この記事では、護衛艦のパートについて次の内容を説明します。
- 「経理」は、給与・旅費等の経理業務や厚生業務、文書の発簡・接受等を行うパート
- 経理業務
- 乗員ひとりひとりについて、給与や旅費の計算を行い、支払いの手続きを行う。
- 自衛官、特に艦艇乗員の給与額は手当の存在によって毎月のように変わる。
- 旅費は人事異動の際に赴任旅費が支給されるほか、会議や講習に参加するための出張なども支給対象となる。
- 源泉徴収される税金の計算も行う。例年10月から11月にかけては、年末調整で大変忙しくなる。
- 近年、給与や旅費の業務システムが刷新され、旅費や手当の請求、年末調整の書類提出などは原則として支給される者が自分で手続きすることになった。
- しかし、艦艇にはそれを行うための環境が十分に整備されていないため、依然として紙で提出させて経理員が手続きを代行しているのが実情。
- 金銭を扱う仕事なので、失敗が許されない。
- 乗員ひとりひとりについて、給与や旅費の計算を行い、支払いの手続きを行う。
- 厚生業務
- 家族を扶養する際の防衛省共済組合の組合員証(保険証)の発行など、厚生に関する業務を行う。
- 文書業務(庶務)
- 部隊として外部とやり取りする文書(命令や通達類など)について、正式な手続きのもとに発簡して相手方に送達したり、接受したりする。
- 行政文書の管理規則が年々変わってきており、本来「文書」とされていたもの以外も行政文書と定義されるようになった。
- 行政文書ファイルの保管や破棄などを主導して、不適切な文書管理を防止する。
- 部隊として外部とやり取りする文書(命令や通達類など)について、正式な手続きのもとに発簡して相手方に送達したり、接受したりする。
- 航海中、ワッチは無いのが通例だが、そもそも仕事が忙しい。
- 通常、護衛艦には2~3名程度配置されている。陸上部隊では、7~8名で行うような業務をこの人数で行っている。
- 若手は給養の手伝い(下処理や配食の準備など)を行うことも多い。
- 出入港時や火災発生時などは、指揮官の伝令として各部と電話での情報交換を行う。
- 地味だが、どこの部隊でも働くことの出来る配置で、再就職にも事欠かない。
- 経理業務
あら、もう機関科は終わったんですね。そしたら、補給科を見てってください。
まずは経理を見てもらいましょう。
よろしくお願いします。
どこにでもある仕事。でも、誰にでもできるわけではない仕事。
「経理」は経理業務、厚生業務、文書業務などを行うパートです。
言われてみれば当たり前かもしれないですけど、経理の人もいるんですね~。
ええ、もちろんです。海上自衛隊にはいろんな部隊がありますが、そこに人間のある限り、経理が無くなることはありません。
補給長は元経理員のB幹だから、色々聞いてみるといいよ。
あらやだ、恥ずかしいですね。
経理員とは言っても、総監部で原価計算とかをやってたんで、艦艇の経理員とはだいぶ違うんですけどね?
広告
経理業務
さて、経理員一番の仕事といえば、何と言っても給与と旅費の支払い、要するに経理業務です。
この仕事は、簡単なようで結構大変なんですよ。
……現金の管理とか、ですか?
いえ、今どき給与の支払いは銀行振込ですから、経理員自身が現金を取り扱うことはほとんど無くなりました。あるとしたら、部外の人と直接お金をやり取りするときくらいですね。これもレアケースです。
給与の支払いは何が大変かって、ひとりひとり、毎月もらえる給与が違うことですよ。
?
海上自衛隊の給与は、基本給である俸給の他に、多くの手当がぶら下がることで成り立っています。ところが、この手当は人によって適用されたりされなかったりするし、金額も変わるものがあるんですよね。
……そんなに変わるものなんですか?
ええ。例えば航海手当。1日に一定時間以上の出港状態があると支給される手当ですが、在籍している人全員が支給されるかというとそうでもなくて、何か理由があって乗艦しなかった人は支給対象にならないんです。他にも、任務行動に従事したときに支給される手当もあったりしますが、乗艦していても体調不良で勤務から外れてた人には支給されない、なんてことがあったりします。最近だと、新型コロナウイルス感染症のために艦内で隔離される人もしばしばいましたから、誰に支給してよくて、誰に支給してはいけないのかを確認しないといけないんです。
それをひとりひとりやるんですか……。大変ですね……。
もうひとつあった、旅費というのは何ですか?
移動を命じられた職員に対して支給される交通費、宿泊料、食事代などのことです。一番メジャーなのは転勤の際に支給される赴任旅費ですが、別に引っ越しがなくても、会議や講習参加のために出張するような場合にも支給されますよ。
わかった、コレも人によってまちまちなんですね。
ええ。ある程度の類型はあるんですけど、人によって多少は変わりますからね。
こうした給与や旅費を支払うにあたっては、まずいくら支給できるのかを計算する必要があります。法律に違反しないように、支給額が決まったら、実際に支払いをする部署、だいたいは基地業務隊の会計担当になりますが、そこで手続きをして支払ってもらうということになります。
あ、そうか。艦自身が支払うわけではないんですね。
ええ。そして、給与を取り扱うということで、忘れてはいけないのが税金です。日本の税制度では給与からの源泉徴収が行われますから、いくらを源泉徴収するのかを決めないといけません。
そして、年間でも有数の忙しくなるイベント、年末調整があります。
年末調整?
……そうか、学生さんには年末調整なんて言っても通じないですよね。
えぇっとですね……。税金の制度って、本来は1月から12月までに得た所得を自分で計算して、翌年に税務署に確定申告して所得税とかを納付しないといけないんです。自営業者なんかはそうしてます。
でも、一般の労働者にそれを求めるのは酷なので、サラリーマンは会社の経理が代わりにそれをやるんです。源泉徴収といって、給与から税金の見込額を予め差し引いた状態で支給するんですね。で、一年の終わりにそれまで払った税金と、実際に払うべきだった税金の差額を解決します。
その時、併せて確定申告で行うべき控除の手続きをするんです。これを年末調整と言います。
えっと。。。控除というのは?
税額を軽減するための手続き、と思っておいてください。
例えば配偶者を扶養している場合、一人で生きるより経済的に余裕がないと思われるので、その人が得た給与の金額から一定額を引いてから税率を掛けるんです。他にも、生命保険に加入している人の生命保険料を控除しますし、最近では個人型確定拠出年金(iDeCo)も控除する必要があるんです。
このあたり、全部年度末の確定申告でやってもらっても良いんですが、サラリーマンは原則として雇用している企業がやることになっています。
ふむふむ……
この関係業務をするのが、毎年10~11月頃です。経理が忙しくなるタイミングはいろいろありますが、特に皆さんと関わりが深いのはこのタイミングですね。皆さん、なかなか言われたとおりに書類を出してくれないから……
あああ、ごめんなさい!ごめんなさい!
手当や旅費の申請、年末調整の手続きは、何年か前から各人がパソコン上でやるようになったんですよ。経理のシステムが刷新されたので。
ところが、陸上部隊なら1人1台パソコンが貸与されててそういうことも出来るんですが、艦艇だと10~20人に1台くらいしかパソコンがないから、各人がやるのは物理的に不可能なんですよね。だから、結局紙で提出させて、経理員が入力を代行しているのが現状です……。
えぇ……それしかパソコンがないんですか……。
うん。特に、陸上部隊の人たちが主用している秘密区分の低いシステムが少ないんだ……。
経理業務の特徴はなんと言っても失敗が許されないことです。
支給額を1円でも間違えると、誤支給でも誤不支給でも、大変なことになります。特に、誤支給の場合は過去に遡って支給された人から回収しないといけないんですが、金額が大きいと1ヶ月分の給与がいきなり無くなるようなこともあります。
えっ、いきなり「今月の給料は無しね?」なんて感じになるんですか……。
実は扶養手当や単身赴任手当の支給要件を満たしてなかったけど、1年前からうっかり支給してました、なんてことがあると、本当にそういうことにもなるんです。
恐ろしい……!
広告
厚生業務
厚生業務は、経理業務と明確に切り分けるのが難しいですが、防衛省共済組合に提出する書類をまとめたりします。
共済組合?
今日のところは、福利厚生のための団体と思っておいて下さい。
一番お世話になるのは、扶養家族の保険証ですね。保険証って、一般の会社員だと健康保険はその会社が加入する健康保険組合に入って、家族も含めてそこの保険証をもらうんです。でも、自衛官の場合、大きく制度が違ってまして。家族の保険証は、防衛省共済組合の組合員証という名刺サイズのプラスチックカードが保険証として機能します。
共済組合の制度上、総監部をまたぐような引っ越しをすると組合の支部が変わって、組合員証も再発行になりますが、経理員がその手続きを行います。
むむむ……よく分からないけど、分かりました……。
普通の隊員からしてみれば、経理も厚生もさして変わらないので、理解してなくても問題はありません。ただ、似ているようで実は違うジャンルの仕事を経理員がやっている、ということを分かってもらえたらなと。
広告
文書業務
もう一つある、経理員のメジャーな仕事は文書の発簡、送達、接受などを行う事です。「庶務」とも言います。
はっかん?
発簡というのは、作成された文書を正式に登録して発行する手続きのことです。護衛艦はひとつの行政機関としての独立性がありまして……法的な効力をもった行政文書(命令や通達類など)を作って、他の行政機関に送ることが認められています。
例えば、ボクが何か訓練を計画したとして、それを勝手に部下にやらせてた結果、人が怪我をしたり、武器を壊してしまったりしたら、一体誰がその責任を取るのかって問題になるんだ。そもそも、なんでそんな訓練を勝手にやったんだ!って。
でも、そのとき艦長の名前で発行された「●●訓練を実施せよ」という命令書があれば、少なくとも訓練を行う事自体は違法でなかったことが証明できる。やり方に問題があったということで結局責任は免れないけど……。
それと同じことで、ヒトやモノやカネが動くとき、法的な効力を持った文書が発行されているというのは非常に重要なんだ。
今、水雷長の言ったとおりです。個々の職員がやりとりするメールなども全く無価値という訳ではないのですが、公務員として国民から預かっている装備品や人員を動かす以上、部隊が活動する時には必ず文書がやり取りされます。
そうやって発簡された文書を相手方に送ることを送達、送達されてきた文書を受け取って、受け取った文書としての登録を行うことを接受と言います。
ん~、必要なのは分かるんですけど、そんなにいちいち登録とかしないといけないものなんですか?
ええ。後からどうしてそういう業務をやったのか検証しようと思ったら、その根拠になった文書を探さないといけませんから。その第一歩として、全ての文書には番号と発簡年月日が登録されています。
そういえば、行政文書の管理がどうのと、何年か前にテレビでやっていましたね。
ここが行政文書管理の難しいところで、私たちが言う「文書」と公文書管理法上の「行政文書」には大きな開きがあるんです。
(定義)
公文書等の管理に関する法律
第二条 省略
2 省略
3 省略
4 この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書(図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)を含む。第十九条を除き、以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。
一 官報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもの
二 特定歴史公文書等
三 政令で定める研究所その他の施設において、政令で定めるところにより、歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料として特別の管理がされているもの(前号に掲げるものを除く。)
……公務員が職務上作成したデータは「行政文書」ってことですか?
そうです。紙で発行した「一般命令」などでなくても、業務に使うために作られたらエクセルシートやパワポのスライドだって、立派な行政文書です。なんだったら、電子メールも、電話を取ったときのメモ書きも、会議の発言記録も、みんな。
発簡番号付きの伝統的な「文書」は、昔からそれなりにしっかりと管理されてましたから、そう大きな問題になりませんでした。が、そうではない情報交換手段が組織の意思決定に大きな影響を及ぼすようになると、結局それも保存したり、情報開示したりしないといけなくなったのです。従来の伝統的な文書管理のやり方では、度々トラブルが起きて、そのたびに規則が改正されるのをくり返しています。
むむむ……。
そこで行政文書管理を主導するのも経理員の仕事です。
行政文書管理自体はあくまで全職員の仕事なんですけど、発簡や接受をやっているので、ほとんどの「文書」は経理員の管理下にありますから。保存期間を適正に設定したり、期限が切れた文書を内閣府の同意を得て破棄したり、そういうところで事故が起きないように、乗員への指導を行っています。
広告
ワッチは無くとも忙しい……!
経理員は出港中、どこかのワッチについているんですか?
いえ、普通はつきません。
んーとね……。ボクは「あぶくま」型で艦橋ワッチに立たされている経理員を見たことがあるよ……。
人が少ない艦だとそういうことも無いとは言いませんが……。ただ、そんなことやらせてられないくらい、経理員は忙しいですよ。
やっぱり、お金の計算をするからですか?
ええ。それもあるんですが……。
そもそも、人が少ないんですよね。護衛艦に乗っている経理員って、どの艦もだいたい2~3人くらいなんです。で、陸上部隊の経理員に比べるとカバーする仕事の幅が広いんですよ。陸上部隊は総務課と経理課が分離している部隊も少なくないですし、総務課内にまとまってる場合でも、総務係と経理係に分離しています。つまり、陸上の経理員は庶務をやらないんですよ。
結果、陸上部隊なら7~8人くらいかけてやっているような仕事を、2~3人でこなさないといけない。これはなかなかキツいものがあります。
業務量もそうですけど、色々やらないといけないってのは大変ですね。
それから、4分隊は伝統的に給養員の調理作業を手伝うという仕事があります。野菜の皮むきみたいな下処理とか、配食の準備とかですね。特に若い子は駆り出されます。
そして、出入港作業や火災発生時には、指揮官の伝令として各部と電話で情報交換をやります。
伝令というのはなかなか難しい仕事で、指揮官同士がやりとりしている言葉の意味や送るタイミングを理解していないと、なかなか正しく情報を伝えることが出来ません。情報伝達が上手く行かない時はだいたい伝令の言い間違えや聞き漏らしが原因なので、伝令同士がどういうやりとりをするのか、事前や事後に研究会をやったりもします。
うーん……なかなか大変ですね。
広告
どんな部隊にも必ずある仕事。
経理員、なかなか大変そうでしょう?
でも、悪いことばかりじゃないんです。
まず、どこの部隊でも働く事が出来るんですよね。
艦だろうと飛行機だろうと、部隊がそこにあるなら、経理の仕事は必ずあります。
それって、どこの部隊にも行かないといけないってことじゃないですか?
ものは考えようです。艦以外に働ける場所がなくて困ってる人もいますし。
そして、経理の仕事は結構奥深いんです。数字をパチパチと当て込んでいくのも向いている人には結構楽しいものですし、人が動く上で無くてはならないお金をあてがう仕事ですから、目立ちはしませんが、経理が動かない事には人も部隊も全く動けません。そこにやりがいを見出せる人にとってはなかなか悪くない仕事です。
それに、再就職にも有利ですね。
経理員は絶対に簿記をやっていますし。文書業務なんかは防衛省から一歩出たら役に立たないですが、経理業務は防衛省がこの世に生まれる遙か前から存在する、日本共通の仕事です。
経験が次の仕事にも活きるってなかなか悪くないでしょう?
なるほど~。
よく分かりました。ありがとうございます。
コメント