「資産形成」にご用心!不動産投資の罠 前編

記事の要旨

この記事では、海上自衛官が勧誘されやすい不動産投資のリスクについて、次の内容を説明します。

前編

  • 海上自衛官と不動産投資
    • 不動産投資とは、土地や建物を購入し、その運用益を得る投資
      • 個人で行う不動産投資は、住宅を購入して家賃を得るものがほとんど。
    • 自衛官にとって、不動産投資は資産形成の有力な選択肢のひとつ
      • 若年定年制による将来不安から、給与収入以外の収入獲得が必要
      • 副業規制の下でも実行可能な数少ない副収入の手段
      • 圧倒的な信用力により、低金利で高額借入可能
      • 給与収入の安定によるローンを忌避しない風潮
  • ストーリー
    • 不動産投資の勧誘について、ありがちな状況を再現

後編

補給長による解説編。前編を読んで、何が問題だったのかを整理してから読みましょう。

この記事に登場する不動産勧誘のケースはフィクションです。登場する人物名、企業名、商品名等は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

この記事では投資に関する情報を扱いますが、一般論としての情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的とするものではありません。投資に関する意思決定は、全てご自身で行ってください。

某日夕刻 「ひとなみ」士官室

ひとなみ士官室のイラスト
水雷長 遠見1尉

当直士官!上陸お願いします!

航海長 梶1尉

おう、お疲れ!今日は早いね。どっか行くの?

水雷長 遠見1尉

うん、前の艦でお世話になった先輩に会ってくるんだ。
明日見さんって知ってる?仕事で近くまで来てるらしくて、久々に会わないかって連絡が来たんだ。

航海長 梶1尉

おお、防大の時の部屋長だよ。懐かしい!メチャクチャ良い人だよな。

水雷長 遠見1尉

一緒に行く?

航海長 梶1尉

そうしたいけど、さすがに今から誰かに当直士官代わってもらう訳にもいかんからなぁ……。まあ、明日見さんにはよろしく伝えておいてくれよ。

水雷長 遠見1尉

残念!それじゃあ、行ってくるね!

航海長 梶1尉

おう、気をつけてな!

航海長 梶1尉

……あれ?でも、あの人って確か……?

目次

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海上自衛官と不動産投資

勧誘の始まり

同日夕方 某喫茶店

喫茶店の店内の光景。
水雷長 遠見1尉

砲術長、お久しぶりです……!

遠見の先輩 明日見

よう、機関士!元気にしてたか。
とりあえず座れよ。

水雷長 遠見1尉

ありがとうございます。でも、居酒屋じゃなくていいんですか?

遠見の先輩 明日見

だって、お前は酒呑まないだろ?

水雷長 遠見1尉

そりゃあそうですけど……。よく覚えてましたね。

遠見の先輩 明日見

一人で呑むのもアレだしな。まぁ、たまには喫茶店もいいだろ。

しばらくして

遠見の先輩 明日見

そうか、あのいっつもオロオロしてた機関士がもう水雷長か!

水雷長 遠見1尉

ええ、もう監視では哨戒長やってますよ!

遠見の先輩 明日見

立派になったなぁ。

水雷長 遠見1尉

それで、明日見さんは今なにされてるんです?今日入港してきた艦なんて、ありましたっけ?

遠見の先輩 明日見

あー、それはなぁ……。実は、俺、もう退職したんだわ。

水雷長 遠見1尉

えっ、そうだったんですか!?

元自衛官 明日見

この仕事、本当に我慢ばっかりだろ?拘束時間長いし、何やるにしても頭ごなしに言われてムカつくし、そのくせ給料は割に合わんし。

水雷長 遠見1尉

ええ、全く。何をするにも無駄が多いんですよねー。

元自衛官 明日見

そこで一念発起して辞めたわけよ!

水雷長 遠見1尉

今更だけど、なんでこの人陸上戦闘服2型を着てるんだろう……?しかも辞めたのに?

水雷長 遠見1尉

でも、よく転職出来ましたね。ボクも時々探す事はあるんですけど、そんなに条件の良い仕事が無くって。賃金は良いかなって思っても、会社の評判とか調べるとあんまり良くなくて。結局転職しても変わらないんじゃないかって思うんですよね。

元自衛官 明日見

そりゃあ、サラリーマンである限り、この不満は無くならん。
雇われの身ってのは、結局のところ人にこき使われるんだからな!

元自衛官 明日見

大事なのは、自分のビジネスを持つことだぞ!

水雷長 遠見1尉

自分のビジネス?

元自衛官 明日見

そう。早い話、自分が社長になる。人に使われる側から、人を使う側に回るんだ。

水雷長 遠見1尉

すると、明日見さんは起業でもしたんですか。

元自衛官 明日見

おう、聞いて驚くなよ?不動産経営だ。

水雷長 遠見1尉

不動産屋さんですか。

元自衛官 明日見

違う違う。アレは不動産の仲介業者。俺がやっているのは不動産のオーナーだよ。

水雷長 遠見1尉

というと……マンションとかの大家さんですか。家を買って、人に貸す。

元自衛官 明日見

そうそう、ソレソレ。

水雷長 遠見1尉

へぇ、すごいですね。結構大変だって聞きますけど。

元自衛官 明日見

もちろんな。簡単じゃない。だがコツさえ掴めば話は別だ。今じゃ家賃収入と、動画配信の広告収入で左うちわだな!ちょっとググってみろ。

水雷長 遠見1尉

どれどれ……。あっ、本当だ。メチャクチャ有名人になってるじゃないですか!『20代にして資産額5億到達』……!?

元自衛官 明日見

おいおい、あんまり大きな声で言うなよ。照れるだろ?
それに、こういうのはちょっとしたコツなんだ。それさえ覚えりゃ誰だって出来る。

水雷長 遠見1尉

いやぁ、明日見さんはさすがですね。やっぱり行動力のある人は違います。

水雷長 遠見1尉

……あ、そういえば、今、同じ艦に梶くんがいるんですよ。明日見さん、覚えてます?

元自衛官 明日見

……。

元自衛官 明日見

あー、梶な。防大で同部屋だったわ。そうか、アイツお前の同期か。
元気にしてるか?

水雷長 遠見1尉

ええ、もうバリバリやってます。ボクが哨戒長の時、梶くんが航海指揮官なんですけど、色々提案してくれるから助かりますね。どっちが哨戒長なんだかって感じですけど。

元自衛官 明日見

ははっ、そりゃあ、アイツらしい。

1時間後

元自衛官 明日見

は?お前、1分隊長と警衛士官を兼任してるのか!?

水雷長 遠見1尉

や、本当に勘弁してもらいたいですよね。あと一人、砲術長でもいればよかったんですけど。

元自衛官 明日見

はー、クソだな。本当に辞めて良かったわ。

水雷長 遠見1尉

ははは……。

元自衛官 明日見

あのな、俺は本当に腹立ってるんだよ。
実はここ最近、他にも古巣の仲間と会う機会があってな。お前の同期とも何人か話して聞いたが、お前本当にロクな目に遭ってねぇじゃねーか。

元自衛官 明日見

クソみたいな仕事押しつけられて、人事でもアホな処理されて、挙げ句「ひとなみ」だ?人を舐めるのも大概にしろって。よくお前怒らないな。

水雷長 遠見1尉

まぁ、いろいろ思うところはあります。ただ辞める踏ん切りが付かないだけですよ。
これでも結構あちこちに喚き散らしてはいるんですけど、あんまりやり過ぎて目を付けられるのも不本意ですし。

元自衛官 明日見

甘い!そうやって理不尽を呑み込んでるから、お前みたいなイイ奴がバカを見るんだ。

水雷長 遠見1尉

……ありがとうございます。

元自衛官 明日見

……。

???

おや?明日見さんじゃ無いですか。お久しぶりです!

元自衛官 明日見

ん?おー、山本さんじゃないですか。どうしたんです?こんなところで。

???

いや、ついさっきまで外回りで。やっと終わったんで一服しながらレポートでも書こうかなと。……あ、お連れ様がいらしたんですね。これは失礼しました。

元自衛官 明日見

いや!ちょうど良い。ちょっとだけ付き合ってくださいよ!

???

いや、でも……。

元自衛官 明日見

お願いします!この俺の顔を立てると思って!
外回りの後ならパソコンも持ってるでしょ!?

水雷長 遠見1尉

あの、明日見さん?……この方は?

元自衛官 明日見

この人は、山本さん!俺の大事なビジネスパートナーだ!ここは一つ、この人の話を聞いてけ!

不動産営業 山本

もう………仕方ないですね。
申し遅れました。私、ネクストライフ・インベストメント合同会社の山本と申します。よろしくお願いします。

水雷長 遠見1尉

はぁ……。遠見と言います。よろしくお願いします。

不動産営業 山本

私どもネクストライフ・インベストメントは、お客様のネクストライフの夢を叶えるため、資産形成のお手伝いをさせていただいています。
私は、不動産部門の営業を担当しておりまして、明日見さんとはかれこれ5年ほどのお付き合いになります。

水雷長 遠見1尉

えっと……?

元自衛官 明日見

遠見……お前は実に運が良い。この人は、不動産の世界で知る人ぞ知るトップランナーなんだ!扱う物件は負け知らず。かく言う俺も、この人のおかげで今の資産を築き上げることが出来た。

水雷長 遠見1尉

はぁ……。ひょっとして、ボクに不動産経営やれって言ってます?

元自衛官 明日見

察しが良いじゃねーか。そのとおりだよ。

水雷長 遠見1尉

いやいやいや!ボクにはそんなこと出来っこないですよ!

元自衛官 明日見

大丈夫大丈夫、やり方はちゃんと教えてやるからさ!


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不動産投資とは

元自衛官 明日見

よし、改めて説明しよう。「不動産投資」ってのは、土地や建物を購入し、その運用益を得る投資のことだ。

水雷長 遠見1尉

さっき言ってたアパートとかマンションとかを貸す奴ですよね。運用益というのは、家賃収入ってことですか?

元自衛官 明日見

ああ。厳密に言えば、土地や建物自体も購入後価格変動するから、値上がりした状態で売却すれば、差益が得られる。そうやって稼ぐ方法もあるにはあるが、基本的には賃料収入だ。

水雷長 遠見1尉

貸すのはやっぱり家ですか?

元自衛官 明日見

絶対に家とは限らない。土地だけ貸すこともあるにはある。あとは商業施設を経営してテナント収入を得るなんてのもある。だが、それほどの建物を持つのは厳しいからな。個人ではほとんどの場合は住宅を他人に貸して賃料収入を得ることになる。

資産形成の有力な選択肢?

水雷長 遠見1尉

しかし、なんでわざわざ不動産投資なんてするんです?
そりゃあ、収入は多いに越したことないんでしょうけど……。でも、海自だってそこら辺の民間の仕事よりはもらえるじゃないですか。割にはあいませんけど。このまま幹部の仕事続けていれば、年収900万、1000万だって十分狙えますよ。

元自衛官 明日見

それは確かにそうだ。だが、重大な点を見落としてるぞ。
なんといっても、自衛官は若年定年制だろ?再就職先での給与なんてたかが知れてる。いくら現役時代の年収が高くても、生涯通して得られる賃金は民間より安い。

用語解説

若年定年制

ほとんどの自衛官で採用される、通常の公務員よりも早期に定年を迎える制度のこと。時々、任期制隊員の任期満了退職のことと誤解されることがあるが誤り。

自衛隊は戦闘集団であることから、「精強さを保つ」目的で定年が通常の国家公務員よりも早い。通常の国家公務員は60歳(令和4年度時点。令和13年度までかけ段階的に65歳に定年延長される。)で定年を迎えるが、自衛官は、3曹で55歳、1佐で58歳(さらに定年延長される見込み)で定年を迎えるため、最大で10年程度早期に定年退職することになる。

なお、医官や警務官など、一部の自衛官は若年定年制の対象外。

早期に退職する若年定年制隊員の生活を維持するため、技能訓練就職援護といった再就職支援制度や、若年定年退職者給付金が用意されている。とはいえ、通常の公務員や会社員に比べ、経済的なデメリットが大きく、ギャップを埋め切れていないことから、若年定年退職者給付金の給付水準引き上げや、そのほかの待遇改善の政策が検討されている。

元自衛官 明日見

そりゃ、年収900万だ、1000万だと言えば気分はいいさ。でも、実際は、年収600万から年収900万になりゃ使える金が300万増えるわけじゃない。
それだけ給与が高くなると、税金も社会保険料もうなぎのぼり。逆に公的な支援は減る。結婚でもしてみろ。年収が増えると、配偶者特別控除は消えるわ、児童手当も支給されなくなるわ。実際に使える金なんてせいぜい100万ちょっとしか増えん。

元自衛官 明日見

それに自衛官の給与体系は全部ガチガチに決められてるだろ。企業の営業マンみたいに成績に応じてガンガン報酬が増えるような仕組みも無いから、海幕長まで上り詰めてもさして変わらん。こっから先、お前の手取りは数万円しか増えんのよ。定年までにいったいいくら貯金出来るんだ?

元自衛官 明日見

それで、55歳だ、56歳だ、でいきなり社会に放り出されて、あと30年働いて生きろって言うのがこの国なんよ。

水雷長 遠見1尉

う……確かに……。

元自衛官 明日見

ハッキリ言うが、給与にだけ頼ってたらバカを見るぞ。
どーせ30年後に年金なんざもらえやしない。生活費ほぼ全額を自腹で出そうと思ったら、数千万円は貯金しないと。月に10万貯金してあと20年。やっと2,400万ちょっと貯金を作って、生きるか死ぬかの余生を送るんだ。
それが嫌だったら、給与以外に収入源を作ることだ。

水雷長 遠見1尉

分かりました。確かに、給与だけじゃ危ないかも……。
でも、副業ってダメなんじゃないですか?

元自衛官 明日見

そう、それもまたバカな話。公務員は副業禁止されてる。せっかく商才があっても、やるなってんだ。

元自衛官 明日見

だが、不動産投資は数少ない例外なんだ。事業的規模か業務的規模かって話があって、一定以上の規模でやろうとすると兼業の申請が必要になる……が、まず承認されない。
逆に言えば、一定の規模までなら、申請せずに不動産経営出来るってこと!

<申請・承認が必要な賃貸の類型>

不動産の賃貸

①~③のいずれかの場合に該当するもの

①一定の規模以上の場合
 独立家屋・・・5棟以上アパート・・・10室以上 / 土地・・・契約件数10件以上
②賃貸する不動産が劇場、映画館等の娯楽集会・遊技等のための設備を備えたものである場合や、旅館、ホテル等特定の業務の用に供するものである場合
③賃貸料収入が年額500万円以上の場合

一般職の国家公務員の兼業について(Q&A集)
水雷長 遠見1尉

アパートとかマンションなら、9部屋までなら貸してもOKってことですか。結構多いですね。

元自衛官 明日見

だろ?
副業規制の下でも出来る、数少ない副収入の手段になる。それが不動産投資なんだ!

水雷長 遠見1尉

お~。

元自衛官 明日見

だが、それだけじゃない。自衛官が不動産投資に向いている一番の理由……。それこそが圧倒的な信用力だ!

水雷長 遠見1尉

元自衛官 明日見

投資ってのは、自分で先に金を払って、後からリターンを回収する。ここまでは良いな?この払った金額でリターン金額を割ったのが「利回り」だ。つまり利回りってのは、イコール投資効率と思っていい。

元自衛官 明日見

もちろん、誰もがその投資効率は上げたいと思ってる。だが、それには限界があって、だいたい商品ごとの利回りというのは決まった値に落ち着く。そうなると、稼ぎを増やすにはどうしたらいい?

水雷長 遠見1尉

効率が変わらないなら……最初に投入する金額を大きくする?

元自衛官 明日見

そのとおり!種銭を増やせば、その分リターンだって増えるんだ。
だが、その種銭はどこから来る?普通の奴は、そんな家を買う金なんて用意出来ない。だが、自衛官は違う。自衛官は社会的な信用があるから、銀行だって気安く金を貸してくれるんだ!

水雷長 遠見1尉

えっ、借金するんですか!?

元自衛官 明日見

あたりまえだろ。家なんて数千万円するんだ。自分のポケットマネーが貯まるまで待ってたら、定年が来ちまう。

水雷長 遠見1尉

いや、そりゃあそうかもしれないですけど……。

元自衛官 明日見

借金と聞くと、確かに怖いかもしれないな。だが、朗報だ。自衛官はな。とてつもない低金利で金を借りられるんだ。

元自衛官 明日見

さっき信用力って話しただろ?銀行が貸した金は、全部が全部返ってくるわけじゃない。時には借主が破産して返ってこない事だってある。だから、銀行は貸すときに冷徹にそいつの信用力を値踏みするんだ。返す見込みが高い奴は優良な客、見込みのない奴はダメな客、それぞれ違う金利を適用する。

水雷長 遠見1尉

なるほど、返さない可能性が高い人に貸す場合、金利を高めに設定することで、貸し倒れてしまっても、他の人が払った利息でカバーしようってことですか。

元自衛官 明日見

話が分かるじゃねえか。銀行だって出来れば信用力が高い優良顧客に金を貸したい。だから、他行との競争が生まれて金利が下がる。
収入が安定していて、規範意識が高い自衛官は、銀行業界ではトップクラスの信用力がある。

水雷長 遠見1尉

収入が安定……?規範意識が高い……?

元自衛官 明日見

世間じゃそういうことになってるんだ。

元自衛官 明日見

金利が安い上に、貸してくれる金額の上限も高い。この利点を活かさない手があるか?

水雷長 遠見1尉

た、確かに……。

水雷長 遠見1尉

とは言え、借金を抱えるのはちょっと不安があります。

元自衛官 明日見

それってそんなに恐れることか?
周りを見てみろよ。お前の部下には20代で家建てた3曹とかいないのか?

水雷長 遠見1尉

あ、言われてみれば……。います。

元自衛官 明日見

これから先の時代、人手は不足する、建材は値上がりする。家はどんどん高くなる。そうやって先を見据えて若いうちから家を買う。立派な事じゃねーか。

元自衛官 明日見

服務指導でもそうだろ?競馬パチンコで明け暮れてサラ金から金借りたら不当借財だって入校見送りになったりもするが、家の購入については皆とやかく言わない。それは、借金自体が悪なんじゃなくて、何のために負ったかが重要だからだ。

元自衛官 明日見

なにしろ事故らなきゃ、俸給額が下がることはないんだ。乗組手当をアテにして借金するのはアホのすることだが、基本給で払える範囲で借金するのはむしろ健全……そうだろ?

水雷長 遠見1尉

うーん……。確かに……そう……なのかも。


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つづく勧誘

元自衛官 明日見

よし、大体分かったな。そしたら……山本さん、コイツに一番いい物件、紹介してやってくださいよ!

不動産営業 山本

分かりました。今回は特別ですからね?

不動産営業 山本

遠見様、先ほどから聞いておりますと、海上自衛隊で働いていらっしゃる?

水雷長 遠見1尉

ええ。護衛艦に乗っています。

不動産営業 山本

おお、それは本当にご立派な仕事をされている!大変なお仕事でしょう、いつも、この国を護ってくださって本当にありがとうございます!

水雷長 遠見1尉

いえいえ。

不動産営業 山本

明日見さんの後輩ということは……ひょっとして幹部ですか?

水雷長 遠見1尉

ええ。一応、1尉の官職を戴いています。

元自衛官 明日見

山本さん、この前俺が「A幹」だったって話したでしょ?コイツもA幹なんですよ。ゆくゆくは護衛艦の艦長とか、腕に金ピカ巻いた将軍様になる人間ですよ!

不動産営業 山本

それはそれは!将来は大変有望ですね!立場に見合った良い物件をご用意させていただきますよ。
失礼ですが、ご年齢は……30歳あたりでしょうか。

水雷長 遠見1尉

ええ。もう間もなくそうなります。

不動産営業 山本

すばらしい。資産形成を始めるベストタイミングですね!ちなみに、もうご結婚はされていますか?

水雷長 遠見1尉

いえ、まだ具体的な予定は。

不動産営業 山本

これほどの方ですからね、すぐにイイお相手が見つかりますよ!
それから……もし可能だったらで良いんですが、月にいくら貯金しているか、教えていただけないでしょうか?

水雷長 遠見1尉

えっ、

元自衛官 明日見

山本さんは、お前が払いきれないような高額物件を売るわけにはいかないから、どのぐらい資金に余裕があるか知りたいんだ。

水雷長 遠見1尉

ああ、確かに……。
えっと、月に5万円くらいは貯金してます。ボーナスのときに20万ずつ。
これは定額積立の話で、プラスして、使わなかったお金がだいたい月に5~6万円くらいは貯まってます。

不動産営業 山本

ありがとうございます!分かりました。そうしましたら……そうですね。コチラの物件を提案させていただきましょう。

不動産営業 山本

今回ご紹介させていただきますのは、首都圏エリアにある新築ワンルームマンションです。
1軒目、レジデンス ベイライン川崎。こちらは川崎地区に位置しており、通勤需要が見込めます。
2件目、ウォーターサイド船橋。再開発進む船橋地区にあって、こちらも継続的な人口流入が見込めます。
いずれも最寄り駅から徒歩15分ちょっと。周辺にスーパーやドラッグストアもあり利便性は抜群です!
この2軒をご購入いただこうと提案させていただきます。

水雷長 遠見1尉

えーっと……え?2軒とも?
値段はよんせんはっぴゃ……、合計で9,600万!?

不動産営業 山本

確かに、お値段の高さには驚かれるかもしれません。近年は不動産物件の価格上昇が著しく、ワンルームマンションと言えども、首都圏では5,000万円するのが当たり前になりつつあるんですよ。

元自衛官 明日見

逆に言えば、これからも値上がりが期待出来るってことだ。変な地方の物件買うと、値崩れすることもあるからな。その点、首都圏は今後も継続的に人口流入が期待されている。狙うならやっぱり都市部だぞ。

水雷長 遠見1尉

でも、2部屋も買わなくても、いいんじゃないかなー、なんて……。

元自衛官 明日見

いや、よく考えてみろ。投資先が一部屋だけってのはかなり危険な状態だぞ?長い人生、何が起こるか分からねぇ。地震や火事で部屋がダメになるリスクだって、小さいけど、やっぱりあることは否定できないんだ。

水雷長 遠見1尉

あ、なるほど。リスクヘッジですか。

不動産営業 山本

さすが、ご理解がお早くて助かります。1軒で豪華一点張りにするより、2軒に分散させた方が、なにかと安全です。
通常の方ですとこの金額はローンの審査がまず下りないので、7,000万円くらいの物件を1部屋紹介させていただくのですが、遠見様なら1億でも通るはずです。そうやってリスクを分散していきましょう。

水雷長 遠見1尉

でも、1部屋ダメになっちゃったとき、もう1部屋の収益でカバー出来ますか?1部屋あたりの収益ってそこまで多くないんじゃないかと思うんですけど。

不動産営業 山本

ええ、おっしゃるとおりで、1部屋だけの利益で全体のコストを賄うなんてことは、さすがにかないません。
ですが、心配には及びません。弊社が委託する管理会社のプランでは火災保険への加入を義務づけており、万が一物件が被害を受けても、その損害を補填することが出来ます。地震保険もオプションで付けられますので、またご説明しますね。

水雷長 遠見1尉

なるほど。それは安心ですね。

元自衛官 明日見

加えて、マンションの良いところは鉄筋コンクリート造になっていることだな。木造一戸建ては災害に見舞われるとかなり厳しいが、マンションは建物自体が相当頑丈だから、そういう心配がいらない。
建物全体のメンテナンスも管理組合が計画的にやってくれるから、時間が経っても経年劣化しづらいのも魅力だ。

水雷長 遠見1尉

なるほど。確かにそうですね。
ちなみに、ローンってどれぐらい掛かるんですかね?

不動産営業 山本

銀行に通してみないと確たることは申し上げられませんが、同程度の信用力のある方の実績をもとにシミュレーションすると、金利1.6%、35年ローンで月の返済額は約30万円になります。

水雷長 遠見1尉

う……。月30万……ですか?

不動産営業 山本

ですが、家賃収入は月に32万円の見込みです。ということは月に2万円の差益……と言いたいところですが、諸費用掛かりますから、実際はトントンですね。

水雷長 遠見1尉

……それって、本当にその家賃でみんな住んでくれます?入居者さんが入らなかったらアウトじゃないですか?

不動産営業 山本

その不安はごもっとも。だからこそ、サブリースという家賃保証サービスを提供しています。弊社から委託する関連会社がいったん遠見様から物件を借り上げた上で、入居者様にお貸しししますので、空室が出ても家賃は保証されます。

不動産営業 山本

そうやってリスクを負う以上、弊社としても物件の見極めは慎重に行っています。今回ご紹介した物件はいずれも人気エリアにありますし、委託会社のリーシング力も抜群。家賃保証しても損をしない自信があります。

水雷長 遠見1尉

なるほど……。

水雷長 遠見1尉

あと、ローンの返済以外の諸費用ってなんです?

不動産営業 山本

管理費と修繕積立費、2部屋あわせて6万円程度。
それから固定資産税が、だいたい20万円ほど。
いずれも物件を保有する上での必要経費のようなものですから、こちらはご納得戴きたいと思います。

水雷長 遠見1尉

……ん?

不動産営業 山本

確かに一時的に抱えるローンの金額は大きいですし、家賃収入で生活がいきなり豊かになるものでもありません。気軽に首を縦に振れるものではないことなど、私どもも重々承知しております。
しかしローンの返済が終われば、首都圏にマンション2軒のオーナーです。築35年と言えど、物件価格は数千万円分残りますし、引き続き家賃収入も見込めます。そこからは悠々自適のセカンドライフが待っていますよ。

水雷長 遠見1尉

うーん……。確かに。

不動産営業 山本

それから、今のご年齢は間違いなく大きな武器です。35年ローンなら、完済時点で65歳手前。定年が早いとは伺っていますが、まだまだ十分働ける年齢で、無理なくローンを組めます。これがあと5年遅くなると、ローン期間を短縮する必要も出てくるので、月の返済額も増えて赤字が無視出来なくなってきますし、利率にも影響してきます。

不動産営業 山本

加えて言えば、遠見様はそう遠くないうちにご結婚されることもあるでしょう。そのとき、お相手がこうした不動産経営に理解を示していただけるかも難しいポイントになってきます。

元自衛官 明日見

今なら遠見の一存でローン組めるけどな、やっぱり所帯持ったらそういうわけにはいかない。でも、世の中の人間はお前ほど賢い人間ばかりじゃない。むしろ反対される可能性の方が高いだろ。そしたらみすみすチャンスを逃すことになるし、夫婦不仲の原因にもなりかねない。

元自衛官 明日見

今組んでしまえば逆だ。そういう投資をやってることは婚約前にしっかり説明すればいい。それを否定するマネーリテラシーの無い奴は、どのみち人生の足を引っ張るから止めておいた方が良い。な?いい相手かどうかを見極める材料にもなるんだ。

水雷長 遠見1尉

今だけ……かぁ……。

元自衛官 明日見

いや、しかし聞けば聞くほどイイ物件ですね。遠見が買わなかったら、私に売ってくれません?

不動産営業 山本

いえ、本当のことを言うとですね。この物件はその前に廻ったお客様に既に提案させていただいたものなんです。今回はお世話になった明日見さんのたってのお願いでしたし、私もプロとして、遠見様のような方にはと思ったから特別にご紹介させていただいたのですが、本当はダメなんですよ。明日見さんは、他の人がツバ付けてないのを買って下さい。

元自衛官 明日見

ちぇーっ、いいじゃないですか。

不動産営業 山本

というわけで、恐れ入りますが、ご希望されるなら明後日までにこちらの連絡先にご一報いただけると幸いです。それまでなら、私の方で物件を抑えておけますから。
私はここで失礼しますね。今日はありがとうございました。

水雷長 遠見1尉

あ、ありがとうございます……。

元自衛官 明日見

……な?凄い世界だろ?
俺はこのリスクをくぐり抜けて資産5億を築いた。お前はどうする?


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いざ契約……!

後日 「ひとなみ」士官室

ひとなみ士官室のイラスト
補給長 財前2尉

あら、航海長。もう旗揚げ終わりましたよ。当直終わったんだから、早く上陸してくださいね。

航海長 梶1尉

あ、いえ。実はちょっと補給長にご相談がありまして。当直中で申し訳ないんですが、いいですか?

補給長 財前2尉

私は構いませんが……明日にしなくて大丈夫?

船務長 先野1尉

ぅぅぅ……諸君おはよう。もう朝食の時間は……終わったかね。

航海長 梶1尉

えっ、船務長!?いたんですか!?

船務長 先野1尉

ああ、うちの分隊士のバカがバカをやってくれたおかげでな、休日返上して徹夜作業だ……。

補給長 財前2尉

残念ですが、もう食堂は終わってますので……ああ、カップ麺食べるんですか。ここで。

船務長 先野1尉

一刻も早く帰りたいが、もう間もなくプリキュアの時間なのだ。テレビ借りるぞ。

補給長 財前2尉

あ、そうですか……。ああ、それで。航海長はなんでしたっけ?

航海長 梶1尉

いや、それが水雷長なんですが、最近元自衛官の先輩に呼ばれたようで。私も世話になった人だったんですが……その。同期からちょっと良くない噂も聞きまして。明日見って人なんですけど。

船務長 先野1尉

……ほう?

補給長 財前2尉

明日見……あー、あの人ですか。

補給長 財前2尉

それは……よろしくないですねぇ……。

同日 「ネクストライフ・インベストメント」応接室

企業の応接室の画像
不動産営業 山本

遠見様、本日はお越しいただき、ありがとうございます。

水雷長 遠見1尉

こちらこそ、よろしくお願いします。
明日見さんも、休みの日にすみません。

元自衛官 明日見

気にするな。山本さんのことは信用してるけど、一応俺も見届けるからな。聞きづらいことがあったら俺に聞いてくれ。

不動産営業 山本

ははは。お目付役がいると、迂闊なことは言えませんね。
さて、本日の流れを説明させていただきますね。まずは物件情報や契約に関する確認をしていただきます。それから弊社の宅建士に重要事項説明をさせます。ご異存無ければ、そこでご契約いただきます。そして、契約完了後、ローンの手続きに移ります。

水雷長 遠見1尉

ローン、大丈夫でした?

不動産営業 山本

ええ、先日銀行に依頼した仮審査ですが、見事通りました。さすがは自衛隊の幹部様ですね!

水雷長 遠見1尉

早い。こんなに早く下りるとは思ってませんでした。

不動産営業 山本

艦で勤務されているので、なかなか自由にお時間をいただけないと思いまして、銀行には急いでいただきました。なので、問題なければ本日中にローンの契約まで終わらせるようにしています。

水雷長 遠見1尉

ローンは銀行に申し込みに行けばいいんですか?

不動産営業 山本

いえ、銀行の担当者がこちらに来ますので、それには及びません。
実は、別の待合室にもう来てもらっています。東都みらい銀行さんと六実信用金庫さんですね。

水雷長 遠見1尉

あ、そうなんですか。あんまり待たせるのも悪いですね。

不動産営業 山本

いえいえ、人生の大事な一大決心ですから、向こうが待つのは当然です。待たせておきましょう。

水雷長 遠見1尉

そうですか。……そういえば、ローンは2つの銀行さんに頼むんですね?てっきり、まとめて大きなローンを組むんだと思ってました。

不動産営業 山本

ええ、ローンは1軒につき1つ組むのが一般的なんです。

水雷長 遠見1尉

ふーん。そうなんですね。

不動産営業 山本

さて、では改めて物件の確認をさせていただきます。レジデンス ベイライン川崎とウォーターサイド船橋です。今一度資料をお渡しします。

水雷長 遠見1尉

先日の話だと、他の人にも提案してたってことだったんですけど。大丈夫でした?

不動産営業 山本

あー……。大丈夫です。
実を言いますと、あの後、そのお客様から契約したいという連絡も来てたんですが。他のお客様と売約が成立してしまいましたと申し上げてお断りさせていただきました。

水雷長 遠見1尉

えっ、そんなことして大丈夫ですか。

不動産営業 山本

この業界では良くあることですから、問題ありません。
他ならぬ明日見さんのご紹介ですし、私どもとしても、遠見様のような方とは末永くお付き合いさせていただきたいので、優先させていただいた、それまでのことです。お気になさらないでください。

水雷長 遠見1尉

なんか、その。すみません。

不動産営業 山本

では、改めて。
物件の価格は2部屋合計で9,600万円、弊社の家賃保証サービスを利用することで、家賃予想額は月32万円となります。対する35年ローンの予想返済額は月30万となります。

不動産営業 山本

ご加入いただくサービスはこちらの通りです。
物件の管理は弊社を通じて管理会社に委託を申し込みます。アフターサポートの評判は非常にいい会社です。遠見様のお手を煩わせることもありませんから、ご安心ください。

水雷長 遠見1尉

そこはちょっと気になってたんですよね。マンションの管理なんてしたこともなかったから。出港したら連絡も取れないし、転勤したら停泊してるときもマンションまで来れない。管理会社さんがやってくれるなら安心ですね。

水雷長 遠見1尉

ん?このサブリース契約の説明に書いてある、家賃改訂が云々ってのはなんですか?

不動産営業 山本

家賃保証サービスのお話ですね。情勢の変化に応じて、もともとの家賃があまりにも相場から乖離してしまうことがあります。そうした場合にオーナー様のご理解を戴いて、家賃の金額を変更させていただくことがある。そういう条項です。

元自衛官 明日見

部屋を借りる時にも家賃改訂の条項はあっただろ?例えば物価が異常に上がるとか、周辺の同程度の条件の物件の家賃がもっと高いとか、そういう状況になったとき、借主に家賃の値上げを求める事ができる。要するにアレと同じだ。ま、滅多に起きることはないがな。

水雷長 遠見1尉

ふーん。確かに、契約期間が長いと、そういう条項も必要ですか……。

不動産営業 山本

契約後、引き渡しの予定日はこの表に記載のとおりとなります。

水雷長 遠見1尉

あ、ウォーターサイド船橋は引き渡しのタイミングがちょっと遅れるんですね。

不動産営業 山本

ええ、申し訳ありませんが、引き渡し前の最終準備にお時間を戴いてしまいます。
ご注意いただきたいのは、このタイミングで一度住民票を移動させていただきたいんですね。

水雷長 遠見1尉

住民票……?あ、市役所に転出入の届出をしないといけないんですか?
私、ここには住みませんけど?

不動産営業 山本

ええ、これは銀行のローン審査の仕組み上、いったん物件がご自身の所有物であることを明確にさせる必要があるんですよ。

元自衛官 明日見

まぁ、業界の慣習、儀式みたいなもんだな。銀行はローンを組むときに住民票を見ないと納得しないんだ。だから、不動産投資をするときは皆こういう手続きをしてる。

水雷長 遠見1尉

へぇ……そうなんですか。

元自衛官 明日見

銀行はいいんだが、問題は職場だな。住民票を部隊から離れたところに移したのがバレると、ちょっと面倒なことになる。手続きが終わり次第、今の住所に戻せば部隊に知られることはないから安心しろ。

不動産営業 山本

ちょっと面倒なんですが、ぜひご協力ください。住民票の証明書だけお渡し戴ければ、あとは私どもで手続きを代行させていただきますので!

水雷長 遠見1尉

分かりました。

不動産営業 山本

では、他に確認されたいことはありますか??

水雷長 遠見1尉

うーん……。いえ、ありません。

不動産営業 山本

承知しました。それでは弊社の宅建士を呼んで参りますので、少々お待ちください。

ヴヴヴヴヴ……

水雷長 遠見1尉

ん……?あ、梶くんからメッセージだ。なんだろ?

不動産営業 山本

お待たせしました。

水雷長 遠見1尉

まあいいか。後にしよう。

「ひとなみ」士官室

ひとなみ士官室のイラスト
補給長 財前2尉

水雷長から返信ありました?

航海長 梶1尉

いえ、届いてはいるみたいなんですけど、既読が付かなくて。どうします?先日、水雷長はこの週末でまた明日見さんに会うって言ってたんですよ。

船務長 先野1尉

なに、なら話は早い。ちょうど、やらないといけないこともあったしな。

「ネクストライフ・インベストメント」応接室

企業の応接室の画像
宅建士 田辺

初めまして。私、ネクストライフ・インベストメントで宅地建物取引士をしております田辺と申します。
これより、宅地建物取引業法第35条に基づき重要事項説明をさせていただきます。ご不明点がありましたら、遠慮無くお申し付けください。

水雷長 遠見1尉

よろしくお願いします。

宅建士 田辺

まずは1軒目です。
本物件は神奈川県川崎市川崎区塩浜○○番地○に所在する区分所有建物です。建物名称は『レジデンス ベイライン川崎』、鉄筋コンクリート造、地上10階建のうち5階部分、503号室です。専有面積は25.2平方メートル、バルコニー面積は3.8平方メートルです。

宅建士 田辺

次に、権利関係です。本物件の所有権は区分所有権となり、敷地利用権として敷地権割合50分の1が付随いたします。また、引渡し時点において金融機関による抵当権が設定される予定です。

水雷長 遠見1尉

???

宅建士 田辺

続いて法令上の制限についてご説明します。本物件は準工業地域に所在しており、周辺に工場その他これに類する施設が立地する可能性がございます。建ぺい率は60%、容積率は200%でございます。なお、現時点において都市計画上の大きな変更予定は確認されておりませんが、将来的な開発について保証するものではありません。

宅建士 田辺

続いてインフラ関係についてご説明します……

5分後

宅建士 田辺

その他の事項です。本物件周辺には物流施設および中小規模の工場が点在しており、時間帯によっては車両の往来や騒音が発生する可能性がございます。

宅建士 田辺

以上で重要事項説明を終了します。ご異存なければ、最終ページにご署名をお願いします。

不動産営業 山本

あわせて、物件自体の契約書もこちらになりますので、よろしくお願いします。

水雷長 遠見1尉

いよいよ、か……。

水雷長 遠見1尉

これにサインすれば、ボクもマンションオーナー。
その代わり借金1億……。

水雷長 遠見1尉

――しかし。本当にいいのか?
貯金500万ちょっとのボクが本当に1億も返せるのか?
収入の安定を前提にしてるけど、定年まで海自で働き続けられるのか?こんなに不満タラタラなのに?

元自衛官 明日見

……大丈夫か?まあ、億の銭を借りるわけだからな。緊張もするわな。

水雷長 遠見1尉

……ふと気になったんですけど。

不動産営業 山本

ええ。なんでもおっしゃってください。

水雷長 遠見1尉

そりゃあ、聞いた感じ良い物件だと私も思います。なんですが……。そんなに良い物件、なんで私に売るんです?御社で運用すればいいんじゃないですか?

不動産営業 山本

……そう思われるのも、当然かと思います。
いくつか説明をしておきましょう。

不動産営業 山本

まずは、ビジネスモデルのお話です。先程の重要事項説明の中でもありましたとおり、この物件の現時点での所有者は弊社ではありません。弊社は、あくまで今の所有者様から遠見様へ行われる売却のお手伝いをさせていただく立場です。

不動産営業 山本

当然、遠見様への売却が成立すれば、弊社はその成功報酬を戴きます。自社で物件を保有・運用するより、そうやって報酬を戴いた方が効率が良いのは事実なのです。
今、既に感じられていると思いますが、今回の物件を保有して大きな利益を手にするには時間が掛かります。個人様であればご自身の資産形成という目的に沿って時間をかけることが許容されますが、会社ですとそういうわけには参りません。

不動産営業 山本

加えて、弊社としては単純な損益以上に、ここで獲得出来る信頼を大切にしたいと考えております。販売実績を得ることで、よりよい物件を優先的に回していただけるようになりますし、遠見様のような有望な方が弊社のサポートで成功していただければ、さらに次の機会にも繋がることがありましょう。そうやって、好循環を生み出して発展していくのが弊社の方針なのです。

水雷長 遠見1尉

……なるほど。分かりました。ありがとうございます。

水雷長 遠見1尉

……うーん……。

元自衛官 明日見

……山本さん、田辺さん。一旦席外してもらうこと出来ますか?遠見にも色々考えがあるでしょうし、私が話を聞きますよ。

不動産営業 山本

ええ、ごゆっくりどうぞ。

宅建士 田辺

失礼します。

水雷長 遠見1尉

……明日見さん。やっぱり、ボクちょっと怖いですよ。

元自衛官 明日見

ま。そりゃあそうだよな。

水雷長 遠見1尉

明日見さんの話聞いて、確かに収入源をひとつにしておくのは危険だって確信はしたんです。でも、ここまでトントン拍子で話を進めていって、本当に大丈夫なのかなって。

元自衛官 明日見

そう思うのが普通。正常だ。

水雷長 遠見1尉

山本さんは、本当に信用して大丈夫な人ですか?

元自衛官 明日見

少なくとも、俺はそう思ってる。かれこれ5年くらいの付き合いになるが、これほど誠実にやってる営業はなかなかいないと俺は思うぞ。

水雷長 遠見1尉

分かりました。
すみません。なんか、こう。話が上手すぎる。そんな気がしてしまうんです。ボクなんかにこんないい話、あるわけ無いじゃないかって。

元自衛官 明日見

それは、お前が自分を過小評価しているだけだ。自衛官、それも幹部のレベルは世間一般では低いもんじゃねぇ。出るところに出れば、それなりに扱ってもらえるんだ。

水雷長 遠見1尉

……その。気を悪くしないで欲しいんですけど。

元自衛官 明日見

なんだ?

水雷長 遠見1尉

明日見さんは、どうしてボクに不動産投資を勧めたんですか……?さっき山本さんも言ってましたけど、こうやって紹介するとなにかリターンがあるんですか?

元自衛官 明日見

……。

水雷長 遠見1尉

あ、いえ。すみません。忘れてください。

元自衛官 明日見

……変に誤解されたくないから言っておくが。確かにこうやって紹介することで、俺の元にもリターンはある。ま、微々たる額ではあるが。

水雷長 遠見1尉

……。

元自衛官 明日見

だが、お前に勧めたのはそれだけじゃないぞ。

元自衛官 明日見

な、一緒に働いてたときのこと、覚えてるか?

水雷長 遠見1尉

ええ。忘れもしません。

元自衛官 明日見

本当に、ロクでもない艦だったよな。

水雷長 遠見1尉

でも、砲術長がいてくれました。本当に毎日毎日辛かったけど、なんとか耐えて来れました。

元自衛官 明日見

そんな立派なもんじゃないよ……。
あのアホの機関長がお前を散々いびってるの、俺は知ってたけど見て見ぬ振りをしたんだ。それがどうにも居心地悪かったから、自分を納得させるために時々手を貸してた。ただそれだけだ。

水雷長 遠見1尉

……。

元自衛官 明日見

この仕事辞めたら色々スッキリしたんだが、どうしても忘れられなかった。あんなに一生懸命にやってたお前を、どうしてもっと助けてやらなかったんだ。なんで機関長や副長にもっと噛みついてやらなかったんだ。

元自衛官 明日見

今更だよな。こんなことしたって、罪滅ぼしにもなりゃしない。

元自衛官 明日見

……というわけだ。すまなかったな。お前の都合も聞かずに。

水雷長 遠見1尉

……いえ、明日見さんにそう言っていただけただけで、ボクは十分です。

水雷長 遠見1尉

……ありがとうございます。踏ん切りが付きました。山本さんと田辺さんを呼んでください。

後編へつづく。

まとめ

この記事では、海上自衛官が勧誘されやすい不動産投資のリスクについて、次の内容を説明します。

前編

  • 海上自衛官と不動産投資
    • 不動産投資とは、土地や建物を購入し、その運用益を得る投資
      • 個人で行う不動産投資は、住宅を購入して家賃を得るものがほとんど。
    • 自衛官にとって、不動産投資は資産形成の有力な選択肢のひとつ
      • 若年定年制による将来不安から、給与収入以外の収入獲得が必要
      • 副業規制の下でも実行可能な数少ない副収入の手段
      • 圧倒的な信用力により、低金利で高額借入可能
      • 給与収入の安定によるローンを忌避しない風潮
  • ストーリー
    • 不動産投資の勧誘について、ありがちな状況を再現

後編

補給長による解説編。前編を読んで、何が問題だったのかを整理してから読みましょう。

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