この記事では、海自艦艇でStarlinkによるインターネットサービスが使えるようになるというニュースを踏まえ、その背景や注意点について理解を得るため、次の内容を説明します。
第1回
- Starlinkを使用したインターネット接続サービスが、艦艇乗員に提供されるようになる。
- Starlinkは、低軌道での衛星コンステレーションにより、高速インターネット接続を可能にする。
- 今後、艦内のルーターを介して、私物のスマートフォンからインターネットに接続できるようになる。
- 艦艇乗員の外界との通信の現状
- INETや船舶電話が存在するが、業務目的での利用が原則
- 航海中は「電子家庭通信」により、家族と電子メールをやり取り出来る。
- 私物のスマートフォンから艦内のwifiルーターを介して送受信可能
- システム上は画像送受信の余地もあるが、現状はテキストのみで運用される。
- 送受信は1日に1~2回程度、まとめて行われる。
- 同システムを利用して、ニュースをテキストのみで配信するサービスもある。
- 海外派遣艦艇では、寄港地でwifiルーターを契約することがある。
- 現地の携帯電話回線を使用する、いわゆる「ポケットwifi」をなるべく艦の開口部に近いところに設置する。
- 居住区は艦の奥深くにあるため、居住区内から接続するのはほぼ不可能。
- 外から見えないながらも通信の繋がるところに乗員が殺到する。
- 回線速度が遅い地域も多く、はその低速通信帯域を20~30人で共有するため、ほとんど使い物にならない。
- 現地の携帯電話回線を使用する、いわゆる「ポケットwifi」をなるべく艦の開口部に近いところに設置する。
- Starlinkが変える個人通信
- 居住区や食堂にいながら通信できるようになる。
- メール(テキスト)の送受信だけでなく、WebサイトやSNSの閲覧、ソーシャルゲームへの接続もできるようになる。
- リアルタイムに通信できるようになる。
第2回
- プライベートなインターネット接続の必要性
- 募集状況は年々悪化、中途退職者が激増、艦艇部隊の充足率が激減
- 原因の一つはインターネット接続できない不便さ
- 航海日数の増加により個人通信できない時間が増加
- 常時接続が前提の社会
- オフラインでも使用できたアプリが、オフラインでは使用不能に。
- ネット接続必須のサブスクリプションサービスが増加
- 若年層のコミュニケーションもインターネット接続は前提条件
- 繋がっていない人間は存在しないものとして扱われ、社会からの疎外感を感じる。
- 募集状況は年々悪化、中途退職者が激増、艦艇部隊の充足率が激減
- 作戦・業務用途と厚生用途の優先順位
- 当初、厚生用途が主とされてきたが、作戦・業務用途が主となった可能性あり。
- 作戦・業務用途でも衛星通信は貧弱であり、Starlinkの活用により劇的に改善できる可能性がある。
- インターネットを介さないようにしてきた作戦通信。急に導入できるか?
第3回
- Starlink運用上の留意事項
- 秘密保全上の問題
- 乗員を介して艦の位置や行動予定が漏洩する恐れ。
- 秘密保全のために自衛隊が執るべき処置
- 重大なオペレーションの際は、通信を遮断する。
- 秘密情報を伝達する相手を厳選する。
- 運用の形態は未定?
- 練習艦隊でのStarlink運用は調査研究として実施されている可能性あり。
- 護衛艦での利用がどのような形で実現するかは運用ポリシーによる。
- 使用できる端末やアプリが限定される可能性あり。
- 「通信の秘密」は守られるか?
- 通信の秘密は憲法や法律で保障されており、インターネット通信も保護される。
- ただし、犯罪捜査やその防止に必要な場合、通信内容に応じて遮断する行為も正当業務行為として認められることがある。
- 送受信されるデータの検閲は、技術的には可能
- 労力に見合わないため、実際に行われる可能性は低い。
- 検閲される可能性を念頭に置いた自己防衛も必要
- 秘密保全上の問題
プライベートなネット接続は必須!
確かに常時接続サービスはあった方が助かりますけど、そんなに大騒ぎすることですかね?
最近少なくはなってきましたけど、圏外の地域だって無い訳じゃないですか。
黙れ!今すぐ携帯電話を出せ!1ヶ月間ネット接続できなくしてやる!!
いつもぬくぬく電波の恩恵を受けてる分際で、「登山中は携帯電話が繋がらないのもしょーがないでしょ?」くらいの感覚で、ものを言うな!!
おいおい、落ち着け。いくらなんでもキレるのが早すぎるぞ。
だいたい、この苦しみが部外者に分かるわけないだろ。
先パイ、インターネットの事になると人格が変わりますよね……。ゲーム脳なのでは???
人手不足を招く劣悪な通信環境
あのね、ネットに繋がらないのは困るっていうのはいくらでも説明できるんだけど、何よりもマズいのはこの劣悪な通信環境が人手不足を招いていることなんだ。
ははー、さては携帯電話が使えないから入隊したくありませんって若者が増えてるという話ですね?
早い話がそういうこと。一応確認しておくと、航海中の艦艇で携帯電話から通話やネット接続は、ほとんど出来ないんだ。携帯電話は基地局と通信することで電話やネット接続を可能にしているからね。基地局が見通し線内にあるような沿岸部では繋がるけど、艦艇がそういう沿岸部を航行することはほとんどないからね。
ただ、志願者の減少も由々しき問題なんだけど、それ以上にマズいのが中途退職や艦艇忌避を招いていることだよ。
中途退職は分かるとして……艦艇忌避というのは?
文字通り、艦艇への補職を希望しない、ということ。
すこし前までは人事サイドから「ワガママ」と見做され、「辞めるか、艦に乗るかを選べ」という扱いを受けてたけど、最近は「せめて陸上部隊で働いて下さい」と容認されることも増えてきたんだ。
だから、海上自衛隊の定員に対する充足率自体は9割超をキープしているんだけど、実際には艦艇の充足率が激減してて、大変なことになっているんだ。
具体的には、どれぐらいなんです?
そんなこと、部外者に話せるわけがなかろう。
だが……。まぁ、惨憺たる有様だぞ。充足率はこの数年で信じられんくらい下がった。それは事実だ。
携帯電話が繋がらないだけで、大変なんですねぇ……。
そうやって馬鹿にするかもしれないけど、艦を降りているのは若者だけじゃないんだ。むしろ中堅の海曹が降りているのが大ダメージになっている。
へぇ、そうなんですか?
30代40代になる頃には、多くの人が家庭を持って、子供もそこそこ大きくなってくる。最近は艦艇乗員でも共働きの世帯が増えてきているから、配偶者へかかる負担は大きくなっているんだ。
何より、艦が出港してしまうことで家事や育児に参画できないというのが大きいんだけど、併せて連絡が取れないというのも重くのしかかっている。
子供の事で悩みがあったり、夫婦で話し合って決めないといけないことがあったりしても、パートナーに相談することが出来ない。他の夫婦が当たり前にやっていることをできない。配偶者にかかる精神的な重圧は凄まじく、艦を降りてくれと懇願される乗員が増えているんだ。
それに、乗員自身にも精神的な負担がかかっているよ。
子供の成長をそばで見守ることができず、会う度に大きく変わった我が子を見ることになる。出港前はつかまり立ちしか出来なかった子が帰ってくる頃には歩けるようになっていたり、単語しか話せなかった子が明確な文を話すようになっていたり……。
その成長の過程を、帰ってきた後で動画でまとめて見ても、感じるものは全然違うものになる。それが耐えられないという人も少なくないんだ。
分隊長やってるとね、そういう悩みをどうしても解決出来ないから艦を降ろしてくださいって乗員が、結構な頻度で現れるんだよ。
根本的な解決にはならないけれど、毎日テレビ電話やメッセンジャーで話せるようになれば、その精神的負担も多少は軽減されるんじゃないかな。
なるほど……。ゲームできないだけで仕事辞めるなんて!って決めつけてました。すみません。
でも、電話できない、ネットできないっていうのは昔からなんですよね?どうしてこの数年でそんなにダメになってしまったんです?
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航海日数の増加
それは、ここ数年で急激に航海日数が増加しているからだよ。正確な日数は言えないけど。
ボクが入隊した頃は「この日数になったらヤバい」と言われていた値があったんだ。任務行動が立て込んで、やむを得ずその日数を超えてしまう艦は年に1~2隻くらい。でも、そこまでいったら護衛艦隊から「どうにかしてその艦を休ませろ」と最優先の命令が出て、その後1~2か月くらいに予定されてた訓練を全部キャンセルしてたんだよ。
ところが、ここ最近は半分近い艦艇がそれを超過してて、もはや超過してることに誰も何も言わなくなっちゃった……。
えぇ……。
読者の皆さんは、そもそも我が国では1年の1/3は休みということをご存じでしょうか。
1年52週のうち、週2日間は土日で休み。そして祝日が16日間。国家公務員の年次休暇は月に2日間付与されます。つまり、1年365日の中で(2×52) + 16 + (2×12) = 144日間が休むべき日であり、残る221日が労働に充てて良い日となります。この221日間の中で任務行動に、訓練に、整備をやらなければならないのです。本来は。
でも、約7か月間の出港を伴う海賊対処行動派遣部隊は、途中の寄港日数を除外しても、おそらく170~180日間くらいは航海しているのでしょう。となると、整備や訓練に充てて良い日数は40日間程度。DDは1年に約1か月間の年次検査と約2~3週間の年次練度維持訓練を控えているのですから、間違っても、同じ年に警戒監視の任務行動や訓練査閲への参加を計画したりしてはいけないのです。本来は。
航海日数が増えれば、当然停泊日数、つまりネットにアクセス出来る日数が減る。不便を感じることが増えるんだ。
……そもそも人は、置かれた状況がどのぐらい辛いものか、他人と比べることで実感する生き物です。世の中の人々がより便利になっているのに、自分だけは変わらない。なんだったら、少し不便になっていっている。そしたら、相対的にはとんでもない状況に追い込まれているような気がするものですよ。
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常時接続が前提の社会
あとね!これはもう実害としてあること!
ここ数年で、社会は急速に常時接続が当たり前になってしまったんだ!
え?何言ってるんです?
常時接続なんて、私たちが子供の頃からそうだったじゃないですか。
いや、ダイヤルアップからADSL/ISDNに変わったって話じゃなくてさ。
2010年代前半までって、ちょっとした田舎町なら携帯電話が圏外になることもそんなに珍しくなかったし、街のそこら中にwifiスポットがあるわけでもなかったし、携帯電話回線は通信帯域制限を受けると128kbpsまで落ち込んで使い物にならなかったじゃない?
でも、今や携帯電話が圏外になる事なんてまず無いし、ノートパソコンにすらSIMカードが入るようになってどこでもネットに繋げるようになった。飛行機の中ですらwifiサービスが提供されて一応ネットに繋がるようになった。だから世界は、ネットに繋がらない瞬間ってのを存在しないものとして扱うようになったんだ。
オフラインでは使えないサービスの増加
なるほど。先パイの言いたいことがなんとなく分かってきました。オフライン状態では使えないサービスが増えてきたって話ですね。
そういうこと。
最近のスマートフォンアプリは、起動時にネットでユーザー認証しててて、繋がってないと機能を使わせてくれないことが多いんだ。
残念だったのは家計簿アプリ「マネーフォワード」ですねぇ。
当初はセールスポイントとして、オフラインでも入力可能で、ネットに繋がった時にまとめて反映させますと言ってたのに。
今となっては、ネットに繋がってないと残高の閲覧すら出来ないんですよ。
航海中、艦内の自販機での購入記録が付けられないんですよね。
動画もそうだぞ。
ああ、Netflixとかですか。でも、ああいうのってオフラインモードがありますよね?
そういうサブスクリプション・ストリーミングタイプのサービスならまだ諦めがつくんだがな。
某サービスは買い切りタイプでダウンロードもしているというのに、ここ最近になって、再生時にユーザー認証が通らんと再生されんようになったのだ。
まったく、いくら掛けたと思ってるんだ。ビットコインの流出補填している暇があったら、こっちを何とかしてもらいたいものだな。
そ、そうですか……。
Netflixみたいな動画配信、Spotifyのような音楽配信のサブスクリプションサービスの場合、確かにオフライン状態で再生する機能もついてるんだけど、しばらくネットに繋がってない状態が続くとダウンロード済のデータにもロックがかかるようになっているんだ。1日2日くらいの航海なら、ネットに繋がらなくても大丈夫なんだけど、出港日数が長くなってくると再生できなくなってしまうんだよね。
そうだったんですか。ずっと圏外なんてこと、経験したことないですからね……。
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サブスクリプションサービスの増加
それから、サブスクリプションと言えば、まさにコレ。
世の中、ソフトウェアを買い切りで使う時代から、サブスクリプション式のサービスと契約する時代に移行したんだね。
何か問題でも?
サブスクリプションサービスは、利用すればするほどお得でしょ?
逆に言えば使う頻度が低いほど損になる。
航海日数が増えたせいで、月に1、2回しかアクセス出来ないけど、全く使わないというわけにもいかないサービス。でも、以前はあった買い切りプランはもう無くなってしまっていて、どうしてもサブスクで毎月料金を払わないといけない。
昔からあったパソコンソフトがサブスク化されたものが多いね。Adobe Photoshopとか。Microsoft Officeも買い切り版は残っているけど、ソフトによってはサブスク契約しないと使えないものもあるし。
そういえば、私はATOKを使ってるんですけど、何年か前から買い切り版が無くなって、サブスクのみになりましたね。
それこそ、さっき補給長の言ってたマネーフォワードもそうだね。
以前はオフラインで扱う家計簿ソフトもあったんだけど、ここ最近はクラウド上で動かすサービスがほとんど。
こういうサービスは確かに便利なんだけど、通信弱者である艦艇乗員には非常に辛いものがあるんだ……。
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社会からの疎外感……
世の中どんどん便利になってるのに、まさかこんなことになってるなんて。
こんなの、分かんないよね。普通の人は機内モードにしても、せいぜい数時間だもの。それが2週間3週間と続いたとき、何が起こるかは味わった人にしか分からないよ。
でもさ。仕方ないのは分かるんだけど、世の中、繋がらない人に対してあまりにも酷薄なんだよね……。その存在に気付いてすらくれないんだもの。
……。
この問題は、我々よりむしろキミのような若い世代の方がよく理解出来るはずだ。
友人関係を構築するにも、維持するにも、今やほとんどのコミュニケーションをインターネットに依存しているのではないかね?SNSに現れない者を、キミ達は友人として認識できるのかな?
SNS、まともにやってないから分からないよ。
いくら仲の良かった友達だって、連絡が取り合えなければどんどん疎遠になっていくよ。メッセージ送っても返信が来るまでに1か月かかるような人と、リアルタイムに対話できる人だったら、後者と関係を深めていくのは当然だもの。
そういう社会からの疎外感を隊員が感じている状態、その認識が正しいか誤っているかは、この際どうでもいい。ただ、そういう認識が生じていることは事実だ。これは非常によろしくない。
さっき水雷長の言ったように中途退職者や艦艇忌避者の発生にも繋がるし、辞めなくても士気が下がる。士気が下がるというのは、国民のために命を懸けようという気概が無くなっていくことだ。「国民のために」という目的意識もなく、国民から虐げられているという被害者意識ばかりを蓄えた武装集団が生まれる。これがどれほど恐ろしいことか、分からんかね?
そんな……。ネットだけでそこまで言います?
何度でも言うが、隊員がそういう認識を持つことが正しいかどうか、それはこの際どうでもいいことだ。たとえ誤っていたとしても、隊員がそういう認識を抱いてしまったら実害が生じる。そして、現にそういう隊員が少しずつ増えてきているのだよ。
中途退職者は、そういう意識を持ちたくないからこそ、そうなる前に行動したに過ぎん。
だとすれば、そういう認識を抱かせないように厚遇してやるか、武装解除するかのいずれかだ。だが、後者はその後の安全を誰が保障するのかという問題が生じる。
ネットに接続させてやるだけで、隊員が喜んで戦ってくれるなら安いものだと思うがね。
まぁ……そうですね。
私ももし艦艇で働く事になるなら、ネットは欲しいですし。
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作戦・業務用途と厚生用途の優先順位
作戦・業務用途が主?
なに、別に隊員の道楽のためだけに装備しようというワケではないぞ。きちんと作戦・業務用途の通信改善にも使われるはずだ。
あれ?これって厚生用途で整備されるんじゃないんですか?
以前、そんな噂を聞いたことがあったんですが。
ああ。かく言う私も数年前にStarlink導入の噂を聞いたときは、厚生が主導していて、何よりまずは私的通信をさせることを追求している、と聞いた覚えがあるんだが。
だが、概算要求や予算などの資料を見るに、Starlinkを厚生目的で導入するように読める部分が無いのだ。戦闘能力としての通信能力強化に関する項目はいくつかあるので、そちらで予算を取るつもりなのではないかな?
ま、普通に考えれば、そんなご立派な通信能力が手に入るなら、作戦・業務用途に使う。
まぁ……そうですよね。
正直、私的通信も喉から手が出るほど欲しいんですけど、それ以上に業務効率を上げたいというのはあります。
業務用の衛星通信ってそんなに酷いんですか?
うん。無いよりは遥かにマシだけど。
現状、少数の静止軌道衛星で賄ってるからね。任務行動中の艦艇の帯域を広めにしたりはしてるけど、それでも遅さは否めないし、そういう措置を取られていない艦艇は絶望的だよ。
以前はメールにデータを添付して配布されることもよくあったんだけど、最近はアップローダーを使ってダウンロードしたり、ブラウザ上でのみ閲覧したりするように求められることも増えてるんだ。
あー。セキュリティ上、重要データをメールに添付するのは危険だからですね。アップローダーを使えばアクセス制限が出来ますから。
セキュリティ上必要なのは分かるんだけど、資料1枚を開くために数十分待たされるのは、とてもではないけど耐えられないよ。
そもそもアップローダーに辿り着くことすらできないことも珍しくないし……。
えっ、数十分……!?
そういうわけだ。近く戦争が始まるかもしれんと言っている中、厚生通信にばかりかまけていられんのが実情なのでな。
衛星コンステレーションの長所の一つには、優れた妨害耐性があるから、作戦・業務用途の通信改善には最適だ。
静止軌道衛星は数が少ない故に、その衛星自体を破壊したり電磁妨害をかけたりすることで、その地域の衛星通信を完封することが出来てしまう。
ところがStarlinkの衛星は数千基。衛星自体を妨害したところで、他の衛星がすぐに機能補完してしまうから強靱なのだ。しかもその通信速度は数十~数百Mbps。これほど軍事用途に向いた通信システムはなかなか無い。
作戦・業務通信の課題は?
しかし……。海上自衛隊って、これまでインターネットを介して作戦・業務通信をしてこなかったじゃないですか。急に変われるものですかね?
そうだな。その点は若干の疑問が残る。
とは言え、VPNを使ったオープン系へのアクセスは実現しているし、一部の防衛省携帯はクローズ系にアクセスすることもできると聞いているから、全くインターネットとの接点が無いというわけではないのだろう。
ああ、言われてみれば、そういう経路がありましたか……。
問題は、インターネットを経由するにしても、その伝送経路の安全を保てるかだ。TCP/IPの仕様上、ルートを固定することは出来ないからな。
国内通信でも通信網の状態が悪ければ、わざわざ中国経由で伝送されることすら可能性はゼロではない。
ましてや、日本から遠く離れた場所からアクセスしようとすれば、当然、どこを経由してくるのかはさらに分からなくなる。
確かに……。
ま、この辺りはどこの国でも課題になる問題であろうから、SpaceX側も各国軍に導入してもらうために何かしらの工夫をするだろうがな。
どうしても折り合いがつかなければ、他の衛星コンステレーションの通信サービスに乗り換えるのも手だ。現状、Starlinkばかりが目立っているが、欧州のOneWebに、AmazonのKuiperにと、他にもいくつか有力なサービスは生まれつつある。まだ時間はかかるが、そのうち日本のサービスも出てくるだろう。
公私ともに通信環境が改善すると良いですね。
この記事では、海自艦艇でStarlinkによるインターネットサービスが使えるようになるというニュースを踏まえ、その背景や注意点について理解を得るため、次の内容を説明します。
第1回
- Starlinkを使用したインターネット接続サービスが、艦艇乗員に提供されるようになる。
- Starlinkは、低軌道での衛星コンステレーションにより、高速インターネット接続を可能にする。
- 今後、艦内のルーターを介して、私物のスマートフォンからインターネットに接続できるようになる。
- 艦艇乗員の外界との通信の現状
- INETや船舶電話が存在するが、業務目的での利用が原則
- 航海中は「電子家庭通信」により、家族と電子メールをやり取り出来る。
- 私物のスマートフォンから艦内のwifiルーターを介して送受信可能
- システム上は画像送受信の余地もあるが、現状はテキストのみで運用される。
- 送受信は1日に1~2回程度、まとめて行われる。
- 同システムを利用して、ニュースをテキストのみで配信するサービスもある。
- 海外派遣艦艇では、寄港地でwifiルーターを契約することがある。
- 現地の携帯電話回線を使用する、いわゆる「ポケットwifi」をなるべく艦の開口部に近いところに設置する。
- 居住区は艦の奥深くにあるため、居住区内から接続するのはほぼ不可能。
- 外から見えないながらも通信の繋がるところに乗員が殺到する。
- 回線速度が遅い地域も多く、はその低速通信帯域を20~30人で共有するため、ほとんど使い物にならない。
- 現地の携帯電話回線を使用する、いわゆる「ポケットwifi」をなるべく艦の開口部に近いところに設置する。
- Starlinkが変える個人通信
- 居住区や食堂にいながら通信できるようになる。
- メール(テキスト)の送受信だけでなく、WebサイトやSNSの閲覧、ソーシャルゲームへの接続もできるようになる。
- リアルタイムに通信できるようになる。
第2回
- プライベートなインターネット接続の必要性
- 募集状況は年々悪化、中途退職者が激増、艦艇部隊の充足率が激減
- 原因の一つはインターネット接続できない不便さ
- 航海日数の増加により個人通信できない時間が増加
- 常時接続が前提の社会
- オフラインでも使用できたアプリが、オフラインでは使用不能に。
- ネット接続必須のサブスクリプションサービスが増加
- 若年層のコミュニケーションもインターネット接続は前提条件
- 繋がっていない人間は存在しないものとして扱われ、社会からの疎外感を感じる。
- 募集状況は年々悪化、中途退職者が激増、艦艇部隊の充足率が激減
- 作戦・業務用途と厚生用途の優先順位
- 当初、厚生用途が主とされてきたが、作戦・業務用途が主となった可能性あり。
- 作戦・業務用途でも衛星通信は貧弱であり、Starlinkの活用により劇的に改善できる可能性がある。
- インターネットを介さないようにしてきた作戦通信。急に導入できるか?
第3回
- Starlink運用上の留意事項
- 秘密保全上の問題
- 乗員を介して艦の位置や行動予定が漏洩する恐れ。
- 秘密保全のために自衛隊が執るべき処置
- 重大なオペレーションの際は、通信を遮断する。
- 秘密情報を伝達する相手を厳選する。
- 運用の形態は未定?
- 練習艦隊でのStarlink運用は調査研究として実施されている可能性あり。
- 護衛艦での利用がどのような形で実現するかは運用ポリシーによる。
- 使用できる端末やアプリが限定される可能性あり。
- 「通信の秘密」は守られるか?
- 通信の秘密は憲法や法律で保障されており、インターネット通信も保護される。
- ただし、犯罪捜査やその防止に必要な場合、通信内容に応じて遮断する行為も正当業務行為として認められることがある。
- 送受信されるデータの検閲は、技術的には可能
- 労力に見合わないため、実際に行われる可能性は低い。
- 検閲される可能性を念頭に置いた自己防衛も必要
- 秘密保全上の問題
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