この記事では、幹部海上自衛官(A幹)の経歴管理について、2回に分けて次の内容を説明します。
第1回
- 3月に幹部候補生学校を卒業すると練習艦隊の実習幹部となり、遠洋練習航海に参加する。例年、10月下旬に帰国して各部隊へと旅立つ。
- 練習航海の終盤に要員区分と帰国後の所属・配置が発表される。
- 主要な職域
- 艦艇
- 潜水艦
- 航空
- 経理補給
- 艦船装備
- 航空装備
- この他にごく少数ながら、警務・施設・薬剤などが存在する。
第2回
- 原則、1尉までは一斉昇任する。
- 部隊勤務2年目の夏に2尉、5年目の夏に1尉に昇任する。
- どの職域になっても、入隊8~10年程度で幹部中級課程に入校し、中級幹部として必要な教育を受ける。
- 入隊10年程度で指揮幕僚課程(CS)の受験資格を得る。これに合格するか否かで出世のスピードは大きく変わる。
学校のこともいいんですけど、学校出た後ってどうなるんです?
オーケー、今回はA幹が幹部候補生学校を卒業したあとの話をしよう!
卒業と同時に練習艦隊へ、帰国時に要員区分発表
まず、A幹の幹部候補生は、例年3月中旬に卒業を迎えるんだ。この時、3等海尉への昇任の発令も受けるよ。卒業式の後は、そのまま表桟橋へと更新して、練習艦隊の練習艦へ乗り組んで旅立っていくんだ。
練習艦隊に、ってのは前にも言ってましたけど、本当にそのまま乗っていくんですね。
このあと、日本全国を巡る国内巡航、世界各地を巡る遠洋練習航海に行って、例年10月に日本へ帰ってくるんだ。
これはこれで語る話はいくらでもあるんだけど、今回の本題ではないから、やめておくね。
広告
要員区分と補職発表
遠洋練習航海の最後の寄港地を出発したところ、あと1週間ちょっとで日本!ってところで、実習幹部たちには運命の宣告が待っているんだ。
宣告?
要員区分と帰国後の所属・配置の発表だよ。
そうか、どこの部隊に行くことになるかは、そこで初めて知ることになるんですね。それはそうと、要員区分というのはなんです?
これからどういうキャリア形成をしていくかのパターンってところかな?例えば、護衛艦水雷長の次の配置は航空機パイロット、なんてことは起きないの。どういう風に人材育成をしていくのかのロードマップは既にあって、どの系列に乗せるのかを決めるんだ。
(定義)
第2条 この達において用いる用語の意義は(中略)次の各号に定めるところによる。
(1)~(8)省略
(9)第1次要員区分 一般幹部候補生課程等出身者を監理、艦艇、航空、装備、経補、医科、歯科、薬剤 、衛生医事 又は施設の系列に区分することをいう。
(10)終要員区分 第1次要員区分を基礎として監理、艦艇、航空、情報、通信 、気象 海洋、装備、経補、医科、歯科、薬剤 、衛生医事 、施設又は警務の系列を確定することをいう。
(11)要員区分 第1次要員区分又は 終要員区分をいう。(要員区分)
幹部自衛官の経歴管理に関する達(海上自衛隊達第27号。62.9.30)
第6条
第1次要員区分は、初級幹部の部隊実習修了時までに行う。この場合、艦艇系列に区分した者のうち、更に潜水艦乗組配置を予定する者(以下「潜水艦予定者」という。)に、航空系列に区分した者のうち、更に航空機搭乗配置を予定する者(以下「航空機搭乗配置予定者」という。)に、装備系列に区分した者のうち、更に艦船関係装備に係る配置を予定する者(以下「艦船装備予定者」という。)に、それぞれ区分する。
根拠上はこういう名前になっているんだけど、実際には「潜水艦」とか「艦船装備」みたいに、その系列の先にある職域名まで明かされることが多々あるよ。
広告
主要な職域
ここからは実際にどういう職域があるのか、見てみよう。
艦艇
艦艇は一番のボリュームゾーンだよ。正確に言えば潜水艦も含むんだけど、ここで言う艦艇の幹部は水上艦艇乗りのことを指すんだ。
先パイはこれなんですよね?
そのとおり。水上艦艇の系列になったA幹は、このあと1年に1隻、艦艇の砲術士や通信士のような、「士」のつく配置を3回経験するんだ。これをスリーローテーションと言って、この期間で艦艇の基本的な仕組みを知ることになるんだ。
スリーローテーションの配置は決まってるんですか?
うん。艦艇には「科」という役職のカテゴリーがあるんだけど、その中から砲雷科・船務科・機関科と、違う「科」の「士」を3つ経験することになるよ。例えば1年目は通信士、2年目は機関士、3年目は砲術士って感じ。ちなみに、順番は決まっていないよ。
スリーローテーションを終えると、そのまま艦艇で航海長や砲術長のような一段上の仕事をしたり、司令部のスタッフをしたり、陸上部隊で艦艇を支援する仕事をしたりと、役職に幅が出るようになるよ。
広告
航空
続いての大きなカテゴリーが航空だよ。根拠上は航空管制官になる人も含まれているんだけど、航空管制の人はほぼ間違いなく「お前は航空管制だ」と宣言されるから「航空」と言われた人はパイロットになるよ。
そうでした。海上自衛隊なのに飛行機を持っているんでしたね。
このコースに乗った人は、そこから2年くらいの間、さらにパイロットになるための教育を受けるんだ。教育を受ける途中で、固定翼に行くか、回転翼に行くかが分かれて、固定翼に行った先でもパイロットになるか、戦術航空士(TACCO)になるかが細かく分岐する。
たこ?
哨戒機のセンサー運用の方針とかを決める人だよ。ここでは本題でないから飛ばすね。
教育を修業すると飛行機のライセンスを手にして部隊に行くんだけど、ライセンスが手に入ったから終わりってワケではない。
あれ、でも部隊に行ってしまうんですよね?
部隊に行った先で、さらに訓練しながら資格を得ていくんだ。機長資格とか、発着艦資格とか。だから、艦艇乗りが色んな部隊を転々としてる中、航空機搭乗員は同じ部隊でひたすら訓練していることがほとんどだよ。
広告
潜水艦
航空ほどではないけど、やっぱり人数が多いのが潜水艦。
面白そうな仕事ですね。
潜水艦の人も、最初の1年は艦艇乗りと同じように艦艇の「士」配置をやるんだ。
あれ、そうなんですか?
潜水艦が対峙する水上艦艇の考え方、行動の習慣を知るというのもあるし、潜水艦とは言っても艦には変わりないからやっぱり艦のことを知っておく必要があるっていうのもあるね。
なるほど~
1年の「士」配置が終わると、呉にある潜水艦教育訓練隊という部隊で潜水艦乗員になるための教育を受けるんだ。そのあとは潜水艦での部隊実習を経て、潜水艦の乗員として働くことになるよ。
広告
経理補給
これまでとちょっと毛色が違うのがコレ。経理補給。
経理員……ですか?
経理作業自体をするわけではないけど、それをやる人の監督をすることもあるね。
経理補給の系列になった人は、潜水艦の人と同じように、最初の1年は艦艇で「士」配置をやるよ。それが終わると、舞鶴にある海上自衛隊第4術科学校で経理や補給に関する勉強をするんだ。
やっぱり、随分違いますね。
それが終わると、地方総監部で厚生や契約の仕事をしたり、艦艇の補給長をやったりするよ。変わった配置では、潜水艦の補給長も経補幹部がやるよ。潜水艦幹部じゃない人が潜水艦乗員になる数少ない方法だね。
広告
艦船装備
このあたりはさらに人数が少なくなるよ。艦船装備。
経補と同じく、最初の1年は艦艇の「士」配置をやるんだ。
それが終わると、横須賀にある海上自衛隊第2術科学校で装備に関する教育を受けて、造修補給所の監督官をやったり、補給本部や防衛装備庁で働いたりもするよ。若い頃は造船所や武器のメーカーと渡り合って、艦艇の修理や予備パーツの調達に奔走することになるんだ。
航空装備
さらに少ないのがこちら、航空装備。
こっちは艦船装備と違って最初の年に艦艇に乗らないんだ。
初めに下総にある海上自衛隊第3術科学校で航空装備に関する教育を受けてから、航空隊や整備補給隊で航空機整備に関する管理業務を担当することになるんだ。
航空装備の人も固定翼系と回転翼系に分かれていて、回転翼系の人は護衛艦の整備長として艦艇乗組になることもあるよ。
そうか、艦に乗らない配置もあるんだ……
広告
その他
その他には本当に少ないけど警務、施設、薬剤なんていう系列もあるよ。どれも期に1人くらい。警務は1年目に「士」配置があるけど、施設や薬剤にはない。
警務の人は「警務官」といって、自衛隊の中で犯罪が起きた時の警察官、いわゆる「MP」というやつをやるんだ。施設の人は基地の建物のメンテナンスや新規建設を手がけたり。薬剤は元々薬剤師の資格を持っている人のための系列で、自衛隊病院で働く事になるんだ。
色んな仕事があるんですねぇ~
コメント