入隊約10年後に入校する幹部中級課程の修業をもって確定する。
- どの中級●●課程に入校するかで、事実上確定する。
- 艦艇幹部は、艦艇用兵幹部に格上げされ、同時に射撃、水雷、掃海、船務、航海、機関のような副特技を与えられる。
- 入隊約10年後に入校する幹部中級課程の修業をもって確定する。
- 第1次要員区分
- B幹
-
- 原則として、海曹時代に関連する職域を与えられる。
- 例:射撃員→射撃幹部
- 幹部中級課程を修業すると、変化するものがある。
- 例:電子整備幹部→艦艇用兵幹部+射撃幹部
- 幹部候補曹の場合、募集対象の職域は「主として水上艦艇・潜水艦」と指定されている。
- 航空機整備、経補、装備などに行くことはほぼ不可能
- 原則として、海曹時代に関連する職域を与えられる。
- 曹士
-
- 制度上は、入隊の数年後に入校する海士課程の修業をもって要員区分が確定する。
- 例:攻撃要員→射撃員
- しかし、実際には教育隊修業の時点で将来の要員区分は確定している。
- 制度上は、入隊の数年後に入校する海士課程の修業をもって要員区分が確定する。



幹部は遠洋航海の終わり際にだいたい決まって、中級課程までに微調整される。曹士は教育隊を出る段階で決まって、それがB幹になっても引き継がれるってことですか。



うん。曹士は教育隊出る時に「お前は射撃員だ」って言われたら、定年まで原則として艦艇に乗って射撃員をやらなきゃいけない。途中、学校の教官とか、弾薬整備補給所の職員とか、そういうポジションもあるけど、基本的にはずっと艦艇の射撃員。



どうしても変えられないんですか?



うん。はっきり言って、かなり難しい……。
いちいち希望を聞き始めたらキリが無いのは、本当にそのとおりなんだけど、職域が気に入らないから退職してしまった若年隊員がどれほど多くいることか。



難しい問題ですね。



この要員区分の決め方は何が良くないって、騙し討ち感が強いことだと思う。希望調査は確かにあるんだけど、教育隊のせいぜい3、4か月の間に、ほとんど知りもしない仕事について答えないといけない。
そもそもどんな職域があるかも知らないから、知ってる教官の特技を片っ端から書いたっていう子も少なくない。しかも「第10希望まで書け」とか普通にやる。



それで第10希望に書いていた配置になったら、不本意な配置でも「希望しただろ」と言われてしまうわけですか。それは確かに納得がいかないような。



一応、建前としては海士課程に入校するまでは変更することも出来るんだ。でも、地方総監部の人事計画を狂わせることになるから、結構インパクトが大きい。簡単には通らないよ。



「あっちの仕事の方が、より活躍出来そうですよ!」なんて言っても、まず受け入れてもらえない。



まあ、そんないい配置があるなら、なんで最初からそうしなかったんだ、って言われちゃいますもんね。お役所的にも受け入れられないでしょう。



そうなると、その要員区分だと不適当であることを証明しないといけない。具体的には「人事課は●●員が適当って言って送ってきたけど、いざ配置してみたら無能すぎて使い物にならん!!適性ないから他の配置にしてくれ!!」って言うのが、最適解になる。



あー……。



勤務成績も昇任や昇給に影響するような低評価を与えて、このままじゃ大変なことになるぞ!って人事課に警告を出す。そうやってなんとか変更出来るかもしれない、というくらい。
当然、変更に成功しても、色んなダメージが残る。なんなら、そこまでやって不発に終わる可能性も否定出来ない。人事のあり方としては不健全なやり方だし、ボクは出来ればそうしたくない。



だから、職域変更できないのかって聞いてくる分隊員は多いんだけど、ほとんどの人は断念して働き続けるか、退職するか選ぶんだ……。



ひとまず、希望がほとんど反映されないというのはよく分かりました……。



じゃあ、A幹は希望を聞いてもらえるんですか?



まあ、希望を聞いてもらえるか、と言われれば、聞いてもらえないかな。ただ、曹士の要員区分に比べれば、A幹はまだ納得出来る方だよ。



何しろ、幹部候補生学校の教育期間中には、護衛艦実習に、機関実習に、航空実習に、掃海実習にと、たくさんの実習(職場見学)の機会がある。学校を卒業したら、練習艦隊で半年以上の海上実習もある。その職域の人達が何をしているのかを見て、実際に働いている人達に意見を聞くチャンスがあるんだ。そのチャンスを経た上で希望調査に回答できるんだから、曹士よりはかなり状況がいい。



それでも、飛行希望だったのに艦艇になったとか、艦艇希望だったのに経補になったとか、それで涙を流す実習幹部は後を絶たないんだけどさ。



最終要員区分も、決して思い通りにはならないけど、毎年希望を出す機会は与えられている。水雷幹部になりたいとか、船務幹部になりたいとか、しっかり理由も含めて毎年説明し続けることで、希望通りの中級課程に行けた人は少なくないと聞くよ。



そう聞くと、曹士に比べれば、本人がコントロール出来る領域もあるんですね。
自由度があると捉えるか、振れ幅があると捉えるか



まあ……ただ、ね。
これって自由度であると同時に、自分が何をして生きていくのかがなかなか決まらないと言うことでもあるんだ。



ボクなんて、そろそろ入隊から10年。30歳を目前にしているのに、まだ水雷幹部になるか、他の職域になるかすら分からないんだよ?
曹士だったら、水測員の海曹は2、3年後も水測員をやってるって確信が持てる。でも、ボクは2、3年後、砲雷長をやってるか、船務長をやってるか、機関長をやってるか、全く確信を持てないんだ。



それは、ちょっと不安ですね。



異動の度に業務内容もコロコロ変わるしね。
異動は、曹士なら3~5年に1回、B幹は2~3年に1回。でも異動先の仕事はそんなに大きく変わらない。対するA幹は1~2年に1回に異動して、全く異なる仕事であることがほとんど。つまり、1~2年に1回は業務に関する知識をイチから積み上げる必要があるんだ。



まだまだ先の話だけど、中級課程を出て、CSも修業した頃には、海幕勤務や他省庁(内閣府など)への出向もある。どんな仕事の仕方をしているのか、想像も付かないよ。



まあ、でも。それはそれでいいんじゃないですか?どんどん新しいことにチャレンジ出来るんでしょう?成長のチャンスですよ。



そう。これを「新鮮な仕事に取り組める」と受け止めるか、「なかなか一つの仕事に打ち込めない」と受け止めるか。価値観によって捉え方は様々だね。



先パイはどうなんです?



うーん。ボクは水雷が結構面白いって気付いたから、当面は対潜資料隊とか、海上システム開発隊とかで水雷の研究をしたいんだよなぁ……。これで総監部やSF司令部勤務になんてなったら、泣くに泣けないよ。



そうですか……。A幹になって失敗でしたね……。
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プライベートの充実



先パイ、そんなことより、もっと大事なこと忘れてません?



?



プライベートですよ、プライベート!
趣味の時間とか持てるんですか?



ああ、なんだ。そんなことか。



そりゃあ……プライベートが大事なら、幹部になっちゃダメだよ。



……まあ、それ納得した上で志願しましたけど。本当に身も蓋もないですね。
休めない幹部



幹部は、部隊の中で代わりになる人がほとんどいないからね。
陸上部隊はそこまで酷くないけど、艦艇部隊はなかなか深刻。休暇は全く取れないわけではないけど、曹士に比べて圧倒的に休めない。



艦艇部隊が出港中に迎えた土日祝は、後で代休として処理するんだ。だから、帰港すると曹士の乗員はみんな平日に代休を取る。停泊中は特別に業務のある人以外、当直員しか出勤しない。
でも、幹部は代休を取らずに平日は毎日出勤する。年に数回は休暇取得推進期間を設けて一気に休みを取るけど、積み上げた代休は消化しきれない。そうやって、毎年失効させていくんだ。



でも、艦だって士官室に10人以上人がいるでしょう?交代で休んだり出来ないんですか?



当直士官の日を交代するとかは、当然出来る。
でも、幹部一人ひとりには違う役割が与えられているから、簡単には代替出来ないんだ。



例えば、行政文書の合議。水雷長であり第1分隊長であるボクが休暇を取ると、水雷や人事に関する文書の決裁が遅れてしまう。
水雷士や分隊士に委任することも出来なくはないけど、本来自分が責任を持って調整しないといけないところを、他人任せにすることになる。
まあ、水雷士には任せても大丈夫だと思うけど、逆にボクがよく知らないまま話が進んじゃうのが怖いかな。……人事の書類は分隊士任せには出来ないよ。砲術士はだいたいどこかでミスるし。



他にも会議とか、来客対応とか。平日は何かしら業務が入ってくるんだ。あと、なんとか休めそうな日に限って、用事のある曹士隊員の当直日になってたりする。結局、その人に会うために出勤しないといけない。



そんなの上司なんだから、自分の出勤日にその人を出勤させれば良いじゃないですか。



まあ……それはそうかもしれないけどさ。みんな疲れているのに、数十分で済むような用事のために、休みを返上して出勤しろとはなかなか言えないよ。



ボクは幹部なんだ。ボクが言えば、それはたちまちパワーになる。だからこそ、その使い方には細心の注意を払わないと。信頼を失うのは一瞬だから。



そうやって譲歩するから、幹部は休まないのが当たり前って風潮になるんじゃないか……。
転勤がプライベートに与える影響



それから、なんと言っても転勤だね。未来、これまで東京以外に住んだことないでしょ?覚悟しておいて。



A幹は年イチで転勤するって話ですよね?



海上自衛隊の勤務地は、本物の過疎地に比べれば遥かに栄えている方だけど、東京、大阪、名古屋みたいな大都市に比べれば、当然経済規模で劣る。
大都市の経済・文化の恩恵の下、ぬくぬくと育ってきたボクらみたいなのは、呉や佐世保みたいな十分栄えているところでも結構衝撃を受ける。



そして、気付くんだ。その地域の楽しみ方を全く知らない自分に。



そういうもんですかね?遊び場とか、美味い店なんかは調べれば分かるでしょう?



もちろん、調べれば分かる事はたくさんある。でも、その地域のコミュニティと結びつきが無いから、地域の人が当然と思っていることを当然と思えないんだ。調べようにも、そもそも調べる発想にすら辿り着けない。ようやくそういう雰囲気が分かってきた頃には、次の任地へ転勤してしまう。



もちろん、毎年必ず転勤するわけじゃないよ?同じ地域に2年3年留まってるA幹だっている。でも、それは後にならないと分からないんだ。そこで働いている間は、来年同じ地域に住んでいるとは思えない。むしろ転勤してる可能性の方が圧倒的に高いと確信してる。そうなると、わざわざその地域の人と交流するのが馬鹿馬鹿しく感じてしまう。



このコミュニティとの結びつきが一番問題になるのが……婚活だよ。



またまた……先パイ、自分がモテないのを転勤のせいにして。



いや、冷静に考えてみてよ。同じ地域に1年しか留まらないで、結婚相手が決まると思う?



あー、転勤したら、その地域で出会った人とはもう会わなくなっちゃうんですね。……出会って1、2か月で付き合い始めて、そこから数か月で結婚すれば……。



そんなことあるわけないだろ!!



艦艇乗員ともなれば、年の半分は出港してる。停泊してたって、平日は休めないし、土日には容赦なく当直が入ってくる。そしたら、相手とは1~2か月に1回会えたら御の字だよ??



相手の立場になってよ。1、2回会っただけの人から「付き合ってください」って言われてOKする??付き合い始めたとして、そのあと数回しかデートしてない人から「来月引っ越さないといけない。結婚したいから付いてきて欲しい」って言われたら、その人に付いていく??その地域でやってる仕事だってあるのに??



……かなり厳しいですね。



だからボクの同期だって、特に艦艇幹部は未婚率がぶっちぎりで高い。20代で結婚するのも多いけど、大学時代から付き合ってた人と結婚してるのがほとんど。僅かにいる、任官してから出会った人と結婚したヤツも、陸上部隊に勤務しているときに出会ったケースが大多数だよ。
ちなみにパイロットはチャラいから、小月とか鹿屋とかでクイック結婚してくる。
上記の飛行幹部の結婚に関する内容は、科学的知見に基づかない遠見1尉の私見です。謹んでお詫び申し上げます。



これって、やっぱりB幹にも当てはまりますかね?



B幹も全国転勤するけど、一つの任地にいる期間が比較的長いから、もう少しマシだと思う。いつ転勤になるか分からないのは一緒だけどね。



B幹がA幹と違うのは、B幹には、曹士として一つの地域に住み続ける期間があること。結婚したいなら、この時期を絶対に逃してはいけないと思う。



一般曹候補生として入隊したら最短で6年、幹部候補曹として入隊した場合も4年近くは、一つの地域に住み続けるんでしたね。確かに、これなら会う頻度が少なくても時間をかければ関係を深められそうです。



とは言え、そんな簡単な話でもないんだよなぁ……。



晩婚化が進んだ現代では、20代終盤になるまで結婚を検討もしていない人は少なくないでしょ?20代後半から30代前半にかけて、江田島に行く前に結婚相手を探そうと思ったら、20代前半に動くしかない。でも同世代の人達は結婚する気がない。



あー、そういう問題もありますか。



もっと厄介なのが、結婚できた場合。
海曹にB幹を勧めたとき、拒否される理由で多いのが、家族の同意が得られないことなんだ。



相手からしてみたら、結婚した時点では転勤しない人って認識でしょ?それが何年かしたら急に全国転勤するって言い出す。ちょうど子どもが出来て手が掛かる頃なのに、「引っ越そう」とか「単身赴任する」とか言われたんじゃ、たまったもんじゃない。



なるほど……それは深刻ですね。家族の反対を押し切ってB幹になろうものなら、そのまま家庭が空中分解しかねません。



ね。だから、B幹になりたいなら、そのあたりもよく説明して、お互いのライフプランの認識を擦り合わせた上で結婚しないと、後々揉めることになるんだ。
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大学での勉強は役に立つ?



なんだか、高卒か、大卒かって話だったのに、いつの間にか幹部か曹士かって話になっちゃいましたね。



待遇面の話をすると、学歴そのものじゃなくてどの採用制度を使うかに左右されるからね。



もっと大事なことを話してませんでしたよ。
学士を取得するしないじゃなくて、そもそも大学で勉強したことって、仕事の役に立つんですか?



本当だ。それ、大事だね。



活かしやすい分野と活かしにくい分野、というのは間違いなくある。



なんと言っても活かしやすいのは工学。これは間違いない。



つぶしがきく学問ですもんね。
工学だったら何でもいいんですか?



学んだ内容によって活かし方は変わってくるけど、だいたいなんとかなる。
海自が使う装備品は、みんな大がかりな機械だからね。機械工学や電気工学や電子工学の経験があれば、装備品のことを理解しやすくなる。最近の武器システムはソフトウェアで動くようになってきたし、サイバー戦にも備えないといけないから、情報工学の重要性が年々増している。



土木工学や材料工学は、他の工学に比べるとちょっと難しいかな?装備とか施設の職域には活かしやすいかも。それに、大学の教養課程で勉強した基礎は、他の職域には役立つからね。



なるほど。



あとは法学。幹部として働くなら、国際法・国内法の素養はあるに越したことないね。本当に強い人は法務幹部として現場で行う法解釈をサポートするような仕事もある。



そういう活用でなくたって、規則の文法に慣れているというだけでも、自衛官としてはとても働きやすくなるよ。



規則の文法?



凄く卑近な例で言うと「または」「及び」「若しくは」「並びに」をどう使い分けるか、とか。ワードチョイスによって、意味するところが全く違うものになるからね。
ボクみたいに素養がないと、ちょっと複雑な文書になるだけで、いちいち「文書の手引」を紐解かないと読み書きが難しくなっちゃう。



内規の改正なんてやろうとすると、法学部卒を連れてきて欲しくなる。。。



あとは、政治学。やっぱり安全保障に関係する仕事だからね。政治や外交のことに詳しくて損はない。



他の分野だと、結構厳しいですかね?



勉強した内容がダイレクトに仕事で役に立つか、というとそういうわけじゃないよね。



例えば、工学と一緒くたにされがちだけど、理学はちょっと活かしづらい。



いや、工学部と理学部って、全然やってること違いますよ。



でしょ?それでも物理学科はまだ良いかもしれない。化学科や生命科学科はねぇ……。陸自なら毒の研究なんかも役に立つかもしれないけど、海自はそういうのほとんどやってないし。



それでも、まるっきり無駄な学問なんてないよ。
例えば、農学部でコメの品種改良にひたすら邁進してきた経験は、一見すると海自ではこれっぽっちも役に立たないように思えるかもしれない。でも、レーダーやソーナーの性能、捜索計画を考えるときは統計学や確率をバリバリ使うんだ。コメそのものの知識は役に立たないかもしれないけど、その研究過程で身につけたテクニックや考え方は少なからず役に立つよ。



さっき船務長も言ってたけど、論文の読み書きは論理的思考力のトレーニングになるし。
文系で就職に不利とされがちな文学や哲学だって、統率する上での人間味とか、リーダーとしての意思決定の妥当さとか、そういうところに影響してくる。



うーん……。言ってることは分からなくもないんですけど。結構こじつけじゃありません?



いや、それが結構バカにならないんだよ。
相手のデータが集まったけどパターンを見出せないとか、海自内で発生しているトラブルをどうやって改善したら良いか分からないとか、そういう問題が起きたとき、ひょっとしたら解決の糸口が皆が予想もしないような所に隠れているかもしれない。



だからこそ、大学の専攻を問わずに募集しているんだ。一人一人、全く違うことを勉強してきた人達を集めて、特定の思考に凝り固まらない組織を作ろうとしている。



じゃあ、役立てやすい学問にはこだわなくてもいいってことですか?



いや、現実的な問題として、活用しやすい分野と活用しにくい分野は存在するでしょ?活用しやすい分野は、その経験や知識があれば特に気をつけなくたって、勝手に仕事の役に立っていくんだ。
ところが、活用しにくい学問はそうもいかない。ただ学ぶだけ学んで、何も考えずに業務に取り組んでいたら、その学習は無為な時間で終わってしまう。仕事の中に、自分がこれまで得たものに通ずるものはないか、日々見つめて活用の仕方を考えないとなかなか活きてこないよ。その点にだけ注意が必要かな。
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最後に



色々話したけど……。まあ、ボクが思うに、やっぱり大学の教育機会って重要だし、貴重だと思うよ。海上自衛官になる上でも、ほかの仕事を選ぶ上でも。



ただ、海自では大学に行かなくても活躍出来る方法がそれなりに用意されているから、一般企業に比べて大卒者の優越は小さいのも事実だね。
だからこそ、大学で何を学び取って、何を活かすのか、よく考えることが重要だと思う。それを熟慮した上で行くなら、どんな学問だってアリさ。



そうですね。



それから……ボクがちょっと気になっているのは、A幹でもB幹でもいいという考え方かな?



何か問題ですか?



いや、問題というほどでもないんだけど。
A幹とB幹って、同じ幹部でも目指す先が全然違う制度でしょ?自分がやりたいのはどちらなのかを、明確にしておいた方が良いんじゃないと思うんだ。



そうですかね?私はこれまで色々見聞きしてきましたけど、正直いまだに違いがよく分からないですよ。



多分、A幹でもB幹でも良いってのは、幹部のイメージが今のボクぐらいのポジションで止まっているんだと思う。
広報で話を聞く自衛官も1尉以下の人が多いだろうし、話の内容はその時その時でその人がやっている仕事の見解が中心になる。なんと言っても「大砲ぶっ放してます」とか「魚雷撃ってます」とか、そういう話は具体的でイメージが掴みやすいから、そういう話しかしないんじゃないかな。



B幹なら、このポジションに就くこと自体が存在意義になるから、そのイメージで臨んでも良いと思う。でも、A幹にとってここは通過点でしかない。そういう仕事は30代でおしまいにして、副長になって艦長になって隊司令になって……あるいは、海幕に行って防衛政策の立案に携わって……という「その先」を見据えておかないと、A幹としていい「下積み」は難しいと思う。



逆に、B幹はB幹で、このポジションに留まり続けるからこそ、専門を極めた上で全体最適と結合する努力も求められるし。



……そんなこと考えて応募する人なんて、いるんですかね?



そりゃあ、ボクだってB幹って制度の存在すらよく知らずに応募したさ……。狙うなら海軍少尉様だ!ってね。



そのくらいの浅さで受けたからダメだとは思わない。気軽に受けて、働く中で考えていくのも十分アリ。
でも、せっかく入隊前に下調べして、そこまで知ったんだ。もう一段階考えを深めれば、きっとよりよい選択ができる。



「なれるもんならA幹の方がエラくなれるな」「A幹に落ちたら滑り止めでB幹になれば良いや」みたいな考え方で受けるより、自分が10年20年かけてどういう職業人になりたいのか、よく整理して、自分の理想に向かって努力した方が、より後悔のない人生を歩めると思うな。



どういう職業人、ですか。
……私も、その答えに辿り着けるのやら。
大学での高等教育の機会は重要。ただし、その機会を活かすも殺すもあなた次第。
- 金銭的損得
- 短期的には高卒で入隊した方が得、長期的には大卒の方が得
- 高卒入隊者の先行ボーナスを巻き返すには、A幹として入隊するのが確実
- 幹部候補曹は、高卒入隊者に対し損にも得にもなり得る。
- 転職時にも大卒の方が得
- 短期的には高卒で入隊した方が得、長期的には大卒の方が得
- 昇任スピード
- 幹部を目指すなら、大卒→A幹が最短
- B幹を目指すなら、高卒→一般曹候補生が最短だが、実際には大卒→幹部候補曹の方が確実
- 高卒でも佐官を狙えるが、大卒でないと知的負荷に耐えられないのが現実
- 職域の自由度
- 一般曹候補生・幹部候補曹よりA幹の方が、部隊のことを知った上で希望調査に回答する余地あり
- 曹士・B幹は一度決められた職域から大きく外れない。A幹は頻繁に業務内容が変わる。
- プライベートの充実
- A幹でプライベートの充実を追求するのは困難
- B幹は曹士の間に基盤を固めるのが鍵
- 幹部任官に伴う生活の激変にも備えること
- 大学での学習内容は仕事に活かせるか?
- 特に活かせる分野:工学、法学、政治学
- その他、論文の読み書き経験、数学への理解などは有用性大
- 活かしにくい分野も、全く役に立たないものではない。ただし、活かすための努力がより重要。
- 特に活かせる分野:工学、法学、政治学
- その他のアドバイス
- A幹・B幹は、同じ幹部でも長期的に求められる役割が全く異なる制度。どのような職業人を目指すかは考えておこう。









コメント
コメント一覧 (8件)
自分の質問にここまでの返しをしてくださるとは思いませんでした。
まずは記事にしてくださりありがとうございます。
恥ずかしながら「自分が10年20年かけてどういう職業人になりたいのか」ということに対して自分の中で明確に決められずにいます。
「A幹なら色んな仕事できるし飽きなさそうー」
「B幹なら1つのことを極められるからそれはそれでいいなー」
といった具合にです。
また、「防大落ちちゃったし普通に大学いってもA幹になれる訳じゃないしな……なら入隊して今のうちからキャリア積んだ方がええんか?」といった風にも考えておりました。
そこで質問があります。
・教育隊修了後に通信制大学に入学▶︎規定年齢に達したらA幹試験に挑戦というのは実際問題可能なのでしょうか?
(本人の熱意は別にして)艦艇等に勤務すると通信制大学への入学が認められなかったり陸上勤務に飛ばされるということはありえますか?
・↑と同様に部内で幹部候補曹の試験を受けた場合、仮に受かったとしてもそこまで旨みがないという認識で良いのでしょうか?
・もし補生として入隊した場合、電測の仕事に興味があるのですが高卒では(論理的思考力という点で)大卒者や社会人と比べてディスアドバンテージなのでしょうか?
正直なところ時間もあまりないのですがもう一度色々な可能性を考えたいと思っています。
もしよろしけれ回答していただけると嬉しいです。
長文となってしまいましたが何卒よろしくお願いいたします。
ご安心ください。「長期的に人生設計しろ」とはよく言いますが、実際にそんなことしている高校生が果たしてどこまでいるのか。ほとんどの人はなんとなく大学に行ってるだけですから、そこで悩んでいる時点で、十分考えている人です!
・部隊勤務しながら通信制大学で勉強し、A幹試験を受けられるか?
オススメしません。記事の中で遠見1尉が誤解させるようなことを言って申し訳ありません。部内A幹は確かにいますが、海士としての入隊時点で、ある程度A幹試験に合格しうる学力を持ち、A幹試験に落ちてしまったので一旦海士として入隊してから再チャレンジしたとか、海士の方がいいと思って入ってみたら気が変わったとか、様々な理由でA幹を選んだ人達です。入隊してから大幅に学力を伸ばすのは、かなり厳しいと思ってください。採用試験対策だけならいざ知らず、大学の勉強もやろうとなると、ますます厳しくなります。
陸上部隊なら、課業時間外に自室でやる分にはとやかく言われないと思いますが、艦艇だと業務時間と休憩時間の境界がとても曖昧です。当直の時間以外にも、何かと雑用や仕事の勉強をしないといけません。居住区で勉強していると、私的な勉強してる暇あったら仕事の勉強しろと勧めてくる人も現れるでしょう。ちょっと面倒くさいですね。
加えて、やろうとしているのは数か月頑張れば取れる資格試験ではなく、学士です。1か月ぶりに上陸しても、好きなアイドルのライブにも行かず、うまいもん食べ歩きをすることも無く、キレイなネーチャンのいる店でフィーバーもせず、Youtubeをダラダラ見ることもない。ただただ、ストイックに余暇を昇華させる生活が年単位で続くわけです。しかも最終盤にはA幹の試験対策までやらないといけない。
もう一つ言うと、学位取得までの必要時間も気になります。例えば、通信制大学の代名詞、放送大学で学士を取るには最短4年間を要します。とは言え、働きながらだとなかなか単位取得が進まないでしょうから、プラス1年2年は掛かるかもしれません。となると、学士取得の前に江田島、練習艦隊、スリーローテーション……という一連のイベントがやって来る可能性も結構高いわけです。この間はまさしく通信制大学になんぞ手を出している暇は無い……。こうして、いつのまにやら受講開始から10年が経過し単位が失効、という恐れもあります。冷静に考えるほど、江田島に行く前に学位取得を終える必要が理解出来るかと思います。学習密度を高めなければなりません。。。
というわけで、可能か不可能かで言えば、可能です。確かに、この乾坤一擲の策は、成功すれば蓄財・出世コース・高負荷労働に耐える心身・名声を全て掌中に収めた人生がやって来ます。……が、今のアナタは、そこまでして肉体と精神を痛めつけないといけないような、追い詰められた人生ですか?軽々しく始めて良い挑戦ではないと思います。
・艦艇で通信制大学の受講が認められないことはあるか
認めないとする理由は無いですね。幹部も海曹も、勉強熱心で感心、仕事のことさえちゃんとやってくれるならどうぞ頑張って、と思うでしょう。ただ先述のとおり、その負荷はかなり重いものです。寝不足で業務に支障が出たりすれば当然指導を受けますし、肉体・精神の健康を害するようであれば、学習を減らすようにも勧められるでしょう。
それはそれとして、結構厳しいと思うのが、通信制大学の受講・単位認定の仕組みです。例えば放送大学では紙のテキストが郵送されてきて、BSテレビ・ラジオ・インターネットで講義を受講します。艦艇の居住区にはBSの映るテレビやレコーダーもありますが、30名以上に1台という感じなので、自由に使えるわけではありません。週に1コマみたいにまったりやるならともかく、本気で学位を取りにいくならテレビで受けるのは厳しいかと思います(やるなら「上手い立ち回り」が必要です)。ではインターネットはどうか。近年ではStarlinkの導入により、個人でもある程度インターネットを使えるようになりましたが、まだまだ確実性は乏しいのが現実です。思うように学習が進まないリスクは無視出来ません。
他にも、大学により異なりますが、決められた期間内に講義動画視聴を終えたり、課題を郵送で提出したり、数回対面での講義に出席したりと単位認定に必要なアクションがあるため、これを満たせない可能性は結構高いと感じます。なお、対面教育が長期行動期間中にある場合は、出港から帰港まで下ろしていかないといけません。認められるかどうかは指揮官の裁量によりますが、結構インパクトが大きいため、良い答えが返ってこないことは覚悟しておいたほうがよいでしょう。
したがって、部隊として通信制大学の受講を止めるよう求めることは、まず無いだろうと思いますが、結果的に受講を継続出来ない恐れがあります。というか可能性高いです。
・陸上部隊に下ろされることはあるか
艦艇乗員が私的に受ける教育のために陸上部隊に下ろされることは、まずありません。逆に、下ろしてくれることもないでしょう。これは、艦艇のための特技職をもった隊員を配置出来るのが、原則として艦艇だけだからです。艦艇乗りの海曹が陸上部隊勤務になることも時々ありますが、それはキャリア形成の計画や陸上部隊側の要求により、艦艇乗員として成熟した隊員を対象に行われるもので、若年隊員が対象となることはありません。そのため、若年の艦艇乗員が私的事情により艦を下りるとすれば、あくまで休暇として一時的に行われるものです。
・部内(海士)から幹部候補曹
部内から採用可能かどうか不明ですが、多分大丈夫だとは思います。ただ、旨味があるかと言われればちょっと微妙です。
幹部候補曹最大のメリットは、3曹昇任とB幹選抜という2つの関門を試験なしで突破出来ることにあります。特に前者ですね。後者は希望者が少ないので……。3曹昇任には教育隊での成績が大きく影響すると言われています。したがって、教育隊でやらかしちゃった人が巻き返しのために部内で受けるというのは……ナシではないと思います。
ただ、私はそういう後ろ向きな理由で幹部候補曹を受けるのは、オススメしていません。以前記事にも書きましたが、幹部候補曹には、専門性を磨く時間なく専門性を求められる立場に押し上げられるという、茨の道が待っています。少しでも気を抜けば「頭の悪いA幹」と並ぶ部隊のお荷物「専門性のないB幹」が出来上がります。この逆境を乗り越えるためには、寸暇を惜しんで知識・技能を磨き、懐疑的な目を向ける海曹連中を見返してやろうという、闘争心、バイタリティが欠かせません。でも、それがある人なら、きっと幹部候補曹など受けずとも、教育隊も3曹昇任もB幹選抜も軽々乗り越えられるはずなのです。
というわけで、私は海士から幹部候補曹、というプランには懐疑的です。B幹になると覚悟をキメたらやることはただ一つ。とにかく己の仕事を知ることです。採用試験対策に目移りしている場合じゃないと思います。
・電測に大卒は必要か
難しい質問です。まあ、あるに越したことはないでしょうが、高卒でも立派に電測員として働いている人は沢山います。
電測はとても範囲の広い仕事で、レーダープロッティング(レーダーに映る物体の運動予測)をやるのも、戦術状況を作図するのも、電子戦をやるのも、友軍と戦術状況共有のための通信をやるのも電測です。その知的レベルは本当に人によりけりで、30年もキャリアを重ねた後には、バリバリ情勢判断してアレな幹部を操り人形にする電測員長もいれば、電測員長の職にありながらレーダープロッティング以外は何ひとつできない……というとんでもない輩も現れます。(この場合、知的レベルというより仕事への姿勢の問題のような気もしますが……。
レーダープロッティングや戦術作図自体は、単なるテクニックの問題なので、学歴などなくとも、決められたとおりに作業が出来れば問題ありません。無線交話も話す内容はおおむね形式化されているので、記憶力や上が伝えて欲しいことを良い感じに理解するコミュニケーション能力があればOKです。こういった仕事が出来れば、ひとまず電測員としてやっていくことは出来るでしょう。
一方で、機械的にテクニックを行使するだけではダメな「答えのない領域」もあります。例えば、戦術作図。行方不明になった目標の存在可能な範囲を考えるなら、失探した位置を中心に、経過時間と推定移動速度を計算して円を描画すれば、存在圏を設定出来ます。しかし、この推定移動速度をいくつにするべきか。作図のための基準値は決められていますが、実際の目標は違うスピードで動いているので、安直に基準値を採用していては、とんでもない失敗を招く恐れもあります。基準に従い続けるべきか、パラメータを変更すべきか、変更するなら何に基づいて何に変えるべきか。あるいは、捜索手段が限られていて、この存在圏を網羅する捜索ができないとき、東から探すべきか、西から探すべきか。どこにも答えはありません。このような「曖昧さ」を克服するための知的サポート役こそが善き電測員なのです。
では、それを実現するためには大学を出れば良いか?これは単純にイエスとは言いがたいものがあります。A幹の場合、幕僚業務に加えて、ゆくゆくは安全保障政策の策定に携わったり、自衛隊全体の戦いのデザインを描いたりと、壮大な知的労働に従事する可能性があります。その過程では部外の専門家の意見を取り入れ、自らも論文を書いて思考を整理したり、他者にその複雑な思考過程を理解してもう必要があるため、ひとまず大学を出ておけという話になります。一方の電測員の仕事は、知的負荷は重いものの、その性質は高級幹部のそれとは異なります。そこまで長期的視点を求められるものではなく、むしろ、皆が気にも留めないような断片的情報を日々蓄積・整理して、ここぞという局所的場面でアイデアとして引っ張り出してくるような使い方です。仕事の性質上、電波工学や統計学・確率等の素養は歓迎されますし、論理的思考力も仕事の助けになるでしょう。しかし、それよりも日々の業務を通じて知識と経験を積み上げ、各種資料を読み漁り、センスを磨くことの方が重要です。大学を出ていないことは、多少影響するかもしれませんが、致命的な欠点にはなりません。
返信が遅くなってしまい、申し訳ありません。本日、大学の合格が確定しました。
これまで私は、海上自衛隊に進む方向で気持ちを固めてきました。将来的にB幹部を目指したいという思いがあること、そして大学に進学した場合、気持ちが緩んでしまい4年間を無駄にしてしまうのではないかという不安があったため、それならば自衛隊に入隊した方が良いのではないかと考えていたからです。
しかし、実際に大学に合格したことで、大学に進学するという選択肢についても改めて考えるようになりました。自分の将来や進路について、どの選択が最も良いのか迷っている状況です。
最初の質問と重なる部分もあり恐縮ですが、もしよろしければ、この状況について何かアドバイスをいただけますと幸いです。
よろしくお願いします。
まずは、大学合格おめでとうございます!何かと苦難の多い毎日だったと思いますが、ひとまずいくつか選択肢を確保することが出来たわけですから、大いに喜びましょう。
さて、今回のご相談は、選択肢が出てきた故に迷ってしまうという問題ですね。
経済的に許容できるか
いきなり身も蓋もない話ですが、大学に行く金銭的余裕があるか。これは絶対に外せない話題です。ここで許容できないなら、「できれば行きたいかなぁ?」くらいの希望は黙殺しなければなりません。
ゆとりがない場合、真っ先に出てくる選択肢が奨学金ですが、これには慎重を期すべきです。低所得世帯を対象に行われる給付型奨学金ならともかく、通常の貸与型の奨学金だと社会人生活のスタートと同時に数百万の借金を抱え込むことになります。途中で手当が下がるような補職(艦艇→陸上部隊)も許容しづらくなりますし、病気休職や転職もおいそれとは出来なくなります。なお、日本学生支援機構の奨学金には第一種(無利子)と第二種(利子あり)があります。第二種も数年前まで金利ほぼゼロだったので「とりあえず借りとけ」という人も多かったのですが、ここ最近は普通に2%近い金利が付くようになったのでかなり事情が変わっていることに注意しましょう。サラ金に比べれば神仏のごとく拝んでも良い超良心的水準ではありますが、それでも年間数万円、完済するまでに数十万円の利息が発生することになります。
この金回りの心配が無いなら、決して安い出費ではありませんが、とりあえず大学に行っておいてもいいんじゃないかと思います。一方そうした不安があるなら、リスクを背負い込んでもやりたい勉強があるか、よく考える必要があります。
なお、B幹ではなくA幹になってしまいますが、理工学系の学部であれば自衛隊奨学生の制度を利用するという手もあります。こちらは一定期間海自で働けば返済免除されるなど、通常の奨学金より魅力的なので、ご参考までに。
どのような仕事をしたいか?
B幹の仕事のあり方は多様です。当ブログで言うと、砲雷長 轟3佐は海曹時代からイージスのプロで、誘導武器教育訓練隊でイージス艦乗員を相手にする指導官や、艦艇開発隊でイージスシステムの不具合の修正要望を取りまとめる担当者を歴任しながら、合間合間にイージス艦の士官を転々としてきた人、という設定があります。水雷士 鳴海2尉も音響のスペシャリストで、護衛艦以外に海洋業務群関係の勤務経験があって「ひとなみ」から出た後は護衛隊群司令部の水雷幕僚をやり、いずれは護衛艦隊司令部の水雷幕僚にまで上り詰める人物としてデザインされています。(今となってはこれらの部隊名も過去のものになりましたなぁ……)
一方で武整長 江渡1尉や船務士 福満2尉は、そういった特殊な配置に就くこともなく、護衛艦でひたすら似たような配置を繰り返し続ける(護衛艦A船務士→護衛艦B船務士→護衛艦C船務士→護衛艦D航海長→護衛艦E航海長……という具合に)人としてデザインされています。
このように、少し変わった配置を挟みながらキャリアアップしていくB幹もいれば、似たような配置を繰り返すB幹もいます。どちらがよいという話でもありませんが、一般に前者の方が高い専門性を要求されます。何かと全国の部隊と関わることになるので名も知れ渡りますし、周囲に及ぼす影響力は大きくなります。そのような経歴管理を希望するなら、知的水準を引き上げておくのは非常に重要です。もし行こうとしている大学が工学系であれば、そこで得られる知識は機械/システムの運用で全てが成り立つ海自で何かと役に立つでしょう。そうでなくても、大学後半の教育(というより研究)は、高校までと異なり自分で目標やアプローチの仕方を設定して、所要の成果を出すという知的作業になるので、その経験は入隊後の専門分野の研究において貴重な資産となります。一方で後者……似たような配置を繰り返すB幹も、もちろん大学での経験は役に立ちます。が、高卒でも十分に活躍の余地はあります。
本当に自衛隊一本でやっていく覚悟はあるか
まあ、ここで揺らぐようなら、そもそも迷うことはないですよね(笑
高卒でもいいんじゃないかと思うのは、他の道を考えていないからだと思います。とは言え、長い人生で本当に転職の可能性を捨ててよいものかは、よく考えた方がよいと思います。もっと酷い職場だって数えればキリは無いですが、一般に海自は「職場に合わせる」傾向の強いところです。入ってみたら「こんなはずでは」となる可能性も決して低くはありません。転職をする余地を残すなら、やっぱり大学は出ておいた方が圧倒的に安全と言えます。
もちろん、そういう余計なことを考えずに済むように敢えて退路を断つ、というのも有益な選択ではあります。民間企業とて決して良いところばかりではありませんからね。選択肢が沢山あることは基本的には良いことですが、時としてそれが不利益を招くこともあるのです。
ここで重要なのは、大学入学のチャンスを蹴ることは背水の陣だと自覚することです。退路を断てば死に物狂いで戦えるかもしれませんが、どうしても逃げなければならない時にはそれ相応の不利益が生じます。このメリット・デメリットを現時点できちんと計算しろというのは、まぁ無理な話でしょう。が、それでも重要な人生の選択には相違なく、その選択の結果は自分自身で受け止めなければなりません。
主な考慮要素はこのあたりですね。
私自身がそのような状況に置かれたら「まぁせっかくの機会だし、キャンパスライフとやらを謳歌しておくか!」となります。実際、貴重な機会であることは間違いないですからね。自分の財布から金が出て行かないなら、なおのこと。
「気の緩み」というのは難しい問題ですが、進学しても就職しても、気が緩む人は緩みます。大学に行っても就活の不安でずっとせかせかしている学生もいれば、「余程ひどくなければ、そのうち3曹になれるだろ」と投げやりに働く海士もいるにはいます。結局のところ、自分がどうありたいのかをしっかり堅持して、そのための努力をやめないことにこそ活路はあります。その過程をしっかり踏むなら、大学に行こうが高卒で入隊しようが、それなりの成果は得られるはずです。
一度きりの人生、後悔ない選択を期待します。
回答してくださりありがとうございました。
広報官の方や家族、先生方とも何度も話し合い、自分なりに悩み抜いた結果、まずは大学に進学することを決めました。
これから国際情勢がさらに厳しくなっていく可能性を考えると、その中で自分が大学生活を送っていてよいのだろうかと迷う気持ちも正直あります。
ただ、一度広い世界や社会を見てみたいという思いもあり、その経験は将来自衛隊に関わる進路を考える上でも無駄にはならないと考えました。
また、進学予定の学部が地域政策学部ということもあり、大学では一般社会と自衛隊との関わりについても自分なりに学び、考えていきたいと思っています。
改めて、丁寧に回答してくださり本当にありがとうございました。
ご連絡ありがとうございます。
難しい問題だったと思いますが、ひとつご決断されたこと、心より敬意を表します。
悩み抜いた上で決めたからこそ、一刻一刻を無駄にせず勉学に励めることでしょう。卒業の折、また海上自衛隊への入隊をご検討いただければ何よりです。
いつも参考にさせていただいております
私は、大卒でA幹に落ちて海自で陸上部隊で電子整備員として勤務しています。
入隊から早くも3年が経ち、自分自身が電子整備員としての技量が努力しても追いつかないような状況に日々悩んでおり、一度は諦めていたA幹受験の夢を再度挑戦したいと思っています。それとキャリアのスタートがほとんどの同期が艦艇なのに私だけ陸上部隊にずっといて精神的にきています。(以前分隊長にこの事を相談したところ、素養が高いとそうなりがちなんだ、理解してくれと言われました…)
8年度は受験せずに、9年度にA幹試験を受けたいと分隊長に相談するつもりです。
そこでなのですが、全国転勤を伴う幹部のライフプランというものがイマイチ分かっていません。職場にいる幹部の方は、B幹C幹の方ばかりで他総監部にいらしていた方は少数です。そうした細々とした生活だったり、家庭をどうしているのか?だったりを教えていただけますと助かります。また、A幹は年齢ギリギリで入ると結構昇任は厳しいのでしょうか?どんなに頑張っても2佐止まりという話も聞きました。また、合格して部内A幹として入校すると結構赤鬼青鬼や他の学生から変な目で見られたり、目を付けられたりするんでしょうか?教えていただきますと助かります。
ご質問ありがとうございます。厳しいA幹の道を志していること、心より敬意を表します。
全国転勤のライフプラン
まずお伝えしておくと、C幹が転勤することはほとんどありませんが、B幹は普通に全国転勤もあります。頻度はA幹より少ないです。(異動自体のインターバルが長めのため)
おそらく、質問者様のいる陸上部隊はそれなりに専門性の高い部隊なのだと思います。A幹は科長以上に少し居る程度で、それより下の実務担当者としてB幹・C幹が名を連ねる、そもそも曹士の数もそんなには多くなくせいぜい幹部の2倍、下手をすると幹部の方が多い、というような具合でしょうか。そういった部隊では、人材の層が薄く、異動も近隣の関連する部隊と交換して数年で戻ってくる、というような経歴管理になりやすく、転勤経験のある方が極端に少なくなりがちです。
全国転勤をすると何が変わるかと言えば、数か月後同じ場所に住んでいる確証が無くなる、ということです。
・契約の制約
人と約束が出来なくなります。明日、明後日くらいならなんとでもなります。が、数か月先のコンサートのチケットを買うとか、楽器を買って教室に通うとか、2~3年くらいかかる永久脱毛を始めるとか、そういうことが簡単にはできなくなります。長期契約すると割引されるサービスも、気軽に年払いはできませんね。細かい話をすると、住宅に光ファイバーを通そうとしたとき、数千円~数万円の初期費用がかかるケースがほとんどですが、引っ越すとそれもリセットされてしまうので行く先々で初期費用を払わされます。
・モノ買いの制約
頻繁に住居が変わるので、家具選びの幅が狭くなります。官舎の間取りは似ているようで結構バラバラなので、前の官舎ではピッタリだった棚が次の官舎ではあと3cmスキマが足りなくて入らない、なんてこともザラです。次第に「小は大を兼ねる」ようになります。
加えて、ガスコンロは官舎に備え付けではないので、都市ガス・プロパンの二種を保有しておかないと対応出来ないです。その他の家具も頻繁に引っ越すので箱を捨てられなくなります。官舎は収納スペースが割と充実していますが、家電の箱と使っていないガスコンロで収納スペースが一杯に埋まっているというケースはそんなに珍しくありません。そういうわけで、簡単にはモノを増やせなくなります。趣味のモノは、持てないわけではありませんが、年イチで箱詰め・開梱を繰り返す苦痛に耐えかねて、諦めてしまう人が多いです。
・地域のコミュニティとの断絶
近隣の方と仲良くなっても、引っ越しすればそれを断たれます。ただ断たれるならともかく、断たれることを前提に生きなければならないのが辛い人は結構います。
この問題で強く影響を受けるのは、自分自身より家族の方です。婚活が上手く行かなくなる、というのは記事にも書いたとおりですが、結婚できたとして、配偶者を帯同する場合はフルリモートの仕事をしているのでもなければ異動の度に配偶者を失職させることになります。帯同しなかった(=単身赴任)としても、育児を任せきりになってしまうので、フルタイムワーカーをやるなど夢のまた夢、週2~3回のパートタイマーがいいところでしょう。配偶者にはまともなキャリア形成を諦めていただくほかありません。
子どもの情操教育上もよろしくないという人が多いですね。何度も関係構築するから人と打ち解けるのが上手くなる、なんて言われることもありますが、どうせ来年にはサヨナラする奴らと、なんで努力して仲良くせにゃならんのだと開き直ってしまう子が結構いるのです。小学校までは転校しても割となんとかなりますが、中学以降は転校のデメリットが多すぎる(内申点の問題など)ので定住の要求が高まり単身赴任を余儀なくされるケースがほとんどです。
・転出入時の負担
これは海自独自の問題ですが、転出入時のスケジュールがマトモではありません。特に艦艇部隊ですね。異動は「発令日」に異動元を出発して「発令日」のうちに異動先に出頭するという原則がありますが、総監部を跨ぐような異動になるとそんな短時間で移動が完了するわけないので、数日間次の職場に出頭するのを猶予する規則があります。が、海自ではその規則が全く運用されていません。
というわけで、4月1日付「ひとなみ」乗組と発令された人は、4月1日のうちに(というか、大抵は4月1日の朝イチに)「ひとなみ」に着任するのを求める事が常態化しています。そうなると、3月31日とか30日くらいには引っ越し荷物の搬出をしなければならず、赴任旅行の規則に反する動きをしているためその費用が十分に支給されないというアレな状態(一応、規則上は多くが支出可能ですが、何故そのようなイレギュラーな行動を取ったのかを逐一説明して証明する義務が生じます。)になっています。で、4月1日に出頭すると2日朝イチには艦が出港するので乗っていけ、なんてこともザラ。お役所への転入届提出に、マイナンバーカード/運転免許証の住所書き換え、引っ越し荷物の搬入に、電気水道ガスの開通手続き、子どもの転校手続き、クレジットカードの住所変更手続きなどなど、挙げたらキリが無い諸手続は、だいたい全部家族に丸投げです。正気ではないですね。
全国の部隊で若干異なる仕事のやり方をみたり、各地の慣習に触れたり観光地に行きやすくなったりと、公私ともにメリットがないわけではありませんが、まー基本的にデメリットの方が圧倒的です。皆さん上手くやりくりしている……とは言いますが、結局のところ家庭が犠牲になります。みんな我慢しているだけで、我慢出来なくなった人は離婚したり退職したりします。本当に、我慢してくれているだけなのです。
コツというものがあるとすれば、家族に対する感謝の心を忘れないことです。幹部としての崇高な使命とか、プライドは自分自身の都合であって、家族は合わせてくれているだけに過ぎません。その献身を当然のものと思ったとき、家庭の瓦解が現実になります。
年齢と昇任
全く影響がないとは言いませんが、高齢だからと言って昇任しないわけではありません。
ただ、昇任にあたっては現階級の経過期間がモノを言うので、1佐以降は昇任前に定年が来てしまう可能性は否めないです。また、早期昇任に必要なCS試験の受験資格にも年齢上限の要件があったと認識しています。ここに引っかかると、昇任が遅くなり1佐に間に合わなくなる可能性が高まります。
周囲からの目
教官というより、同期からの目ですね。部内A幹に対し「1.5課程」の働きを期待する人はよくいます。要するに、海自の風習を知っているのだから、分隊で周囲のヤツをサポートしてくれということですね。とは言え、このあたりは個人の資質によるところ大です。部内A幹のみんなが教育期間の乗り切るのに特化しているわけでもないので、1~2か月もすると通常の2課程で要領の良い人は部内A幹や1課程で要領の悪い人を易々と追い越し、周囲もそこに疑問を抱かなくなります。
「目を付けられるヤツ」というのはそうした背景よりも、圧倒的に「集団生活に向かない人」のことを指します。時間を守れない人、常に誰かの助けを受けるばかりの人、(態度や衛生状態で)周囲を不快にする人など。ここをクリア出来ている人は、極端に優秀な人でない限り特別な試練を課されることは少ないでしょう。
参考にしていただければなによりです。他にもご質問ありましたら、遠慮無くお申し付けください。