台湾有事は日本の有事……って本当!? その1

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画像は国土地理院Webサイト(https://maps.gsi.go.jp/globe/index_globe.html)から取得したものを、筆者が加工したもの。
記事の要旨

この記事では、台湾有事について次の内容を説明します。

第1回

  • 台湾問題の歴史的背景
    1. 17世紀後半、清に併合され、大陸から漢民族が移住
    2. 日清戦争の結果、日本に割譲
    3. 太平洋戦争の結果、日本は領有権を放棄し、国民党政府が進駐
    4. 国共内戦に破れた国民党政府が台湾に逃れ、現在の形に
    5. 1つの中国」問題
      • 国民党政府・共産党政府ともに、自身を中国唯一の合法政府と主張し、もう一方の存在を否定
      • 戦後しばらく、実質的な「中国」は中華人民共和国でも、中華民国は国連安保理常任理事国として強い影響力を発揮
      • 70年代、米国の外交方針転換により、中華人民共和国が名実共に「中国」に
    6. 台湾人のアイデンティティ問題
      • 当初、「外省人」が「本省人」を抑圧する体制
      • 70年代の大陸反攻断念により「中華民国」である必然性を喪失
      • 民主化や世代交代により、「本省人」「外省人」の差が希薄化
      • 自国を中国と捉えるか否か、台湾自体を国と捉えるか、意見が多様化
    7. 台湾地位未定論
      • 日本の領有権放棄に際し、中華民国に返還されたわけではなく、帰属未定という説
      • 主流では無いが、「台湾」としての独立派の論拠に
  • 各国の立場
    • 中華人民共和国
      • 「台湾は中華人民共和国の領土の一部」
      • 「台湾問題は内政問題」外国の干渉を拒絶
      • 武力による統一も辞さず
    • 中華民国
      • かつて「一つの中国」を表明していたが、今は明確にせず。
      • 政権により、ニュアンスが若干異なる。
        • 国民党政権:「一つの中国」自体は堅持するが、中台間で解釈が違うことを許容
        • 民進党政権:現状維持(明示せずとも台湾は既に独立国家)
    • アメリカ
      • あいまい戦略」を選択
        • 中国の主張を否定しないが肯定もしない
        • 台湾侵攻時の武力介入を確約しないが、平時から台湾を公然と支援
      • 現状維持を最優先
        • 台湾が共産党政府の管理下に置かれることは拒否
        • 台湾に肩入れしすぎると、米中全面衝突に繋がる恐怖
    • 日本
      • 米国の対中政策に追従
      • 台湾有事が現実味を帯びてきたことで、急速に準備中

第2回

  • 台湾は中国の「核心的利益」
    • 中国の海洋戦略において、台湾・沖縄諸島は不可欠の存在
      • 台湾・沖縄諸島を掌中に収めない限り、北海艦隊・東海艦隊は東シナ海に封じ込められる。
      • 本土を米国の脅威から守るためには、太平洋への進出が不可欠
      • 東シナ海・南シナ海~インド洋のシーレーン防衛も死活問題
    • 中国の夢」の障害
      • 中華民族の自己認識と整合しない現実
      • ナショナリズムと、その願望を実現する力こそが権威の源泉
      • 民族の復興を実現出来ない政権は存続出来ない。
  • 台湾有事は日本の有事になるか?
    • 在外邦人の救助問題
      • 台湾には2万人超の日本人が在留
      • 戦闘行為に関与せず在外邦人を救助するのは困難
    • 地理的問題
      • 距離の近さ故、台湾周辺での戦闘は与那国島・西表島等にも重大な影響
      • 直接的な巻き添え被害だけでなく、難民の受入問題や物流停滞も発生
    • 在日米軍の対応
      • 台湾有事発生時、米中衝突は必至
        • 台湾・南西諸島の安定は、西太平洋における米国覇権の重心
      • 在日米軍への攻撃は日本にも波及
    • 尖閣諸島有事に直結?
      • 中国は尖閣諸島を台湾の一部と認識している可能性
      • 台湾有事に際し、尖閣諸島も占領される恐れ
    • 台湾有事は、重要影響事態・存立危機事態・武力攻撃事態などに繋がる可能性が高い。
  • 私たちは、何をするべきか?
    • 現実を知る。
      • 日本はプレーヤーではなく駒
        • 日本に台湾有事を回避させる能力は無い。
        • ただし、台湾有事の結末に大きな影響力を持つ。
      • 積極的に関与すれば、衝突時の大被害は不可避
      • 台湾を見捨てれば、将来の破滅が決定的に
    • 今こそ「どういう世界でありたいか」を見つめ直す。
      • 行き当たりばったりは悪手、国の方針は一貫する必要
      • どのような選択をするにせよ、結果は国民に降りかかる。
      • せめて、納得のいく結果を。
水雷長 遠見1尉

やれやれ……台湾問題は日に日に大変なことになっていくなぁ。

砲術士 嶋村3尉

中国人同士で争うなんて、不毛ですね。

水雷長 遠見1尉

いや、台湾は中国人じゃないよ?

砲術士 嶋村3尉

あれ?そうなんですか?
でも、台湾海軍は「ROC Navy」って名乗りますよね?ROCは中国って意味だって、れーちゃんが言ってましたけど。

水雷長 遠見1尉

あー、うん。まあ、中国と言えば中国なんだけど……。

目次

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台湾問題の歴史的背景

日本による統治と敗戦による領有権放棄

水雷長 遠見1尉

戦前、台湾を日本が統治していたのは……さすがに知ってるよね?

砲術士 嶋村3尉

いやだなぁ、さすがの私もそれくらいは知ってますよ!
日清戦争で勝ったから、清から分捕ったんですよね。

水雷長 遠見1尉

うん、まさにそうなんだけど。ただ、清から割譲されたからと言って、それ以前、台湾が清の一部とハッキリ言えたかと言うと、そういうわけではないんだ。

水雷長 遠見1尉

そもそも、台湾には先住民が住んでいたんだけど、漢民族のような中国でメジャーな民族とは異なる系統だったんだ。どちらかというと、ミクロネシアとかのオセアニア方面の民族に近い。

水雷長 遠見1尉

もちろん、地理的な近さ故に、中国の歴代帝国の影響下にはあったけど、台湾島自体の地形の険しさもあって、産業らしい産業も興らなかったし、各王朝もあまり興味を示さなかったようだね。
島の中では統一国家も長らく成立せず、様々な部族が混在したから、日本統治時代の初期でも、いわゆる「首狩り族」が存続してたなんて話がある。

砲術士 嶋村3尉

ほぇー、そうだったんですか。

水雷長 遠見1尉

17世紀半ば、漢民族系の人が当時滅亡しかけていたみん王朝の再興拠点として、ヨーロッパ人を追放して国家を作るんだけど、すぐに満洲系である清に征服される。

砲術士 嶋村3尉

そこから中国のものになるんですかね。

水雷長 遠見1尉

確かに、そのあとで大陸から漢民族系の移住者がどんどん押し寄せるようになって、文字や料理のような文化も中国のものが取り入れられるようになった。

水雷長 遠見1尉

ただ、清の統治がどこまで及んでいたかというと、結構微妙なところで……。
明治時代初期に、宮古島の船が遭難して台湾に漂着したとき、現地の先住民に漂流民が殺害されてしまうという事件があったんだ。でも、日本政府が清に抗議をしたら、清側の担当者は「『化外けがいの民』のやったことだから、清に責任はない」と回答したんだ。

砲術士 嶋村3尉

なんですか?その「けがいのたみ」って?

水雷長 遠見1尉

中国の歴代王朝が持っていた概念だね。帝国自体がきちんと統治している地域と違って、その周辺には王朝の影響力は及んでいるし、基本的には刃向かわないけど、王朝が直接統治出来ているとは言いがたい地域がある。
要は、きちんと役人を駐在させたり、法律を適用したりすることができないような、蛮族の住まうところ、という話。結局、清がまともに統治出来ていたのは、山の険しくない僅かな地域で、大部分には全く手が及んでなかったんだ。

砲術士 嶋村3尉

あー、つまり、清としては「台湾なんて、そんな地の果てで何があったかなんて知らんわ」ってことだったんですか。

水雷長 遠見1尉

そう。
このあと日本が怒って台湾に出兵したり、色々大問題になるんだけど、本題じゃ無いから省くね。
清の時代まで、中国と台湾の関係は、そのくらい緩いものだったという認識でいてくれればいいよ。

水雷長 遠見1尉

で、日清戦争の結果、下関条約によって台湾と澎湖諸島が日本に割譲される。

砲術士 嶋村3尉

台湾が親日になるきっかけですね!

水雷長 遠見1尉

あー、うん。まぁ、日本統治時代には開発とか教育とか、良いこともたくさんやったからね。それが良かったという台湾人も結構いる。ただ、その過程で抗日運動を弾圧したりはしてるし、不平等な扱いもあったからね。
「民族自決」の概念が登場するのも第一次大戦後だからしょーがないし、諸外国のやった植民地政策に比べれば遥かに穏便なんだけど、手放しで賞賛出来る話ではない、というのは覚えておいた方がいいかな。

今回の本題ではないのであまり深掘りしませんが、台湾の人々が日本統治時代について他国に比べると好意的なのは、その後の国民党政府の酷さと、李登輝総統によるイメージ改善、そして中華人民共和国による脅威によるところが大だと考えています。人の心は移ろうもの。少なくとも、日本人の立場ではあの時代を軽率に肯定しない方が安全だと思います。

水雷長 遠見1尉

結局、日本は戦争に負けて、台湾の領有権を放棄することになる。そして中国が台湾に進駐するんだ。


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国共内戦と国民党政府の移転

水雷長 遠見1尉

ところがここで問題が起きる。国共内戦の激化だね。

砲術士 嶋村3尉

高校の時になんとなく習った気がするんですけど……。なんでしたっけ?それ?

水雷長 遠見1尉

国共内戦というのは、中国での国民党共産党の内戦のこと。
第二次大戦の頃の中国は一応「中華民国」という国ではあったんだけど、あちこちに軍閥が出来て、実際は統一国家としての体をなしていなかったんだ。
その中で最も力のあった軍閥が蒋介石の率いる国民党。対して毛沢東率いる共産党は日中戦争開始時点で、国民党との内戦に敗れて内陸部に落ち延びていたんだ。

水雷長 遠見1尉

内戦を続けていた中華民国だけど、日中戦争では「国共合作」といって、国民党と共産党が協力して日本と戦うんだ。日本にとっての誤算の一つだね。
でも、日本との戦争が終わると、国民党と共産党は再び仲違いして内戦を再開する。そして国民党は共産党に負けてしまうんだ。

砲術士 嶋村3尉

もともと、国民党の方が強かったんですよね?なんで共産党の方が勝ったんですか?

水雷長 遠見1尉

色々。国民党の方が日中戦争で正面に立って戦ったから損耗が激しかったのもある。共産党はソ連から援助を得て力を増していたのに対して、国民党はアメリカが支援を打ち切ってしまったから、継戦出来なくなったというのもある。
まぁ、あと……。こう言っちゃなんだけど、国民党の腐敗があまりにも酷すぎたのも原因の一つと言われてる。共産党はゲリラ戦を駆使して勝つんだけど、その力の源泉は民衆の支持なんだよね。

水雷長 遠見1尉

共産党に負けた国民党は、台湾に逃げる。台北に遷都して、大陸への反攻の機会を窺うことになるんだ。

砲術士 嶋村3尉

あ、なるほど。それが今の台湾ってことですか。

水雷長 遠見1尉

そういうこと。一方、中国大陸を制圧することに成功した共産党は、1949年に北京の天安門広場で中華人民共和国の建国宣言を行う。こうして中国本土には共産党による中華人民共和国政府、台湾には国民党による中華民国政府の2つの政府が出来上がる。
で、どちらの政府もひとまず自分が占領した地域を統治するのに忙しく、内戦はなし崩し的に終わりを迎えるんだ。

砲術士 嶋村3尉

それにしても、水雷長は物知りですね。

水雷長 遠見1尉

高校、大学と、そういうゲームにどハマりして、落ちこぼれたからね……。

砲術士 嶋村3尉

あっ……、


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「一つの中国」問題

水雷長 遠見1尉

さて、ここで問題になるのが、国民党政府と共産党政府、諸外国はどちらを本当の中国政府と見なすか。これが「一つの中国」問題なんだ。

砲術士 嶋村3尉

どっちも中国の政府なんですよね?どっちが本物なんて考える必要ないんじゃないですか?

水雷長 遠見1尉

ところが、そうもいかない。それぞれの政府からしてみれば、中国大陸も台湾島も全て、本来は自分たちが統治すべきもので、もう一方の政府……を名乗る不届き者が不法占拠しているという状態なんだ。
外国がその不届き者と外交関係を結んでしまったら、相手を排除して失地回復するハードルが上がってしまう。

水雷長 遠見1尉

だから、国民党政府も共産党政府も、自分たちこそが中国唯一の合法政府であると主張して相手の存在を否定し、諸外国に対してもう一方と外交関係を結ばないように求めた。

砲術士 嶋村3尉

まあ、でも中国といったらやっぱり大陸の方ですよね。

水雷長 遠見1尉

ところが最初はそうでもなかったんだ。今でこそ中華人民共和国の方を中国だと認識している人がほとんどだけど、戦後しばらくはむしろ台湾の中華民国の方が中国として存在感を持っていたんだ。

砲術士 嶋村3尉

え、そうなんですか?

水雷長 遠見1尉

たとえ内戦に敗れたとしても、中華民国は第二次大戦の戦勝国の主要メンバーだったからね。あのポツダム宣言だって、アメリカ・イギリスと中華民国の三カ国で宣言したんだ。
国連憲章にも、安保理の常任理事国は中華民国だと記載されている。

第23条

  1. 安全保障理事会は、15の国際連合加盟国で構成する。中華民国フランスソヴィエト社会主義共和国連邦グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国及びアメリカ合衆国は、安全保障理事会の常任理事国となる。総会は、第一に国際の平和及び安全の維持とこの機構のその他の目的とに対する国際連合加盟国の貢献に、更に衡平な地理的分配に特に妥当な考慮を払って、安全保障理事会の非常任理事国となる他の10の国際連合加盟国を選挙する。
国連憲章
水雷長 遠見1尉

だから、どれだけ大陸を共産党政府が押さえていても、安保理常任理事国として諸外国への強い影響力を持っていたんだ。
もっと言えば、中華人民共和国は国連加盟国としての議席すら持ってなかった。

砲術士 嶋村3尉

でも、今は違いますよね?なんで変わっちゃったんです?

水雷長 遠見1尉

アメリカの外交方針の転換が原因だね。
まず、当初蜜月関係にあった中華人民共和国とソ連は、政策の方向性の違いや領土問題から、50年代60年代と、時代を経るごとにどんどん関係を悪化させていた。そこに、ベトナム戦争の泥沼化が重なる。アメリカはベトナム戦争の解決に中華人民共和国の協力を得る必要があったし、中華人民共和国側はソ連との紛争に備えてアメリカとの関係を改善する必要があった。
というわけで、70年代初頭から、米中関係は急速に接近するんだ。

水雷長 遠見1尉

アメリカは停戦の協力を得る見返りに、中華人民共和国を国連加盟国として認め、常任理事国の地位を中華民国から中華人民共和国へ移すことに同意する。こうして1971年に国連総会で行われた決議(アルバニア決議)で、常任理事国は中華人民共和国になるんだ。

水雷長 遠見1尉

ただ、アメリカにとって誤算だったのは、中華民国・中華人民共和国の両方を国連加盟国として維持するつもりだったのが、各国の動きをコントロール出来ず、中華民国を国連から追放するような決議が行われてしまったこと。
これに立腹した中華民国政府は自ら国連を脱退してしまうんだ。

2758 (XXVI). Restoration of the lawful rights of the People’s Republic of China in the United Nations
(中華人民共和国の国連における正当な権利の回復)

The General Assembly,

Recalling the principles of the Charter of the United Nations,

Considering the restoration of the lawful rights of the People’s Republic of China is essential both for the protection of the Charter of the United Nations and for the cause that the United Nations must serve under the Charter,

Recognizing that the representatives of the Government of the People’s Republic of China are the only lawful representatives of China to the United Nations and that the People’s Republic of China is one of the five permanent members of the Security Council,

Decides to restore all its rights to the People’s Republic of China and to recognize the representatives of its Government as the only legitimate representatives of China to the United Nations, and to expel forthwith the representatives of Chiang Kai-shek from the place which they unlawfully occupy at the United Nations and in all the organizations related to it.

(総会は、国連憲章の原則を想起し、中華人民共和国の正当な権利の回復が、国連憲章の保護と、国連が憲章の下で果たすべき使命の両方にとって不可欠であることを考慮し、中華人民共和国政府の代表が、国連における中国の唯一の合法的代表者であり、中華人民共和国が安全保障理事会の常任理事国の一つであることを認識し、中華人民共和国に対し、そのすべての権利を回復し、その政府の代表者を国連における中国の唯一の正当な代表者として承認するとともに、蒋介石の代表者を、国連及びこれに関連するすべての機関において不法に占拠している地位から直ちに追放することを決定する。)

1976th plenary meeting,
25 October 1971.

Restoration of the lawful rights of the People’s Republic of China in the United Nations.
砲術士 嶋村3尉

台湾、可哀想ですね……。

水雷長 遠見1尉

そう。このあたりから、各国は中華民国と断交して中華人民共和国と国交を結ぶんだ。日本も例外ではなく、1972年に田中角栄が訪中、日中共同声明を発して中華人民共和国と国交正常化する。
名実共に、中国と言えば中華人民共和国を指す時代がやって来る。

水雷長 遠見1尉

この「一つの中国」問題は今でも尾を曳いている。例えば、スポーツの大会で台湾の選手は「チャイニーズタイペイ」って紹介されるでしょ?

砲術士 嶋村3尉

確かに!

水雷長 遠見1尉

日本を含め、多くの国は「中華民国」という国は存在しないという建前があるから、中華民国の選手とは紹介出来ない。でも中国の選手団ではないから中国とも紹介出来ない。「台湾」と表現するのも「台湾」という独立国であるかのような印象を与えるからダメ。そういう八方塞がりの中で登場した苦肉の策が「チャイニーズタイペイ」。
「中国の台北」ということで、中華人民共和国政府にも、中華民国政府にも、それなりに配慮した妥協策なんだ。

砲術士 嶋村3尉

スポーツ大会にまでそういう政治が出てくるんですね。


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揺れる「台湾人」のアイデンティティ

「本省人」と「外省人」の対立、その緩和

水雷長 遠見1尉

さて、国際社会から切り離されてしまった台湾だけど、そもそも国としての出発点が出発点なだけに、なかなか複雑な状況が続いている。

砲術士 嶋村3尉

台湾は台湾で、もともと人が住んでたところに、大陸から国民党の人達が逃げ込んで来たんですもんね。対立は起きなかったんですか?

水雷長 遠見1尉

いや、もうそれは。対立なんて生易しいものじゃなくて、国民党による台湾人への弾圧が行われたんだ。

砲術士 嶋村3尉

えぇ……。

水雷長 遠見1尉

時系列を整理すると、1945年 中華民国政府が台湾に進駐して占領統治を開始する⇒1947年 国共内戦が再燃する⇒1949年 負けた国民党政府が台湾に遷都するという流れ。

水雷長 遠見1尉

で、現地民の弾圧は国民党が逃げてくる前、占領統治を始めた頃からだね。まあ、国民党からしてみれば、戦勝国様が敗戦国の統治にやって来たわけだからね……。現地民に対して高圧的に振る舞うのも当然と言えば当然かもしれない。

水雷長 遠見1尉

国民党政府と住民は深刻な対立を抱えていたし、国民党内にも台湾住民にも共産党のシンパが浸透していたものだから、あちこちで混乱が起きる。1947年には、犯罪取り締まりの失敗をきっかけに暴動が起きて、反国民党的な活動をする住民が虐殺される、なんて事件(二・二八事件)も起きたよ。後に台湾総統になって民主化を牽引する李登輝も、この時当局から狙われて、友人にかくまってもらえた事で生きながらえた、なんて話もある。

砲術士 嶋村3尉

いや、全然ダメじゃないですか。

水雷長 遠見1尉

台湾では、もともと台湾に住んでいた人を「本省人」、戦後に大陸から台湾に移住した人を「外省人」と呼ぶんだ。
国民党政府は戒厳令を発して、言論や集会の自由を制限して独裁体制を敷いた。国民に対する身元調査を行って、公務員などの要職はそれをパスした人……まぁ、要するに外省人で独占する体制を作った。これによって、少数の外省人が多数の本省人を抑圧する社会体制が構築される。

砲術士 嶋村3尉

そうなると国は「中華民国」って名乗ってますけど、本来の台湾人からしてみたら、中国でもないのに勝手に中国を名乗られているような感じですね。そんな国に愛着なんて持てないんじゃないですか?

水雷長 遠見1尉

まあ、それもまた複雑で……。誤解されがちだけど、「本省人=台湾先住民ではない」んだ。さっき言ったとおり、清の時代に大陸から漢民族が移住してたからね。本省人には、先住民系の本省人もいれば、漢民族系の本省人もいるんだ。

砲術士 嶋村3尉

えーっと……。外省人は中国からやって来た人で、本省人は元々いた人だけど中国から来た人も混ざっていて……???

水雷長 遠見1尉

血縁も大事だけど、文化的に言えば、日本が統治する前から中国由来の文化に慣れ親しんでいた地域で、日本統治時代もそれが完全に廃れたわけではなかった。だから、本省人だって、全く「中国」という存在と無関係だったわけではない、というのは知っておいた方が良いと思う。

水雷長 遠見1尉

ただ、その「中国人」としての自意識は、当然外省人ほど強くない。
しかも国から公然と弾圧されたことで、疎外感と外省人への反発を強めた。そういう本省人と、中国を強く意識する外省人の対立が、台湾の社会構造には存在したんだ。

砲術士 嶋村3尉

複雑ですね。

水雷長 遠見1尉

とは言え、それも近年はだいぶ弱くなってきている。いつ移住してきたかによる対立だからね。戦後80年が経って世代交代も進んだ。民主化も行われて、本省人と外省人を隔てるものはなくなったし、本省人と外省人が結婚して子を設けるのだって珍しくない。
若年層を中心に、今どき本省人だ、外省人だというのは時代遅れだという考え方が一般的になっているそうだね。

大陸志向の喪失

水雷長 遠見1尉

ここで重要になってくるのが……やっぱり70年代のアメリカの外交方針転換なんだ。

水雷長 遠見1尉

もともと、国民党政府としては、アメリカの支援を得つつ、いつの日か大陸に反攻作戦を仕掛けて中国本土を奪回するつもりでいた。
中華民国政府が本来いるべき場所は大陸。今は台湾に押し込まれているけれど、ここは中国の一地方……それも辺境の島に過ぎない。国民党政府の認識はそうだった。

水雷長 遠見1尉

でも、アメリカは反攻作戦を後押ししてくれなかったし、そうしているうちに、アメリカが共産党政府と仲良くなってしまって、いつの間にか国際社会から孤立してしまった。

水雷長 遠見1尉

もはやそれどころではなくなったし、強硬派だった蒋介石が逝去したこともあって、70年代以降の台湾は大陸反攻を断念する。
すると、「中華民国」という国は何なんだ?という話になってくる。

砲術士 嶋村3尉

大陸に戻らないんだったら「中国人」とは言えないってことですかね?

水雷長 遠見1尉

うん。台湾の人々、とりわけ大陸人を自認していた外省人は、この頃からそのアイデンティティに疑問を持つようになっていくんだ。

水雷長 遠見1尉

それに、現実的なことを言うと、国内の不平等を維持出来なくなっちゃうんだ。外省人優遇の差別的扱いが許容されていたのは、本土からやって来たエリート様が辺境の島を統治するから。
未来永劫台湾に居続けるなら、俺もお前も台湾人。もはやその支配を正当化するものがなくなっちゃうからね。

水雷長 遠見1尉

蒋介石の息子である蒋経国は、親父の後を継いでから、この問題を緩やかに解決しようとして、本省人の部分的な政治参加や、エリート職への登用を行うようになる。
こうして、大陸を志向する国のあり方は、徐々に「台湾」そのものを国家として捉える方向へシフトしていく。

水雷長 遠見1尉

80年代末には戒厳令が解除され、蒋経国の後継者として本省人の李登輝が総統に就任、台湾の民主化に成功する。

砲術士 嶋村3尉

ほぇ~。

水雷長 遠見1尉

さらっと流したけど、これってかなり凄いことだからね?
独裁体制の終焉って、だいたい血生臭い革命が起きるのが常だけど、台湾は体制側が自発的に民主化を実現したんだ。

李登輝は、日本統治時代に青春を過ごし、半分日本人としての自認を持ちながら、台湾の発展のために尽くした政治家です。蒋経国による本省人登用の方針があったとは言え、外省人至上主義が色濃く残る国民党でタフに出世を重ね、ついには台湾の民主化……つまり本省人の解放を達成します。
筆者も著書を何冊か読みましたが、その思慮や教養の深さには感嘆するばかりでした。台湾問題を考える上で、このような優秀なリーダーがいたことは理解しておくとよいでしょう。

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水雷長 遠見1尉

2000年代になると、選挙で勝利した民進党の陳水扁が総統に就任する。今や国民党と民進党の二大政党制を掲げる、立派な民主主義国家に生まれ変わったんだ。

国内の意見多様化

水雷長 遠見1尉

中国本土への反攻を断念したこと、民主化して自由に意見が言えるようになったこと、時間経過によって本省人・外省人の差が意識されなくなってきたこと、こういうことが積み重なって、台湾の人々の間では、この国をどうしようかと色んな意見が出るようになった。

水雷長 遠見1尉

まずは、「中華民国」という国号を使い続けるか。それとも別の国号……例えば「台湾」を国の名前にしてしまうか。

砲術士 嶋村3尉

「台湾」じゃダメなんですか?

水雷長 遠見1尉

「台湾」を国号に、と考える人は、「台湾」はそもそも「中華民国」以前の中国各王朝と別の国だという価値観を持っている。そういう人は少なくなくて、政府もそれを否定していないから、外交の場や輸出品の刻印でも「TAIWAN」という名前は使われている。

水雷長 遠見1尉

ただ、中国の伝統的文化を受け継ぐ存在として「自分たちは中国だ」というアイデンティティを持っている人もいるからね。そういう人達は「中国」の名を捨てたがらない。

水雷長 遠見1尉

それに、この国が大陸に存在した中華民国の延長線上にあるのは間違いないからね。憲法にしても法律にしても、中華民国のものを改正することで今の形になっている。国民の構成は変わっても、その法的な正統性は欠かせないという人もいるんだ。

水雷長 遠見1尉

それから、「便宜上、わざわざ変えなくてもいいじゃないか」という人も結構いる。

砲術士 嶋村3尉

べ、便宜上……?

水雷長 遠見1尉

台湾と中国大陸の間には経済的な繋がりがあるんだ。工業製品だってそうだし、毎年大量の観光客が台湾を訪れていて、経済効果を生んでいる。
「政府は違えども、同じ中国人だ」というふわっとした連帯感があるからこそ、それが維持されていると考えている人は結構多い。

水雷長 遠見1尉

それに、わざわざそういう動きを見せれば、中華人民共和国政府を刺激してしまうかもしれない。名実共に独立しようとしたら、中国はそれを押さえ込もうとするからね。
国号のために、そんなリスクは取れないと考える人はかなり多い。

水雷長 遠見1尉

これはそのまま独立派、現状維持派、統一派の違いにも繋がっている。きちんと独立を果たしたいと考える人もいれば、特に困っていないんだから現状維持こそが最適と考えている人もいるんだ。

砲術士 嶋村3尉

統一派っていうのもいるんですか?

水雷長 遠見1尉

少数だけど。中華人民共和国とは相容れないけど、共産党政府が倒れた暁には後継政府との統一を果たそうと考えている人もいるみたい。


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独立を後押しする「地位未定論」

水雷長 遠見1尉

ここで、台湾独立派を後押しするロジックとして「台湾の地位未定論」という話がある。

水雷長 遠見1尉

そもそも、国民党政府にしても、共産党政府にしても、台湾が中国のものだと主張しているのは何故だったか覚えてる?

砲術士 嶋村3尉

えーっと……。日本が戦争に負けて、中国に返還したからですよね?

水雷長 遠見1尉

そう、そこなんだ。
「もともと中国のものであった台湾」を日本が奪った。戦争の結果、それが中国に返ってきた。これが中国側の認識なんだ。

水雷長 遠見1尉

ところが、そうではないという説がある。
日本は台湾の領有権を放棄しただけで、どこかの国に返還したわけではない、だから帰属未定、という説なんだ。

砲術士 嶋村3尉

えぇ……。

水雷長 遠見1尉

日本が戦前に獲得した外地の領有権・施政権を失ったのは、サンフランシスコ平和条約と、その前のポツダム宣言受諾による。
ポツダム宣言では、その前に出たカイロ宣言を履行するように求めていて、そのカイロ宣言では台湾を含む、日本が清から奪った地域を返せという話が出てくる。

八、「カイロ」宣言ノ条項ハ履行セラルヘク又日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルヘシ

国立国会図書館「ポツダム宣言

(前略)

右同盟国の目的は日本国より1914年の第一次世界戦争の開始以後に於て日本国が奪取し又は占領したる太平洋に於ける一切の島嶼を剥奪すること並に満洲、台湾及澎湖島の如き日本国が清国人より盗取したる一切の地域を中華民国に返還することに在り日本国は又暴力及貪欲に依り日本国の略取したる他の一切の地域より駆逐せらるべし

(後略)

内閣府「カイロ宣言
水雷長 遠見1尉

……なんだけど、このカイロ宣言は、日本に対して米・英・中三カ国がどうやって協調して戦っていくのかの方針を述べただけなんだ。つまり、「私たちは、日本が清から奪った地域を取り戻すために戦います」という宣言をしているだけで、これ自体は日本に何かを要求しているわけじゃないんだよね。

水雷長 遠見1尉

ポツダム宣言も、結局「日本の主権が及ぶ地域は連合国が決める」としか言っていない。だから、サンフランシスコ平和条約で決まったことが全て、としか言い様がないんだ。

砲術士 嶋村3尉

そっちはきちんと条約を結んだんですよね?それならいいじゃないですか。

水雷長 遠見1尉

でもさ、サンフランシスコ平和条約って何年に締結されたか覚えてる?1951年だよ。その頃、中国はどうなってた?

砲術士 嶋村3尉

えーっと。あっ、もう国民党が台湾に逃げた後ですか……。

水雷長 遠見1尉

そう。そのゴタゴタがあったから、平和条約の条文はほとんど米英の担当者が考えたし、中華民国政府はこの会議に参加してないし、条約にも調印してないんだ。ソ連も、中華人民共和国政府も同様。
この片面講和は、仕方ないと思うけど、今に至るまで色んな問題をもたらしているよ。

水雷長 遠見1尉

このサンフランシスコ平和条約では、日本は台湾の領有権を放棄した。でも、さっき言ったとおり、「どの国に返還する」とは明言しなかったんだ。

第2条

(b) 日本国は、台湾及び澎湖諸島に対する全ての権利、権原及び請求権を放棄する。

外務省「日本国との平和条約
砲術士 嶋村3尉

でも、普通に考えたら中国のものだって思いません?

水雷長 遠見1尉

もちろん。経緯からすれば、そうなる。
実際、中華民国政府は終戦直後から台湾の占領統治を任されているわけで、平和条約締結次第、正式に返還を受けるはずだったんだと思う。

水雷長 遠見1尉

でも、平和条約はそうならなかった。ここに勝機を見出したのが台湾独立派。中国に返還された地域だったら、中国政府以外が統治するのはおかしいという話になるけど、統治者が決まっていない地域なら、現地民が政府を作って独立宣言しちゃえばいいじゃん、というワケ。

砲術士 嶋村3尉

そんな話、通用するんですか?

水雷長 遠見1尉

まぁ……、中華民国政府自身が、台湾統治の正統性主張のために、返還を否定するわけにはいかないからね。
ただ、時代を経るにつれ、台湾の脱中国色が強まってきたから、それを支持する人も無視出来なくなってきているんだ。


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台湾問題に対する各国の立場

水雷長 遠見1尉

では、こういう経緯を踏まえて、各国はこの台湾問題にどういうスタンスでいるのか。

中華人民共和国

水雷長 遠見1尉

まず、中華人民共和国。彼らは「一つの中国」を主張していて、台湾は中華人民共和国の領土の一部だとしている。

砲術士 嶋村3尉

まぁ、そうなりますよね。

水雷長 遠見1尉

ところが、ボクから言わせてみれば、それはちょっとおかしい。
中華人民共和国という国家は、成立以来、一度も台湾という島を統治したことが無いんだ。なのに、まだ手に入れたことすらない台湾を領土だと主張するのはおかしくない?

砲術士 嶋村3尉

あれ?言われてみれば、確かにそうですね。

水雷長 遠見1尉

そこで出てくる彼らの言い分が、中華民国が有した権利は全て自分たちのもの、という理屈。
「中華民国」と「中華人民共和国」という別々の国があるんじゃなくて、「中国」という国があって、かつては中華民国政府が存在したけど、今は中華人民共和国政府こそが唯一の中国政府。だから、以前中華民国政府が持っていた権利は全て中華人民共和国政府に継承されている。そういう考え方なんだ。

水雷長 遠見1尉

この理屈を補強する材料として、国連でのアルバニア決議や、多くの国が中華民国政府と断交して中華人民共和国政府と国交を結んでいることを持ち出す事が多い。

中華人民共和国政府が度々持ち出すアルバニア決議ですが、この決議が認めているのは、①中華人民共和国政府の代表が中国唯一の代表であること ②中華人民共和国が常任理事国であること ③蒋介石の代表者(≒中華民国政府の代表者)を国連や関係機関から追放することの3点であって、台湾の領有権については一切述べていません
また、ここで「中国唯一の代表」としているのは国連の議席をどの政府に委ねるかの話であり、国連加盟国各国に対し台湾との断交を求めているわけでもなければ、台湾の国家としての法的地位を否定するものでもありません

水雷長 遠見1尉

彼らがこの「一つの中国」原則を強硬に主張しているのは、もちろんメンツの問題もあるんだけど、この問題を内政問題と称することで、諸外国からの干渉を避ける上でも重要になっている。

水雷長 遠見1尉

名目、体裁がどうであれ、一つの独立国家が台湾島には存在するわけで、これを押さえにかかれば、戦争が起きる。でも、それはあくまで国内でちょっと内乱が起きたのと同じ。だから、侵略行為ではないし、諸外国がとやかく口出しすることじゃない、という言い分だね。

砲術士 嶋村3尉

いくら中国軍が大きいと言っても、台湾に侵略するのは結構大変だと思うんです。本当にそんなことするんですかね?

水雷長 遠見1尉

実際にやるかどうかは、もちろん分からない。
ただ、中華人民共和国政府は武力での解決も辞さない姿勢だね。

水雷長 遠見1尉

厳密に言うと、中国もずっと台湾に強硬な姿勢だったわけじゃない。
70年代以降の鄧小平政権では、平和的解決を掲げて、一国二制度を認めようとする姿勢すらあったし。

水雷長 遠見1尉

露骨に武力をチラつかせるようになったのは90年代以降。この頃の江沢民政権は鄧小平より台湾に強硬な姿勢だったね。
95~96年の台湾海峡危機では、李登輝総統のアメリカ訪問への反発や、総統選挙への圧力を企図して、中国は台湾周辺海域に弾道ミサイルを撃ち込んだり、陸海軍による演習を行ったりした。
でも、この時はアメリカが台湾海峡に空母2隻を派遣し、その軍事的圧力を前に中国は屈せざるをえなかった。

砲術士 嶋村3尉

あ、聞いたことがあります。
その時の屈辱が忘れられないから、中国軍は空母の獲得に躍起になってるって話ですね。

水雷長 遠見1尉

もちろん、それだけが理由ではないんだけど、中国にとって強いショックになったのは間違いないね。

水雷長 遠見1尉

その後、しばらく中国は表だった動きを見せず、00年代以降の経済的躍進の裏で軍事力の増強に努める。胡錦濤政権では台湾との経済関係を重視したり、あんまり刺激しすぎないようにしようとしていた感じがあった。

水雷長 遠見1尉

でも、2005年にはちゃっかり反国家分裂法という法律を成立させていて、非平和的な方法……つまり武力行使による解決を法的に認めている

 第8条 「台独」分裂勢力がいかなる名目、いかなる方式であれ台湾を中国から切り離す事実をつくり、台湾の中国からの分離をもたらしかねない重大な事変が発生し、または平和統一の可能性が完全に失われたとき、国は非平和的方式その他必要な措置を講じて、国家の主権と領土保全を守ることができる。

 前項の規定によって非平和的方式その他必要な措置を講じるときは、国務院、中央軍事委員会がそれを決定し、実施に移すとともに、遅滞なく全国人民代表大会常務委員会に報告する。

反国家分裂法(中華人民共和国駐日本国大使館)
水雷長 遠見1尉

武力行使を放棄しない姿勢は、習近平政権で明確になっていく。色んな有力者が、事ある毎に「武力行使の放棄を約束しない」と明言するようになったんだ。


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中華民国

水雷長 遠見1尉

一方の台湾、中華民国政府。
こっちは中華人民共和国政府以上に、立場がコロコロ変わる。

水雷長 遠見1尉

かつて「一つの中国」の原則を掲げていた中華政府も、今はそれを撤回こそしていないけど、積極的に主張もしていない。

水雷長 遠見1尉

現代の台湾は、外省人の影響が強く、大陸との関係を重視する国民党と、本省人を重視する民進党の二大政党制になっている。
で、この2つの政党の間でも「一つの中国」への見解には差があって、時の政権により立場が変わるんだ。

水雷長 遠見1尉

国民党はその出自もあって、中国であり続けようとしている。「一つの中国」も主張を続けているよ。ただ、昔みたいに中華人民共和国の存在を完全否定しない。

砲術士 嶋村3尉

え?それだと、一つの中国にはならないんじゃ?

水雷長 遠見1尉

「中国はあくまで一つだけど、それをどう解釈するかは大陸と台湾で違っていてもいいじゃないか」っていう考えを採ったんだ。つまり、大陸が「中華人民共和国が唯一合法の中国政府」と言うことに台湾はとやかく言わない。台湾は台湾で、「中華民国が唯一合法の中国政府」と主張する。

砲術士 嶋村3尉

えぇ……?

水雷長 遠見1尉

……まぁ、正直、言葉遊び感が否めないよね。
大陸側が中国であることを、もう否定するだけの力は無い。でも、自分が中国であることを否定するわけにはいかない。でも、「一つの中国」を完全否定すれば共産党政府の逆鱗に触れかねない。そういう苦しさの果てに出てきた考え方だと思うよ。

水雷長 遠見1尉

80年代後半から、民主化と時を同じくして中台間の民間交流も解禁されるようになった。李登輝総統自身は「中華民国ではなく台湾」としての独立をいつか勝ち取りたいという情緒的側面を持ってはいたけど、まずは実利を取るということで、大陸との非公式な実務者会議の場で、そういう立場を表明したようだね。

用語解説

92年コンセンサス(九二共識)

1992年に、中台両政府の窓口機関同士で行われたとされる合意のこと。

双方が「一つの中国」の原則を堅持することを合意したとされるが、その解釈が中台間で異なる。台湾側は「中台双方が『一つの中国』原則を独自に表明し合う」(一中各表)ことで合意したと認識しているが、中国側はそれを認めていない。一中各表の狙いは、「一つの中国」を双方が述べ合うことで、中台が対等な関係である=一国二制度ではないことを明らかにしようとしたものと思われる。

合意時点では、そのような合意が行われたこと自体が公開されておらず、2000年代に入って台湾で民進党に政権交代した際、合意の存在が明らかになった。陳水扁・蔡英文・頼清徳といった民進党政権下では92年コンセンサスの存在自体を認めていないが、馬英九総統の国民党政権では存在を認めている。

砲術士 嶋村3尉

民進党政権ではこれを認めてないとありますけど、民進党はどういうスタンスなんですか?

水雷長 遠見1尉

民進党は、そもそも「中華民国」であることに消極的なんだ。本省人のための、国民党への対抗組織として出来た政党だからね。
だから、当初は「台湾」という国を独立させようと主張していた。ただ、性急に事を運ぶと国内からも反発があるし、何より名目上の独立に拘りすぎると大陸を刺激する恐れがあるということで、現代の民進党は明確に独立を主張していない。

水雷長 遠見1尉

体裁はどうであれ、台湾は既に台湾人のための独立国家として運営出来ている。だからわざわざ独立だと叫ばずとも、今の体制を維持出来れば、独立は守れる。と民進党の有力者は度々主張しているんだ。

砲術士 嶋村3尉

さっき出てきた、「実利のために現状維持」ってやつですね。

水雷長 遠見1尉

そういうこと。


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アメリカ合衆国

水雷長 遠見1尉

さて、台湾一番の後ろ楯となっているのが、アメリカ合衆国。
1950年代から米華相互防衛条約によって、台湾が攻撃された場合、アメリカは参戦することになっていたんだ。50年代のアメリカにとって、東アジアの共産化を防ぐことはとても重要だったからね。

水雷長 遠見1尉

ただ、そんなアメリカも、70年代に入ると外交方針を転換させ、中国と国交正常化してしまう。中華人民共和国と国交を結ぶためには、「一つの中国」を認め、中華民国と断交しないといけない。アメリカも例外ではなく、台湾と断交して、米華相互防衛条約も1980年で終了してしまう。

砲術士 嶋村3尉

それって、見捨てたってことですよね。
あれ?でも、90年代に中国が台湾を恫喝したときはアメリカが空母を派遣したんじゃなかったんでしたっけ?

水雷長 遠見1尉

そう、それこそがアメリカは台湾と断交したけれど、台湾を見捨てたわけじゃなかったんだ。

水雷長 遠見1尉

アメリカは「あいまい戦略」とか「戦略的あいまいさ」と呼ばれる方針を採用したんだ。
まず、中華人民共和国との国交正常化において「一つの中国」を認めた……ようで、完全には認めなかった。

The U.S. side declared: The United States acknowledges that all Chinese on either side of the Taiwan Strait maintain there is but one China and that Taiwan is a part of China. The United States Government does not challenge that position. It reaffirms its interest in a peaceful settlement of the Taiwan question by the Chinese themselves. With this prospect in mind, it affirms the ultimate objective of the withdrawal of all U.S. forces and military installations from Taiwan. In the meantime, it will progressively reduce its forces and military installations on Taiwan as the tension in the area diminishes.

米国側は次のように宣言した:米国は、台湾海峡の両岸にいるすべての中国人が「一つの中国」のみが存在し、台湾が中国の一部であることを主張していることを認識している。米国政府はこの立場に異議を唱えない。米国政府は、台湾問題が中国人自身による平和的解決を図ることに引き続き関心を寄せる。この見通しを踏まえ、米国政府は台湾からの全米軍部隊及び軍事施設の撤収を最終目標と確認する。その間、同地域の緊張緩和に伴い、台湾における米軍部隊及び軍事施設を段階的に削減していく。

米中共同声明
水雷長 遠見1尉

多くの国が中華人民共和国と国交正常化するにあたって、台湾が中国の一部であることを承認(recognize)すると表現したのに対して、アメリカは認識(acknowledge)すると表現した。

砲術士 嶋村3尉

すると……?

水雷長 遠見1尉

コレは、つまりアレだよ。
“I copied your message.”だよ!

砲術士 嶋村3尉

あ、なるほど。「お前がそう言ってるのは分かった。まあ、そのとおりにしてやるとは一言も言ってないけどな!」ってヤツですね!

砲術士 嶋村3尉

しかし、これで中国は納得したんですか?

水雷長 遠見1尉

まあ、当然納得はしてないと思うよ。本当は承認させたかったと思うけど、そこで物別れになるなら、ひとまずアメリカと外交ルートを確保しておいた方がいいか、と妥協したんだ。

水雷長 遠見1尉

それはそれとして、中国はなんとかして「承認した」感を演出しようとしている。事ある毎に「台湾が中国の一部である事を認めたのに、なんだその態度は!」ってブチ切れる。でも、アメリカは承認したとは絶対に言わない。その代わり、台湾が中国の一部であることを否定もしない。

水雷長 遠見1尉

防衛についても同じ。アメリカには台湾関係法という法律があって、台湾への武器売却や台湾侵攻時の軍事介入を可能にしている。断交していても、そうやって公然と台湾を支援しているんだ。
でも、アメリカは台湾を絶対に防衛するとは言わない

砲術士 嶋村3尉

なんでですか?台湾を中国領にしたくないなら、「台湾に手を出したらブチ殺すぞ」って普段から宣言しておけば良いじゃないですか。

水雷長 遠見1尉

ところが、それはそれでアメリカにとってはあんまりよくない。
アメリカが絶対に護ってくれる、そういう安心感があったら、台湾独立派は安心して独立宣言出来てしまうでしょ?そうすると中国が黙ってはいなくて、米中の軍事的衝突を避けられない。

砲術士 嶋村3尉

うーん、そうなると、アメリカは台湾にはそこまで友好的じゃないってことですか。

水雷長 遠見1尉

うん。アメリカとしては、あくまで台湾の島々が共産党政府の手に落ちなければいい、つまり現状維持がベストなのであって、台湾人が台湾人の国を手にするとか、そのあたりには興味が無いんだ……。

水雷長 遠見1尉

台湾に肩入れしすぎると、米中の全面衝突に繋がってしまうからね。アメリカはそんなリスクを許容出来ない。だから、一時期バイデン大統領がうっかり台湾防衛を確約するような発言をした時には、大問題になったんだ。

水雷長 遠見1尉

このあたりの雰囲気は台湾側にも共通していて、本来台湾独立を掲げるはずの民進党がそれを明示しないのは、アメリカの機嫌を取っておきたいという事情もあるんだ。


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日本

砲術士 嶋村3尉

じゃあ、日本はどうなんですか?

水雷長 遠見1尉

まあ、アメリカの対中政策に追従しているよね。
60年代まで、日本は台湾と国交を結んで、日華平和条約も締結していた。台湾を「中国」としつつ、民間交流や貿易で大陸側ともやりとりしようとしていたんだ。

水雷長 遠見1尉

ところが、70年代に入って、アルバニア決議を経て中華人民共和国が「中国」になって、中華民国は国連を脱退してしまった。しかも、ニクソンが日本への事前通知無しに訪中して、国交正常化の動きを始めてしまった。そのため、日本も大慌てで中華人民共和国政府と国交正常化へ動き出す。

水雷長 遠見1尉

先に動き始めたのはアメリカの方だけど、実際に米中国交正常化するには時間を要したのと、アメリカより先に中国市場を確保しようと田中角栄が日中国交正常化を急いだこともあって、アメリカより日本の方が先に国交正常化したよ。

水雷長 遠見1尉

ただ、このとき、後のアメリカと同じように、日本もあいまい戦略をやったんだ。
日中共同声明では、中華人民共和国政府が中国唯一の合法政府であることを承認したけど、台湾が中国の領土であることは「十分理解し、尊重」するとしか言わなかった

二 日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。
三 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。

日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明
水雷長 遠見1尉

一応、ポツダム宣言に基づく立場を堅持すると言っているから、台湾が中国に返還されたことを認めた、とも取れる。
ただ、ポツダム宣言で明示したのは、あくまで日本の領土を制限することだから、「日本は台湾の領有権を主張しませんよ」という意味とも取れる。

砲術士 嶋村3尉

もう、そんなのばっかりですね。

水雷長 遠見1尉

まあ、本当に台湾が中国のものだと思っているのなら、他の国と同じように「承認する」と言えば良いんだ。それを断言しなかったのには、それなりの理由があるってことだよね。

水雷長 遠見1尉

そして、日本は台湾有事というものを長らく、想定はしてきた。想定はしてきたけど、本当に起こるとは、そこまで思ってなかったんじゃないかな?
ところが、中国が習近平政権に入ってからきな臭くなってきた。台湾で事が起きれば、日本にも波及する。だから今、急速に防衛態勢を整えているし、政府は台湾有事とは何なのかを国民に伝えようとしている。

砲術士 嶋村3尉

いやぁ、本当に。どうなっちゃうんでしょうね。


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募集対象者 京井 未来

やあ、先パイ。何の話してるんですか?

水雷長 遠見1尉

ああ、砲術士に台湾有事とは何かって話をしてたんだ。

砲術士 嶋村3尉

水雷長、歴史に強いんですね。

募集対象者 京井 未来

あー、高校でも、ろくに勉強しないで戦争ゲームにのめり込んでたんですもんね。

水雷長 遠見1尉

ぐ……見てきたように言わないでよね。

砲術士 嶋村3尉

でも、それにしても中国はなんでそんなに台湾にこだわるんですかね?中国はあんなに広い領土があるんだから、あんな小さな島のことで揉めなくたっていいのに。

募集対象者 京井 未来

それ言ったら、尖閣諸島はもっと小さいですよ。

水雷長 遠見1尉

それはやっぱり中国のメンツの問題だよ。共産党からしてみたら、自分たちに刃向かった国民党の末裔。生かしておくわけにはいかないでしょ。

船務長 先野1尉

……さすがにその結論は短絡的過ぎるだろう。もうちょっと深く考えたまえよ。

まとめ

この記事では、台湾有事について次の内容を説明します。

第1回

  • 台湾問題の歴史的背景
    1. 17世紀後半、清に併合され、大陸から漢民族が移住
    2. 日清戦争の結果、日本に割譲
    3. 太平洋戦争の結果、日本は領有権を放棄し、国民党政府が進駐
    4. 国共内戦に破れた国民党政府が台湾に逃れ、現在の形に
    5. 1つの中国」問題
      • 国民党政府・共産党政府ともに、自身を中国唯一の合法政府と主張し、もう一方の存在を否定
      • 戦後しばらく、実質的な「中国」は中華人民共和国でも、中華民国は国連安保理常任理事国として強い影響力を発揮
      • 70年代、米国の外交方針転換により、中華人民共和国が名実共に「中国」に
    6. 台湾人のアイデンティティ問題
      • 当初、「外省人」が「本省人」を抑圧する体制
      • 70年代の大陸反攻断念により「中華民国」である必然性を喪失
      • 民主化や世代交代により、「本省人」「外省人」の差が希薄化
      • 自国を中国と捉えるか否か、台湾自体を国と捉えるか、意見が多様化
    7. 台湾地位未定論
      • 日本の領有権放棄に際し、中華民国に返還されたわけではなく、帰属未定という説
      • 主流では無いが、「台湾」としての独立派の論拠に
  • 各国の立場
    • 中華人民共和国
      • 「台湾は中華人民共和国の領土の一部」
      • 「台湾問題は内政問題」外国の干渉を拒絶
      • 武力による統一も辞さず
    • 中華民国
      • かつて「一つの中国」を表明していたが、今は明確にせず。
      • 政権により、ニュアンスが若干異なる。
        • 国民党政権:「一つの中国」自体は堅持するが、中台間で解釈が違うことを許容
        • 民進党政権:現状維持(明示せずとも台湾は既に独立国家)
    • アメリカ
      • あいまい戦略」を選択
        • 中国の主張を否定しないが肯定もしない
        • 台湾侵攻時の武力介入を確約しないが、平時から台湾を公然と支援
      • 現状維持を最優先
        • 台湾が共産党政府の管理下に置かれることは拒否
        • 台湾に肩入れしすぎると、米中全面衝突に繋がる恐怖
    • 日本
      • 米国の対中政策に追従
      • 台湾有事が現実味を帯びてきたことで、急速に準備中

第2回

  • 台湾は中国の「核心的利益」
    • 中国の海洋戦略において、台湾・沖縄諸島は不可欠の存在
      • 台湾・沖縄諸島を掌中に収めない限り、北海艦隊・東海艦隊は東シナ海に封じ込められる。
      • 本土を米国の脅威から守るためには、太平洋への進出が不可欠
      • 東シナ海・南シナ海~インド洋のシーレーン防衛も死活問題
    • 中国の夢」の障害
      • 中華民族の自己認識と整合しない現実
      • ナショナリズムと、その願望を実現する力こそが権威の源泉
      • 民族の復興を実現出来ない政権は存続出来ない。
  • 台湾有事は日本の有事になるか?
    • 在外邦人の救助問題
      • 台湾には2万人超の日本人が在留
      • 戦闘行為に関与せず在外邦人を救助するのは困難
    • 地理的問題
      • 距離の近さ故、台湾周辺での戦闘は与那国島・西表島等にも重大な影響
      • 直接的な巻き添え被害だけでなく、難民の受入問題や物流停滞も発生
    • 在日米軍の対応
      • 台湾有事発生時、米中衝突は必至
        • 台湾・南西諸島の安定は、西太平洋における米国覇権の重心
      • 在日米軍への攻撃は日本にも波及
    • 尖閣諸島有事に直結?
      • 中国は尖閣諸島を台湾の一部と認識している可能性
      • 台湾有事に際し、尖閣諸島も占領される恐れ
  • 私たちは、何をするべきか?
    • 現実を知る。
      • 日本はプレーヤーではなく駒
        • 日本に台湾有事を回避させる能力は無い。
        • ただし、台湾有事の結末に大きな影響力を持つ。
      • 積極的に関与すれば、衝突時の大被害は不可避
      • 台湾を見捨てれば、将来の破滅が決定的に
    • 今こそ「どういう世界でありたいか」を見つめ直す。
      • 行き当たりばったりは悪手、国の方針は一貫する必要
      • どのような選択をするにせよ、結果は国民に降りかかる。
      • せめて、納得のいく結果を。
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