この記事では、令和7年度概算要求に記載されたFCネットワークの整備について、次の内容を説明します。
- FCネットワークは、経空脅威に対処するため、水上艦艇の間でリアルタイムの情報共有を可能とするシステム
- 従来、対空戦では自艦で探知した目標にしか対空ミサイルを発射することが出来なかった。
- 精密誘導するには、高頻度・高精度な目標追尾が必須
- 既存の情報共有手段では、頻度・精度が不足
- 超音速シースキマーミサイルへの対処が困難
- FCネットワークは艦艇のEOR能力獲得と火力発揮の効率化を目指す。
- 射撃に利用できるレベルの頻度・精度で情報を共有
- 長射程なSAMの終末誘導をアクティブレーダーホーミング化
- 複数艦艇による迎撃
- 従来、対空戦では自艦で探知した目標にしか対空ミサイルを発射することが出来なかった。
- 戦術データリンクとFCネットワークの違い
- LINK-11・LINK-16は、CTP維持のためのシステム
- 秒単位の遅延があるため、射撃には利用できない。
- CECとFCネットワークの違い
- FCネットワークは米国のCECを模倣したシステム
- 日本のイージス艦は「まや」型のみCECに対応
- CECとFCネットワークは連接不可
- システムの構造が大きく異なると思われる。
- FCネットワークの課題
- 対応プラットフォームの拡大
- 長射程SAMの有効活用にはレーダー覆域の拡大が必須だが、艦艇間情報共有で拡大するレーダー覆域はわずか
- 航空機もFCネットワークに対応させることで、超水平線射撃を可能にする必要あり。
- 交戦調整の難易度
- 各艦の迎撃すべき目標を自動決定するシステムが必要
- FCネットワークの交戦調整機能は、十分な能力を有しているか?
- 運用構想
- イージス艦と共同交戦できないため、部隊運用の形が変わるか?
- 対応プラットフォームの拡大
先パイ先パイ、なんか海上自衛隊がFCネットワークとか言うのを装備するそうなんですが、あれは何なんですか?
そうか。いよいよ装備されるんだ。
FCネットワークとは
FCネットは、日本版CECみたいなものだね。
対空戦に関する情報を共有して、NIFC-CAを実現するんだよ。
Ⅲ 主要事項
防衛力抜本的強化の進捗と予算-令和7年度概算要求の概要-
センサー・ネットワーク等の強化
○ FCネットワークの整備(8億円)
高度化する経空脅威に対処するため、水上艦艇の間でリアルタイムの情報共有を可能とする、FCネットワークを整備。※ FC:Fire Control(火器管制)
去年砲術長やってて聞くのも恥ずかしいんだけどさ、おれ、そういうのあんまり詳しくないんだよね。
そのCECとか、ニフカってのは、結局なんなんだい?
艦艇対空戦の限界
NIFC-CA(Naval Integrated Fire Control-Counter Air)というのは、米海軍が提唱している対空戦のコンセプトだよ。それを実現する能力、あるいはその装備品をCEC(Cooperative Engagement Capability)というんだ。
じゃあ、このNIFC-CAとは何か?というと、従来の艦艇の対空戦の限界を超えるためのものなんだ。
以前、艦艇の対空戦では、イージス艦が艦隊全体の防空をやって、普通の護衛艦は自艦だけを守るって話したの覚えてる?
ええ。艦隊防空と個艦防空……でしたね?
そうそう。よく覚えていたね。
水平線の向こう
例として、「ひとなみ」がイージス艦の対空ミサイル射程圏内にあるとする。これなら、ミサイルが飛んできても全部イージスが撃ち落としてくれるはずだよね?
そうですね。対空ミサイルの命中率が100%なら、の話ですけど。
……いや、それは違うな。
そう。SPYレーダーの捜索圏内、どころかSM-2の射程圏内なのに、突然目の前にASCMが現れる。
そして、見事命中し「ひとなみ」は轟沈……。
イージス艦は「ひとなみ」との通信が途絶して、初めて何が起きたかを知ることになる。
というか、なんで副長がイージス艦に乗ってるんだ?
さて、こうなってしまった原因は何だと思う?
そりゃあ、ミサイルの高度の問題だろ。
高度?……あっ、
そういうこと。
レーダー波は地球を貫通出来ないから、いくらイージス艦と言えど、水平線の向こうを捜索することはできない。高高度を飛んでいる目標は100NM、200NM先でも探知することが出来るけど、海面スレスレを飛んでいるシースキマーミサイルは2、30NMくらい離れただけで探知出来なくなってまうんだ。
探知できなければ攻撃できない。自明だな。
自艦で探知しなければ攻撃できない現状
それなら「ひとなみ」が探知した目標に向けて撃ってもらえばいいじゃないですか。
そう。それこそがNIFC-CAの考え方なんだ。
他の艦艇や航空機のレーダー探知情報に基づいて、他の艦艇から攻撃するんだね。自分で探知していない目標に攻撃することをEngage on Remote(EOR)と言うんだ。EOR能力を獲得することは、NIFC-CAを実現する上で必要な条件の一つになるね。
なるほど、そういうことか。
でも、現状ではそれが出来ないんだ。自艦で探知・追尾している目標にしか、対空ミサイルを発射することが出来ないからね。
あら、そうなんですか。
なんでだと思う?
FCSがON TGTにならないと発射できないようになってるから……っていう仕様になってる理由だよな?
シースパローがセミアクティブレーダーホーミングだからじゃないか?
セミアクティブレーダーホーミング(SARH)
ミサイルの誘導方式のひとつ。母艦/母機など、ミサイルの外にある送信機からレーダー波を照射し、その反射波をミサイルが受信することにより誘導を行う形式。シースパロー、SM-2(終末誘導)など、艦対空ミサイルの多くで採用されている。
ミサイル自体が送信しないSARHに対し、ミサイルに送信・受信の両方を行わせる方式をアクティブレーダーホーミング(ARH)と呼ぶ。
ARHと比較して、SARHは母艦/母機などが誘導しなければならないため、撃ちっぱなし(Fire and Forget)が出来ない、同時対処数に制約が生じるなどのデメリットがある。一方ARHはSARHに比べると、大きさ・重量などの制約からシーカーの性能で劣り妨害に脆弱、ミサイル自体が高価になるといったデメリットがある。
そうだね。セミアクティブレーダーホーミングである以上、母艦で目標を追尾してやらないといけない。
イージス艦なら途中まではSPYレーダーの探知情報をもとに誘導してくれるけど、最後はやっぱりイルミネーターを照射しないといけないから、見通し線内でしか戦闘は出来ない。
戦術データリンクだけではEORできない。
あれ?イージス艦って途中で誘導のやり方が変わるんですか?
最後だけFCレーダーを照射すればいいなら、やっぱり途中までは他の艦艇から位置情報を転送してもらって誘導すればいいじゃないですか。
確か、戦術データリンクっていうのがあるんですよね?
そう。そこで問題になってくるのが、伝送される情報の精度や更新頻度。早い話、従来の手段で伝送される情報は、ミサイルを誘導するには情報が粗すぎるんだね。
実際、どれぐらい違うものなんですかね、武整長?
えっ、私ですか……。
そうですね。そういう話をする前に、そもそも戦術データリンクって、そういう用途でデザインされてるわけじゃないってことは理解してもらいたいですね。
じゃあ、何のためにあるんです?
データリンクはCTPを維持するためにあります。CDSがCTPを作図しますが、そのために必要な「ニア・リアルタイム」の情報共有に使われるのが戦術データリンクなんです。
CTP(Common Tactical Picture)
共通戦術状況図。彼我の戦力、配置、交戦状態などを図示することで、指揮官の意思決定をサポートする。
同様の概念としてCOP(Common Operational Picture)が存在する。ほぼリアルタイムで更新されるCTPはその時々の交戦状態を図示するが、COPは中期的視点での意思決定をサポートするため即時性が低い。
例えば、ロングレンジの対空捜索をしている艦が遠方の爆撃機を探知したとき、目標の位置や運動を口頭でやり取りしなくても、データリンクを使えばどこを飛んでいるのか、共有することが出来ます。その情報が一目で分かれば、ミサイルが飛んでくる前に戦闘用意を完成させられるかもしれません。
ミサイルが飛んできたときだって、探知艦がデータリンクで共有すれば、探知できていない艦も重点的な捜索を行って探知・対処できるようになるんです。
そこはやっぱり、データリンクで送られてきた情報をもとに、自分で探さないと迎撃出来ないんですね。
ええ。さっき水雷長の言ってたとおりで、更新頻度や精度の問題です。
一口にデータリンクと言っても、LINK-11にLINK-16、LINK-22に、それぞれのSAT-LINKなど様々な種類があり、やりとりされる内容も、通信帯域幅も全く違います。とは言え、早いものでもアップデート間隔は数秒に1回程度です。ものによっては数十秒に1回、それも情報量を削ぎ落としてるのでかなり粗い位置だけ、なんてこともあります。
FCSがON TGTしているときの更新頻度がミリ秒単位なことを考えると、雲泥の差ですね。
更新頻度の低さって、射撃には致命的なんですよ。
レーダーって、探知したらそこにいるって、皆さんは考えがちなんですけど、実際は違うんですよ。実際にあるのは「確率」です。その1回の送受信でパルスが検出された位置があって、反射させた物体が、検出位置付近に存在する確率が高いですよって、教えてくれてるだけです。
だから、1回1回の送受信で検出されるパルスの位置はかなりの誤差を含んでいて、バラバラです。それをカルマンフィルターのような処理を施して平滑化してやることで、初めて信頼できる目標航跡を得られます。FCSは、そういうリッチな追尾情報が連続的に入ってくる中でミサイルを誘導するから当てる事が出来るのであって、更新頻度が低い、ましてやその位置情報自体が粗いとなると、全く使えないんです。
なるほど。難しいものですね……。
何言ってるのかサッパリ分からねぇ……。
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超音速シースキマーミサイルの普及
この問題はボクらが入隊するよりずっと前から、長らく問題視されてきたんだけど、ここ最近は各国海軍が特に危機感を持っているんだ。
なるほど、超音速シースキマーミサイルの普及だな。
そう。探知の困難な低高度に、対処可能時間を縮める超音速が加わると、とんでもない脅威になる。
仮にマッハ2……便宜的に1200ktとして、この対艦ミサイルを20NMで探知した場合の対処可能時間は、どれぐらいだと思う?
えーっと……ktって、1時間に1NM進む速度でしたよね?ということは、1/60時間だから、1分間ですね。
そうだね。ここで護るべき僚艦が10NM敵に近い位置にいたとすれば、対処可能時間はその半分の30秒間。実際は離れた位置で撃ち落とさないと被害を防げないから、さらに時間は短くなる。SAMを1回撃てれば御の字ってくらい絶望的な状況だよ。
冷戦期やポスト冷戦期の対艦ミサイルは、亜音速だったり、高度が高かったりと、何かしら対処しうる要素を抱えているのがほとんど。
低高度をマッハ2以上の高速で突っ走るのは、ソヴレメンヌイ級のSS-N-22 “Sunburn”くらいだったから「空母キラー」なんて呼ばれて特別に恐れられていたんだ。
ところが、ここ最近はこういう超音速シースキマーミサイルも珍しくはなくなってきてしまった。ロシアのSS-N-27 “Sizzler”に、中国のYJ-12、YJ-18……。冷戦期とは違って、フリゲートやミサイル艇にすらも、対処困難な超音速シースキマーミサイルが装備されるようになった。もちろん、航空機にも。
というわけで、今や艦艇は対処困難なミサイルがいつ飛んでくるか分からない状態に怯えているというワケ。
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FCネットワークの目標は、EOR能力の獲得と火力発揮の効率化
そこで登場したのがNIFC-CAという概念であり、米軍はCECというシステムで、日本はFCネットワークというシステムで、これを実現しようとしているんだ。
さっきの話だと、現状では自艦で探知している目標しか迎撃出来ないところ、他の艦艇や航空機が探知した目標も迎撃出来るようにするってことですよね。
そう。FCネットワークの意義は、EOR能力の獲得にあると言っても過言ではないね。
従来システムでEOR出来ない原因は、高頻度・高精度な目標位置の共有が出来ないから……。
なるほど、それでFC「ネットワーク」ですか。通信手段を改善する事でEORを実現しようってわけですね。
そう。Fire Controlに使えるレベルの頻度と精度で情報交換を行うネットワーク、だからFCネットというワケ。
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EOR能力の獲得には、FCネットワーク+長射程アクティブレーダーホーミングSAMが必要
でもネットワークだけでEORを実現出来るかと、そういうわけでもない。イージス艦が持っているSM-2はともかくとして、DDが持っているシースパローミサイルでは射程が短すぎて水平線の向こうを撃てないんだ。
シースパローはあくまで個艦防空用のSAMだからな。最近のDDが装備するようになったESSMなら、ギリギリそういう用途に使えるかもしれないけど。
そうか、それで最近A-SAMとかN-SAMっていうのが出てきたんだな。
23式艦対空誘導弾
令和6年度概算要求から登場した、護衛艦用の対空ミサイル。令和7年度概算要求から「23式艦対空誘導弾」の名前が公式発表された。
陸上自衛隊の03式中距離地対空誘導弾(改)(通称:中SAM改)をベースとして、艦艇からの中間誘導機能、ブースター追加、Mk41 VLS発射機能などを追加したもの。海上自衛隊では中SAM、A-SAM(AはAdvancedの略と言われる)、N-SAM(NはNetworkの略と言われる)など様々な名称で呼ばれるが、全て同じものを指す。
性能は非公表だが、ベースとなった中SAM改は、GQM-163″Coyote”低高度超音速標的を撃墜した実績もあり、高い評価を受けている。誘導方式は、中間誘導:指令誘導、終末誘導:アクティブレーダーホーミングであり、ネットワーク戦闘に対応する。射程距離は、60km以上の中SAM改にブースターが追加されていることから、40~50NM程度の射程距離を有すると推測される。
そうだね。せっかくのFCネットワークを活用するには、水平線の向こうまで届く長射程SAMが必要なんだ。
もっと言うと、EORを実現するには、終末誘導をアクティブレーダーホミング化しないといけないね。
発射艦自身では一度も探知せずに攻撃するとなると、そうなるか。でも、探知艦が終末誘導するんじゃダメなのか?
その場合、ミサイルの管制権をどうやって渡すかが課題になるね。ミサイルからしたら、少しでもタイミングがズレると、どの艦の指令に従って飛んだら良いか分からなくなるから……。当然、妨害にも脆弱になる。
それなら、一定距離からミサイル自身のアクティブシーカーを使って誘導した方が確実かな。
そういや、イージス艦が新しく積むSM-6もアクティブシーカーが付いてるんだったか。やっぱり、管制権の授受は上手く行かないものなんかな。
アメリカもそうしてるから、多分そうなんだろうね。
FCネットワークと対になる23式艦対空誘導弾も、終末誘導はアクティブレーダーホーミングだからね。探知艦からもらった位置情報に基づいて発射艦が中間誘導、途中からミサイル自身のアクティブシーカーに切り替えて終末誘導として、探知艦自身はミサイルの管制をやらない、というのが最適解なんだと思うよ。
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火力発揮の効率化=複数艦での連係攻撃
ここでもう一つ重要になってくるのが、火力発揮の効率化……要するに、複数艦で連係攻撃することだね。
仮に、きちんと探知できて、迎撃する時間的余裕があったとしても、一度に迎撃出来る目標数……もっと言うと、同時に管制できるSAMの数には制約があるからね。発射に加わる艦が増えれば、それだけ対処能力が飽和しづらくなるんだ。
……と言うのは容易いけど、複数艦で攻撃するっていうのは、実際は簡単なことじゃないんだ。
どうしてですか?
どの目標に誰が攻撃するのかを、誰が決めるのか、そしてどうやって各達するのかって問題があるからね。
現状では、部隊内の対空戦に関する指揮官が口頭や戦術データリンク上のメッセージで迎撃の指示をしたりしているんだ。
とは言え、実質、その指示は有って無いようなものではあるんだよなぁ。イージス以外の護衛艦はほとんど個艦防空しか出来ないから、遠距離ではイージスがやる、抜けられたら各艦が自力で何とかするっていうのは変わらないし。
でも、これからはイージス以外の護衛艦も射程の長いSAMを持つようになるんだ。そうなってくると、いよいよ誰がどれを撃つのかをはっきり決めないと大変なことになる。同じミサイル相手に無駄にSAMを撃ちまくったり、逆に他の艦がやるだろうと見逃したり。
なるほど。それを上手く調整する機能が必要になるんですね。
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CECとFCネットワークはどう違う?
日本のイージス艦はFCネットワークに対応不可
そういや、イージス艦はどうなるんだ?アメリカはCECってのをやってるんだよな?日本のFCネットには対応するのか?
うん。イージス艦は「まや」型護衛艦からCECに対応したんだ。FCネットワークは……どうなんだろう?システムの仕組みから言ってFCSやCDSとガッツリ結びつくから、イージスシステムに後付けできるようなものじゃない気がするんだけど……。
砲雷長、そこんところ、どうなんですかね?
あ?そうだな……。水雷長の言うとおりだ。イージスはFCネットには対応しない。ありゃ、国産システムで使うことを前提にしたシステムだからな。既に出来上がっているAWSに対応しろってのが無理って話だ。
CECとFCネットワークは互換性ナシ
じゃあ、連接は出来ないんですか?CECとFCネットワークをリンクさせて、DDやFFMが探知した目標をイージスで攻撃するってのは……。
ああ、CECとFCネットワークは連接できない。
何故かと言えば、システムの構造が根本的に違うからだ。
CECは、言わばセンサーフュージョンのシステムだ。SPY-1に限らず、各艦艇が保有する、レーダーというレーダーの受信信号を、ほぼ未処理の状態で共有する。これを各艦で自艦のセンサー情報と組み合わせることで統合航跡を作る。つまり、あたかも自艦のセンサーで探知しているかのように、システムに認識させることでNIFC-CAを実現するんだ。
この利点は、単に未探知目標に攻撃できる、という話ではなく、個々のセンサーでは探知に至らない信号、誤差の大きい信号を組み合わせることで、今まで見つけることの出来なかった目標を、より正確な位置で探知できるようになる事だ。
でも、それってとんでもない大容量回線が必要じゃないですか?
ああ、その問題はCECに常につきまとってな。構想自体は80年代から存在したが、実現に至ったのはここ最近。それもこれも、センサー情報の伝送経路が得られなかったことによる。
CEC開発計画の中では、異なる方法でNIFC-CAを実現しようとしたプロジェクトもあった。それがセンサー情報を削ぎ落として、位置・運動情報だけを伝送するやり方だ。
ええ。それが普通の考え方だと思いますよ。
日本にCECほどのシステムが作れるとも思えん。FCネットワークの構造はあまり明示されていないが、ほぼ間違いなくそういうつくりになっているだろう。
センサーの受信信号を共有するCECと、位置・運動情報を共有するFCネットワーク……。確かに、連接は難しそうですね。
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FCネットワークの課題
鳴り物入りで登場したFCネットワークだけど、ボクに言わせれば、まだまだ課題は多いと思う。
対応プラットフォームの拡大
まず、現状では護衛艦にしか対応していないことだね。
戦うのは護衛艦なんだから、他の補助艦艇には要らないんじゃないですか?
補助艦艇の要否は議論の余地があるけど、ボクが問題にしているのは航空機の装備だよ。せっかくの長射程SAMを装備したところで、レーダー覆域が広がらないと意味が無いんだ。
そうだな。艦艇同士を繋いだところで、レーダー覆域はそんなに広がらないもんな。僚艦がシースキマーを探知しても、後ろにいる艦のSAMが間に合うかも微妙だし。
航空機がFCネットワークに加入できるようになれば、レーダー覆域が大きく広がるから、低高度目標にも早期対処出来るようになるんだ。
艦載機は対応出来ないのかな?
どうだろうなぁ……。アメリカの場合、E-2Dみたいな固定翼機にそういう機能を持たせてるけど。回転翼に装備できるレーダーで、果たしてFCネットワークに使えるほどのデータが得られるものか……。
まだ、P-1に装備させた方が良いかもしれないね。
そうだな。ヘリだと長時間在空させるのも難しいしな。
「レーダー覆域が広がらないと意味が無い問題」は、イージス艦にも言えます。CECはE-2Dのセンサー情報を共有することで真価を発揮するものであり、米海軍では空母艦載機として運用されることにより、艦隊の防空を担保します。が、海上自衛隊はE-2Dを保有していなければ空母も保有していないため、現状では「まや」「はぐろ」間でのEOR能力の獲得に留まります。
空自のE-2DがCEC能力を有しているかは諸説ありますが、基本的に空自はE-2Dを本土防空のための早期警戒機として運用しているため、仮に能力を保有していたとしても、海自の好きなように使えるものではないでしょう……。
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交戦調整の難易度
もう一つは、交戦調整……さっき言った火力発揮の効率化の話だね。
防衛装備庁の説明によれば、FCネットワークは射撃艦を自動決定するような機能を保有しているとされている。ただ、これがどこまで賢くやってくれるのか。
そうだな。そんなに簡単に実現するとは思えないんだよな。
運用を始めれば、複数艦で探知した目標のトラックが重複したり、逆に別目標が同一目標として統合されてしまったりと、トラブルが起きるのは当然だと思う。問題は、それを実用可能な域になるまで、ブラッシュアップできるかだね。実戦では妨害だって受けるんだし。
部隊の運用構想も変わる?
あとは、イージス艦との連携。さっき砲雷長からあったとおり、イージスとFCネットワークは連接できない……となると、DDやFFMをイージスが守るという今の部隊運用のコンセプトもちょっと怪しくなってくる。
なるほど。他の護衛艦の交戦調整に、イージス艦が関与できないんですね。
そう。共同交戦できないから、他の護衛艦が「最適なやり方」で撃ってるのに、イージス艦が対処するもんだから、オーバーキルになったりするんだ。
イージスの役割を考え直さなきゃいけないな。
他にイージスにしか出来ないことと言ったら、BMDか。
そうだね。将来は海上にいてもASBMがどんどん飛んでくるようになるだろうから、対BM戦の役割が重くなるんだろうね。
そもそも、DMOをやろうとすると、艦艇が分散するから従来の艦隊防空も成り立たなくなるだろうし……。
だからこそ、各艦で艦隊防空可能なレベルの対空戦能力を身につけないといけないんだろうし。
だな。装備一つとっても、考えなきゃいけないことがたくさんあるんだなぁ。
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まだまだ前途多難ではあるけれど、FCネットワークの登場は海上部隊の能力を飛躍的に向上させることは間違いないんだ。
戦える部隊になろうとしてるってことですね。
この記事では、令和7年度概算要求に記載されたFCネットワークの整備について、次の内容を説明します。
- FCネットワークは、経空脅威に対処するため、水上艦艇の間でリアルタイムの情報共有を可能とするシステム
- 従来、対空戦では自艦で探知した目標にしか対空ミサイルを発射することが出来なかった。
- 精密誘導するには、高頻度・高精度な目標追尾が必須
- 既存の情報共有手段では、頻度・精度が不足
- 超音速シースキマーミサイルへの対処が困難
- FCネットワークは艦艇のEOR能力獲得と火力発揮の効率化を目指す。
- 射撃に利用できるレベルの頻度・精度で情報を共有
- 長射程なSAMの終末誘導をアクティブレーダーホーミング化
- 複数艦艇による迎撃
- 従来、対空戦では自艦で探知した目標にしか対空ミサイルを発射することが出来なかった。
- 戦術データリンクとFCネットワークの違い
- LINK-11・LINK-16は、CTP維持のためのシステム
- 秒単位の遅延があるため、射撃には利用できない。
- CECとFCネットワークの違い
- FCネットワークは米国のCECを模倣したシステム
- 日本のイージス艦は「まや」型のみCECに対応
- CECとFCネットワークは連接不可
- システムの構造が大きく異なると思われる。
- FCネットワークの課題
- 対応プラットフォームの拡大
- 長射程SAMの有効活用にはレーダー覆域の拡大が必須だが、艦艇間情報共有で拡大するレーダー覆域はわずか
- 航空機もFCネットワークに対応させることで、超水平線射撃を可能にする必要あり。
- 交戦調整システムの難易度
- 各艦の迎撃すべき目標を自動決定するシステムが必要
- FCネットワークの交戦調整機能は、十分な能力を有しているか?
- 運用構想
- イージス艦と共同交戦できないため、部隊運用の形が変わるか?
- 対応プラットフォームの拡大
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