この記事では任期制隊員が受け取れる「特例の退職手当」について、次の内容を説明します。
- 任期制隊員(自衛官候補生採用者)は、任期を満了する際、「特例の退職手当」を受け取ることが出来る。
- 特例の退職手当は俗に「任期満了金」「任満手当」と呼ばれる。
- 継続任用する場合でも、任期の満了ごとに受け取ることが出来る。
- 受け取らずに、次の任期満了時に通算して受け取ることも出来る。
- 受け取らずに3曹に昇任すると、受け取ることが出来なくなる。
- 特例の退職手当の金額
- 1任期目は約100万円、2任期目は約150万円を受け取ることができる。
- 3任期目以降は徐々に金額が減っていく。
- 1任期目で受け取らずに2任期目でまとめて受け取ると、都度受け取るより支給額が多くなる。
- 1任期目は約100万円、2任期目は約150万円を受け取ることができる。
- 特例の退職手当を受け取ることのデメリット
- 受け取ると、最終的な退職手当(一般の退職手当)の金額が目減りする。
- 退職手当の算出に使用される勤続期間から、特例の退職手当を受け取った期間が除外されることで「支給率」が下がるため。
- 引退時の俸給額が高い隊員ほど、下げ幅が大きくなる。
- 逆に言えば、3曹に昇任して特例の退職手当を受け取れなかったとしても、その分は後で退職手当として返ってくる、ということ。
- 受け取ると、最終的な退職手当(一般の退職手当)の金額が目減りする。
- 特例の退職手当を受け取るべきか?
- 答えはない。
- 借金があるなら、受け取って返済に充てるべき。
- 筆者は、若いうちにまとまった金が手元に入るメリットを重視するので、特に理由が無いなら受け取るべきと考える。
そろそろ来年春の継続任用の手続きしないといけないんだけど、1分隊はどう?
えっと……任期満了退職は1人です。あとは全員継続任用です。
オーケー、任期満了金はどうするか聞きました?
え?どうするって?なんかあるんですか?
……これは、イチから教えないとだめかな……。
特例の退職手当とは
概要
まず、正式な名称を「特例の退職手当」と言います。
……正式名称と言っても、法律上はあくまで「退職手当の特例」で、海自が勝手に名前を付けてるだけなんだけど。
実際には「任期満了金」だとか「任満手当」とか呼ばれることが多いですね。
任期制隊員(自衛官候補生採用者)だけが特別にもらえるお金だと、水雷長が言ってました!
そう、任期制隊員は1任期目は3年間、2任期目以降は2年間の任期があって、任期を満了するごとに継続任用をしていかないといけないですね。
その任期制隊員に与えられた特権の一つが、特例の退職手当です。
要するに、任期満了の時に、短い勤続年数からはありえないくらい高額な退職金がもらえるってことです。
なので、受け取るのは任期満了退職する1人だけじゃないんですか?
いやいや、そうじゃないんですよ。
特例の退職手当が受け取れるのは、継続任用するかしないかに関係なく、任期が満了したら全員に権利が生じるんです。
つまり、継続任用する場合でも受け取れるんですよ。
え、そうだったんですか……。
なので、継続任用する人についても、受け取るか、受け取らないかを確認しないといけないんです。
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通算制度
……あれ?受け取らないなんて人、いるんですか?
結構いますよ?
受け取らなければ、次の任期満了時にまとめて受け取ることも出来るんです。そのとき、その都度受け取った場合より金額が増えるんですよ。
これは、その時の俸給額を基に金額が算出されるからですね。
1任期目だと137日分、2任期目だと200日分の給与が支払われるんですが、2任期目の終わりにまとめて受け取る場合は計337日分を2任期目の終わりの俸給額で受け取れますから、その間の昇給が加味されるんです。
優良昇給が得られるかにもよりますが、2任期目にまとめて受け取れば7万円くらい、3任期目に受け取れば20万円くらいは変わってきます。
思ったより大きい金額ですね。それなら、みんなもらわない方がいいのかな?
ただ、後でもらおうと思って見送っている間に3曹に昇任すると、特例の退職手当は受け取れなくなるんですよ。
え~……。
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特例の退職手当の金額
そういえば、特例の退職手当って、いくらもらえるんですか?
1任期目はだいたい100万円くらい、2任期目は150万円くらいもらえます。最近は特に若年隊員の俸給額が上がるように制度が改正されてきているので、特例の退職手当も増額傾向にあります。
継続任用すると日数が増えるんですね。どこまで上がるんですか?
いえ、ピークは2任期目で、3任期目は120万円くらい、4任期目は60万円くらいと、徐々に金額は減っていきます。これは3任期目以降ともなると、月の俸給額も上がって生活の余裕もできていますし、既に十分な貯金も出来ているだろうから、と言われています。
なるほど、さっきおっしゃってた「通算すると高くなる」というのは、こういうことだったんですね。
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受け取ることのデメリット
でも、通算しようと思っていても、受け取る前に3曹になると没収されちゃうんですよね。そう考えると、通算するのは結構危なくないですか。
それはちょっと誤解しています。
受け取らずに3曹になったら、確かに特例の退職手当は受け取れなくなりますけど、別に没収されたわけではなくて、後で返ってくるからです。
後で返ってくる……というのはいつですか?
本当に退職するときです。海自では「一般の退職手当」と呼んでいる、普通の退職手当を受給するときにもらえるんです。
というより、正確に言うと特例の退職手当を受け取ると、一般の退職手当が減額されるんです。
えっ、そうなんですか!?
一般の退職手当は、勤続年数により決定される「支給率」により左右されます。特例の退職手当を受け取ると、その期間が勤続年数としてカウントされなくなるので、支給率が下がるんです。
勤続35年で定年になる人が、2任期分の任期満了金を受け取って定年退職すると、実際には勤続30年の人と見做されるってことですね。
280万円とか320万円とか、そのくらい変わるんですね……。
……と思ったですけど、減るとは言ってももらえる任期満了金とそんなに金額は変わらないんですね。
そのとおり。結局、特例の退職手当は、定年退職するときの退職手当を前渡ししているってことなんです。だから、受け取る前に3曹になったからと言って損したと思う必要はありません。
ただ、金額は条件によってかなり変わります。
俸給月額の大きな人ほど、支給率の変動に影響されます。なので、B幹になって2佐3佐になった人なんかは減額の幅が大きくなります。
一方、勤続35年より長い人は支給率が変わらないので、あんまり減らないんです。例えば勤続38年で定年になる場合でも支給率は勤続35年と同じまま。1任期分の特例の退職手当を受け取っても勤続35年扱いですから、一般の退職手当は全く減らないということになります。
勤続38年で1任期分だけもらった人は、完全に得ですね……。
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結局、特例の退職手当は受け取るべき?
これ、分隊員に相談されたら受け取らないように言った方がいいんですか?どっちも最終的にはあまり変わらないのは分かりましたけど……。
答えは「人による」です。
正直、そのくらいは自分で考えてもらいたいですね。
冷たいようですが、受け取った方がいいかどうかは、本当に人によるんです。だから答えなんてありません。
……そうですよね。
……そう、ひとつ言うなら、借金を抱えている人は絶対に受け取るべきです。無利子でない限り、借金は返済が遅くなれば遅くなるほど、利息の支払いが膨れていきます。
最近は大卒でも海士で入隊してくる人が増えてますが、奨学金の残債を100万くらい抱えている人も少なくありません。それを10年20年かけて返済する計画になってたりしますが、いくら年利1%と言え時間を掛けると利息だけで数十万円になりますから、特例の退職手当でとっとと完済するべきでしょう。
そういえば、一人奨学金が残ってる人がいました。相談してみます。
ちなみに、私個人の意見を言うなら、「特に理由が無いならもらっておくべき」です。
あれ、そうなんですか?
たとえ額面が同じでも、20代のお金と50代のお金は決して等価ではありません。若いうちにもらえるまとまったお金には、特別な意味があります。
人生、何かと苦難がつきまとうものですが、手元に貯金が200万300万あれば、ひとまず今この瞬間にクビになっても1年くらいは生きていけるなと開き直れます。その心のゆとりの有無は人生の楽しさを変えますよ、きっと。
うーん、そういうものですか?
それに、本当に損得を考えるならやっぱり早く現金を手にしておくべきです。100万円を投資に回して30年かければ、2倍にするのもそれほど難しいことではありません。そう考えれば、あとでそう変わらない金額を受け取るのはむしろ損でしょう?
投資については、そのうち財前先生の資産形成教室を書こうと思っています。さしあたっては入隊準備や遠洋航海準備の記事を優先しようと思っているので、まだまだ先になりますが……。
でも……、まとまったお金を手にしたら無駄遣いしちゃいません?みんなを見ているとそんな気がします。
それもまたいいでしょう。何事も経験です。
20代で100万200万を吹っ飛ばしても、その後節約すれば取り返すことは出来ます。そうやって人は学ぶんです。
そういう経験無しに、定年退職して2000万の退職金をいきなり溶かす人だって少なくないんですから。
確かに……。それは取り返しがつかないですね。
というわけで、そういうアレコレを本人がきちんと悩んで結論を出すのが大事なんです。よく分隊員には説明しておいて下さいね。
分かりました!ありがとうございます!
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